「闇の子供たち」梁石日

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
貧しい生活を送るタイの山岳地帯で、親たちはその子どもを売ることで生活費を稼ぐ。本作品は幼児売春や臓器売買など、売られた子どものその後を描くと共に、そんな悲惨な現状を変えるべく活動する社会福祉センターの人々の奮闘する姿を描く。
この物語が発展途上国と先進国の貧富の差をが生む悲惨な出来事をテーマにしていることはもちろん認識して(というよりも期待して)手に取った。しかし、序盤に描かれていたその悲惨な現実は僕の想像をあっさり裏切ってくれた。
そこには家族によって売られた8歳の女の子のその後が描かれている。言うことを聞かないと火のついたタバコを押し付けられ、先進国からやってくるペドファイルたちを満足させるためにあらゆる性行為の訓練する。そして運悪くエイズに感染すればゴミ捨て場に捨てられて一生を終える。野良犬のほうがはるかにまともな人生を送っているように感じられる。

人間にとって一番恐ろしいのは飢えでもなければ死でもないのです。一番恐ろしいのは絶望です。

そんな子どもたちの様子と平行してタイで活動する日本人の音羽恵子(おとわけいこ)を含む社会福祉センターの活動も描かれている。貧富の差ゆえに権力にすがりつく警察や政府関係者はもはや頼りにできる存在ではなく、子ども達を救おうとする行為はその利益を牛耳る人々の反感を招き、大きな権力と暴力の前に無力な正義が強烈に描かれている。
そして後半には、臓器提供を受けないと生きていけない日本人の子どもと、臓器移植にも焦点があてられる。貧しい国で起こる悲劇は、その国の不安定な政治だけが理由でないことを知るだろう。僕ら日本もまた当事者なのだと。
いつか僕に子どもができて、その子どもが違法な臓器移植なしでは助からないという状況になったとき、「自分の子どもを助けるために貧しい子どもの命を犠牲にするべきではない」と自分の子どもの命を諦められるだろうか。そんな問いかけを自らに投げかけることができれば上出来ではないだろうか。
そして物語は結末へ。その最後は、読者によって賛否両論あることだろうが、個人的には満足している。下手に理想を描かれるよりも、問題の根の深さが感じられる。

私が会った児童ポルノ愛好者によると、タイの山岳民族の子供が被写体として選ばれたのは、その土地の人々が特に貧しいからとか、親を納得させやすいからというよりも、容姿が日本人に似ているからなのだそうだ。日本の児童ポルノ愛好家たちは、日本人の幼女を好む。

さて、日本では、多くの人が「貧しい人が豊かになればいい」と言うだろう。それは決して偽善ではなく本当にそう思っているのだろうが、全財産を持ってアフリカなどの貧困地帯に渡るような日本人はいない。僕らが人助けをするのは、僕らの豊かな生活が壊れない範囲でしかないからだ。だから僕達は、ときどきユニセフに募金して、貧しさのかけらも伝わってこないような遠く離れた場所から、少し貧しい人々の生活を豊かにしたという満足感に浸るだけだ。それを批判するつもりもないしそれでいいと思っているし、僕もそんな中の一人である。
しかし、この物語ではこう言っているように感じる。僕らが豊かな生活を送れるということが、他のどこかで貧しい生活をしているということなのだ、と。つまり、この豊かさがあったうえでの人助けなどありえない…。


チャオプラヤー川
タイのバンコクなどを中心に流れる河川。(Wikipedia「チャオプラヤー川」

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「血と骨」梁石日

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第11回山本周五郎賞受賞作品。
昭和初期から中期にかけて、在日朝鮮人である金俊平という蒲鉾職人の生き方を描く。
金俊平のように自分以外の人を信じないという生き方は戦時中の騒乱の時代の中では多かったのかもしれない。ストーリーのおもしろさという面ではあまり薦めないが、昭和の歴史を当時の雰囲気を味わいたい方は読んでみるのもいいかもしれない。
お金がなければ見向きもされない。女は体を売っていきるしかない。病気になれば「早く死んでほしい」と思われる。僕の生まれるほんの20数年前までの昭和という時代はそんな時代だったのだ。
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