「遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 改題:美学としてのグリッドシステム」ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第二次世界大戦後のグラフィックデザインをリードした著者がその生涯を語る。

グリッドシステムを学びたくてグリッドシステムの提唱者である著者の名前で検索したところ本書に出会った。デザインに情熱を注いた人の人生は、自分のデザイナーとしての考え方になにかしらプラスな部分があるだろうと考えて手に取った。

1914年に生まれた著者は、授業中にノートに描いていた落書きを褒められたことによって、少しずつデザインの世界に傾倒していく。少しずつ仕事を手にして有名になっていった著者は、1960年には日本でもデザインの教育に関わる。20年間連れ添った妻を交通事故で亡くした後、日本人の吉川静子(よしかわしずこ)と結婚する。

戦時中にすでに海外のデザイン教育はここまで進んでいたことに驚く。タイポグラフィの行間をひたすら研究する著者のこだわりに触れると、現在のデザイナーたちが簡単に行なっているグラフィックデザインが、ずいぶん表面的だけのことのように思えてくる。また、日本での教育や、妻が日本人であるこということで、グリッドシステムの著者が日本と大きなつながりを持っていることにも驚かされた。

その後著者はIBMのデザイン顧問に任命され、グリッドシステムを確立する。

グリッドシステムは完璧な秩序をもたらすシステムとして価値があるばかりでなく、与えられた仕事を計画し構成するために必要な情報や指示を、あらかじめすべて含んでいる。

終盤では軽くグリッドシステムについて触れているが、とても満足の行く内容ではなかったので、改めて「グリッドシステム」を読んでみたい。

著者のグラフィックデザインにかけた人生はデザイナーとして大きな刺激となった。

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「Google Analyticsで集客・売上をアップする方法」玉井昇

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Google Analyticsで取得できる数値からどのようにWebサイトを改善するかを説明している。

Google Analyticsを導入するとそのたくさんの数値に驚くが、結局その数値をどのようにWebサイトの改善につなげたらいいかわからない人も多いだろう。今回は僕自身が久しぶりに仕事でGoogle Analyticsの数値からアクションプランを考えることになったので、本書を手に取った。

一番わかりやすく使えそうなアクションの方法は、たどり着いた検索キーワードによって、滞在時間、直帰率を見る方法である。もし、あるキーワードから一定数のアクセスがあるにも関わらず、滞在時間が短い、または直帰率が高いというような現象が観察できたなら、そのキーワードの記事をもっと増やすべき、ということである。

ほかにも知らなかったGoogle Analyticsの機能についていくつか触れられているが、実際に動かしながらやらないと身につかないだろう。また、GoogleAnalyticsの現状のバージョンとの違いからか、すでにない機能について語られている部分もあったので注意が必要である。

もう一度分析をしながら読みすすめてみたい。

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「ノースライト」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
建築家の青瀬稔(あおせみのる)は自らが設計し、高い評価を受けた吉野邸に、現在誰も住んでいないことを知る。自らが建築家としての思いを込めて設計した家の持ち主はどこへ行ったのか、青瀬(あおせ)は調査を始める。

主人公の青瀬(あおせ)がバブル期に建築家になったといことで、建築家の生き方が見えてくる。どちらかというと華やかに見える建築家という職業であるが、バブル時代の絶頂の後にやってきた不況のなかで多くの人間が離脱していき、建築家として生き残った人たちも小さな設計事務所で多くない旧雨量をもらいながら続けるしかないのだという。

そんな人生の浮き沈みを経験した青瀬(あおせ)は、自らの渾身の家を長野に建てるのだが、その家が本書の中心となる。建築家はクライアントに家を引き渡してからは不必要な干渉は避ける一方、「いい家は住んで初めてわかる」という言葉が示すように、自分の家の出来がどうだったのか、住んだ人間の感想を聞きたいと思うのだという。そういう流れ渾身の家が無人であることに気づいた青瀬(あおせ)は失踪した吉野家族を探し始めるのである。

一方で、離婚して数年経った妻ゆかりと娘日向子(ひなこ)との関係も40を過ぎた建築家の人生に深みを与えている。無人になった吉野邸で唯一の手がかりはそこに置かれていた椅子であり、ブルーノ・タウトという建築家によって作られたものと酷似しているという同僚の証言からその手がかりを追っていく。

その過程で、日本に長く滞在したブルーノ・タウトという建築家についても多く書かれており、その建築物や設計したものを見てみたいと感じた。ブルーノ・タウトの生涯については時間をとって別に調べてみたい。

そして、やがて青瀬(あおせ)は真相に迫っていく、最後は家族の感動の結末。これまでの横山秀夫作品ほど、一気に読ませる感じはないが、それでも最後はさすがといった印象。建築家、仕事と家族、いろんなテーマが詰まった一冊。

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「たゆたえども沈まず」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本の美術を世界に広めるべくパリに渡った2人の日本人、林忠正(はやしただまさ)、重吉(じゅうきち)が、同じくパリで美術を生業とする2人のオランダ人と出会う。

2人のオランダ人とは、テオとフィンセント・ファン・ゴッホである。弟のテオは当時のフランスの主流派な絵画を扱う仕事をしながらも、浮世絵や印象派などの新しい芸術の流れに惹かれていく。一方で兄のフィンセントはテオの収入に頼って安定しない生活をしながらも、少しずつ絵描きとして生きることを目指していく。

今でこそ、印象派や浮世絵は絵画の一つの流れとして認知されているが、それまでの宗教画などの世界では当時異端として扱われ、よのなかに認められるまでに時間がかかったことがわかる。また1800年代には3回の万国博覧会が開かれるなど、パリが世界の文化の中心だったことが伝わってくる。本書に登場する林忠正(はやしただまさ)は実在の人物で、日本の文化や美術の普及に努めたことがわかった。本書の物語を通じて、世界的でもっとも有名な画家の一人であるゴッホの人生に、日本人や日本の文化が大きく影響を与えたことがわかる。日本人として誇らしさを感じさせてくれる。

ゴッホの狂気の人生は絵画に詳しくなくても知っている人は多いだろう。しかし、本書のように弟のテオとの関係のなかでその人生に触れるとまた違った面が見えてくる気がする。同じように、これまで美術の一派に過ぎなかった、印象派、浮世絵というものについても新たな視点を与えてくれる。

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「月の影 影の海」小野不由美

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女子高生の陽子の元に突然不思議な男が現れ、陽子を別の世界へと連れさった。

十二国記の始まりの物語。すでに「魔性の子」という章を読み終えて本書にたどり着いたが、物語的な繋がりはほとんどない。高校生陽子が十二国に連れて行かれ、十二国の東にある巧(こう)、雁(えん)、慶(けい)の3つの国で繰り広げられる物語を描いている。全体としては、それほど大きな動きはなく、陽子が旅する中で、少しずつ十二国の仕組みが明らかになっていく。麒麟と王の関係や陽子(ようこ)がなぜ十二国に連れてこられたか、などである。

僕自身は物書きではないが、ファンタジーをもっとも安っぽく感じさせる瞬間は、著者自身の想像力が読者よりも劣っていることが明らかになるときである。空想世界なのだからそこの生き物は、現実世界とは異なる考え方や行動をするはずなのに、著者が現実世界の常識から離れることができず、異世界の生き物に現実世界の生き物のような行動をさせてしまう。それが繰り返されると、読者は物語に入り込む前に違和感ばかりが気になってしまうのだ。

本書に関してはいまのところそこまでの違和感は感じなかった。設定を複雑にすれば複雑にするほど、(つまり現実世界と違うものにすれば違うものにするほど)その違和感は露呈しやすいだろう。例えば十二国では人間は母親からではなく木の実から生まれるのだという。それによって親子の関係はどのように現実世界と異なるかを考えると面白いが、著者が描くそれがあまりにも想像力なく現実世界のままであればきっと違和感を感じることだろう。

おそらく今後、他の十二国にも物語が広がっていくことだろう。少しずつ世界が広がる中で、違和感を感じさせずに面白さが優って世界を作り上げられるなら優れたファンタジーになるだろう。2冊を読み終えた現段階ではまだ面白いともありきたりとも判断ができないので引き続き読み進めていきたい。

【楽天ブックス】「月の影 影の海(上)」「月の影 影の海(下)」

「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」 森岡毅、今西聖貴

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ユニバーサルスタジオジャパン(以下USJ)躍動のきっかけとなったハリーポッターのオープンを決定づけた戦略的確率論について、2人の著者がそれぞれの手法を語る。

著者はどちらもP&G出身ということで、他にもストーリーを重視する文化などの本や戦略に関する本などP&G出身者による本をこれまでにも何度か読んでおりP&Gが優れた企業なんだと改めて感じた。

本書では、ハリーポッターをオープンしたことによる収益の増加の考え方を、丁寧に解説している。詳細な数学な計算方法はわからなくても、予測値の出し方の概要はつかめるだろう。一つ一つの考え方自体は特に複雑なことではないが、著者2人のすごいところは、それを突き詰めに精度をあげることに努めている点だろう。数学的に知りたい人用も、巻末に詳細の数式が書かれているので楽しめるのではないだろうか。

売り上げを規定する7つの基本的要素

認知率
配下率
過去購入率
エボークトセットに入る率
1年間に購入する率
平均購入金額

はぜひ覚えておきたい。

関東に住んでいるとUSJのことをほとんど知らないが、本書を読んで初めて興味を持った。ぜひ機会があれば行ってみたいと思った。

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「自分の中に毒を持て」岡本太郎

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
岡本太郎が自らの生きる考え方を語る。

基本的に著者が、日本人にありがちな保守的な生き方を批判し続けていくという内容である。出版はすでに30年以上前ということで、随所に時代を感じる。また、僕らの時代から見ると彼のもっとも有名な作品である「太陽の塔」はその有名さゆえに自然に受け入れられたものであるが、当時はその斬新さから反対の声もあったのだと知った。

全体的に、多少の個性わあれども、ただの年寄りの自慢話に聞こえなくもないが、個性によって有名になり仕事をもらう立場である以上、ここまで尖る必要があったのだろう。結婚という考えについてもいろいろ語っているが、多くの結婚しなかった年配の男性が語るであろう。過去の女性との自慢話がかなり続く。ここは別に相手がフランス人だった以外は岡本太郎でなくても同じように語れそうな気もする。

今でこそ、転職が当たり前になりつつあり、個性を出すことが認められているからそれほど本書に新しさを感じないが、
刊行当時に読んだらもっと衝撃的だったのかもしれない。そういう意味では、本書の本来の目的よりも、日本の社会の時代の変化の大きさを感じさせてくれた。

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「続・インターフェースデザインの心理学」 Susan Weinschenk

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ユーザーがWebやアプリのデザインに対してどのように行動するかを、科学的に検証し、それを説明している。

科学的な検証結果を説明している一方で、作業工数などは一切考えていないので、実践的ではないという批判もあるかもしれないが、知識と知っているだけで多少役に立つこともあるのではないだろうか。

いくつか本書の中で今後のデザイン業務に活かせそうだと思った事柄をあげると次の2点である。

人は左右対称を好む


これはすべて左右対称にするべきということではなくて、非対称のデザインはむしろ人の注意をひくために効果的な場合もあるということなので、安心感を与えたいか、注目させたいかを判断して状況に応じて使い分けるべきなのである。

感情と視線の戦いでは感情が勝利する


デザインに人の画像を入れる場合、その視線をユーザーは追うからその視線の先にボタンなどを配置する、というのは多くのデザイナーが実践している手法だが、本書の実験結果では、単に視線が向いているだけでなく、表情に感情が現れている方が効果的という。今後写真素材を選ぶ際は感情も含めて考えたい。

デザイナーは美しいものをデザインするだけでなく、周囲の非デザイナーを説得する必要性も日常的に発生する。そのようなときにこのような話ができるとより説得力が上がり、信頼できるデザイナーになるかもしれない。

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「Graphic Recording 議論を可視化するグレフィックレコーディングの教科書」清水淳子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

会議のファシリテーションの手法として注目されるグラフィックレコーディングについて説明している。

昨今、「グラレコ」という表現でよく耳にするグラフィックレコーディング。正直なところ本当にそこまで注目されるほど効果があるのかどうかが疑わしく、さらに理解するためにと思って本書にたどり着いた。

序盤はグラフィックレコーディングによってどのような効果が期待できるかを説明しており、中盤以降は、実際に会議でありそうな発言や内容をグラフィックで表現する方法を説明している。

全体的な感想は、グラフィックレコーディングといっても世の中で騒がれているほど特別なものではなく、ファシリテーションの助けとなる一つの手法に過ぎないということ。発言や会議のアジェンダを共通認識させることは必ずしもグラフィックである必要もなく、文字を色分けしたり大きさを変えたりしてわかりやすく書くこともそのうちの一つである。

グラレコの練習は、普段の会話のなかでノートを使用したりして、意識次第でいくらでもできることがわかった。今後は会議などの際は積極的にホワイトボードなどを利用し、必要であれば絵など、一般的にグラレコと思われている要素を入れていきたいと思った。

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「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」越前敏弥

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
学習塾や予備校の講師などの経歴を持ち「ダヴィンチコード」などを訳した経歴を持つ翻訳家としても活躍する著者が、日本人が間違いがちの英語を集めてそれを解説する。

英語の勉強も英検1級を取得したあたりでひと段落した感じだが、学べば学ぶほどネイティブとの語彙力の差は感じるばかり。定期的に英語力のさらなる向上に努めているなかで本書に出会った。

結構な英語上級者でも序盤のいくつかの例文を見ただけで自信が吹き飛ぶだろう。まったく意味がとれなかったり、完全に意味を真逆にとらえてしまう例文がいくつも含まれているのである。著者の詳細な解説によって、本書を一回じっくり読むだけでも英語力は一段階レベルアップすることだろう。

章と章の間に含まれている著者の対談の様子も面白い。印象的だったのは著者が日本語訳の重要性を強調している点だろう。昨今、英語教育は文法や日本語訳から、よりコミュニケーションという方向にシフトしているが、それによって「なんとなくわかった」気になってしまうのが危険だという。自分の理解したことが本当に正しかったかは日本語訳にして確認することで初めてわかるというのである。

続編があるならえひそれも読んでみたい。この著者の英語の書籍を全部読んでみたいと感じた。

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「慈雨」柚月裕子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
警察を引退したことをきっかけに妻と四国遍路の旅に出た神馬(じんば)。しかし、時を同じくして発生し世間を騒がせた少女誘拐事件は、16年前に神馬(じんば)が関わった少女誘拐事件に酷似していた。

なによりもまず、引退した警察官を主人公にした作品というのは事件解決の物語ではかなり珍しいのではないだろうか。そして、四国遍路の旅を警察物語でありながらここまで詳細に描写している点も印象的で、著者の緻密な調査を感じる。

さて、すでに警察官を引退しながらも、発生した事件が気になって、現職で娘の恋人でもある警察官緒方(おがた)と逐一連絡をとり、捜査状況を知るという流れで物語は進む。過去の事件を悔やみながら現在の捜査状況が常に気になり、同時に引退したということで妻と一緒の時間を大事にしたいという思いと、大人になった娘とその交際関係も気になるという、年配の男の葛藤の描き方がすばらしい。

後半は、娘との複雑な関係も明らかになっていく。

派手ではなく、警察の事件解決物語という使い古された手法でありながらも、描き方に今までにない新鮮さを持たせ、非常に深みを感じさせる作品。評価が高いことも納得である。何よりもお遍路巡りの旅に興味を持った。いつか体験してみたいと思った。警察物語など読み飽きたという読者に薦めたい。一読の価値ありの一冊である。

【楽天ブックス】「慈雨」