「僕は自分が見たことしか信じない文庫改訂版」内田篤人

オススメ度 ★★★★☆
サッカー日本代表に19歳で定着し、鹿島アントラーズでもJリーグ3連覇に貢献し、現在ではドイツのシャルケ04で活躍する内田篤人がそのサッカー人生を語る。
サッカー選手の本というのは、中澤裕二や中田英寿の本のように本当に深く物事を追求し続けてサッカー選手にたどり着いた人がその心情を濃い内容のものと、逆にただ好きでひたすらサッカーをやっていたらプロになれた人のあまり言語化できない人が感覚的に書いたものとで大きく2つに分かれる気がする。内田に関しても、あまり挫折等を繰り返している感がなかったので、どちらかといえば軽い本を予想していたのだが、なかなか読み応えがあって面白かった。
印象的だったのは吐き気に悩ませられながらも周囲に黙ってプレーを続けていたというところである。本書でも書かれているように、ポーカーフェイスであまり周囲に感情を出さないように見えるが、いろんな悩みを抱えていないわけではないのである。
もちろんまだ若いのでその未熟さが感じられる部分はあるのだが、それでも海外を中心に普通と異なる生活を送っている人の強く割り切った考え方が見えてくる。

ヨーロッパの人たちは、怒るとすぐに人のせいにしてきます。おもしろいもので、人のせいにする人は伸びないんです。常に反省がないから。僕のせいじゃないのでは? と疑問に思うことも多々あります。そういうときに僕は「はい、僕が悪かったです。その代わり、今あなたが捨てた”伸びる”分を僕にください」って思うようにしています。

ノイアーやラウルなど、海外の有名選手とのエピソードにも楽しませてもらった。
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「未来を拓く君たちへ」田坂広志

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
志しを抱いて充実した人生を送るための考えかたを伝えている。その内容はというと、自分がこの世に生まれた奇跡に感謝することだったり、いつ死ぬかわからないから常に死を意識する事だったりと、今まで多くの人が語ったようなことばかりではあるが、それでも印象に残る内容がいくつか含まれている。
例えば、成功よりも成長を目的に生きること。

人生において「成功」は約束されていない。
しかし、人生において「成長」は約束されている。

そして、僕らは人類の歴史の「前史」を生きており、僕らが作る「前史」ののちに人類の「本史」
が始まるという考え方である。僕らは人類の「本史」を始めるために、戦争や紛争、迫害や差別、飢餓や貧困をなくさなければならない、と説くのである。
本としては分厚いが文字が少なく間隔が広いのでただページ数を稼ごうとしているようで、反発を覚える部分もあるが、人生の見方を変える言葉に出会えるかもしれない。

死とは、人生の終わりではない
死とは、成長の最後の段階である。
あなたは、人生にその「意味」を問うべきではない。
人生が、あなたに、「意味」を問うている。

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「Logo Design Love: A guide to creating iconic brand identities」David Airey

オススメ度 ★★★★☆
ロゴデザインの本というと多くのロゴを集めたものが多い。それはそれで見ていて楽しいが実際に仕事としてロゴデザインをする人にとっては物足りないだろう。なぜなら素晴らしいロゴは、見た目だけでなく、クライアントの求めるものを満たすからこそ素晴らしいのだから。

本書はロゴを紹介しながらも、クライアントのロゴデザインをする上での仕事の進め方や注意点を多くの事例を交えながら説明する。どのようにして相手の担当者をプロジェクトに巻き込むか。プロジェクトとして良く起こりうる事は失敗はどのようなことから始まり、それを避けるにはどうするべきなのか、など。

単に注文を受けるだけになってしまうことも陥りがちなワナである。最初の頃は私にもそんなことがよく起こった。クライアントが私にフォントや色を指定してくるのである。そして「大丈夫です。明日までに修正します。」と私は答えるのだ。つまり私の知識や経験を利用しないで、クライアントが私の仕事をしているのである。

もちろん、ロゴデザインにおいて基本的に抑えておかなければ行けない点も一通り網羅している。

ロゴは企業がやっていることを示す必要はない
歯医者のロゴで歯を見せる必要はないし、配管業者のロゴでトイレを見せる必要はない、インテリアショップのロゴで家具を見せる必要はないのだ。

また、技術的な話だけでなく、見積もりについても描いてある。印象的だったのは、ピカソが描いたスケッチの話を用いて、経験による金額の上乗せを説明している点である。

「この絵にどうしてそんなにお金がかかるの?ほんの数秒しかかからなかったじゃない」
「マダム。それを学ぶのにこれまでの人生がかかりました」

成功事例だけでなくTropicanaなどの失敗事例も掲載している点が面白い。本書を通じて多くの素晴らしいロゴに出会う事ができたし、またロゴデザインがしたくなった。

参考サイト
davidairey.com
logodesignlove.com
identitydesigned.com

 

関連書籍
「It’s Not How Good You are, It’s How Good You Want to Be」Paul Arden
「Design Is a Job」Mike Monteiro
「Identify」Chermayeff & Geismar & Haviv
「The Win Without Pitching Manifest」Blair Enns
「Steal Like an Artist」Austin Kleon
「Thinking with Type」Ellen Lupton
「Designing Brand Identity」Alina Wheeler
「Lateral Thinking」Edward de Bono
「The Art of Client Service」Robert Solomon
「Bob Gill So Far」Bob Gill
「A Smile in the Mind」Beryl McAlhone
「The Fortune Cookie Principle」Bernadette Jiwa
「Seventy-nine Short Essays on Design」Michael Bierut
「The Geometry of Type」Stephan Coles
「Aesop’s Fables」Aesop
「The Design Method」Eric Karjaluoto
「Work for Money, Design for Love」David Airey

「ハケンアニメ」辻村深月

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
その時期にもっともDVDを売り上げる「ハケンアニメ」を目指すプロデューサーやアニメーター達の様子を描く。
最近はあまりアニメを見る機会がないが、別に興味がない訳ではなく時間が取れないだけ。僕らが子供の頃とは違って今はアニメは深夜に放映されることが多く、またそこに割かれるお金や人も大きくなっているようだ。本書はそんなアニメ制作の様子を3人の登場人物に焦点をあてて描く。
1人目はプロデューサーである有科香屋子(ありしなかやこ)。才能を認めている監督に存分に力を発揮してもらうために振り回されながらも奮闘するのである。アニメーション制作の現場を描く様子には、アニメと小説という風に形は違うけれども、同じようにクリエイティブな仕事をする著者辻村深月が、普段感じているだろうことがにじみ出てくるのが面白い。例えば、香屋子(かやこ)に対してアニメーターがこんなことを言うのだ。

勝てると思いますよ。あの人、人の顔覚えないから。そこが弱点。

きっと辻村深月自身が人の顔を覚える人に対して特別な思いを抱くのだろう。こういう部分がフィクションを単純に「作り話」として済ませられない理由である。フィクションでありながらも現実に適応できる考え方が多く埋め込まれている作品こそ僕に取っての「いい作品」である。
ちなみに、2人目の登場人物は法律を学んだ後にアニメ業界に転身した映画監督斉藤瞳(さいとうひとみ)である。女性でありながらもドライな正確な瞳(ひとみ)は、声優やプロデューサーやアニメーターなど現場のいろんな人との関係に悩みながらも、自分の理想とする作品を作り上げて行くのである。
3人目はアニメーターで驚くほど上手い絵を描く並澤和奈(なみさわかずな)。絵を描くのが好きで仕事をしているが、自らオタク女子と認識しており、リア充にコンプレックスを持っている。もっとの多くのページが割かれているこの和奈(かずな)の章は、アニメの世界に没頭する「オタク女子」と呼ばれる女性の複雑な心を爽やかに描く。
和奈(かずな)が制作に関わったアニメの舞台となった地方の街が「聖地巡礼」によって観光を盛り上げようとしているなか、和奈(かずな)自身もその活動の担当を任され、熱血公務員宗森(むねもり)と協力することとなるのである。地方公務員の「リア充」宗森(むねもり)の地域を盛り上げようとする努力を目の当たりにするなかで、少しずつ和奈(かずな)の心が変化して行く様子が面白い。

理解できない相手のことが怖いから、仰ぎ見るふりをして、この人を突き放して、下に見ていた。自分は非リアで、充実した青春にも恋愛にも恵まれてないんだから、これくらいのことを思う権利があると、勝手に思っていた。人より欠けたところが多い分、自分の方が深く物を見てるんだからと自惚れていた。

そしてそれぞれがすばらしいアニメを制作することを目指しやがてハケンアニメが決まるのである。時間をとっていいアニメが見たくなる爽やかな1冊。
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「成功する子失敗する子」ポール・タフ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世の中には成功する子と失敗する子がいる。自分の子供を成功させたくて、お金をかけて教育を施したり、厳しくしつけたりする親がいるが、果たしてそれは正しいのだろうか。
まず誤解しないで頂きたいのは、本書で言う「成功」とは、いい大学に入ったり、いい成績を取ったり、という「短期的な成功」ではないという点である。逆境のもくじけず、物事に挑戦するこころを常に持ち、それによって人生を幸せに生きることが本書の言う「成功」なのである。
まず本書が紹介しているのが、子供時代の逆境によるストレスと成人してからの人生のネガティブな結果には明らかな相関関係である。ストレスが発達段階の体や脳にダメージを与えるのというのである。しかし、一方で親の愛情によってそのストレスは軽減することもできるのだという。つまり、不幸な境遇や貧しい家庭に育っても、親が愛情を注いで育てることで将来成功をする心を持った子供は育てることができるのである。
そしていくつかの教育機関と人に焦点を当てている。そのうちの一つがKIPPアカデミーである。KIPPアカデミーは革命的な教育で低所得層の子供達の成績を向上させ多くのメディアにも取り上げられたにもかかわらず、卒業生のうち大学を卒業した者はわずか21%だった。「一体卒業生達が大学を卒業するために何が必要だったのか」KIPPの創立者であるレヴィンは成績以外の生徒達に必要な者を探し始めるのである。
後半ではチェスの強豪であるIS318の生徒達とチェスの指導者スピーゲルのやり取りを紹介している。スピーゲルが試合に負けた生徒達に必ず試合の後、自分の駒の動かし方と向き合わせて検証させているシーンが印象的である。負けと向き合い、困難と向き合うことの一つの答えだろう。また同時に、チェスだけに打ち込むことが本当に子供達にとって幸せかどうかはわからないとしているスピーゲルの態度も興味深い。
結局本書はどんな育て方が正しいとか、どんな人生が幸せであるとか書いてはいない。貧困問題など現在アメリカ社会が抱える問題を指摘して締めくくっている。
多くのことを考えさせる1冊。機会があれば定期的に読み返したい。

KIPPアカデミー
The Knowledge is Power Program (KIPP) is a nationwide network of free open-enrollment college-preparatory schools in under-resourced communities throughout the United States.(Wikipedia「Knowledge Is Power Program」)
関連書籍
「オプティミストはなぜ成功するのか」
「ちいさなことへのこだわり」(未邦訳)「Sweating the Small Stuff」
「情熱教室のふたり」ダイヤモンド社
「特権の代償」(未邦訳)「The Price of Privilege」
「過食にさようなら」デイヴィッド・ケスラー
「ゴールラインを超える」(未邦訳)「Crossing the Finish Line」
「本物の教育」(未邦訳)「Real Education」
「ここに子供はいない」(未邦訳)「There are No Children Here」
「野蛮なる不平等」(未邦訳)「Savage Inequalities」

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「ジョコビッチの生まれ変わる食事」ノバク・ジョコビッチ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
度重なる体調不良によって敗退することの多かったジョコビッチは医師のアドバイスで食事を買えてから劇的なる変化を果たし、ついに世界ランキング1位に上りつめた。そんなジョコビッチが食事の重要性について語る。
子供時代やこれまでの成功の過程を挟みながら、食事に対する考え方を書いている。ジョコビッチの食事の改善はひと言で言ってしまえばグルテンフリーである。グルテン不耐性という小麦製品に対して過敏な体だったために試合中に不調を起こしていたのである。グルテンとは大麦や穀物に含まれるタンパク質でパンに柔らかさを出すために使われるが、一部の人間はグルテンを消化できないために深刻な肉体反応を引き起こすのだと言う。

私たちのほとんどが大なり小なり恒常的なグルテン反応ーー体が重かったり、疲れたり、気弱になったりーーを経ている可能性が非常に高い。そして、こういった症状を普段の生活から来ている疲れだと思い込んでいる場合が多いはずだ。

本書はこのようにグルテンというものの存在を意識を向けてくれるが、すべての人にグルテンフリーを勧めているわけではない。人には、乳製品、カフェインなどそれぞれ体に合わない製品があり、それを知ることによってもっと健康な生活を送れるというのである。本書はそんな自分にあわない食べ物を見つける方法として、14日間一部の食物を食べない期間を設け、体調の変化を見ることを勧めている。実際、ジョコビッチはグルテンフリーを最初に14日間試したとき、1週間で毎日悩まされていた鼻づまりが消えたのだそうだ。確かに14日だけなら我慢できるものもたくさんあるだろう。実際体に合うか合わないかわからないのに怪しい食べ物をすべて辞めるよりも手軽に始められる。
また、ジョコビッチの食事に対する真摯な向き合い方にも感心する。ジョコビッチはそれぞれの食べ物を口にするときに、筋肉になるように、エネルギーになるように、と意識しながらゆっくり食べるのだそうだ。部分的にでもぜひ見習いたいと思った。

セリアック病
小麦・大麦・ライ麦などに含まれるタンパク質の一種であるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる自己免疫疾患。(Wikipedia「セリアック病」

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「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」松尾豊

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
人工知能研究者で東京大学の准教授である著者が現在3回目のブームに差し掛かっているという人工知能について語る。
著者が書いているように、これまで人工知能はブームと誰の話題にも上らないような冬の時代を繰り返してきたという。確かに「人工知能」という言葉はかなり以前から耳にするが、現実に人工知能が生活のなかに浸透しているとは言い難い。本書ではまず、その理由の1つとして「人工知能」という言葉による世間の認識と専門家の考えのずれを指摘する。そして、第一次人工知能ブーム、第二次ブーム、第三次ブームをそれぞれの特長を交えて説明するのである。
著者が意識的に簡単な言葉を使おうとしているのは伝わってくるが、それでもなかなか説明を読んだだけで理解することは難しい。第1次ブームが「推論」と「探索」の時代、第2次ブームが「知識」の時代、第3次ブームが「機会学習」と、なんとなく過去の人工知能ブームの違いが感じられる程度である。
後半では人工知能の未来として、ターミネーターなどの映画で御馴染みの「特異点」についても触れている。この辺りの内容は、多くの人が興味ある内容かもしれない。
全体的にあまり上手く書かれているとは言い難い。初心者向けと言えるほどわかりやすく書かれているわけでもなく、かといってしっかり理解したい人向けに詳細に書かれている訳でもない。書きたいことを書いてそれぞれを無理に繋ぎ合わせたという印象である。

モンテカルロ法
シミュレーションや数値計算を乱数を用いて行う手法の総称。(Wikipedia「モンテカルロ法」
ディープブルー
IBMが開発したチェス専用のスーパーコンピュータ。(Wikipedia「ディープ・ブルー (コンピュータ)」
フレーム問題
人工知能における重要な難問の一つで、有限の情報処理能力しかないロボットには、現実に起こりうる問題全てに対処することができないこと。(Wikipedia「フレーム問題」
シンボルグラウンディング問題
記号システム内のシンボルがどのようにして実世界の意味と結びつけられるかという問題。(Wikipedia「シンボルグラウンディング問題」
ミーム
人類の文化を進化させる遺伝子以外の遺伝情報。(Wikipedia「ミーム」
DARPA
アメリカ国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects)。軍隊使用のための新技術開発および研究を行うアメリカ国防総省の機関。(Wikipedia「国防高等研究計画局」
関連本
「われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る」米長邦雄

【楽天ブックス】「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」

「きのうの影踏み」辻村深月

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
17個の少し不思議で怖い話。どれもとても読みやすく、それでいて今までに聞いたことのある話と少し違う。
17もの話が含まれているということで、短い話は5ページに満たない。子供の頃やったかくれんぼや、小学生の頃のキューピッドさんなど、懐かしさを感じることを取り入れている話も多々ある。
個人的に好きなのは「ナマハゲと私」。小学校低学年の子供は怖がっているが、高学年になるとナマハゲが来てもテレビを見ることを優先するなど、地元の人にしかわからないナマハゲの現実が見える。もちろん、この物語の結末もただ単にナマハゲの現状を語るだけでは終わらない…。
その他にも短くて少し不思議で怖い物語がたくさん含まれている。夏に向かうこの季節にちょうどいいのではないだろうか。
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