「危険なビーナス」東野圭吾

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
獣医として働いている伯朗(はくろう)の元に、弟の明人(あきと)の妻を名乗る女性楓(かえで)が現れる。弟の明人(あきと)が現在行方不明だという。

伯朗(はくろう)は楓(かえで)と共に、すでに亡くなった母親の夫の家族で、現在は縁を切った矢神家の遺産相続の話し合いに参加する。そして、遺品を見る中で10年前の母親の死など、不審な点に気づくのである。

弟の明人(あきと)に何が起こったのか。そんな思いを抱えながら、伯朗(はくろう)は楓(かえで)は共に行動していく。

正直、話の展開が遅いわりに内容の薄さを感じる。東野圭吾という著者に深い感情描写は求めていないが、物語の展開や斬新さにはある程度期待している。残念ながら、今回はそのどちらもなかった。もちろん、まったくなかったとは言わないが物語の長さを補って余りあるものではなかった。

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「ラプラスの魔女」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
遠く離れた2つの温泉街で硫化水素の発生による死亡事故が起こった。研究者の青江(あおえ)は警察の依頼で意見を求められ現場に赴き、2つの場所で同じ女性を目撃する。

様々な登場人物の視点を行き来しながら物語は展開していく。刑事の中岡(なかおか)と研究者の青江(あおえ)という硫化水素による事故に興味を持った2人はお互いに牽制しながらも少しずつ真実に近づいていく。また、若い女性の警護を任された武尾(たけお)も不思議な体験をする。その若い女性の周囲でたびたび不思議なことが起きるのである。物語はやがて一つの大きな流れに向かっていく。

いつものように東野圭吾はエンターテイメントとしては最高で、一気に読ませる面白さがある。ただ、残念なのは読み終わった後数週間もすればすべて忘れ去れててしまうということだろう。つまり時間潰しにはなるが学びにはならないということである。学びや知的好奇心を読書に求める僕のような読者にとっては若干物足りないかもしれない。

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「新参者」東野圭吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2010年このミステリーがすごい!国内編第1位作品。

日本橋で女性が殺された事件の捜査で着任したばかりの加賀恭一郎(かがきょういちろう)は、地域の人々の話を聴きながら少しずつ真実に近づいていく。

日本橋で生活するさまざまな人々の視点に移り変わりながら進んでいく。そして、刑事の加賀(かが)は鋭い観察眼で真実に近づいていくのだが、事件の解決だけでなく、そこで出会う人々に対して人間味を持って接していく点が印象的である。日本橋にある多くの伝統的なお店が登場する点も面白い。

そんな加賀(かが)の尽力によって少しずつ真実が明らかになっていく。被害者である母、離婚して新たな人生を歩み始めた父、そして自らの夢をおって家を出た息子、それぞれ悩みながら生きていることがわかる家族の物語である。

頭の中だけで物語を作り出し、特に現実世界の下調べなどに時間を割かない東野圭吾の作風に物足りなさを感じてしばらく遠ざかっていた。しかし、どんな作家も時間が経つとともに作風に変化があり、本書はそんなことを改めて感じさせてくれる1冊だった。評価の高いものからもう一度読んでみたいと思った。

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「赤い指」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
妻からの連絡で家に急いで帰ると、庭には少女の死体があった。息子の犯罪を隠すために共謀することとなる。
久しぶりの東野圭吾作品である。息子の犯した犯罪を隠すために共謀する家族と、それを捜査する刑事の側の2つの視点から物語は展開する。面白いのはその家族には痴呆症を患っている祖母が同居している点だろう。息子が親である自分に対しての態度を「親への感謝の気持ちがない」と嘆く一方で、痴呆症である母を疎んじる自分自身を恥じるのである。
そして一方で、本件を捜査する刑事、松宮(まつみや)と加賀(かが)の物語も本作品の魅力である。刑事になる前から加賀(かが)と顔見知りだった松宮(まつみや)は、父親の命がもう長くないことを知りながら会おうとしない加賀(かが)に不満を持っていた。
最終的に親と子の在り方を見せてくれるクライマックスが用意されていた。少し作りすぎの印象を受けたが、楽しむことができた。以前は読書のための読書にしかなりえなかった東野圭吾作品だが、ここ2,3年の作品からは、以前になかった現実社会を反映した深みのようなものが感じられるようになった気がする。
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「容疑者xの献身」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第134回直木賞受賞作品。2006年このミステリーがすごい!国内編第1位

一人娘と暮らす靖子(やすこ)のもとに、別れた夫である富樫(とがし)が現れる。口論の末に富樫(とがし)を殺してしまった靖子(やすこ)は、隣にすむ石神(いしがみ)の指示でアリバイ工作をする。
本作品の面白さは、犯罪を犯して犯罪を隠蔽しようとする靖子(やすこ)や石神(いしがみ)といった犯人側の目線をメインに描きながらも、その偽装工作の詳細が最後まで明らかにならない点である。
そして、そんな数学者である石神の考え抜かれた偽装工作に、これまた数学者でありドラマ化された「ガリレオ」の主人公としても名をはせた湯川学(ゆかわまなぶ)が挑む。湯川(ゆかわ)の追及によって少しずつ危機感を抱く石神。2人の天才の対決がこの物語の見所であるが、それだけでは終わらないのが東野圭吾ワールドである。最後は読者の想像のさらに上を行ってくれることだろう。
直木賞受賞作品ということでかなり期待したのだが、残念ながら、過去の東野作品の面白さの範囲を出ない。むしろ前回読んだ「さまよう刃」や名作「白夜行」のほうがはるかに強烈な物語だった。


エルデシュ
ハンガリーの数学者。
四色定理
いかなる地図も、隣接する領域が異なる色になるように塗るには4色あれば十分だという定理。(Wikipedia「四色定理」

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「さまよう刃」東野圭吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
長峰(ながみね)の娘、絵摩(えま)は若者3人組に誘拐され殺された。長峰(ながみね)はタレコミによって知ることができた犯人のうちの一人の部屋で、娘が強姦されている映像を映したビデオを見つけ強い怒りを覚える。
読みはじめてすぐに違和感を覚える。なんという東野圭吾らしからぬストーリーなのだろうか、と。東野圭吾作品は往々にして、物語が物語だけに完結してしまい、人生に生かせそうなテーマや教訓含んでいることはほとんどない。それが僕の東野作品に対する不満だったのだが、本作品は序盤から社会派ミステリーの雰囲気をかもし出しており、、その一方で、少年法に守られた極悪非道な犯罪者に復讐するという、そこらじゅうで使い古された物語である。「社会派ミステリー」という点も「使い古された」という点も僕の中の東野圭吾イメージとかけ離れているのだ。
さて、物語の大半は、長峰(ながみね)が逃亡した主犯格の少年を探すという段階で展開する。そして警察は復讐を阻止するために、長峰(ながみね)と逃亡している少年を探す。長峰(ながみね)の行動に理解を示しながらもその復讐を阻止するための捜査に加わざるを得ない警察関係者、そして、人を殺すことはよくないとわかっていながらも、警察に素直に協力できない峰崎(みねざき)の周囲の人たちの心情がよく描かれている。

自分たちは一体なんなのだろう。法を犯したものたちを捕まえることが仕事ではある。それによって悪を滅ぼしていける、という建前になっている。だがこんなことで悪は滅びるのか。彼らは知っているのではないか。罪を犯したところで、何からも報復されないことを。国家が彼らを守ってくれることを。

少年法がどうあるべきか、などという著者なりの答えは残念ながら示されていない。僕らに問題を投げかけているだけだ。

警察ってのは法律を犯した人間を捕まえているだけだ。市民を守っているわけじゃない。警察が守ろうとするのは法律のほうだ。

「さまよう刃(やいば)」という本作品のタイトル。それは最初、銃を持って主犯格の少年を探して放浪する長峰(ながみね)を指す言葉だと思っていたが終盤になってその本当の意味がわかる…。
さて、全体的な感想はというと上でも書いたように、東野作品に対する予想は裏切られたが、とても意義の有る時間だったと思う。ただやはり、社会派ミステリーを描くならやはり現実の事件なども引用してその問題の深刻さ、フィクションの中のノンフィクションをもっと読者に訴えて欲しかったと感じた。
とはいえ、せっかく著者によって問題を投げかけてもらったのだから少し考えてみた。
このように少年法の問題点を扱った物語は世の中に多々存在するし、多くの人が少年法に関する議論を一度は耳にしたことだあるだろう。しかし、少年法によって守られた犯罪者たちがその後更生したのか、ということを世の中のいったいどれほどの人が知っているのだろうか。それを知らずして少年法についての考えをまとめることなどできない…しかし、少年法で守られているがゆえにそれさえ僕らには知ることができないのだ。
少年法の是非を議論するための素材を手に入れることを、少年法が許していないのである。実名報道は許されるはずもないが、せめて、彼らがその後どんな人生を送ったのかだけでももっとオープンにすべきなのではないだろうか。

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「幻夜」東野圭吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
阪神淡路大震災の混乱の中、主人公の雅也は、地震で両親を亡くして天涯孤独となった新海美冬(しんかいみふゆ)と出会う。二人は協力して平成不況の世の中を生き抜いていく。
この作品は昨年ドラマにもなった「白夜行」の続編とされている。「白夜行」の登場人物であった雪穂(ゆきほ)と亮司(りょうじ)のような、その善悪は別として、法律や世間の常識に対して決して揺らぐことのない強い生き方に触れたくて手に取った。その期待にはしっかりと応えてくれた言えるだろう。
物語の展開のみを頼りにし、舞台や題材は想像で補うことの多い東野圭吾にしては珍しく、物語の舞台となる時代や、鍵となる細かい題材が現実に基づいており、展開以外にも今まで知らなかった世の中の一面を僕に見せてくれた。

父の自殺を予期しながら考えまいとしていた、というのは正確ではなかった。自殺の気配に気付かない演技をしていた、というのが正しい。父の生命保険のことも知っていた。だから首を吊っている父を見た時の最も正直な気持ちは、これで助かった、というものだった。

平成不況の中、その大きな影響を受ける町工場で働く人たちの気持ちや、美しくなることにこだわリ続ける女性は、現代の社会の病を象徴しているようだ。
「白夜行」の続編ではありながらも一つの作品としてしっかりと成立しており、「白夜行」を知らなくても十分楽しめるが、「白夜行」の読者であれば読み進めるににしたがってその関連に気付くことだろう。
人以上に不幸な境遇に育ったからこそ、人以上に幸せ求める。そんな彼らの行き着いた先は他人を蹴落としてでも幸せになろうという生き方。富と美しさを手に入れても決して人に心を開くことのできない生き方はやはり悲しいくつらい生き方でしかない。世間で言われる幸せの大きな要素、富と美しさ。それは本当に必要なものだろうか。そんな問いかけこそがこのシリーズで東野圭吾が伝えたいテーマなのかもしれない。


日本遊戯銃協同組合
エアソフトガン、モデルガンなどの遊戯銃(トイガン)の改造防止などを図ることにより遊戯銃の安全対策の確立に努めるとともに、組合員の取り扱う遊戯銃の適正な使用方法に関する啓蒙、普及を図る団体。

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「レイクサイド」東野圭吾

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
四組の親子が参加する中学校受験の勉強合宿で起きた殺人事件。主人公の並木俊介(なみきしゅんすけ)は、他のメンバーの提案によって事件を隠蔽することに同意するが事件の周囲からは少しずつ不自然な陰が見えてくる。
物語が進むにつれて少しずつ真実が明らかになっていくありがちなミステリーと思いきや少し趣が異なる。俊介(しゅんすけ)が実行犯側にいる点が物語を新鮮にさせているのだろう。それでも最終的に物語を完結させるまでにもう一つ展開が欲しかった気がする。少し物足りない作品であった。
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「時生」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
以前より東野圭吾作品の中で傑作の部類に入ると聞いていた作品。文庫化にあたって手に取ることにした。
宮本拓実(みやもとたくみ)と麗子(れいこ)の息子のトキオは数年前にグレゴリウス症候群を発症し、まもなく最期の瞬間を迎えようとしている。
グレゴリウス症候群とは遺伝病で、十代半ばに発症し、運動機能を徐々に失った後、意識障害を起こし、最終的に死に至るという病気である。トキオがグレゴリウス症候群を発症するであろうことは生まれる前から、予想されていたにもかかわらず、二人の意志で産むことを決意したのである。
そして、病院のベンチで二人は「本当に産んだことは正しかったのか」そんな葛藤をする。麗子(れいこ)は言う。

「あの子に訊いてみたかった。生まれてきてよおかったとおもったことがあるかどうか。幸せだったかどうか。あたしたちを恨んでいなかったかどうか。でももう無理ね。」

そんなとき、拓実(たくみ)は昔トキオに会ったことがあることを思いだし、麗子(れいこ)にその出来事を語り始める。物語は拓実(たくみ)の回想シーンを中心に進む。
20年前の世界で、拓実(たくみ)はトキオは浅草の花やしきで出会い、行動を共にする。
拓実(たくみ)とトキオが知り合ったホステスの竹美(たけみ)は、若くて未熟な拓実(たくみ)に言う。

苦労が顔に出たら惨めやからね。それに悲観しててもしょうがない。誰でも恵まれた家庭に生まれたいけど、自分では親を選べ変。配られたカードで精一杯勝負するしかないやろ

そしてトキオもまた拓実(たくみ)にいろいろなことを訴える。

「どんな短い人生でも、たとえほんの一瞬であっても、生きているという実感さえあれば未来はあるんだよ。明日だけが未来じゃないんだ」

物語のテーマを単純に受け取るなら、「生まれてきたことは幸福なはずだ」という解釈で間違いないと感じるのだが、それでは浅いように感じた。なぜならそれが多くの人間に共通するものとは決して思えないし、特に思春期という人格形成の初期にグレゴリウス症候群を発症したトキオがそんな前向きな考えを維持できたとはとても思えないのである。実在する人間の心はもっともっと複雑なように感じたのだ。
むしろ「記憶は事実に応じて塗り替えられる。」という別の解釈が僕の中に残った。つまり、過去にトキオと会ったという記憶は、拓実(たくみ)と麗子(れいこ)が心の葛藤から逃れるために無意識下で作り出したもので、現実に起きたことではない。というものである。そんな解釈は深読みしすぎだろうか。
どうやらグレゴリウス症候群も作者が作り出した架空の病気である。読みやすい文章と、スピード感のある物語で、読者を引き込む手法は相変わらずだが、実在の病気と絡めるなど、現実世界ともう少しリンクした物語で、面白さと同時に興味や好奇心を喚起してくれる作品を僕は求めていて、感動はするものの少し物足りなく感じた。ただ、「複雑なことを考えずに感動したい」という人には好まれる作品だと思った。
この作品と同様に遺伝病をテーマとした作品として、鈴木光司の「光射す海」が思い浮かぶ。こちらは実在の病気をしっかりと取り入れていて非常に完成度が高くオススメである。
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「悪意」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
楽な本を読みたい時に僕は東野圭吾の本を手に取る。今回もそうである。
物語は野々口修(ののぐちおさむ)と日高邦彦(ひだかくにひこ)という二人の作家の間に起きた殺人事件に対して、刑事の加賀恭一郎(かがきょういちろう)が少しづつ解明して行くという展開で進む。
作家を登場人物としているため、東野圭吾本人の実体験と思われるシーンが何度か物語中に含まれていて新鮮さを感じる。そして東野圭吾「らしさ」があらゆるところにちりばめられている。そもそも僕はこの本を単純な推理小説だと思って手にとったのだ。読み終わったら一息ついて、次の本を読みはじめられると思っていた。でもこの本は僕の目の前に突き付けて来た。今まで見えていて見ないようにしていた現実。裏表のない「善意」に対して、強烈な「悪意」が芽生えることも時にはあるということを。
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「宿命」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「貧しい家庭に育った和倉勇作、裕福な家庭に育った瓜生晃彦。二人はお互いを意識しながら時には妬み、時には憎み、そして時には憧れてもいた。」キャッチフレーズをつけるならこんなところだろう。1つの殺人事件をめぐって大きな謎が少しづつ解明されていく。最後は「宿命」というタイトルのとおりすっきりと謎が解ける事になる。毎度のことながら東野圭吾の作品は疲れない。「疲れない」というのは、例えば読んでいる最中に前のページを読み返したりしなくても一気に読めるという事だ。この作品も例外ではなかった。
ただ、ひとつ言わせてもらうなら東野圭吾の作品はフィクションなのだ。もちろんこのブログに掲載している本の大部分はフィクションなのだが、ノンフィクションを折り混ぜた作品の方が、自分自身にとってもいろいろな方向に興味が広がることになり結果的に自分の世界を広げる事になる。東野圭吾の本は作者の空想の部分が8割,9割を占める。そのため読んで、そこで完結してしまう。例えば松岡圭祐はいつも現実の世界と関連したストーリーを展開してくれる。例えば9.11のテロや新宿の雑居ビル火災である。宮部みゆきは世の中のおかしな制度や現代にはびこる不思議な人間関係をえぐってくれる。そういうものが東野圭吾にはない。ある意味ラクではあるが、ある意味物足りないのだ。それでものんびりしたいときにはまた東野圭吾の作品を手に取ることだろう。
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「変身」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
脳を入れ替えることによって、別の体を手に入れる。そんな話はよくある話で、この「変身」もそのテの話かと思っていた。ところが実際には、事故で欠損した脳の一部に、別の人の脳を移植したことによって、少しづつ性格が変わってくるという話である。
この物語のテーマはというとやはり、脳がただの細胞の変化したもので他の臓器と同じものなのか、それとも脳は特別な存在なのか、ということである。この「変身」の中では、主人公が、ドナーの性格に少しづつ変わって行くことから、やはり「脳は特別な存在」というふうに位置付けているのだろう。
僕もやはり、「脳は特別な存在」と思いたい。前者の意見であれば、「死ぬ」ということは、機械の「電源が切れる」となんら変わらなくなってしまう。僕にはその考えは非常に受け入れにくいものなのだ。僕にとって「死ぬ」とは、脳に宿っている特別ななにか(おそらく「霊魂」と言われるもの)が体の外にでることを言うのである。だから僕は幽霊を信じるし、死後の世界を信じるのだ。
ちなみに脳のはたらきについてもう少し掘り下げた話を読みたい方は瀬名秀明の「BrainValley」なんてオススメです。
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「むかし僕が死んだ家」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本にもいろんなタイプがあって、感動する本、悲しい本、笑える本などである。この本を「どんな本か?」と聞かれたら「作者のセンスを感じる本」とでも答えるだろうか。この設定、ストーリーそして、この読ませ方を思い付く作者のセンスがすごいのである。
小学校の入学式以前の記憶のない女性と、その友人がてがかりがあるであろう一軒の家を訪れ、その家にあるものを調べ行く内に徐々に真実が明らかになっていくという話である。要所要所にたくさんの伏線がしいてあるので、これから読む人は油断しないで読んでいただきたい。
ストーリーを楽しむだけで特にこの本から得た知識や刺激はほどんどなかったが、相変わらず東野圭吾作品らしくは、複雑なことを考えずに一気に読める。青春18きっぷの鈍行旅行の最中に読んだのだが、そんなシチュエーションにぴったりだった。
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「パラレルワールド・ラブストーリー」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
主人公が自分の記憶に違和感を覚えることから物語は始まる。記憶の操作をテーマとした作品は昔からたくさん出ているが、この作品は日常的な恋愛がその中に絡んでくる。さすが東野圭吾と思わせるぐらい最初から最後まで一気に読める。
主人公たちが、記憶を書き換えるための研究を行っていることから起きるストーリーであるが、その内容は意外と興味をそそられる。考えてみると、小さな記憶の書き換えは誰の記憶にでも起きていることだ。幼いころの思い出を映像として思い浮かべると、自分の視点で見ていた出来事なのに、その映像の中に自分がいる。なんてことはよくあることで、それも些細な記憶の書き換えの一種なのかもしれない。
【Amazon.co.jp】「パラレルワールド・ラブストーリー」

「秘密」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第52回日本推理作家協会賞受賞作品。
広末涼子主演で映画化されたのが1999年。もう5年も前の話である。そのような理由から、「交通事故によって死んだ母親の直子が娘の藻奈美の体の中に蘇る・・」というプロローグぐらいは知ったうえで読みはじめることになった。
僕がもう一度人生をやりなおせるとしたらどんな生き方をするのだろう・・?後悔しない人生を送ることをこころがけているとはいえ、やり直したいところはたくさんある。そう考えると、この本の中で藻奈美の体を借りて人生をやり直すことになった直子が選んだ生き方は非常に共感できる部分があるのだ。
何か一つのことを目指してひたすら突き進む人生、いろんなことを楽しむ人生。どちらがいい人生かはわからない。誰にとっても人生は一度きりなのだから。だからこそこの本を読んで思った。人生をやり直すということは、もっとも贅沢な願いであり、誰しも心の奥で抱いている願いではないだろうか・・昔話で良く出てくる「永遠の命」なんて、それに比べたらなんて小さなモノだ。
これから、「もし願いが一つ叶うとしたらどうする?」、そう聞かれたら、「人生をやり直す」そう答えることにしよう・・・いや、しかし、これもまたずいぶん後ろ向きだな。
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