「魍魎の匣」京極夏彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校生の加奈子(かなこ)が線路に飛び込んで自殺未遂を起こし、警察の木場(きば)は捜査に動き出すこととなる。目撃者の友人の頼子(よりこ)によると、犯人は黒い服の男だという。

木場は加奈子(かなこ)の母が、かつての憧れの女優であるとわかったことで真実を解明するために誰よりも熱が入る。一方、編集者の持ち込んだ占い師の調査によって、作家の関口(せきぐち)、その友人の京極堂、探偵の榎木津(えのきづ)が事件に関わっていくことになる。少女の自殺未遂事件、バラバラ殺人事件、不思議な占い師、など複数の事件が同時に起こる中で、箱と魍魎の影が見えてくる。

このシリーズは毎回そうだと思うが、京極堂の事件解決やそのために語る逸話やうんちくが面白い。なかでも本作品のタイトルにもなっている魍魎に対する説明や由来は興味深かった。正直とても理解できる範疇ではなかったが、伝説や民話など長く多くの地方をめぐって伝えられる物語は様々な変化をするのだと感じた。語り継がれるのには理由があり、「ただの昔話」と軽く扱っていいものではないのである。

本作で著者京極夏彦の作品に触れるのは「姑獲鳥の夏」に続いて2作品目だが、久しぶりに味わうその世界観は共通したものがあり、常に京極作品の根底には「世の中の常識を疑え」というようなメッセージを感じる。他の有名作品もまた読みたくなった。

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「姑獲鳥の夏」京極夏彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
20ヶ月も妊娠したまま出産しない女性。そんな奇怪な事件を知り、関口(せきぐち)は古本屋の変わり者、京極堂に話を持ちかける。やがて事件に深く関わることになり、忘れていた過去の出来事にも気づいていく。
見た目の厚さのせいで完全な食わず嫌いであった京極夏彦だが、友人が進めてくれたのを期に、京極作品の中でもっとも薄くもっとも有名な本作品を手にとった。そしてそれは予想通りユニークな世界だった。分厚い本の最初の1/10にもわたって古本屋の京極堂と関口の不思議な会話で占められる。
たとえば「幽霊が存在するかしないか」と考えるなら、なによりもさきに「存在」という言葉の定義をはっきりさせる必要があるだろう…。短くたとえるならこんな感じだろうか。
実際京極堂は徳川家康と妖怪のダイダラホウシを例に挙げて、「なぜ、どちらも実際にみたわけではないのに、家康の存在は信じて、ダイダラホウシの存在は信じないのだ?」と関口に問いかける。読者はその問いに対する自分なりの答えを持とうとするだろう。
個人的に、今まで深く考えもせずに受け入れていたもの、つまり「常識」にもう一度疑問を投げかけて考え直させるような流れは嫌いではない。とはいえ、嫌悪するひとも、逆に病みつきになるひともいるのだろう。
本作品の面白さはそんな独特な視点だけでなく、京極堂を含む不思議な登場人物にもある。探偵の榎木津(えのきづ)などもその一人である。本作品では微妙な存在感だけを残すにとどまったが、シリーズのほかの作品では活躍したりするのだろうか?
物語の流れはやや複雑怪奇で受け入れがたい部分もあるが、京極ワールドに病みつきになる人も気持ちもなんとなくわかる。

ダチュラ
全草(根・茎・葉・花・種子などすべての部位)に幻覚性のアルカロイドを含む有毒植物。モルヒネのような直接的な鎮痛効果はないが、痛覚が鈍くなる為、麻酔薬や喘息薬として知られる。(ダチュラとは? 朝鮮朝顔
シャルル・ボネ症候群
打撲、脳卒中、脳溢血、薬物などによって起こる脳の障害などにより、脳の情報伝達が正常に行われないことから起こる現象の総称。(マルチメディア・インターネット事典「シャルル・ボネ症候群」

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