「桶川ストーカー殺人事件 遺言」清水潔

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
埼玉県の桶川駅前で起こった女子大生猪野詩織さん殺害事件。ひとりの週刊誌記者が警察よりも先に犯人を探し当てる。その週刊誌記者が事件をつづる。
埼玉で生まれ育った僕にとっては「桶川」というのはそう遠くない街の名前の一つであるが、日本ではすでに「桶川」とは「ストーカー」を連想させる言葉になってしまったかもしれない。この事件はそれぐらい強い印象を残している。しかし、この事件は実際どういう風に起こって、犯人は結局どうなったかというと、あまり知られていないのではないだろうか。残念ながら人々の関心というのはその程度のものなのだろう。実際僕自身もそんななかの一人だったのである。
さて、本書は週刊誌記者であり本書の著者でもある清水潔(しみずきよし)氏が事件の一方を受けて現場にいき、少しずつ真相に近づいていく様子が描かれている。彼にとってのこの事件は、被害者からたびたび相談されていたという2人の友人から話を聞いたときに大きく動き始める。
そして、読み進めていく過程で、猪野詩織(いのしおり)さんが陥った境遇を知るに連れて、たまたまその時その場所にいたがゆえに若くして人生を終えなければならなかったという運命の無情さを感じずにはいられない。また、詩織(しおり)さんが感じた恐怖が、その友人や著者自身にも伝染していくのがやけに説得力がある。

詩織さん達がここに相談に来て、絶望したのがよく理解できた。詩織さんは二つの不幸に遭遇した。一つは小松に出会ったこと。もう一つは上尾署の管内に住んだことだ。

著者は、犯人に対する恐怖や怒りについてももちろん触れているが、むしろそれ以上に、警察やメディアに対する怒りややるせなさを語っている。どうして警察は組織の体裁を重視して殺人犯を放っておくのか、どうしてメディアは警察との対立を恐れて真実を追究しようとしないのか。

なんとも皮肉なことに詩織さんの名誉をめちゃくちゃにしたかった小松和人の希望は、警察とマスコミによってかなえられたのだ。
詩織さんは普通のお嬢さんである。両親や弟達を愛し、友人を大切にし、動物を可愛がる、そんなどこにでもいる女性だった。あなたの隣にいるようなお嬢さんだったのだ。

歪んだ世の中を感情に訴える形で見せてくれる秀逸な一冊。
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