「千里眼 背徳のシンデレラ」松岡圭祐

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
岬美由紀(みさきみゆき)の活躍する千里眼シリーズ。「千里眼」でテロを実行した友里佐知子(ゆうりさちこ)の後継者である鬼芭阿諛子(きばあゆこ)が能登の白紅神社で宮司を務めているという。能登に急行した美由紀は、恐るべき内容が綴られた友里(ゆうり)の生涯を記録した日記を入手する。
物語の大半が友里佐知子(ゆうりさちこ)の日記で占められていて若干本編の内容に物足りなさを覚えた。それでも友里(ゆうり)の日記には波乱万丈な人生とともに共産主義の理想国家をつくるために揺れ動く考え方などが描かれていて、「全共闘」やよど号ハイジャック事件をリアルタイムで知らない僕等の世代には新鮮かつ刺激的でページをめくっていて飽きさせることがない。
そして相変わらず能力を持ったことによって悩む美由紀(みゆき)の考え方やその葛藤も今後の展開を楽しみにさせてくれる。

真の意味での千里眼は存在しない。だから人は、心を通わそうと努力する。理解しあおうと人を思いやる。そこに人の温かさがある。人の心が見えないからこそ、人に優しくなれるのだろう。

次回作にまた期待する。


コリオリの力
地球は自転しているため、北極点上空から見ると反時計回り、南極点上空から見ると時計回りに回っている。そのため、北半球では右向き、南半球では左向きのコリオリの力が働く。地球が(ほぼ)球体のため、その大きさは緯度によって異なる。そのため、大砲やロケットなどの弾道計算にはコリオリの力による補正が必要である。台風が北半球で反時計回りの渦を巻くのは、風が中心に向かって進む際にコリオリの力を受けるためである。また、大気だけでなく、海流の運動もコリオリの力の影響を受けている。
全共闘
全学共闘会議の略称。大学の学生自治会の全国連合組織が「全学連(全国大学自治会総連合)」であるが、それとは異なり、基本的には、70年安保闘争あるいは、個別大学闘争勝利のために、学部やセクトを越えた連合体として各大学に作られたのもの。
リストラ
事業再編成(リストラクチャリング Restructuring)に由来する略語。現在では解雇の意味で用いるのが通常となっている。

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「北の狩人」大沢在昌

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
秋田県警の警察官である梶雪人(かじゆきと)は12年前に父親を殺された事件の真相を突き止めるために新宿にやってきた。歌舞伎町で十年以上前につぶれた暴力団のことを聞きまわることで、過去の秘密が次第に明らかになっていく。
歌舞伎町を舞台にした暴力団同士の抗争、台湾マフィアとの駆け引きなどで展開するストーリーはあまりにも普段の私生活とかけ離れているために現実感に乏しい。それでも雪人(ゆきと)に関わる人の少し変わったものの見つめ方が新鮮である。
新宿でキャッチのバイトをしている高校生の杏(あん)はある時思うのだ。

お洒落と男の子と夜遊び。そのみっつしかない毎日が、ひどく下らないことのように思えてきた。

雪人(ゆき)と目的を共にする新宿署の刑事である佐江(さえ)は新宿をこんなふうに語る。

新宿てのは、深い海みたいなもんだ。いつもでかい魚がじぶんより小せえ魚を狙っている。どいつもこいつもゆだんすりゃ食われるのよ。

物語の長さのわりに展開が小さく感じた。主人公の雪人(ゆきと)が東北出身であるという人物設定が感情移入をしずらくさせている感じを受けた。物語中の大きな役割を担う暴力団幹部達にも、その生きてきた背景をしっかり描けばラストのシーンはもっと大きな感動を受けるのではないかと感じた。全体的にはやや物足りなさを覚えた作品である。
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