「火の粉」雫井脩介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元裁判官・梶間勲の隣に、以前、勲自身が、無罪判決を言い渡した男、竹内真伍が引っ越して来た。そんな奇妙な偶然で始まる。
竹内が引っ越して来たことによって、梶間家に少しずつ変化が起こりはじめる。そんな展開である。そう、実際に家族なんていうのは、つながりは薄く、隣人のちょっとした策略で簡単に崩れてしまうものなのかもしれない。特に、嫁、姑などの微妙なバランスで保たれている家族はそうなのだろう。
また、裁判官という仕事についても衝撃を受けた。改めて考えてみると、なんて責任の重い職業なのだろう。一つ間違えれば何もしていない人の命までも奪いかねない。そして一方一つ間違えれば凶悪な殺人者を「無実」として世の中に解き放つこともまたあり得るのである。これは裁判官だけでなく、弁護士、検察官についても同様のことが言えるかもしれない、実力があるか否かによって無実の人が有罪判決を受けて人生を棒にふったり、有罪の人が無罪となって世の中に出ていったりするのである。
一時期、弁護士という職業に憧れた時期もあったが、憧れだけに留めていて良かったと感じる。
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「魔笛」野沢尚

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
僕にとっては、野沢尚が亡くなった後、始めて読む彼の作品となった。そして過去に読んだ事のある野沢作品の中でもっとも印象的なストーリーとなった。ストーリーは渋谷のスクランブル交差点で爆弾を爆発させた犯人の手記を中心に進む。
爆弾の爆発する瞬間の被害者の描写がリアルである。爆発によって体がバラバラになる瞬間まで、彼等は、彼女らは確かに意識を持って行動していた。今日の予定や未来のことを普段の僕らと同じように普通に考えていた。その事実をイヤというほど伝えてくる。
また、ストーリーは犯人の育った過程に多く触れる、その人の育った環境、周囲の人によって人はどうにでもなってしまうのである。
僕はそう受け止めたが、読む人によって感じ方はさまざまであろう。
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「蒼い瞳とニュアージュ」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松岡作品ではもはやお馴染みの登場人物である。岬美由紀、嵯峨敏也に続く3人目のカウンセラーの登場というテーマのこの作品。その3人目のカウンセラーと言うのが少々コギャルちっくな一ノ瀬恵梨香という女性。内閣情報調査室の宇崎俊一が絡んでストーリーは進んで行く。岬美由紀や嵯峨敏也のようなクールさや知的な主人公を求めている人には少し抵抗があるかもしれない。今回は一ノ瀬恵梨香の一作目だからか、登場人物の人となりに多くのページが費やされたためストーリー的には少し物足りなかった。今後に期待する。
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「東京物語」奥田英朗

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1978年、に上京した田村久雄の社会に出て自立して行く11年を少しづつ切り取ったストーリー。ジョンレノンの殺害、ベルリンの壁の崩壊。久雄の成長とともに世の中も大きく変わって行く。
みんな今の自分に満足出来ず、それでもどこかで夢を捨てなければならないことを悟りつつ、だからこそ今は好きなように生きる。そんなことを感じさせてくれた。今の僕と同じ年代の人に読んでもらいたい。
久雄の周囲の人たちがなにげなく彼に言う言葉がまた印象的だ。

失敗のない仕事には成功もない。成功と失敗があるってことは素晴らしいことなんだぞ。
俺も若い頃は他人に厳しかったよ。自分と同じ能力を他人にも求めていた。

人はいろんな人とかかわりを持ち、言葉を交わすことによって成長して行くのだと感じさせてくれた。
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