「自分探しと楽しさについて」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
作家であり工学博士である著者が自分探しについて思うところを語る。

著者森博嗣は「すべてがFになる」や「スカイ・クロラ」など、むしろ理系作家としての印象が強かったのだが、そんな人がどんなことを書いているのだろうと気になって本書を読むに至った。

著者自身数時間で本書を書き上げた、と言っているように、特に計画もなく独り言を書き連ねたような印象である。

印象的だったのは、抽象化の重要性を説いている点である。人生を楽しめない人は、誰かがあるものを楽しんでいるのを見るとそれとまったく同じことをしようとする。その結果、その対象は競争率が上がり、他人を蹴落とさないと手に入れることのできないものになる。一方で抽象化が得意な人は、何かが楽しかった時に、どの要素を自分が楽しんでいるのかを見極めて、その要素を備えていて自分にアクセスがしやすいもので楽しみを感じることができるというのである。

内容が濃いとは言えないが、もし人生が退屈で悩んでいるなら読んでみるといいかもしれない。僕自身はむしろ合間合間で触れる著者自身の趣味が楽しそうだなと思った。

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「今はもうない」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
犀川&萌絵シリーズの第八作。避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合った部屋で一人ずつ死体となって発見された。今回も犀川創平(さいかわそうへい)と西之園萌絵(にしのそのもえ)は真相に挑む。
今回の物語は事件の関係者である笹木(ささき)の手記という形で展開していく点が新鮮である。それでも、犀川(さいかわ)と萌絵(もえ)のやり取りは、相変わらず知的で論理的で時に子供っぽく、時に僕の理解を超えてしまう。物語中の表現にときにはっとさせられ、退屈な日常には大いに刺激になる。
特に今回の物語では最後にちょっとした嗜好がこらされて、読者に満足の行く終わり方をしている。期待以上ではないが無難に期待を裏切らない作品である。
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「封印再度」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
犀川&萌絵シリーズの第五作。50年前、日本画家、香山風采(かやまふうさい)は息子の香山林水(かやまりんすい)に「無我の匣(はこ)」という鍵のかかった箱と、その箱を開けるための鍵が入っているとされる壺である「天地の瓢(こひょう)」を託して謎の死を遂げた。そんな不思議な話を聞きつけた西野園萌絵は例によって香山家へ訪れるが、そんな折、林水(りんすい)がまたしても謎の死を遂げる。そんな流れである。
壺の入り口より大きな鍵が入っているという不思議な物の存在だけですぐにでもストーリーの謎に引き込まれてしまう。毎度のことながら犀川創平(さいかわそうへい)のドライなものの考え方は非常に共感できる。そして、僕らの日々の生活の中では、おかしなことでも慣れていくうちにそれが常識になっていることが意外に多く存在することに気づかされた。

「親父がそういった。お前、電池がなくなったんだ、ってね。それで、すぐ中を開けて、見てみたんだ。そうしたら・・・電池はやっぱりちゃんとあるんだ、これが・・・」

そしてこの物語にあって他のこのシリーズにないのは、西野園萌絵(にしのそのもえ)が取り乱すシーンである。普段は知性的で猫舌以外につけいるすきのなさそうな彼女が犀川の前で取り乱す人間臭さがたまらなく可愛い。

「私だってよく人を待たせることありますけどね、でも、この私を待たせるなんて人は、先生だけなんですから・・・。ああっと、だめだめ、何言ってるのかしら・・・」

さらに今回は犀川と萌絵の仲も少し進展があってそれもまたうれしいことだ。

法隆寺金堂壁画
1949年、模写作業をしていた画家が消し忘れた電気座布団が原因で焼失したと言われている。

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「冷たい密室と博士たち」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆
犀川&萌絵シリーズの第二弾。どうやら僕は犀川創平(さいかわそうへい)と西野園萌絵(にしのそのもえ)のやり取りの虜になってしまったようだ。今回の事件は犀川と萌絵の目の前で起こった。低温度実験室の実験の見学に訪れた二人の前で2人の大学院生が死体となって発見されたのである。
今回の事件は理系ミステリ。いつでも物事を論理的に考えることを教えてくれる。僕らは世の中のいろんなものに目を奪われて本質を見ることを忘れている。犀川と萌絵の思考回路、そしてその言葉のやりとりは僕にそう思わせてくれるのである。
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「詩的私的ジャック」森博嗣

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大学施設で女子大生が連続して殺害された。現場はいずれも密室状態で、死体にはアルファベットと見られる傷が残されていた。捜査線上に浮かんだのはロック歌手の結城稔(ゆうきみのる)であった。
このシリーズの魅力はなんといっても犀川創平(さいかわそうへい)と西野園萌絵(にしのそのもえ)という2人の常識をはずれた思考能力の持ち主が交わす会話である。その会話は僕自身にいろいろなものを気付かせる。今回も犀川(さいかわ)は言っていた。

みんな、不思議を見逃しているだけだよ。ブーメランがどうして戻ってくるのか、ヘリコプターがどうして前進するのか、工学部の学生だって誰も知らない。

好奇心は目の前を通り過ぎる物事の多さの前で忘れ去られ、不思議は常に存在することで不思議ではなくなる。そしてみんな、深く考えずに事実を受け止めることに慣れていくのだと思った。
今回も萌絵(もえ)の特殊な立場によって2人は捜査の中に介入していき、そして謎が解ける。人を殺さなければならない理由。人に惚れる理由。病的なまでの思い込みが良心を凌駕し、凶悪な事件を起こすさまを見せ付けられる。

あの人は、汚れたものが嫌いなんだ。純粋で、学問が好きで、高尚で、完璧な人だ。傷があったら、腕ごと切り落とすような人なんだ。

僕はこの言葉に共感した。きっと狂気は誰の中にもあるということだ。
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「スカイ・クロラ」森博嗣

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
どこの国の話かわからない。いつの時代の話かわからない。そして僕には縁のない戦闘機のパイロットの話。だから話に入っていくまでに少し時間がかかるかもしれない。
「死」に近い場所で生きている主人公たち。こんな生活をしていればこんな考え方になるのかもしれない。決して共感はできないが、ひょっとしたらそうかも・・・そう思わせてくれるシーンが多々ある。一つ印象的なセリフを挙げる

生きている間にする行為は、すべて退屈凌ぎなのだ。

なるほど、そうなのかもしれない。結局いつか自分がこの世からいなくなることはわかっている。それなのになぜ僕らは学んだり遊んだり恋したりするのか。そう、退屈だからだ。なんかそれで説明できてしまうからおもしろい。
今まで読んだ本にはなかった不思議な感覚を覚える。ありきたりな本に飽きた人にはお勧めである。
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「すべてがFになる」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
森博嗣の本を始めて手にとった。密室で起こった殺人事件の謎が少しづつ明らかになって行くというストーリーはある意味ありがちともいえるが、その中で数学的な考えがたくさん出てくる。文系の人にはどのように受け取られるかわからないが、好きな人は好きな本だろう。主人公である犀川先生の考え方にときおりうなずかされることがある。