「The Burial Hour」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アメリカで発生した誘拐犯がイタリアで新たに活動を開始した。Rhyme、Amelia、Thomはイタリアに降り立ち、現地の警察とともに誘拐犯Composerを追い詰めていく。

Lioncoln Rhymeシリーズの13弾である。さすがに13弾目となると、犯人の手口もこれ以上新しくしようと思っても難しいだろうし、登場人物を増やすにも限界がありどうしても展開がマンネリ化してくる。しかし、今回は舞台を初めてアメリカ以外の国、イタリアに移して展開するという点で新しさを演出している。そして、それによってイタリアの警察関係者が多数登場するのも面白く、特に、トリュフなどの密輸入を管理する仕事をしながらも刑事になることに憧れていたErcoleがRhymeの捜査にへの知識からComposer追跡チームへと加わり、不器用ながらも成長していく様子や、イタリアの警察組織の仕組みを描いているあたりが新鮮である。

今回の犯人であるComposerは音に非常にこだわりがある点が新しい。拉致した人間の鼓動や息遣いに病的なこだわりを見せるのである。Composerはどのような基準で拉致する人間を選んでいるのか、なぜイタリアを選んだのか、などが今回の大きな謎となる。

ただ、追跡自体はいつものように現場に残されていたわずかな痕跡を辿りながら薦められていく。この過程においてはシリーズを読み続けている人にとっては特に目新しさはないだろう。ただし人間関係においては一捻りもふたひねりもある展開になっていく。

最後はついにAmeliaとRhymeの待ちに待った幸せな時間が訪れる。2人の結婚式である。おそらくシリーズの中でも結婚式を描くのは本作品だけだろう。そういう意味においてはシリーズを語る上で読まなければならない一冊かもしれない。

「The Steel Kiss」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★★☆ 3/5
Lincoln Rhymeシリーズである。AmeliaとRhymeはは電子機器のリモートコントロール機能を利用して殺人を起こす人物の捜査に乗り出す。

一方Pulaskiは過去の事件によって引退を決意したLincoln Rhymeを再び第一線の捜査に復帰してもらうために、その事件を独自に調べ始める。また、Ameliaの前には、昔の恋人Nickが出所し「自分の無実をはらすために手伝って欲しい」と告げる。Lincolnは自らが行う講義の生徒として参加していて同じく車椅子のJuliette Archerをインターンとして迎え入れる。

それぞれの登場人物が犯人の操作とは別に、それぞれの抱えている問題に取り組んでいく。

事件の捜査はこのシリーズでおなじみ現場に残された物質を細かく分析してそのソースを特定しながら犯人に迫っていくとく流れなので説明するまでもないが、新しい登場人物や新しい犯人の指向性がシリーズを面白くしている。今回はJuliette Archerの存在だろう。同じように車椅子での生活になったArcherに対して、これから迎えるであろう人生のしょうがいの多くを想像し同情するRhymeの気遣いが興味深い。

間が空くと前のシリーズの内容が思い出せないので、なぜLincolnが事件の捜査からの引退を決意したのかわからないのだが、機会があったら前作品も読み直してみたいと思った。

「The Skin Collector」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2016年このミステリーがすごい!海外編第1位。

ニューヨークに古くから残る地下道。そこから侵入し人を殺害し、その肌にタトゥーを掘るSkin CollectorにRhymeが挑む。
今回の犯人は本シリーズの最初の作品Bone Collectorの犯人に強く影響を受けているようで、Skin Collectorと呼ばれている。本書のなかでもBone Collectorの内容が何ども触れられているが、正直もう3,4年も前に読んだ話なのでほとんど覚えていないのが残念である。Bone Collectorの物語のとき少女だったPamとAmeliaの関係が本書では1つの焦点となっている。立派に大人になって巣立っていこうとするPamにAmeliaは嫉妬し、その事実を素直に受け入れられないのである。

また、一方でWatch MakerとRhymeのやり取りも前作より続いている。信じられないことに刑務所で亡くなったWatch Makerであるが、その共犯者を暴き出すためにその葬儀に身分を隠してPulaskiを送り込むのである。

正直ややマンネリ感が出てきた。捜査の手法が変わらないのは仕方がないとはいえ、物語自体に新しさが感じられなくなってきた。これから本シリーズを読もうと思ってい人には第3作、4作の「Stone Monky」「Vanished Man」あたりがもっとも面白いと伝えたい。それ以上は特に時間を割いて読む必要はない気がしてきた。

ミノル・ヤマサキ
日系アメリカ人建築家。ワシントン州シアトル出身の日系二世。ニューヨークの世界貿易センタービルの設計者。(Wikipedia「ミノル・ヤマサキ」

ヘイマーケット事件
1886年5月4日にアメリカ合衆国シカゴ市で発生した暴動。後に国際的なメーデーが創設されるきっかけとなった事件。(Wikipedia「ヘイマーケット事件」

「The Kill Room」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
反アメリカ運動家のRobert Morenoが取材を受けている最中に銃撃により殺害された。殺害がアメリカ政府の内部による犯行ではないかという疑いのもの、調査の依頼がLincoln Rhymeのもとに舞い込む。
犯罪者が床や壁、被害者などと接触した際には、必ず何かの物質交換が起こる。したがって犯罪現場や被害者に残された粒子のような細かい物質が、犯人を特定する手がかりとなるのである。そんな、すでに本シリーズを読み続けている人にとってはおなじみの考え方に従って捜査は進んでいく。
まず面白いのは、今回の犯罪がアメリカ政府の内部の犯行であることが疑われるということである。そして被害者が、反アメリカ主義の運動をしているという点で、すでに現実社会の複雑な善と悪の絡み合いが見えてくるのだろうと思わせてくれる。
アメリカ政府の内部犯行であることが疑われるため、Rhyme、Sachs、Pulaskiなどは捜査関係者を慎重に選びながら進めることとなる。そんななか調査の結果を報告するためにいる地方検事のNance Laurelの存在も新しく面白い。特にSachsは同じ女性としてLaurelのやり方に反発を覚えながら捜査にかかわるが、やがてLaurelの本当の考え方を知るに従って少しずつ打ち解けていくのである。
また、犯罪に関わる元兵士のパイロットの心情描写や、料理に強烈なこだわりを見せる犯人の描写が面白い。本シリーズは今回に限らず、犯人たちの特異な執着をその目線で描いてくれる点が非常に魅力的である。それはやがて、アフガニスタンやイラクで起こっている兵士たちの問題など、普段目を向けることのない物事に新たな関心をもたらしてくれるだろう。

「Sleeping Doll」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人の心を自在に操るカリスマ的犯罪者Daniel Pellが脱獄した。人間の所作や表情を読み解く「キネシクス」分析の天才でカリォルニア州捜査局捜査官のKathryn Danceがその行方を追う事となる。
Rincoln Rhymeシリーズで何度か登場したKathryn Danceを主人公に据えたシリーズの第一弾。会話する人のわずかな動作からその真偽を見抜く技術に長けているゆえに、聞き込みや取り調べでその技術が発揮される。目の動き、手足の動作など、人の感情は実はかなりの部分が表面に現れているのだ。
そうして次第にDanceはPellを追いつめていくのであるが、同時にDanceの夫を失って1人で2人の子供を育てる姿も描かれており、そんな人間らしさがRincoln Rhymeのシリーズとは違って共感できるかもしれない。
やや結末は予想のついた部分もあったが全体的に無難な出来である。ただ、Danceのもつ技術の特異性で読者を引きつけられるのはおそらく一作目だけで、2作目、3作目と続くなかでどのようにシリーズを魅力的なものにしていくのかというのが、個人的には気になるところである。

「Shallow Graves」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
映画のロケ地を探してPellamがMartyとたどり着いたのはClearyという田舎町。しかしその街に滞在している最中に、Martyが不可解な死を遂げる。PellamはMartyの死の真相を暴こうと決意する。
田舎町で退屈な生活を送っていた人々が、都会からやってきた映画関係者のPellamが来た事で、警戒したり、期待したりする様子が描かれている。きっと、若い頃は都会に出て、何かのきっかけで田舎に戻ってきて、現状に不満をいいながらも年を取っていく。そんな流れは日本もアメリカも同じなのだろう。アメリカの文化のある一面を知るという意味では悪くないかもしれない。
Jeffery Deaverの初期の作品で、現在のRincoln Rhymeシリーズにあるようなスピード感は読者を引き込むような魅力は残念ながら感じられない。

「The Burning Wire」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeシリーズの第9弾。今回の犯人は電気を自由自在に操る。
電気を使って感電させたりすることで殺害するという今回の犯人。読み進めていくうちに感じるのは、ものすごい効率的な殺人兵器と化すにも関わらず、人々の生活にあふれている「電気」という存在に対する違和感である。極悪非道で進出機没な犯人だが、Rhymeはいつものごとく現場に残されたわずかな手がかりから犯人を追跡していく。AmeliaやPulunskiが失敗を重ねながら悪戦苦闘する姿も毎度のことながら面白い。
さて、そんな電気使いの犯人の追跡とあわせて、メキシコでは「The Cold Moon」以来、逃亡し続けている通称「Watch Maker」の追跡も逐一連絡がRhymeの元に入ってくる。遂にWatch Makerは捕らえられるのか?そんな楽しみも味わえるだろう。
パターン化している部分も感じないことはないが、相変わらずテンポよく読めるのが辞められない一因だろう。

「The Broken Window」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Rhymeのもとへ長い間連絡を取っていなかった叔母から電話があった。従弟のArthurが殺人の罪で逮捕されたと言う。しかし、Arthurは人を殺せるような人間ではない、調べていくうちに、無実の人間を容疑者に仕立て上げ、自分はのうのうと生きている人間がいることがわかる。
犯罪学者Lincoln Rhymeシリーズの第8弾。今回の相手は「すべてを知る男」。情報化された個人情報を利用し他人になりすまし、その人間の前科、習慣、趣味、商品の購入履歴などを基に、もっとも犯人にしやすい人間に狙いを定めて、その家や車に犯罪の起きた場所とつながる証拠をおく。
捜査の過程で浮かんできたデータマイニングという業界。その業務は人々のすべての情報をたくわえ、整理しそれを企業に提供するというもの。むしろそれは近い未来への僕らの生活に対する警鐘のようだ。犯人によってクレジットカードを勝手に使用され、犯罪にりようされて生活を破壊された元医師の言葉など、ただフィクションという言葉で済ませられないものを感じる。

人々はコンピューターを信じるんだ。コンピューターが、あなたはお金を借りていると言えば、あなたは金を借りているということになるし。あなたは信用に値しないと言えば、たとえ億万長者だろうが、信用されない。人はデータを信じて、事実なんて気にしないのさ。

それでもいつものように次第に犯人を追い詰めていく。
さて、今回もAmelia Sachsはもちろん、ルーキーから少しずつRhymeに鍛えられて成長しているRon Pulaskiも非常にいい味を出している。無実の罪で捕らえられたArthurがRhymeの従兄弟ということで、シリーズ内であまり語られなかったRhymeの学生時代に触れられている。個人的には犯人との対決よりも、その学生時代の物語により引き込まれた気がする。

「The Cold Moon」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeシリーズの第7弾。2つの殺人現場には古風な時計が置かれていた。Rhymeと犯人、通称Watchmakerとの知恵比べが始まる。
犯罪の現場にわずかに残された微粒子から犯人につながる手がかりを見つけけだして犯人を追い詰める流れは本シリーズに共通し、本作品でも例外ではない。
そんなシリーズの中で、本作品で新しいのは、Amelia Sachsが自らRhymeとは別の犯罪捜査にも専念している点だろう。しかし、それはやがて同じく警察官だったSachsの父の過去へと繋がって行く。
また、本作品は、会話中の相手のしぐさや表情からその真偽を読むスペシャリスト、Katheryn Danceが登場し、Rhymeとの2人の主役級が登場する稀有な物語とも言える。証拠しか信じないRhymeは次第にKatherynを認め、その能力を頼るようになる。
前作「The Twelfth Card」でルーキーとして登場したRon Pulunskiが失敗しRhymeにしかられたりしながらも次第に成長していく姿も物語を面白くさせている。
一方で犯人の追跡劇は一転二転三転と引っくり返る。現場に置かれた時計は何を意味するのか。なぜこの人々が被害者として選ばれたのか。ややいろいろな要素を詰め込みすぎた感がある。そして、本作品に関してはその終わり方も少し異質である。賛否両論あるのではないだろうか。

Red Stripe
ジャマイカのビール(Wikipedia「Red Stripe」

「The Twelfth Card」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
図書館で祖先の歴史をよんでいる最中に襲われた少女Geneva、RhymeとSachsはGenevaを救うべく、犯人を確保しようとする。
事故によって四肢のマヒした犯罪学者Lincoln Rhymeのシリーズの第6弾である。本作品では犯人が凶悪犯罪を繰り返すというのではなく一人の少女が繰り返し狙われる、という形態をとっている。「犯人は誰なのか?」とともに「なぜ彼女は狙われるのか?」という謎も本物語の焦点となってくる。
最初に襲われたときに読んでいたGenevaの祖先にかかわる書物が盗まれたことから、「過去の歴史にかかわることに命を狙われる理由があるのではないか?」とRhymeたちは考え、物語中では、Genevaの祖先が残した手紙から、南北戦争時代の混乱が伝わってくる。
そうして、少しずつ謎を解明しながら犯人に迫っていくのだが、同時に明らかになっていく少女Genevaの秘密。その強い生き方が物語を面白くさせている。同世代の女の子みたいに遊びまわらずお洒落もせずにひたすらいい成績をとり続ける。それは人に言えない理由を抱えているから…。
また、目の前で人が殺されたことにショックを受けてから自身を失った刑事Sellittoがそれを克服するために進んで現場に出て行くシーンなども印象的だ。そして、個人的には「The Vanished Man」で活躍した女性マジシャンKaraがわずかながら登場してくれたこともうれしい。本作品も見所満載である。

CPR
CardioPulmonary Resuscitation。心臓蘇生法
AAVE
African American Vernacular Englishの略。米国に住むアフリカ系アメリカ人により特徴的に話される英語。
GPA(Grade Point Average)
各科目の成績から特定の方式によって算出された学生の成績評価値のこと、あるいはその成績評価方式のことをいう。欧米の大学や高校などで一般的に使われており、留学の際など学力を測る指標となる。日本においても、成績評価指標として導入する大学が増えてきている。(Wikipedia「GPA」
Amarillo
テキサス州で14番目に大きな市。(Wikipadia「Amarillo」
Judge Judy
アメリカの法廷を舞台とした番組。(Wikipedia「Judge Judy」
Potters’ Field
アメリカ、カナダの言葉で、その土地の人や身元不明の人間が埋葬されている場所をさす言葉。
Edmond Locard
法医科学の先駆者。(Wikipedia「Edmond Locard」
ギロピタ
ギリシャ料理のひとつ。(Wikipedia「ギロピタ」

「The Empty Chair」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Rhymeの手術のために訪れたノースカロライナの町で地元の保安官から誘拐事件の調査を依頼される。RhymeとAmeliaは手術までの1日、その捜査を手伝うこととなった。
事故によって四肢のマヒした犯罪学者Lincoln Rhymeのシリーズの第3弾である。普段はその操作の大部分はニューヨークにあるRhymeの部屋で多くの専用機器を用いて行われるのだが、今回は田舎町の操作ということもあり、機器を取り寄せ、またその操作をサポートするにふさわしい人材を選別するところから始まるのが面白く、シリーズのほかの作品とは異なるところである。
そして今回の追跡対象はInsect Boy。家族を交通事故で失ってから、虫に傾倒し、その習性にだれよりも詳しく、その習性から攻撃や防御の手段などを学んだ少年である。犯罪現場に残された微量な物質をてがかりに、RhymeはInsect Boyを次第に追い詰めていく。一方で、AmeliaはInsect Boyと対面し、その少年の言動から、その少年が過去に殺人を犯し、殺人を意図して今回も誘拐をしたという多くの人が語る少年のなかにある悪意の存在に疑問を持ち始める。
Insect Boyは本当に彼自信の言うように、ただ純粋に友人を守るために保護しただけなのか、それともその供述のすべてがAmeliaを導くための虚構なのか…、この謎が物語の大きな柱となる。Ameliaだけでなく、読者までもが次第にInsect Boyの無実を信じてしまうだろう。治安維持のために憤る保安官たち。報奨金目当てにInsect Boyを追う町の若者たち。物語は小さな田舎町全体を巻き込んで進行していく。そして、物語を面白くしているもう一つの要素は、その町が湿地帯に囲まれている点だろう。町では車での移動よりもボートでの移動が有効で、地図には載っていない入り江や水路が網の目のようにはりめぐらされている。Insect Boyはそんな地の利を利用して巧みに逃走していくのである。
最後まで誰が犯罪に関わっているのかわからない展開。シリーズの中でも異質な存在といえるだろう。

「The Vanished Man」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マンハッタンの学校で起こった殺人事件で犯人が密室から消えた、ステージマジック技術に長ける犯人はRhymeとSechsの追跡を予想外の方法でかわしていく。
法医学のスペシャリストLinkcoln RhymeとAmelia Sechsの物語の第3弾である。毎回、犯人は突出した能力を持ち、Rhymeたちと互角に渡り合う。今回の犯人はステージマジックに長けている。鏡などを用いて暗闇と同化し、どんな年齢、どんな性別の人間にも扮することができるうえ、どんな鍵でも数秒で開けることができる。読者を惹きこむ圧倒的な物語展開は本作品でも健在である。
RhymeとSechsに加えて、BellやSellittoなど御馴染みの警察関係者はいつものように活躍するが、今回はマジックのアドバイザーとして女性マジシャンKaraが捜査に加わる。犯人の逮捕のために、KaraがRhymeたちにマジックの技術について語る内容はいずれも興味深いものばかり。中でも本作品で鍵となるは「Misdirection」。つまり、どうやって観客の注意を、自分の見てほしくない部分に向けるか、という技術である。実際、本作品中の犯人はいくつものmisdirectionを行いながら目的を遂行しようとする。
そのほかにも印象的なシーンがいくつかあった。犯人と対面したRhymeをSechsが聴取するシーンなどもそんな中のひとつである。証拠至上主義のRhymeに対して、Sechsは人との対話のなかに手がかりを見出す。普段捜査の指示を出す側のRhymeがこのときだけはSechsに主導権を握られた点が面白い。

「犯人は…確かこう言った…犠牲者に対して個人的な感情はない…と」
「w私が聞きたいのは犯人の言葉よ。自分の言葉に置き換えないで。絶対犯人はそんなこと言うはずがない。犯人は自分が殺した人を『犠牲者』と呼んだりしない。犯人はいつだって、なんらかの理由で犠牲者は死ぬべきだと思っているはずよ」

そして、なんといっても際立ったのはやはりKaraの存在だろう。入院中の母の世話をしながら、手品を勉強し、いつか大きな舞台に立つことを夢見る女性マジシャン。物語中で小さな舞台で演じるその姿は文字から伝わってくるイメージだけで魅了されてしまう。マジックという何か「古臭いもの」というイメージがついているものにたいして考え直すきっかけになった気がする。

「The Stone Monkey」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Lincoln RhymeとAmelia Sachsは中国からアメリカへの密入国を大規模に行う男、通称「Ghost」追跡の任務に就くこととなる。一方、Ghostはアメリカに到着直前に、多くの中国人を乗せたままの船を爆発させ沈没させ、自らは逃亡する。
RhymeとAmeliaの「Bone Collector」に続く物語の第4作目に当たる。現場に残されたわずかな証拠から、犯人に迫るシリーズではすでにおなじみとなっている捜査手法はもちろん大きな魅力の一つだが、本作品ではさらにいくつかの要素が加わって魅力的な作品になっている。
まずは、自ら密入国船に密入国を目論む男として潜入し、最終的にGhostに法の裁きを受けさせようとする中国人刑事、Sonny Liの存在だろう。互いに協力してGhostを捕まえようとする過程で、RhymeとLiは少しずつその実力を認めるようになり、やがて、RhymeはそのLiの人と常にまっすぐ向き合おうとする姿勢から、ほかの人にはいだかなかった親密さを感じるようになる。その2人の会話のなかからは、中国とアメリカという2つの国の文化や裕福さの違いが伝わってくるだろう。
そしてもうひとつの面白さは、中国で反体制派としての活動に従事し、アメリカへ亡命をしようとするなかで密入国船に乗り込んだSam Changとその家族の存在である。なんの基盤もない新しい国で、自らが持っている技術だけを元手に家族を養っていこうとするChang。彼が見せる葛藤や、自らの家族の命を脅かそうとするGhostに対する計画など、どれも非常にスリリングである。
そしてラストは悲しくもあり、うれしくもあり、そして予想をさらに超えてくれるだろう。まだ本シリーズは3作目だが、個人的にもっとも好きな作品である。一読の価値ありの一冊。

Chiang Kai-shek(蒋介石)
中華民国の政治家、軍人。国民政府主席、初代総統で5回当選し、あわせて1943年から死去するまで中華民国元首の地位にあった。(Wikipedia「蒋介石」
Mao Zedong(毛沢東)
中華人民共和国の政治家、軍人、思想家。字は詠芝、潤芝、潤之、筆名は子任。中国共産党の創立党員の1人。中国革命の指導者で、中華人民共和国の建国の父とされている。(Wikipedia「毛沢東」
ESU(Emerdency Service Unit)
地方、国、州の法執行機関にある多面的で多方面の能力を持ち合わせた特殊部隊。主にニューヨークに拠点を置く。(Wikipedia「Emergency Service Unit」
Joey Gallo(ジョーイ・ギャロ)
ニューヨークの5大ファミリーの一つプロファチ一家のメンバーで殺し屋。別名、クレージー・ジョー(Crazy Joe)。三兄弟の次男。ボブ・ディラン(Bob Dylan) が1976年に発表したアルバム『欲望』(Desire)に収録された「Joey」(ライナー表記は「ジョーイー」)のモデルとして著名。(Wikipedia「ジョーイ・ギャロ」

「The Coffin Dancer」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
首から上と薬指以外を動かすことのできない犯罪学者RhymeとAmeriaの物語。裁判の重要な証言者となるはずの航空会社の2人を、その2人を殺すために雇われた殺し屋Coffine Dancerから守る任務を負う。
犯罪学者Rhymeシリーズの第二作目である。前作と同様、証拠至上主義のRhymeの捜査過程で、犯罪現場に残されたわずかな物質が多くを語ることに驚かされる。
また、本作品ではRhymeとAmeliaだけでなく、殺し屋のターゲットであり、小さな航空会社を経営し、自らもパイロットであるPerceyの生き方も大きく扱っている。コックピットの中が自分の居場所、というPerceyの生き方に、最初は嫌悪していたAmeliaも次第に心を通わせていく。
そして今回、RhymeやAmeliaにとって脅威となるのはCoffin Dancerと呼ばれる殺し屋。彼のもっとも強力な武器は「Deception(欺き)」である。最後まで先を読ませない展開に十分に楽しませてもらった。

「The Bone Collector」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeは犯罪学者であり、法医学のスペシャリストである。事故によって体が不自由になったことで一線を退いたRhymeにニューヨーク市警から協力の依頼が来る。Rhymeはパートナーとして先入観を持っていない女性警察官Amelia Sachsを選ぶ。
数年前にハリウッドで映画化された物語の原作である。犯罪現場に残された塵や埃から、犯人を追い詰めていく展開は、世の中に数ある警察小説と大きく異なる部分である。身体を動かして実際に犯罪現場に趣くことのできないRhymeはAmeliaに指示して、証拠を回収させる。Ameliaは証拠の回収を重視するゆえに被害者の感情を考えないRhymeの指示に反感を覚えながらも、次第にそのやり方と重要性を理解し始める。

Rhymeは言った「違う、手錠じゃない」
「え、どうしろって言うの?冗談でしょ?彼女の手を切断?」

物語全体ではわずか数日という期間を描いたものでありながらも、その短い期間に互いの信頼を深めていくRhymeとAmeliaのやりとりが面白い。そうやって2人で協力して犯人を追い詰めていく一方で、もう一つ物語に不思議な魅力を与えているのは、Rhymeが身体の不自由を失ったがゆえに希望を失い、常に死にたがっている点だろう。そして、身体が不自由なゆえに、死ぬことすら人の手を借りなければできないのである。
死にたいと思ったことはあっても、Rhymeには死んでほしくないAmeliaと、Ameliaの思いを理解しながらもそれでも死にたいと考えるRhymeが言い合うやりとりが本作品の山場の一つといえるだろう。

ときどきあるだろう?Sachs。自分があるべき自分になれなくて、自分が持つべきものも持てない…。そうやって人生は推移していく。時には少しずつ、また時には突然。そしてどこかのタイミングでその間違った人生を直そうと努力する価値すら見出せなくなる…。
死は孤独を癒してくれる。緊張も、痒みも…俺は疲れたんだよ。

映画の記憶がかなり薄れていたせいで十分に楽しむことができた。ただ、スラングがたくさん含まれているので、過去に読んだ英語の本に比べてやや難易度が高かったか。

NYPD
ニューヨーク市警察(The New York City Police Department)
Hemlock Society
アメリカのサンタモニカに、Derek Humphryによって設立された団体。死にたい人間にそのための情報を提供したり、法的に医師が自殺を助けられるように働きかけるなどの活動をしている。(Wikipedia「Hemlock Society」
ESU
ニューヨーク市警察の緊急活動部隊 (Emergency Service Unit)
PE
物的証拠(Phisical Evidence)
Hell’s Kitchen
マンハッタンで、34番ストリートと57番ストリート、8番アヴェニューとハドソン川に囲まれた区域のこと。(Wikipedia「Hell’s Kitchen, Manhattan」
米西戦争(Spanish-American war)
1898年にアメリカ合衆国とスペインの間で起きた戦争である。結果としてスペインは敗北し、カリブ海および太平洋のスペインの旧植民地に対する管理権をアメリカが獲得した。(Wikipedia「米西戦争」
バプテスト教会(Baptist)
バプテスマ(浸礼での洗礼)を行う者の意味に由来しており、イギリスの分離派思想から発生したキリスト教プロテスタントの一教派である。アメリカ合衆国の宗教人口はプロテスタントが最も多いが、その中で最も多いのがバプテストである。(Wikipedia「バプテスト教会」
参考サイト
Hemlock Society of San Diego