オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本人が間違えがちな単語の使い方を分かりやすく解説している。
冠詞の「a」と「the」と「my」の使い方や、副詞(off、out、over、around)などのニュアンスの説明はどれも目からうろこである。
中でも印象的だったのが「over」と「around」の違いである。本書ではこういっている、「over」も「around」も回転を表す副詞だが「over」はその回転軸が水平で「around」はその回転軸が垂直だというのである。
なるほど、だから人が「turn around」したらスピンだし、「turn over」なら「寝返りを打つ」なのか、「get over」なら「乗り越える」だし「get around」なら「回避する」なのだ。
副詞と組み合わさった慣用句をすべて日本語の意味とつなげようとするのではなく、副詞の意味を直感的に理解して全体をイメージするほうがずっと早いに違いない。
同じように「車に乗る」は「get in the car」なのに「電車に乗る」は「get on the train」。こんな違いの理由についても解説している。
「この一冊を読めばもう完璧」などということは決してないが、今までの理解度を50%増しぐらいにはしてくれるだろう。
【楽天ブックス】「日本人の英語」
カテゴリー: ★3つ
「1/2の騎士」初野晴
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校のアーチェリー部主将の円(まどか)はある日、オカマの幽霊サファイアと出会う。時を同じくして中高生の間に広まる不思議な噂。円(まどか)はサファイアとともに見えない犯罪に立ち向かうことになる。
読み終わったときは「まあまあ」という評価でも、時が経つに従って、印象を強めていく物語がある。僕にとってはそれが吉田修一の「パレード」と初野晴の「水の時計」なのだ。そんなわけで、期待とそれを裏切られる不安とともに購入した本作品。
女子高生を中心に据えた物語のため、「時をかける少女」のようなさわやかな物語を想像したが、読んでみると、もちろんさわやかなテンポで描かれているものの、それぞれの犯罪者と、そこで登場する人たちの間で描かれる妬みや失望などの表現にはときどきハッとさせられた。
かといって、そんなに重い内容というわけではない。一方では円(まどか)とその友人たちの友情の物語という側面も持っていて、ときにはおっちょこちょいで、ときには熱い物語が繰り広げられている。
基本的に5つの章に分かれているが、個人的には障害者たちとともに真相に迫っていく4番目の物語が心に残った。特に、障害者の近くで生きている人間が言ったこんな台詞。
少し怖くなるような生々しい表現に「水の時計」との共通点を感じた。しばらくこの著者の作品は見逃さないように、と思った。
【楽天ブックス】「1/2の騎士」
「臨床真理」柚木裕子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第7回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。
臨床心理士の佐久間美帆(さくまみほ)は、患者として藤木司(ふじきつかさ)という青年を担当することとなった。美帆(みほ)に心を開き始めたように見えた司は「声の色が見える」と言う。
著者柚木裕子のデビュー作品ということらしい。昨今注目が集まる心のケアという分野と、共感覚という一般の人にはおそらく一生かけても出会うことのないだろう特殊能力を組み合わせて、物語を構成している。
物語の中で、信頼を築いた美帆(みほ)と司(つかさ)は手首を切って死んだ女の子、彩(あや)の死の本当の理由を探ろうとするのだが、彩(あや)もまた失語症という普通の生活を送りにくい症状を抱えているため、彼らの生きかたやその特異な能力ゆえの生活のしかたや考え方が見えてくる点は面白いだろう。
若い著者であろうことをうかがわせるようなIT用語もいくつか出てきて、新しさを感じさせてくれたが、共感覚や福祉施設、臨床心理士など、掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられる題材が揃っていただけに、全体的にちょっと変わったミステリーに過ぎない程度の作品で終わってしまった点が残念である。
「Down River」John Hart
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年エドガー賞受賞作品。
5年前に町を離れたAdamの元へ、旧友のDannyから連絡が入り、Adamは生まれ育った町に戻ることを決める。殺人の容疑をかけられた町、そして母が自殺した町へ。
舞台となるのはノースカロライナ州シャーロット。大きなブドウ園を所有する地元の名士の下に生まれ幸せな子供時代をすごしながらも、母親が目の前で拳銃自殺を図ってから家族の歯車が狂い始める、Adamの行動の中からときどきそんなトラウマが見え隠れする。
5年ぶりに故郷に戻ったAdamは、義理の兄弟や旧友、昔の恋人との再会するなかで、その5年という月日の中で変わってしまったもの、そして未だ変わらないものと向き合い、自分だけでなく、多くの人が同じように5年間苦しみながら過ごしてきたことに気付く。
本作品からは、家族でブドウ園を切り盛りしようとするアメリカの一つの家庭の様子が見えてくる。これはそんな家族の中で起こった小さな間違いから生じた大きな悲劇の物語といえよう。
登場人物それぞれが持っている苦悩の描き方が印象的である。誰もが人は弱く、間違いを犯すものだと知りながらも、自分の不幸を他人のせいにしたり、自分を正当化したり、とその心は常に揺れ動いているのである。そしてそれでも月日は流れていく。近くを流れる、子供時代から親しんだ川、そしてなにかを伝えるかのように表れる白いシカ。いったい何を意味するのだろう。
「南アフリカの衝撃」平野克己
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1ワールドカップが近づくにあたって関心の南アフリカ。本書ではその歴史や経済、そしてアパルトヘイトについて書いている。
アパルトヘイトの撤廃からすでに15年近くが経過しながらも未だに犯罪天国と呼ばれ、大きな貧富の格差がある南アフリカ。章ごとに、南アフリカの経済、歴史、日本との関係、と余計な話でページを稼いだりせずに無駄のない構成となっている。ボーア戦争などの植民地時代の歴史から、マンデラ後の、大統領ムベキ、ズマの政策などにも触れている。南アフリカといえばアパルトヘイト。それ以外に大したイメージを持たない僕には多くの興味を与えてくれた。
団体名が最初以外はすべて略称になってしまうので、そのたびにいちいち読み返さなければならないなど、お世辞にも読みやすいとは言い難かったが、内容の濃さを感じた。また、歴史的事実だけでなく南アフリカに在住経験のある著者の視点からだからこそ見えてくるその激動っぷりが見えてくる。
しかし南アフリカのみならず他国の実情を見て、そこに国の自由や平和だけに人生をささげた人のエピソードを知るたびに、自由の認められている国に生まれたことの幸運を感じる。
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「サクリファイス」近藤史恵
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第10回大藪春彦賞受賞作品。
ロードレースチームに所属する白石誓(しらいしちかう)は、チームのエースを優勝に導くためのアシストとなることに魅力を感じる。しかしチームのエースには嫌なうわさが囁かれていた。
過去自転車を職業としている人の物語というのは読んだことがあってもロードレースをメインに扱ったものは記憶にない。それぐらい自転車競技というのは日本ではマイナーな存在なのだ。それを裏付けるように、最初の数ページで僕らがどれだけロードレースというものに対する知識がないか知るだろう。そして同時にロードレースが単にマラソンの自転車版という程度の単純なものではなく、他のスポーツにはない魅力をもったものであることも。
さて、物語中では誓(ちかう)が次第にレースで力を発揮できるようになるのだが、そこでチームのエースである石尾(いしお)にまつわる噂が頭から離れなくなる。強い若手に対する嫉妬から過去、若手の一人の大怪我をさせているという噂。
タイトルとなっている「サクリファイス」つまり「犠牲」。これがどんな意味を含んでいるのか。そんなことを考えて読むのも面白いだろう。
最終的にはやや誓(ちかう)の刑事なみの洞察力に違和感を感じながらも、心地よい汗のにおいを感じさせるような青春小説として読むことができた。
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「警官の血」佐々木譲
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年このミステリーがすごい!国内編第1位
昭和23年。警察官として人生を歩み始めた安城清二(あんじょうせいじ)。そんな父親の警察官としての生きかたを見て、息子の民雄(たみお)、そしてその息子の和也(かずや)も警察官として生きることを選ぶ。
「” >笑う警官」以降、今野敏と並んで警察小説の雄とされる佐々木譲の長編である。物語の始まりは、戦後の混乱の続く、昭和23年である。家族を支えるために警察官になろうという清二(せいじ)の決意から、60年にも及ぶ親子3代の警察物語が始まるのである。
面白いのはその時代背景の描き方だろう。時代は大きく移りながらも、基本的にはその舞台は上野周辺を描いているため、その時代の日本人の生活事情が大きく反映されている。昭和の清二(せいじ)の時代からは、戦後の混乱ゆえに、多くのホームレスが上野周辺で生活しており、多くの人々が生きることにすら不安を覚えている、今からは考えられないような生活である。そして、そこで起きる、窃盗や殺人事件に対応しながら治安を守るのが、清二(せいじ)の主な仕事であったのに対して、二代目の民雄(たみお)の捜査の対象は赤軍派というテロ組織へと変わる。そして三代目の和也(かずや)の任務は、同じ警察組織の刑事の汚職を疑った内部調査となる。
警察の組織が大きくなるに従い、対応しなければいけない犯罪の規模も大きくなるとともに、大きくなったがゆえに内側から汚職が発生する、というように、時代に伴って変化する警察組織が見て取れる。
警察物語としては特に大きな事件が発生するわけでも、興味深い謎が発生するわけでもなく、読者を寝不足にさせるほどの吸着力もないが、警察という職業に対する、3人の強い気持ちと、それと同時に、組織の大きさゆえに人生を大きく狂わせてしまうような、圧倒的な、その組織や時代の流れの大きさを感じさせるような作品である。
「ひまわりの祝祭」藤原伊織
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自殺した妻と瓜二つの女性と出会った秋山(あきやま)は、その後、数人の男たちに監視されていることに気付く。それは亡くなった妻が残した謎に拘わることだった。
本作品はゴッホの作品を物語の鍵として扱っている。秋山(あきやま)やその亡くなった妻も美術に造詣が深く、おのおののエピソードには、ゴッホだけでなく、多くの画家の名前や、用語がちりばめられている点が、非常に面白く、その方向に興味のある人には物語の面白さをさらに深く味わえるのではないだろうか。
物語は藤原伊織の作品らしく、年配の少し浮世離れした男性を主人公として扱っていて、その生きかたがまたかっこよく、思春期を過ぎた僕らに「まだまだこれからだ」と思わせてくれるような力がある。
前回読んだ「シリウスの道」があまりにも傑作だったために、本作品は読む前にハードルが上がりすぎていた感があるが、悪くないできである。
【楽天ブックス】「ひまわりの祝祭」
「千里眼キネシクス・アイ」松岡圭祐
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ゲリラ豪雨に襲われている能登半島で岬美由紀(みさきみゆき)はノン=クオリアのステルス機に出会う。ゲリラ豪雨はノン=クオリアが意図して起こした災害だった。
今回は「シンガポールフライヤー」で登場した人の感情の存在を否定しする集団ノン・クオリアの陰謀を阻むことが主な目的となる。
序盤は美由紀(みゆき)の小学生時代のエピソードが描かれており、小学生でありながら日経を読むことを習慣にしていたりその異質な存在感も面白いが、美由紀(みゆき)をライバル視するクラスメイトの黒岩裕子(くろいわゆうこ)のエピソードにも楽しませてもらった。
また家族思いの美由紀(みゆき)の父親が、まだ幼くいながらも現在と同じように暴走しがちな美由紀(みゆき)の行いを優しく諭すシーンが温かい。
上巻の中盤以降は舞台を現代に戻して話は進む。例によって時事ネタを取り入れた物語展開は期待を裏切らないが、かといって、世の中の問題点などを浮き彫りにするような内容の深さがあったかというと、今回はその点ではやや物足りなさを覚えた。
僕の記憶ではノン・クオリアは「シンガポール・フライヤー」から本作品までの間には登場していないように感じているし、松岡圭祐のサイトを見てもその認識で間違いないようだが、内容からは別のエピソードがその間起こっているような表現が見られた。小学館から発刊されていた初代千里眼シリーズと、角川から発刊されている千里眼シリーズで、多くの過去の作品が「完全版」の名を持って書き直されることによって若干の混乱を感じている。
【楽天ブックス】「千里眼キネシクス・アイ(上)」、「千里眼キネシクス・アイ(下)」
「転落」永島恵美
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ホームレスとして生きていた「ボク」はある日、小学生の女の子と出会う。彼女が持ってきてくれる食べ物と引き換えに、彼女の言うことを聞くことになった。
ホームレスである「ボク」目線で物語は進む。生まれ育った街から遠く離れた場所でホームレスになった「ボク」は小学生の女の子から食べ物をもらいながら生活し、あるとき一人の年配の女性と遭遇する。その人は顔見知りであり過去つらい体験を共有した女性であった。
中盤以降は、その女性目線で物語は展開し、少しずつその女性と「ボク」の関係が明らかになっていく。「ボク」もその女性も、慣れ親しんだ街や友人たちと決別して遠く離れた都会でひっそりと生きることを選んだ。彼らの体験からは、僕ら男性が普段無関心だったり「大した問題ではない」と軽んじている、女性ならではのいさかい、子育て、人づきあいなどの、人の心に深い傷を刻みかねない深刻さが見えてくる。
【楽天ブックス】「転落」
「日本人の英語力」マーシャ・クラッカワー
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
近年、インターネットの普及によって生の英語に触れられる機会が増えてきて、それは、英語を学習する人にとっては決して悪い環境ではないのだが、多くの人がアメリカ人を含むネイティブスピーカーのしゃべり方を疑いも持たずに真似してしまうことを懸念しているのである。
日本の若者たちが使う「…みたいな」「…な感じ」のように、アメリカでも「kind of」「sort of」「like」などのあいまい表現が浸透してきていて、実際に多くのアメリカ人がそのような話し方をするのだが、それを「正しい英語」と信じている日本人の英語学習者が多く見られるのだとか。英語のあいまい表現は日本語のあいまい表現と同じように、決して知的には聞こえず、どちらかというとはっきりとした信念や考えを持っていない、自分の考えに自信を持たないように聞こえ、ビジネスの場だけでなくプライベートな場でさえも高く評価されないだろう、というのだ。
また、「let me know」「I mean」「you know」などのような、隙間を埋める言葉を多用するのもそのような人の悪い傾向だという。考える必要があるならば、その旨を相手に伝えてしっかり時間をおいてから意見を言うべきだと。
僕たちは日本人なのだから、日本人の美学があり、ぼくらが話すべき英語のスタイルがあるはず。英語を話すからと言って、美学や文化までアメリカになる必要はないということだ。
考えてみれば僕自身も、たとえ日本語でも決して多くを語る方ではなく、「しっかりと考えたうえで言葉を発する」という生き方をしてきたはず。英語を話している最中とてそれは変わらないはず。
「赤い指」東野圭吾
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
妻からの連絡で家に急いで帰ると、庭には少女の死体があった。息子の犯罪を隠すために共謀することとなる。
久しぶりの東野圭吾作品である。息子の犯した犯罪を隠すために共謀する家族と、それを捜査する刑事の側の2つの視点から物語は展開する。面白いのはその家族には痴呆症を患っている祖母が同居している点だろう。息子が親である自分に対しての態度を「親への感謝の気持ちがない」と嘆く一方で、痴呆症である母を疎んじる自分自身を恥じるのである。
そして一方で、本件を捜査する刑事、松宮(まつみや)と加賀(かが)の物語も本作品の魅力である。刑事になる前から加賀(かが)と顔見知りだった松宮(まつみや)は、父親の命がもう長くないことを知りながら会おうとしない加賀(かが)に不満を持っていた。
最終的に親と子の在り方を見せてくれるクライマックスが用意されていた。少し作りすぎの印象を受けたが、楽しむことができた。以前は読書のための読書にしかなりえなかった東野圭吾作品だが、ここ2,3年の作品からは、以前になかった現実社会を反映した深みのようなものが感じられるようになった気がする。
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「獣の奏者」上橋菜穂子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
そこは闘蛇(とうだ)と王獣(おうじゅう)と呼ばれる獣たちが住む世界。獣を操ることが国を治めることに大きく貢献する世界。母を失ったエリンはやがて王獣(おうじゅう)という美しく強い獣に興味を持つようになる。
ファンタジーに挑戦したのは久しぶりである。獣を操るという点で、スタジオジブリの名作「風の谷のナウシカ」を思い起こさせるが、単なる焼き直しではなくオリジリティに溢れている。メインとなる2つの獣、闘蛇(とうだ)と王獣(おうじゅう)はいずれも人には決して慣れない生き物で、一歩間違えれば平気で人を飲み込む危険な生き物である。しかし、その強さゆえに操ることができれば強力な戦力となる。人は「音なし笛」を吹くことによってのみコントロールしてきた。
ファンタジーというと、どうしてもその世界観ゆえに、空想の人物名や地名の多さに辟易し、また、話を分かりやすくしようとすると対立の構造が単純すぎてリアルさに欠けるという問題があり、リアルさと分かりやすさのバランスというのは常に難しい部分ではあるのだが、本作品は非常にわかりやすく読みやすく、それでいて単純になりすぎずに少しずつ世界の複雑さが読者に見えてくる点が好感がもてた。
「闘蛇編」と「王獣編」はシリーズ全4作の最初の2作であるが、物語としては一度完結している。今後さらに広がっていくであろうその世界観に期待したい。
「終末のフール」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
3年後に小惑星が地球に衝突する。人々は働くのを辞め、学ぶのを辞め、何人かは暴徒と化し、何人かは自ら命を絶った。残された3年という月日を生きている人々を描く。
僕らはいつか死ぬということをもちろん知っていながらも、常にそれは遠い未来だと考えている。だからこそ「3年」と明確に自分の最期のときを突きつけられた人々の様子を通じて、生きることの意味を考えさせようとしているのだろう。
人々がそんなに簡単に命を絶ったり、そう簡単に食料を求めて暴徒と化すのか、正直疑問である。登場人物の一人のキックボクサーの苗場(なえば)さんは、世界の終りが3年後に迫ってもジムに通ってミットにハイキックを撃ち続けている、一風変わった人間のように描かれている。
彼はこういう。
明日死ぬとしたら、行き方が変わるんですか?
あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの行き方なんですか?
「明日死ぬとしたら?」と仮定して自分の行き方を見つめなおす考え方は、新しくもなんともなく、むしろ昔からたびたび語られることであるが、僕が思ったのは、むしろ、これって特別なことだろうか?ということ。こういう人、結構いるんじゃないかと思う。人間そんなに捨てたものではなく、最期まで格好よく生きることがきるのはのは一握りのヒーローだけじゃなく、日本にだって、僕の周りにだってたくさんいるんじゃないかと思うのだ。
そして僕自身も、もちろん実際にそんな状況になってみないとどうなるかなんてわからないが、この物語の中のような状況に陥ったら、なんか、毎日サッカーして、最期の日には空を眺めて楽しめそうな気がするのだが、他の読者はどう感じるだろうか?今回、伊坂幸太郎という著者が人気ある理由が少しわかった気がする。彼の作品は何かを考えさせようとする、でも決して答えは示さない。そんな内容だから、「人生とは何か?」など、普段深く考えないで生きる人々になにか「はっ」とさせるような強い衝撃を与えるのではないだろうか?
・Wikipedia「ユカタン半島」
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「警察庁から来た男」佐々木譲
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
北海道県警に警察庁から特別監査が入った、監察官であるキャリアの藤川警視正は、監察の協力者として、半年前に北海道県警の裏金問題を証言した津久井(つくい)刑事を指名する。
舞台は「笑う警官」の半年後である。目線は監察官の協力者を努める津久井(つくい)と、別方面の捜査から、道警内部に疑いの目を向ける佐伯(さえき)、新宮(しんぐう)を基本として、物語は展開される。
前作品「笑う警官」を読んだときも感じたのだが、実は「笑う警官」の一個前の作品が存在して単に自分がその作品を読んでいないだけではないか?という疑問は本作品を読んでいる際も感じた。それは、言い換えるなら、この作品の登場人物の過去がそれだけリアルに描かれているということなのかもしれない。
「笑う警官」でも活躍した女性刑事小島百合(こじまゆり)巡査は本作品でも登場し、その、一般的な刑事とは違ったスキルを披露して真実の究明に貢献する。その描写からは間違えなく自分が好む燐とした女性像が想像でき、僕にこのシリーズを好きにさせた大きな要素である。
また、新人警察官の新宮(しんぐう)の成長も注目である。本作品で一つの忘れられない経験をした彼が今後どうやって一人前の刑事になっていくのか。
本シリーズの魅力はやはり、その捜査の様子に違和感がないことだろうか、もちろん素人意見ではあるが、不自然な捜査や信じられないような偶然が起きたりしないから、リアルな警察官を感じられる。読者によっては物足りないと思う人もいるかもしれないが個人的には支持したい。
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「スクープ」今野敏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
テレビ報道局に勤める布施京一(ふせきょういち)は独自の取材で数々のスクープをものにする。
布施(ふせ)が真実を知るために、現場に潜入していく様子が繰り返し描かれる。時にはマリファナやコカインを楽しむ芸能人達と遊んだり、中国人との博打に勤しんだり。スクープが目的なのか、スリルを楽しみながら生きているうちにスクープが副産物として生まれるだけなのか…。
本作品から改めて伝わってくることだが、ただの殺人事件や芸能人の覚せい剤所持のような日常的事件ではスクープになりえない。多くの問題が未解決のまま、裏の世界で徐々にその触手を伸ばしていることに気付くだろう。大物政治家の癒着などはいまさら驚くようなことでもないが、マフィアと組んで援助交際をしながらコカインを売りさばく女子高生などはその1例である。
本作品の魅力は、布施(ふせ)と、刑事の黒田(くろだ)のやりとりにあるかもしれない。頻繁に情報交換をする2人は、一見互いに毛嫌いしていながらもお互いの心のそこにある「正義」を認めている。
人間の中に、お金や性に対する欲望があるかぎり単純に取り締まることのできない多くのこと。そんな類の多くの問題に改めて目を向けさせてくれる作品であった。
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「あの日にドライブ」荻原浩
オススメ度 ★★★☆☆
現在43歳の伸郎(のぶろう)は元銀行員で現在はタクシーの運転手。その生活を描く。
「もしあのときこうしていたら…ああしていたら…」。誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか。生きているうちに時に迫られる選択。人生のターニングポイント。一つの道を選択したら、もう一方の道を選択した場合に自分の人生に起こる結果を僕らは知ることができない。
過去のエリート人生から脱落して、その間の期間だけのつもりで選んだタクシーの運転手という職業。長距離の客に出会えるかどうかが運に左右され、それ以外の時間を車の中で一人でいろいろ考えてしまうからこそ陥いる、後ろ向きな後悔のスパイラル。読んでいる人間までへこませるようなマイナス思考のオンパレードだが、やがて自分だけが不幸なわけではなく、また、青く見える隣の芝生も、実際には多くの欠点を抱えていることに気付いていく。
結局は今を前向きにとらえて生きることこそ人生を楽しむ最良の方法なのだと伝えたいのだろう。僕にとってはそれは新しい考え方でもなんでもなく普段から意識していることではあるが、普段人生や運命をどうとらえているか、そういう読者の人生に対する姿勢によって、本作品の受け止め方は変わってくるのではないだろうか。
難しいことを考えずにのんびりとした気分で読むには悪くないかもしれない。
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「RYU」柴田哲孝
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
沖縄の川で無人のボートが発見された。そのボートに残されていたカメラには不思議な生物が写っていた。沖縄の伝説のクチフラチャは実在するのか、ルポライターの有賀雄二郎が動き出す。
「TENGU」「KAPPA」に続く、柴田哲孝の未確認生物シリーズの第3段である。さすがに3作目となると、その生物が醸し出す不穏な空気などで、マンネリな感を出してしまうかと思いきやそんなこともなくしっかり楽しませてもらった。
沖縄の文化やその土地の人柄、アメリカの支配下におかれた沖縄の歴史的背景にまで触れながら構成されるストーリー。科学と迷信や伝統を組み合わせるそのバランスの良さは本作品でも健在である。
ただ、今回は最終的にその生き物と地元の人間との戦いになることから、そのシーンには人間のエゴのようなものを感じてしまった。
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「疾風ガール」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆
タレント事務所で働く祐二(ゆうじ)はあるとき、バンドでギターを弾いている夏美(なつみ)というとびっきりの才能と出会う。事務所の方針とは相反するものの彼女を売り出すことを決意する。
一見軽率なイメージを与えがちな、タレント事務所であるが、本作品では最初から、そこで働く祐二(ゆうじ)の、優しいがゆえに、苦しむ様子が描かれている。
普段接することのな世界で生きる人々のその一生懸命な姿、そこで生きるがゆえに感じる多くの矛盾や葛藤が描きながら進む夏美と雄二の夢物語を期待し、期待感は膨らんだのだのだが、夏美(なつみ)の所属するバンドのボーカル、薫(かおる)の自殺をきっかけに話は一気に動き出す。
どうして薫は自殺したのか…。
しんみりとしがちなテーマではあるが、自分の才能を知らずに思ったまま行動をする夏美(なつみ)の姿はとそれに振り回される祐二(ゆうじ)のやりとりはなんとも微笑ましくタイトルの「疾風ガール」を裏切らない。
幼い頃は「がんばればなんでもできる」なんて言われて育ったけど、20代も過ぎれば「才能」というものが世の中には存在することは誰もが理解している。生きる道によってはその「才能」の違いは努力で補えたりもするが、「才能」がなければいきていけない道もある。
そういう道で生きている人たちがどんなことを感じ、その道でそんな嫉妬や葛藤、そして絶望が生じるのか、ほんのすこし理解できたような気がした。
【楽天ブックス】「疾風ガール」
「汝の名」明野照葉
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
若き女性社長である麻生陶子(あそうとうこ)は、引きこもりの妹である久恵(ひさえ)と一緒に暮らしていた。やがてそんな2人の関係も崩れ始める。
物語は1つの部屋で共同生活を送る2人の女性の生き方を描いている。冒頭は会社を経営する陶子(とうこ)の姿から入り、自らの求める理想の生活を自分の力で得ようとする世の中に対する姿勢のかっこよさに引き込まれていくだろう。そしてやがて、陶子(とうこ)と同居しながら家事の全般を担いながらも、過去の辛い経験から働くことができずに悩む久恵(ひさえ)の内面も徐々に描かれるようになる。
異なる生き方をしているからこそ、時に互いに羨み、時に互いに蔑みもする。そしてそんなやりとりが双方の生きるエネルギーへと変わっていく。
面白いのは陶子(とうこ)の経営する会社のくだりだろうか。顧客のニーズに応じて、現実の世界の演技者を派遣するビジネス。それは、真実か虚構かに関わらず、たとえ一時的なものであっても、自分の求めている環境や人に囲まれていたいという世の中の人々の心を風刺しているようだ。
2人の生き方に共感できるか否かは別にして、その生き方の逞しさは昨今の女性たちにぜひ学んでほしい部分でもある。
【楽天ブックス】「汝の名」