「インシテミル」米澤穂信

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
破格の時給に惹かれて申し込んだ12人のアルバイト。その仕事は与えられたルールの元で施設内で数日間過ごすというもの。そのルールとは、人を殺せばボーナスが与えられ、施設内で起こったいかなることにもその後は責任を負わなくていいというものだった。
密閉された空間の中で数人の男女が過ごし、一人、また一人と減っていくというのは、現実味はなくても昔からよくミステリーで使われる手法である。代表的なのはなんといってもアガサクリスティの「そして誰もいなくなった」だろう。本作品もそれを強く意識しているように感じられる。
そんな使い古された手法を用いてはいながらも、新しいのは、本作品がミステリーの枠から微妙に逸脱している点ではないだろうか。たとえば本作品中で登場人物たちもいっているのだが、鍵のかからない部屋というのはミステリーにおいてはタブーなのだそうだ、なぜなら密室殺人ができないから・・・。雫井脩介の「虚貌」は犯人が指紋を偽造できるという点で、ミステリーとしての評価が低かったとか。つまり、ミステリーにおいては人物Aの指紋が現場についていたら、それは人物Aがそれを触った事実でなければならないのである。
読み手にもよるのだろうが、僕にとっては本作品は、知らず知らずのうちに自分の中で築いてきていたミステリーの暗黙のルールみたいなものを考えさせる作品となった。
ちなみに同様に閉鎖空間に複数の人間を放り込んでそこにルールを設けるというパターンの物語には高見広春の「バトル・ロワイアル」、貴志祐介「クリムゾンの迷宮」などが思い浮かぶ。比較してみるのも面白いだろう。
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