「悪人」吉田修一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
石橋佳乃(いしばしよしの)は携帯サイトで知り合った男と会った翌日、遺体となって発見される。容疑者としてあがった2人の男性。1人は男性からも女性からも人気のある大学生増田圭吾(ますだけいご)、もう一人は土木作業員として働き、車だけが趣味の清水祐一である。
物語の序盤は増田圭吾(ますだけいご)が逃亡中ということで、真犯人が誰かわからない状態でしばらく展開するが、、むしろ物語の面白さは単純な犯人探しではなく、その事件の周囲の人間たち内面にこそある。
犯人や被害者の友人、上司、親戚、家族など、多くの人の目線から物語が展開するため、その人の悩みや思いが見えて来る。そんな数ある登場人物の中の誰一人として、「こんな人間になりたい!」と思えるような人はいないが、むしろだかこそ現実的であると言えるだろう。周囲からはどんなに輝かしい人だろうと誰もが悩みを抱えていきているのだから・・・。読者の多くは、そんな数多くの登場人物のいずれかに自分を重ね合わせることができるのではないだろうか。
本作品から伝わってくるのは希望ではなく、悲しいむなしさである。多くの人がひしめきあってこんなに近くで生きているにもかかわらず、心は通じ合えない。だからこそ、単純に一人でいる以上にさびしい…。そんな現代の寂しさがにじみ出てくる。必ずしも悪意を持った人間や、際立って不幸な環境に育ったものだけが犯罪を犯すのではなく、世の中のどんな人にも殺人者となりうる可能性がある…。そんな、なんとも吉田修一らしい作品である。
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「世界を変えたアップルの発想力」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松下電器からアップルに転職した著者目線で、アップルという会社を主要人物が語った明言を引用しながら説明していく。典型的な日本企業である松下とアップルを比較することで、アップルのその異質な社風が見えてくる。
アップルがどれだけ偉大なことを成し遂げてきたか、ということを考えると、誰もがそんなプロジェクトに関わりたいと思うだろう。しかし、偉大な商品をつくったからといって、その会社が誰にとっても魅力的な労働環境を提供しているとは限らないのだ。よくも悪くもアップルという会社がユニークな会社であることが見えてくる。また同時に、僕らが「会社はこうあるべきだ」と考えているもののいくつかが、必ずしも会社に必要でないものであることも気づくだろう。
それでも思うのだ、アップルで働いたら、きっと何時間でも働かなければならないだろうし、仕事以外のことを一切放棄しなければならないときもあるだろう。それでもここまで熱意を注いで仕事ができることは幸せなんだろう、と。

真似はマイクロソフトにやらせておけばいい

本書で挙げられている歴史をつくったアップルの偉人たちの名言の中の、いくつかが胸に刺さるのかもしれない。
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「ファーストクラスの英会話」荒井弥栄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元国際線のCAがその経験から、日本人が間違えやすい表現を、「ビジネスクラス」「ファーストクラス」とその丁寧さを2段階に分けて説明する。僕らは英語と日本語の違いを、「英語は直接的で日本語は遠まわし」などと漠然と思っているかもしれないが、どんな言語においても、相手に反対したりするときは、相手に不愉快な思いをさせないような遠まわしな言い方が必要なのである。
「英語で言いたいことを言う」の次のステップ、「英語で気持ちよくコミュニケーションをとる」の段階に移ろうとしている人には非常に役に立つだろう。
一般的な丁寧表現の「Could you?」「Would you mind if?」のほかにも、ビジネスシーンに使えそうな、丁寧表現が満載である。「add up」「up to scratch」「be snowed under」「under the weather」などはぜひ覚えておきたい表現である。
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「沈底魚」曽根圭介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第53回江戸川乱歩賞受賞作品。
中国のスパイが日本に潜んでいるという情報を得て、警視庁外事課は動き出す。
江戸川乱歩賞受賞作品ということで期待したのだが、残念ながら最近増えてきた公安警察小説のなかでも特に際立ったところはない。スパイものはどうしても2重スパイ、3重スパイ、騙し合いという展開になってしまって、その範囲内ではいくら裏をかこうとも読者の想像を超える面白さには繋がらないのだろう。もう少し何かスパイスがほしいところだ。
とはいえ、このような中国などを相手にしたスパイ物語を最近よく読むようになった気がする。つまりそれが現実のものとして受け入れ始めているからなのだろう。
本作品に限らずスパイ物語というのは登場人物の名前が多くなりすぎるうえ、おのおのの利害関係が複雑になりすぎるため、なかなか物語にしっかりと着いていきずらいのもよくあることで、いかにその多くの登場人物を個性を持って描けるかが、諜報活動を描く小説には求められるのではないだろうか。
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「テレビの大罪」和田秀樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
昨今のテレビ番組がどれだけ世の中に悪影響を及ぼしているか、という視点に立った内容である。昨今の若者のテレビ離れは、インターネットなど、テレビ以外のエンターテイメントの普及だけによるものではなく、発信者としての責任を負うことを恐れて、ひたすらクイズ番組に走る、というテレビ局側のモラルの低下も影響しているのだろう。
僕自身ここ数年で一気にテレビを見なくなったから、その「テレビ離れ」の裏にある原因や人の考え方にはおおいに興味があったので、本書を手にとったのだが、ところどころうなずける部分はあるものの、著者のかなり強引な論理と断定的な書き方にやや抵抗を抱きながら読み進めることになってしまった。
とはいえ、確かに、テレビ局が東京に集中していなかったらおそらく飲酒運転の取り締まりは今ほど厳しくはならなかっただろう、という考え方には納得できるものがあるし、自殺報道は規制すべき、という考え方もうなずける。
結局テレビの大罪が「大罪」になってしまう原因は、情報を取捨選択せずに鵜呑みにしてしまう視聴者の側にもあるのだということは、改めて今回思ったことである。
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「こんなに強い自衛隊」井上和彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
自衛隊について、その技術のすばらしさ、そこに勤める自衛隊員の質の良さ、そして北朝鮮、中国、韓国などの近隣諸国の脅威、などあらゆる面から自衛隊を描く。
筆者の根底にある考え方は一貫していて、日本の自衛隊のすばらしさ、軍備を増強し続けて脅威となりつつある近隣諸国への備えの必要性、そして、それを知らずにいる日本の政治家への懸念である。だから、若干本書で書かれている内容には偏りがあるという認識で読むのが適切なのかもしれない。
個人的には、イラクへの自衛隊派遣に触れている第8章が印象的である。4000人を超える犠牲者を出しているアメリカ軍に対して、なぜ自衛隊は一人の死傷者も出さずに済んだのか。それは、僕らが誇るべき空気や人の気持ちを読む日本の文化があったからこそである。つい自衛隊に入って「こんなすばらしい仕事をしてみたい」と思ってしまう
そもそも自衛隊とは存在自体が矛盾にあふれている。本書でも、自衛隊の発足の定義と、憲法の拡大解釈についてふれている。そんな自衛隊の過去の経緯が、現状の自衛隊に対する世の中の見方を説明している。日本では一般的に「防衛費は削る」「武器を捨てる」ということが「正しいこと」と認識されており、それゆえに現状を知らない政治家が、イラク派遣部隊の武器の数で議論するなどということが起きるのである。
メディアを通じて僕らの目に入ってくる自衛隊の情報が、どこまでゆがめられ、どこまで多くの思惑が絡んでいるか、ということがわかるだろう。そんな政治的な話を抜きにしても、序盤で触れている最新鋭の兵器の話などでも十分楽しめるのは、やはり僕が男だからだろうか。
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「ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか」井出洋一郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
西洋絵画を楽しむ上で、宗教とギリシア神話は欠かせないもの。本書はギリシア神話のエピソードとともに、その場面を描いた絵画を紹介している。
僕自身西洋絵画とギリシア神話はもともと好きなので多くの物語は知っているものばかりだったが、それでもいくつかの知らなかった逸話や、ギリシア神話の一場面と知らずに見ていた絵画、そして見たこともない絵画に触れることができた。
面白いのは神話上の人物が、絵で描かれる際の特長に触れている点だろう。アットリビュートと呼ばれるその人物の象徴となる持ち物を知ることで、より絵画のなかの人物を特定しやすくなるのということだ。
たとえばよく知られているものだと、エロス(キューピッド)の弓、ヴィーナス(アフロディーテ)の貝といったところだ。残念ながらアットリビュートの説明は文章だけで、資料となる絵画が載っていない点がやや物足りなかった。
絵画としてはピエロ・ディ・コジモ「アンドロメダを救うペルセウス」など、ペルセウス好きにはたまらない。ジュール・ルフェーブルの「パンドラ」も印象的である。どちらも今まで知らなかった画家なので、ぜひ覚えておきたいものだ

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「JUSTICE」Michael J.Sandel

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「正しいこととは何なのか」。「正しいこと」。生きていれば数え切れないほど耳にするそんな当たり前の言葉に対して、「じゃあ、その「正しいこと」とは何なのか?」と問いかけ、突き詰めていく。
面白いのは本書のなかで、。「正しいのはどちらか?」といういくつもの選択肢が用意されている点だろう。いずれの選択肢も即答できるものではなく、いくつかは一生かかっても答えを出せないであろう問いかけである。もちろん本書でもその問いかけの先で示しているのは答えなどではなく、その答えにたどり着くための道筋である。
そしてその道筋を示す過程で、過去の哲学者など、多くの偉人たちの考え方を紹介している。自由主義者にとってはこちらはこの点で間違っている、功利主義者にとってはこちらが正義になる。…のように。
そして、それらの考え方に触れるうちに、「正しいこと」とは、「自由を尊重するもの」「倫理に従うもの」「世の中の実用性を重視するもの」「最大人数に対する最大の富を目的とするもの」など、人によってさまざまな考え方があることに気づくだろう。
30年も生きていれば誰しも、心の中に答えのない疑問を抱えていたりするのではないだろうか。たとえば、生き物の命は大切なのに、どうして人間は豚や牛を殺して食べるの?とか、買う側も売る側も満足している売春はなんで不法なの?とか。
そんな問いかけに対する答えの出し方のヒントを少しつかめた気がした。

「金持ち父さん貧乏父さん」ロバート・キヨサキ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
先日参加したキャッシュフローゲーム会の主催者が「大きく衝撃を受けた」と言っていた本。人の人生を変えるほどの本といわれるととりあえず読まなければ、というわけで読んでみた。
実は結構有名な本らしく、内容は一言で言えば「お金の作り方」を書いたもの。「お金の稼ぎ方」ではなく「お金の作り方」である。そして、現在の教育の仕組みを真っ向から否定している。どんなに勉強してどんなに大きな企業に入っても、稼いだ分のお金は出て行って、一生働き続けなければならない。お金の心配をせずに生きるにはどうすればいいか、ということを書いている。
僕自身あまりお金に興味はなく、お金なんてなくても楽しく生きている自信はあるのだが、「働きたいか遊びたいか?」とたずねられれば答えは明確だろう。世の中の流れなどを考慮すると、単純にそのまま書かれている内容を受け入れるというわけにはいかないが、お金に対する新たな考え方を受け入れて選択肢を増やす、という意味においては非常に面白い内容だった。
【楽天ブックス】「金持ち父さん貧乏父さん」