「推し、燃ゆ」宇佐美りん

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第164回芥川賞受賞作品。推し活にを唯一の楽しみとして生きている高校生のあかりの様子を描く。

アイドル上野真幸(うえのまさき)を「推し」と呼んで、コンサートに行ったり、バイトの給料をつぎ込んでグッズを購入したり、ブログに書いてファン同士で交流するあかりの「推し活」の様子を描いている。

「推し活」に一生懸命になる一方で、少しずつ実際の生活では学生生活でも家庭でもアルバイトでもうまくいかず、出来の良い姉にコンプレックスを抱きながら生きていく様子が描かれる。

推し活という楽しみ方を知らなかったので、その世界を垣間見せてもらった。時間をかけた下調べや詳細な情景や感情描写はほとんどないが、新しい文化を運んできてくれるという点で、芥川賞らしい作品である。

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「おいしいごはんが食べられますように」高瀬準子


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第167回芥川賞受賞作品。支店の人間模様を描く。

埼玉の支店に勤める入社7年目の男性二谷(にたに)さん、入社6年目の女性芦川(あしがわ)さん、5年目の女性押尾さんを中心に、支店の様子を、二谷(にたに)さんと押尾(おしお)さんの目線で交互に描いていく。

みんなに愛される芦川(あしがわ)さんは、料理が得意であることを活かして、ケーキなどを職場に持ってきて配る。一方で、高校時代にチアリーディングをやっていた押尾(おしお)さんは、芦川(あしがわ)さんのそんな弱さや、みんなから大事にされることが気に入らない。また、食にそれほど興味がなく、カップラーメンを好む男性二谷(にたに)さんは、芦川(あしがわ)さんと恋愛関係にありながらも押尾(おしお)さんに理解を示す。

ごはん面倒くさいって言うと、なんか幼稚だと思われているような気がしない?おいしいって言ってなんでも食べる人の方が、大人として、人間として成熟してるって見なされるように思う
勘弁してよ。他店で、ものもらいができたくらいで休むなって怒鳴った方が飛ばされたって話、聞いたことあるでしょ

大きい会社の支店というだけに、表面的な礼儀正しさを重んじながらも、不快感が蓄積していく様子が見えてくる。若干極端に表現されてはいるけれども、似たような感情に覚えがある人は多いのではないだろうか。

芥川賞が新人向けの賞であることからか、比較的あっさりした内容の作品が多い印象がある。しかし、本書はいままで描かれなかった、好意を鬱陶しいと感じる人間の嫌な部分を描いており、後味の良し悪しはともかく新鮮に感じた。著者の今後の活躍が楽しみである。

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「コンビニ人間」村田沙耶香

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第155回芥川賞受賞作品。コンビニの開店から18年間務める古倉(ふるくら)はコンビニで働くことが生き甲斐であり、そのほかの仕事は一切できない。家族に心配されながらも今日もそのコンビニ人生は始まる。

コンビニで18年働いてきただけあってコンビニの様子が細かく描かれている。一度は普通に就職しようとした古倉(ふるくら)だが、今は諦めてコンビニ生活を送っており、コンビニで働くために体調を整えることまでやっている。親や妹に心配されながらもコンビニ店員として生きていく古倉(ふるくら)だが白羽(しらは)という世の中を卑下する社会人がアルバイトに入ったことから少しずつ人生は変わり始める。

世の中は、普通に働いて普通に結婚しないと奇異の目でみられる。そんな思いをなんども経験した古倉(ふるくら)だが、コンビニのアルバイトという人間関係の中でさえも、適応できない人間ははじき出されることを目にする。社会の縮図としてコンビニを描いているようだ。

芥川賞受賞作品ということで、そこまで作家の技術や、内容の濃さは感じないが、それなりに楽しくよませてもらった。なによりもコンパクトにまとまっている点がいい。

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「むらさきのスカートの女」今村夏子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第161回芥川賞受賞作品。

近所で「むらさきのスカートの女」として有名な女性がいる。そんなむらさきのスカートの女と友達になりたい女性、自称「黄色いカーディガンの女」がむらさきのスカートを観察していく様子を描く。

むらさきのスカートの女が、黄色いカーディガンの女と同じホテルの清掃員としてアルバイトを始めたことで、少しずつその正体が明らかになっていく。むしろ本書の面白さは、むらさきのスカートをひたすら追い続ける黄色いカーディガンの女のほうだろう。2人はこうして同じ職場で働くのだが、2人の背景は女性であることと、あまり裕福でないことしかわからない。なぜ彼女が、そこまでむらさきのスカートの女を追い続ける時間的余裕があるのか。むらさきのスカートの女が少しずつ正体が明らかになるにつれ、実は普通の賢い女性であることがわかることによる、反対に黄色いカーディガンの女の異様さが少しずつ目立ってくるのかもしれない。

終盤に向かうにつれ、むらさきのスカートの女の職場の人たちとの人間関係が少しずつ悪化していき、黄色いカーディガンの女もそこに大きく関わることとなる。

ひょっとしたら読み解けていないテーマがあったのかもしれないが、自分にはそれが見えていない気がする。芥川賞受賞作品ということで何かもっと深い、異なる解釈があるのかもしれない。

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「穴」小山田浩子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第150回芥川賞受賞作品。
結婚して仕事をやめた「私」は、姑の隣の家に住むことになった。「私」の新しい生活を描く。
ほのぼのとした作品。タイトルの穴とは、「私」の引っ越した先である動物が掘る穴のことであるが、そこにどんな意味があるのかは最後までわからなかった。田舎町ののんびりとした生活が描かれている。都会の喧騒のなかで生きている人にとっては懐かしい雰囲気かもしれない。
「穴」を含めた三作品が含まれており、後半の2編にはいたちが出てきたので、ひょっとしたら最初の物語の穴を掘った動物の正体はいたちなのかもしれない。
純文学というものにもっと触れようとして本作品を選んだのだが、やはりなかなかよくわからない。
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「きことは」朝吹真理子

オススメ度 ★★☆☆☆ 3/5

2011年芥川賞受賞作品。
同じ別荘で過ごした小学校三年生の貴子(きこ)と高校三年生の永遠子(とわこ)が25年後に同じ別荘で再会する。
今まで、芥川賞受賞作品や純文学と呼ばれる世界があまり理解できずにいた。それでもこれだけ本を読みながら広く評価される分野の本を理解できないのはもったいないと、今年漫画大賞を受賞した「響」という小説家を扱った漫画を読んで思い、本書を手にとった。
物語が何かを教えてくれるのだろうと期待して読むというよりも、文体や空気を感じ取ろうとして読むと違った理解ができるかもしれない。本書は、貴子(たかこ)と永遠子(とわこ)という成人した女性同士の再会を描いているが、そんななかで25年前の出来事の回想シーンも多く含まれており、そんななかにいくつか不思議で印象に残る表現があった。

ひとしく流れつづけているはずの時間が、この家には流れそびれていたのか…

貴子(きこ)と永遠子(とわこ)の2人の長い髪が描写される場面も多く、「髪」というタイトルにもできそうだと思った。どこか優しさを感じさせる物語。
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