「Beフラット」中村安希

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者が多くの政治家たちをインタビューし、その会話のなかで疑問に思ったことなどを素直につづる。
「インパラの朝」の旅行記の女性ならではの独特かつ素直な視点と、深く考えて生きている様子に好感を抱いて、本作品にも同様のものを期待して手にとったのだが、読み始めてすぐ実は旅行記ではないと気づき、読むのをやめようかとも思ったのだが、読み進めるうちに本作品も悪くないと思い始めた。
政治関連の本というとどうしても、漠然とした政策や理念の羅列になってしまって何一つ具体的なことが見えてこないのだが、本書ではそんな僕らが思っていることを著者が代弁してくれる。わからないことをはっきりと「わからない」と言ってくれる著者の姿勢が新鮮である。政治家の説明だけ聞くと正論に聞こえるけど、なんだかそれは正論過ぎて実現しそうにない、と言ってくれるところもなんだかほっとする。
そして、日本の状況をアメリカや北欧など、著者の海外での経験と照らし合わせて比較して見せてくれる。著者は別に「ああすべき」とか「こうすべき」と語っているわけではないが、「どうすればいいんだろう?」と読者が素直に考えてしまうような、少し敬遠したくなるような政治や政策を近くに運んできてくれるようなそんな一冊である。
政治や政策を熟知している人には別に薦められるような内容でもないが、イマイチ政治に関心がない、という人は読んでみるといいのではないだろうか。
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「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」中村安希

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者中村安希(なかむらあき)が2年かけて行った、ユーラシア大陸とアフリカ大陸の一人旅を描く。
女性の旅行記は今回が初挑戦である。旅行記というとどうしても、「自分は勇敢な挑戦者」的な自己陶酔や、「無謀」を「勇気」と勘違いしたような内容のものが少なくないのだが、(単純に僕が読んできたものがそうだっただけかもしれないが)、本書は、読み始めてすぐにその客観的表現と豊富で的確な表現力、そして綺麗な文体に好感を抱いた。旅に描写からは、著者の鋭い観察力と知性を感じる。
多くを旅行記を同様、訪れる国々で受けた異文化による衝撃や、出会った予想外の親切などのほか、その国の問題やそれを生じさせている原因やそこで起こっている矛盾、そういったものを文章を通じてしっかり読者に伝えてくるその視点と表現力に感心しっぱなしだった。
著者の心に響いたであろう言葉の一つ一つが、読者である僕の心も揺さぶった。例えば、インドのマザーズハウスで出会ったボランティアの嘆き。

僕は風邪で一日だけボランティアの活動を休んだけど、僕がいなければ他の誰かが、代わりに仕事をするだけだ。僕がいてもいなくてもあまり関係ない気がしている・・・
私は、毎日疲れて眠りたいのよ。『今日も自分は頑張った』って、そういう疲れを体に感じて夜はベッドに入りたい。ただそれだけよ。

旅の途中で出会った人たちとも、単純に表面的にいい関係を築いて「出会ってよかった」と旅を美化するのではなく、ときには「だからアフリカはいつまで経っても貧困から抜け出せないのだ」と批判たりと、奮闘する様子からは、今まで見えなかったいろんなものが見えてくる。

地域にしっかり足を下ろして何かにじっくり取り組むことなど、そもそも求められてはいない。なぜなら一番大切なのは、派遣された隊員数と、援助する予算の額を国連で競うことだから。

正直、読み終えて、何がこんなに僕のなかでヒットしたのだろう、と考えてしまった。僕自身と物事を見る視点が似ているというだけではないだろう。
旅行記を手にとる人というのは、今回の僕のように、きっとその人自身がそういう体験をしたいからなのだろう。そして、にもかかわらず時間と費用など、そのために犠牲にしなければいけないものと、その先で得られるものの不確実性を考えて踏み切れないでいるのだろう。踏み切れないながらも、その体験を間接的にでも味わいたいのだ。
そしてきっと、そんな人たちの何人かは、すでにその旅の果ての失望みたいなものを予期しているのかもしれない。海外でボランティアに従事してみたい、とかそこに住んでいる人と同じような生活をして文化を感じてみたい、という先にある「旅行で訪れただけでは結局表面的にしかわからない」というどうにもならないことに対する失望である。
本書のほかの旅行記をと異なっている点はきっとそこなのだ。よくある旅行記のように「辛いこともあったけど行ってよかった」というように著者が費やした時間を「間違いなくそれだけの価値のあったもの」と誇らしげに自慢するのではなく、むしろ「辛いこともいいこともあったけど、結局この旅は求めていたものに答えてくれたのだろうか?」なのである。「一読の価値あり」と思わせるには充分の内容だった。

彼らの声や行いが新聞の記事になることはない。テレビの画面に流れることも、世界中の誰かに向けて発信されることもない。すべては記憶に収められ、記録としては残らない。私は彼らに電話をかけて「ありがとう」とさえ伝えられない。

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