「Still Life」Louise Penny

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2006年アーサー・エリス賞、ジョン・クリーシー・ダガー賞、2007年アンソニー新人賞、バリー新人賞、ディリス賞受賞作品。

先日読んだ、「All the Devils are Here」が実はArmand Gamacheシリーズの第16作品めということで、最初から読もうと、シリーズ最初の作品である本書にたどり着いた。

カナダケベック州のスリーパインズという田舎町で、年配女性Janeが自ら描いた絵画を初めて町の展覧会に出品した数日後弓矢が当たって亡くなった。Janeは周囲の人から好かれていたが、誰もJaneの自宅の二階に入ったことがないという。Janeにはどのような秘密があったのか、またその秘密は事件と関係があるのか、警察官のArmand GamacheとJean-Guy Beauvoirは見習いのNicholとともにThree Pinesで真実の解明に乗り出す。

田舎町ゆえに、そこに住んでいる人の背景も様々である。Gamacheが少しずつ人々から話を聞く中で、殺害されたJaneの背景と、凶器として使用された弓の存在が明らかになる。事件解決と並行して、警察官として未熟で失敗をしがちのNicholにいろんな振る舞いを諭すシーンが興味深い。続くシリーズでもNicholとGamacheとの師弟関係が見れるなら楽しみである。また、カナダというと英語圏のイメージがあるが、ケベック州はフランス語を公用語とする土地で、英語ネイティブに対する差別が存在していることは本書を読んで始めた知った。

やがて、物語は過去の町の人々の過去の行いまで明らかにしていくこととなる。Janeの過去と誰も足を踏み入れたことのない家の二階の様子が明らかになり、真犯人の解明につながっていく。

絵画と弓矢を絡めた物語。シリーズものは第1作品目が良いものであることが多いが、このシリーズもそれがあてはまるようだ。第1作と第16作を読了したという妙な状態になってしまったが、間を埋める残りの作品も少しずつ読み進めたいと思った。

「The Lock Artist」Steve Hamilton

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2011年バリー賞長編賞受賞作品。2011年エドガー賞受賞作品。

幼い頃のできごとによって話す事をしなくなったMikeだが、2つの才能を持っていた。一つは絵を描く事、そしてもう一つはどんな鍵でも開けてしまうこと。そんなMikeは金庫破りになっていた。

最近よく見られる手法ではあるが、本作品もある程度のときを隔てた2つの時間を交互に描いていく。片方はまだ学生のMikeを描き、話さないがゆえに周囲の人々から孤立していながらも、その才能で少しずつ自らの存在感を示していく。もう一方では、すでに金庫破りとして仕事を受けて、犯罪者たちに加わって行動する。物語を読み進めるに従ってこの2つの時間の間の出来事が少しずつ埋まっていく。
金庫破りを描いているので、Mikeが金庫を開ける際の描写がやはり新鮮である。そもそもダイヤル錠がどのような仕組みになっているのか、どれほどの人が理解しているのだろうか。軽くでもダイヤル錠の仕組みを知ってから読むともった楽しめるかもしれない。
Mike自身もなりたくて金庫破りになったわけではなく、その過程にはいくつかの運命的出会いがある。その一つが、Mikeと同じように絵を描く事を得意とするAmeliaとの出会いである。Ameliaと話すことのできないMikeは絵でお互いの意思を伝える。小説ゆえに、そんな絵による会話が文字でしか見えないのが残念であるが印象的なシーンのひとつである。
さて、仕事中でもかたくなに話そうとしないMikeの言動から、「幼い頃何があったのか」「なぜ彼は話せないのか」という疑問が読み進めるうちにわいてくるだろう。そんな好奇心が読者の心を物語を最後まで引っ張っていくのである。
しだいに打ち解け心を許し合うMikeとAmeliaだが幼い頃のできごとを話そうとしないMikeの言動もAmeliaの心にブレーキをかける。また、Mike自身も金庫破りという仕事ゆえに次第に危険な出来事に巻き込まれるようになる。
悲しくも温かい物語。

「The Shadow of the Wind」Carlos Ruiz Zafon

オススメ度 ★★★★★ 5/5

2005年バリー賞新人賞受賞作品。

1945年、10歳になったDanielは父に「本の墓場」と呼ばれる場所に連れて行かれて自分だけの一冊を選ぶように言われる。そこでであった本「The Shadow of the Wind」に取り憑かれたDanielはその著者Julián Caraxの他の本を探そうとするが、その著者の本はすべて燃やされてしまったと知る。いったい著者Julián Caraxに何があったのか。

一冊の本との出会いから始まる壮大な物語。Danielの心を「本の墓場」で出会った「The Shadow of the Wind」が掴んで話さなかったのと同じように、僕の心をこの「The Shadow of the Wind」は夢中にしてくれた。主人公Danielの友情、親子の絆、恋愛だけではなく、彼をとりこにした著者、Julián Caraxの恋愛や人間関係のもつれからうまれた壮絶な人生にまでが次第に明らかになっていく。地理的にもバルセロナからパリに広がり、当時の世界情勢も反映された見事な内容に仕上がっている。

一冊の本との出会いをきっかけに始まる物語であると同時に、Daniel自身も父とともに本屋を営む故に、読書というものの人生に与える大きさを考えさせてくれるだろう。終盤に書いてある言葉が重く響いてくる。

読む人に、その人自身の内側を見せてくれるような、全身全霊をもって取り組むような、読書の美学というのは次第に失われつつあるのだろう。すばらしい読者は月日とともに少なくなっていくのだろう。

読み終えた瞬間の喪失感のなんと大きな事か。読書の大好きな人にぜひ読んでほしい。出会えた事を感謝したくなる物語。

和訳版はこちら。

「The Last Child」John Hart

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2010年バリー賞長編賞受賞作品。2010年エドガー賞受賞作品。
双子の妹が誘拐されて行方不明になってから、13歳のJohnnyの世界は変わってしまった。父親は失踪し、母親は失意の日々を送っていた。それでもJohnnyは強くいき続けた。
「Down River」に続いて、John Hartは本作品で2冊目となる。彼の作品はどうやら家族のありかたを常に意識しているように見え、本作品にもそんな要素が詰まっているように感じた。母と子、父と子、Johnnyとその母Katherineだけでなく、彼らに対して親身になって接する刑事Huntとその子Allenや、Johnnyの親友であるJackとその父Cross。
いずれも家族として崩壊しているわけではないが、どこか歯車のかみ合わない関係を続けている。ところどころでお互いに対する不満がにじみ出てきて、その予想外の不満に戸惑い、それでも修復して「家族」であり続けようとする意思が根底に見えるあたりに、何か著者のうったえたいものがあるような気がする。
一気に物語に引き込むような力強さはないが、じわじわと読者の心を覆い尽くしていくような独特な世界観がある。そんな世界観に多くの人が涙するのではないだろうか。