「ザッポス伝説」トニー・シェイ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
正直ザッポスという社名を知らなかったのだが、優れたブランドの一例として紹介されており興味を持った。

本書では著者でザッポスの創業者であるトーニー・シェイの幼い頃の様子と、ザッポスができるまでを描いている。もっとも印象的だったのは、トニーが幼い頃からお金を儲けるために試行錯誤していた点である。しかし、そんなお金儲けの視点が、少しずつ「本当に情熱を持って打ち込めるものを探す」方向へと移っていくところが面白い。

また、ザッポスができあがってからは、そのブランドの方向性や、それを守るために試行錯誤している様子がわかる。

ザッポスのそのユニークな企業文化がどのように出来上がったかといえば、それはやはりトニー・シェイがすでに十分なお金を持っていて、本当の幸せは、お金を得ることによってではなく、本当に情熱を持って取り組める何かとを持っていることだと知っていたからだろう。

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「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」山口周

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グローバル企業が幹部にアートの勉強をさせる動きが活発になってきた。なぜアートを学ぶ必要があるのか。本書はその理由を世の中の動きとあわせて説明する。

本書では意思決定のクオリティを左右する要素として「アート」「サイエンス」「クラフト」という言葉を使っている。これまでの世の中では「サイエンス」と「クラフト」が主流だった。なぜなら、組織においては説明責任が求められことが多く、それゆえに、「説明できる」「サイエンス」「クラフト」が主流になりがちなのだ。しかし、「説明できる」ゆえに伝えやすく、他の多くの組織に取っても導入しやすいため、結局「サイエンス」「クラフト」という2つの要素だけに頼る組織は、他の組織と差別化がしにくく、レッドオーシャンから抜け出せないのだという。

そして、だからこそ「アート」の要素が今後組織の生き残りを左右していくと説明しており、その過程でいろんな実例を挙げている。そんななかでも面白かったのは、高学歴者を幹部に連ねながらも反社会的行為に走ったオウム真理教や、DeNAの不祥事、ホリエモンやナチスの下でユダヤ人を大量虐殺するシステムを作り上げたアイヒマンを例に上げて、「偏差値は高いが美意識が低い」と言っている点である。おそらく多くの読者が、学歴が「人の良さ」を決めるものではないという点には同意するのではないだろうか。本書ではそれを「美意識」「誠実性」という言葉で説明している。

なぜ人間に美学とモラルが必要かといえば、一つには意外かもしれませんが、最終的に大変効率がいいからです。「効率がいい」というと語弊があるかもしれませんが、より大局を見て、一本筋が通っていると、大きな意味で大変効率がいいのです。

なぜ、効率的かというと、本書では、変化の早い今の世の中において、法律は変わる可能性があり、法律だけを基準に組織の良し悪しを判断していると、組織全体が法律の変化に大きく影響を受けてしまうのだ。一方、「美意識」「誠実性」に基づいた善悪の判断の方が長く有効なのである。

その他に興味深かった話は、日本のクルマのデザインを変えた、前田育夫氏の話である。彼の書籍がいくつか出ているようなのでこれを機に読んでみたいと思った。

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「Frontend Architecture for Design System」Micah Godbolt

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
デザインシステム作りを視野に入れて、組織として大規模なプロジェクトのフロントエンドの構成を説明している。

序盤はこれまでのWebデザインの変遷を説明している。1人で完結するWebサイトのコーディングが、モバイルサイトやレスポンシブデザインの出現により複雑になり、個人では完結できなくなった作業であることを改めて認識するだろう。

OOCSS,SMACSS,BEMと現在広く認知されている手法を例を交えながら解説している。印象的だったのはコンポーネントのmargin指定の話である。異なるコンポーネントをカラムレイアウトに入れる際、(例えば横3列のカラムにコンポーネントA,B,Cを入れる)上端が揃うようにするためには、コンポーネントにmarginを指定してはならないのだ。

中盤以降は若干フロントエンドでもエンジニアよりの考え方が入ってくるため、デザイナーの僕には理解が十分にできたとは言い難い。

後半の、CSSからデザインシステムのドキュメントを生成するサービスHologram, Pattern Labについて触れている。CSSの規則を構築した先には当然そのドキュメント化があるので、機会があればぜひ利用したいと思った。

「真実の檻」下村敦史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生の石黒洋平(いしぐろようへい)は、亡くなった母の部屋で見つけた写真によって、自分の本当の父親は死刑囚だったことを知る。苦悩の末、本当の父の罪が冤罪であることを信じて19年前の事件の真相を知るために動きだす。

初めて読む作家である。人生のあるときに自分の出生を知った。というのは、物語としては使い古された展開にも思える。あえてそこに踏み込むには、何かこれまでにない展開を描こうとしているからなのでは、と期待して読み始める。

石黒洋平(いしぐろようへい)は苦悩の末に、父親の無実の罪を晴らすことを決意し、雑誌記者夏木涼子(なつきりょうこ)の協力を取り付ける。

正直、ここまでの流れで、人間の心情描写にあまり深みを感じず、行動や決断がやたら早いのが少し残念だった。人生を左右する大きな決断や、見知らぬ人と行動を共にすることに対する警戒など、現実であればもう少し躊躇しそうな場面で、あまりにもあっさり決断しているのである。心情描写は男性作家より女性作家がすぐれている部分ではあるが、この辺は今後に期待したい。

また、弁護士や検事などの法律的な説明がかなり詳細で、他の刑事小説にはない新鮮さを感じた。最後は、頑張って予想外であろうとしたゆえの予想どおり、といった印象で、もう一捻り、またはそれ以外の部分での深みが欲しかった。昨今の社会問題に触れるわけでもなく、今このタイミングで、改めてこの使い古された舞台設定で描く理由はないように感じた。

この著者の代表作として、江戸川乱歩賞を受賞した「闇に香る嘘」というのがあるので是非次回読んでみたい。

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「「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣」石川和男

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
著者が自身の組織でも徹底している残業しないための習慣を説明している。

一般的に言われていることとほとんど変わらず、特別新しいことはない。目次を読めば言おうとしていることは理解できるだろう。

しかし、わかっていても組織として実行するには、組織のなかに存在する様々なタイプの人を納得させなければならないのである。著者のように、組織の中心にいる人間が、組織を残業しないチームに変えるのと、中堅や平社員が変えるのでは労力も手法も大きくことなるだろう。むしろ、本当に必要とされている本は、残業しないチームにどのように周囲を説得しながら変えていくか、という本なのかもしれない。

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「Org Design for Design Org: Building and Managing In-House Design Teams」Peter Merholz, Kristin Skinner

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
デザイン組織を作るための方法を説明している。小さなデザイン組織から、組織が大きく成長する中でどのようなデザイナーを増やしていくべきか。

序盤はデザインが重視されるようになった背景を説明している。80年代や90年代は徹底的な効率化により企業は競争力をつけていき、デルなどの企業が存在感を強めていった。しかし、効率化も頭打ちになったため、IDEOなどのデザインに力を入れ始めた企業が抜け出してきたため、現在デザインに多くの企業が目を向けているのだという。

第2章では、最近までのデザインの考え方とこれからのデザインの考え方の違いを説明している。これまでのデザインの考え方は、マネジメント、マーケティング、デザイン、設計、製造、販売、サポート、という全体の一つのフェーズでしかなかったが、これからは、すべてのフェーズに関わるべきものとしている。

中盤以降では実際の企業のデザイン組織の作り方について書いている。多くのデザイン組織はデザイン部を社内に設けるCentralized型か、デザイナーを事業部に割り当てるEmbedded型なのである。

Centralized型のメリット
デザインコミュニティや文化をサポートできる
明確な作業分担を作れる
デザイナーにプロジェクトベースで仕事をさせられる
一貫したユーザー体験を提供できる
仕事の効率化をはかれる
Centralized型のデメリット
責任者の力がない、責任の所在が不明確
彼ら、私たちという態度が生まれる
優先度やタイミングが不明確になる
Embedded型のメリット
開発がスピーディでサイクルがまわせる
デザイナーがチームの一員として機能する
チームが提供するものに責任を持てる
良質のものを提供できる。
Embedded型のデメリット
チームが一つの問題に長い期間集中する
デザイナー同士のつながりが希薄になる
デザイン文化の一貫性やデザインコミュニティーが希薄になる
ユーザー体験が分断される
同じ努力が複数の場所で行われ、非効率さが生まれる
ユーザー調査がおざなりになる

その双方の長所と短所を説明した上で、本書ではCentralized Partnershipという双方の利点を兼ね備えたデザイン組織を提案している。

そして終盤以降は、デザイナーをタイプによって分類し、デザインチームがグループとなり、組織となるにあたって、どのようなタイプのデザイナーをどのように入れて組織を大きくしていくかを説明している。正直、終盤のくだりは、大きなデザイン組織の人事に影響を与えられる人、というかなりニッチな人にしか役に立たないかもしれない。

本書によって、Centralized型とEmbedded型の組織の長所と短所を整理することができた。しかし、それは本書から説明されるまでもなく明らかだったことと、短所を補おうとすると本書が提案するような折衷案を目指すというのは必然的である。そのため、本書が何か新しい考えをもたらしてくれたという印象はない。

「面白くて眠れなくなる素粒子」竹内薫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
素粒子をわかりやすく解説している。

素粒子について新しく得た知識は原子核が陽子と中性子によってできており、陽子と中性子は3つクォークと呼ばれる素粒子でできている。というところまで。その先は予想どおりわかりにくい。

面白かったのは、物理学者のタイプの話で、理論物理学者と実験物理学者という大きく2つのタイプがいるというものぐらい。超ひも理論の本を読むのは本作品で2作目だが、相変わらずとらえどころのない感じ。わかりやすく話しているせいか、どこまでがたとえ話でどこまでが実際の話なのかがわかりにくいと感じたが、後半では、著者が、ほとんどが妄想だと言っていることを考慮すると、実際の話はほとんどない気もしてきた。

「どういうものなんだろうと考えること、どういうものなのか頭の中に具体的なイメージを浮かべようとすること」はNGです。
どこまでが本当で、どこからが妄想なのか、私たちにはもうわからないんです。

とっつきにくい世界の一つの足がかりとしてはわるくないかもしれない。
 
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「新版 ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」W・チャン・キム

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
QBハウス、セブン銀行、オフィスグリコのようなブルーオーシャンを切り開いた企業たちのように、競合のいないブルーオーシャンを開拓するにはどのような戦略をとるべきなのか。本書では、そんなブルー・オーシャンを切り開こうと考える組織の経営者たちに向けて、その戦略を考える上で有効な手法がいくつか紹介されている。

戦略キャンバス
6つのパス アクションマトリクス

ブルー・オーシャンを切り開いた企業として豊富な実例を挙げている。サーカスを一大エンターテイメントへと変えたシルク・ド・ソレイユ、近づきがたいワインを一般に広めたイエローテイルの話は面白く、上に挙げた戦略キャンバスに照らし合わせると、これらの会社がまさにそれまでの既成概念を打ち破った戦略で成功したことがわかる。

また、企業ではないものの、組織を大きく変えた例としてNYPD(ニューヨーク市警察)を例にとり、ティッピングポイントリーダーシップという手法を説明している。ティッピングポイントリーダーシップとは、組織に大きく影響を与えうる、人、出来事、行動を見極めてそれを活かすことである。つまり、組織や人や街全体を対象にするよりも鍵となる部分に努力を集中させることが効果につながるということで、当時のニューヨークが本部長ビル・ブラットンのそのような取り組みによって徐々に改善されていく様子を説明している。

また、組織を変える上で、公正なプロセスの重要性を説いている。公正なプロセスとは3つのEで説明される、関与(Envolvement)、説明(Explanation)、明快な機体内容(Clarity of Expectation)であり、本書では、変化に成功した企業と失敗した企業を例にとってその重要性を説明している。

最も印象的だったのは、最後の章の「レッド・オーシャンの罠を避ける」である。ここには、企業が陥りがちな間違った戦略の多くが書かれている。特に「「ブルー・オーシャンを創造するには、他者に先駆けるほかない」という誤解」は耳の痛い話で、かつて所属していた企業でもこのような考え方が蔓延していた気がする。

iMac以前にもパソコンは存在したし、iPod以前にもMP3プレーヤーは存在した。
スピードは重要ではあるが、それだけでブルー・オーシャンを開拓できるわけではない。市場に一番乗りしたものの、イノベーションから価値を引き出さないまま製品やサービスを販売してしまい、退場を余儀なくされた企業群の墓標が、産業界には溢れている。

全体的にはうわさどおり非常に読み応えのある良書だと感じた。ぜひまた時間をおいて読み返したいと思った。

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