「ペンギン・ハイウェイ」森見登美彦

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
好奇心旺盛な小学校4年生のアオヤマ君は日々の出来事をノートに記録し、不思議なことは研究して真実を知ろうとする。そんな彼の町にある日突然ペンギンが現れた。ペンギンはどこからやってきたのか。
これは理系人間の僕にとってはかなり理解しがたい物語である。ペンギンに変わるコーラの缶やシロナガスクジラなど、必死でそれぞれの意味を理解しようとするが、読み進めるうちに、そもそもそれぞれに意味を求める事が間違っている気がしてきた。きっとそれが正しい接し方なのだろう。
不思議なのは、前半はそんな意味不明な物語が苦痛で仕方がなかったのだが、なんだか物語が進むにつれて、なんとなくそんなリズムに慣れていってし心地よさのようなものを感じてしまうのである。何かの賞で候補にあがっていたので手にとったのだが、やはりその「候補」という時点でも疑問に思ってしまう。
こういう本を推す人の意見を聞いてみたいところだが、きっと聞いてもこの物語の面白さが理解できるようにはならないのだろう。大きく好みのわかれる作品。
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「風が強く吹いている」三浦しをん

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
天才ランナー走(かける)と出会った清瀬(きよせ)は走(かける)を、古い寮に誘い込む。そこでは同じ大学の生徒たち10人が、清瀬(きよせ)を中心に生活していた。やがて10人は駅伝で箱根を目指すことになる。
いろいろあって箱根駅伝を目指す事になったほぼ駅伝素人の10人が箱根駅伝を目指す事が現実的かどうかという意見はあるだろうが、そういった細かい部分を気にしすぎなければ、爽やかな青春小説として楽しむことができるだろう。
10人はいずれも個性豊かだが、なかでも走(かける)と清瀬(きよせ)は存在感でも郡を抜いている。どちらも走ることは好きでも、所属した部の監督やその指導方法、仲間にめぐまれずに仲間と一緒に走る場所を失っていた。そんな2人がやがて信頼し合い一つの目的にむかっていくのである。青春小説としてはありがちな展開なのかもしれないが、それでもそれぞれが積み重ねた努力の成果を本番に向けるそれぞれの姿はなにか心をかき立てるものがある。

いまは走ろう。好きだから。楽しくて苦しかったこの1年に、出会ったすべてのひとのために。心からの応援も、心ない中傷も、すべて受け止めて弾き返せるほど強く。

最期は1秒を争う展開に。信頼と努力の成果が一つの結果へとつながっていく。

止めることはできない。走るなと言うことはできない。走りたいと願い、走ると決意した魂を、とどめられるものなどだれもいない。

読んだ人までも走りたくさせる一冊。
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「ふがいない僕は空を見た」窪美澄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第24回山本周五郎賞受賞作品。高校一年生の斉藤くんは年上の主婦と関係を持つ。そんな斉藤くんの母親は助産院を営む。斉藤くんとその周囲の人々のその人生を描く。

とりたてて個性のない5人の視点から物語は語られる。姑から人工授精を迫られる主婦。かわいいけど身長の小ささに悩む女子高生など、いずれも日常のどこにでも存在しそうで、ドラマになったり人々の記憶に残るような印象的な物語ではないが、それでも当人にとってはそんななかに楽しみがあり、毎日の悩みがあり試練があるのだ。

そして、そんな各々の視点で語られる物語の、最期を締めくくるのは助産院を営む斉藤くんの母親の視点である。命が生まれる瞬間に立ち会う職業ゆえに人とは少し違った少し深みのある視点を持っている。

自然、自然、自然。ここにやってくる産婦さんたちが口にする、自然という言葉を聞くたびに、私はたくさんの言葉を空気とともにのみこむ。乱暴に言うなら、自然に生む覚悟をするということは、自然淘汰されてしまう命の存在をも認めることだ。

それでも生きていかなければならない、劇的になにか改善するわけではないけれど、少しずつ人生は進んでいくのだ。そんな風にちょっと前向きにさせてくれる空気がある。
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「ハング」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
警視庁捜査一課の堀田班は津村(つむら)を含む同年代の男性刑事で構成されていた。しかし、ある殺人事件の再捜査を機に死の連鎖が始まる。
著者誉田哲也は「ストロベリーナイト」「ジウ」「武士道シックスティーン」などいくつかのスタイルを使い分ける勢いのある著者という印象を個人的に持っているが、本作品はそんななかでも「ジウ」に近く、平和な日本のどこかにある金と権力をめぐる暗く悲しい争い続くをめぐる争いを見せてくれる。
捜査一課の堀田班は、班長の堀田以下、誰もが認めるいい男、植草(うえくさ)。植草(うえくさ)の妹遥(はるか)に思いを寄せる大河内(おおこうち)、小沢(おざわ)そして津村(つむら)という5人の刑事からなる。仲良く海水浴にいって仲間同士の恋人作りを応援するシーンから始まるが、物語が進むにつれて、次第に不気味な空気が物語を包んでいく。そんな明暗の使い分けが非常に印象が強い。
「ジウ」のときも感じたのだが、何がここまで強い印象を与えるかというと、それはきっと物語の非情さにあるのではないだろうか。この人は死ぬはずないとか、死ぬにしてもある程度の敬意をある最期であるべき、とか僕らがどこか心の奥に持っている常識を、あっさりと覆してしまうのだ。いい人も悪い人も死ぬときは虫けらのように一瞬。ドラマのようにかっこいい死に方なんてない、と。
この物語でも、刑事たちの運命はまさにそんな抗いようもない大きな力によって翻弄されていく。それでもそんななか津村(つむら)は、すべてを捨てて信念に従って生きていく事を選ぶのだ。
続編がありそうな終わり方をしたので、そちらも楽しみにしたい。
「ハング」

「絶対にゆるまないネジ 小さな会社が「世界一」になる方法」若林克彦

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
絶対にゆるまないというネジを開発したハードロック工業株式会社の代表取締役社長が、そんな世界に一つだけのネジの開発の過程やそれに関するエピソード、そして小さな企業が生き残るための心構えを語る。
北京オリンピックのとき、砲丸投げの砲丸も日本の町工場が作ったものがもっとも飛距離を出すとしてに話題になった。規模的に小さな日本の企業が、その質の良さで世界に受け入れられるのは同じ日本人として誇らしい。このハードロック企業の「絶対にゆるまないネジ」もまた同じように印象に残っていた。
本書は、そのネジの仕組みはもちろん、それがシェアを拡大するまでの苦労を描いている。「継続は力なり」とか商品にかける情熱が大切というような、多くの成功した企業経営者が書いていることばかりであまり驚きとともに受け入れられるような内容はないのが残念だが、他の成功物語と異なるのは、著者が営業の大切さを訴えている点だろう。「いいものだからといって売れるとは限らない」。これこそきっと小さな企業ゆえに重視しなければならない哲学なのだ。
プロジェクトXのような内容を期待して読むとやや期待はずれかもしれない。
【楽天ブックス】「絶対にゆるまないネジ 小さな会社が「世界一」になる方法」

「ツナグ」辻村深月

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
生者が死んだ人に会う事ができる。死者にとっても、生者にとっても一度だけの機会。そんな機会をあたえてくれる人を「ツナグ」と呼ぶ。
「ツナグ」に依頼して死んだ人に会う人のいくつかの物語で構成されている。自殺したアイドルに会う女性の話。死んだ母親に会う男性の話。結婚を約束したまま行方不明になった女性を、生きているか死んでいるかもわからずにあ会う事を依頼した男性の話。友人を交通事故で失った女子高生の話。いずれも生と死の境目を扱う物語なだけに、心に訴えてくるものは多い。自分のことを忘れて欲しくない死者、しかしそれでも生者には次の人生のステップに向かってほしい…。生者と死者の出会いというと、生者が死者に感謝の言葉を伝えるような印象を勝手に持ってしまうが、本書ではむしろ、死者が生者の人生を心配し、新たな一歩を踏み出すようにと配慮する言動が印象的である。

そして多分、私は今度こそ、踏み出さざるをえなくなる。望むと望まざるとにかかわらず、止まっていた時が動き、流れ、それが、きっと私を変えてしまう。
それが、生者のためのものでしかなくとも、残された者には他人の死を背負う義務もまたある。失われた人間を自分のために生かすことになっても、日常は流れるのだから仕方ない。

そして締めくくりは、そんな、生者と死者の橋渡しとなった「ツナグ」自身の物語。祖母から「ツナグ」を引き継ぐことを決意した歩美(あゆみ)もまた何度か生者と死者の出会いを見ることで、変化を見せていくのだ。
この世とあの世の間で行われる人と人との助け合いの物語。想像を超えるような展開はないかもしれないが優しい気持ちにさせてくれるだろう。
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「星々の舟」村山由佳

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第129回直木賞受賞作品。
母の死後、父重之(しげゆき)は家政婦として働いていた2人の娘を連れた女性志津子(しづこ)と結婚する。兄貢(みつぐ)、次男の暁(あきら)腹違いの妹、沙恵(さえ)と美希(みき)。そんな複雑な家庭で生活するそれぞれの思いを描く。
短編集のような体裁をとっているが、目線が違うだけでどの章も同じ家庭を描いており、全体として一つの物語になっている。最初は兄弟としらなかったゆえに愛し合ってしまった暁(あきら)と沙恵(さえ)。家族全員と血が繋がっているのは自分だけだということを誇りに育った妹の美希(みき)など、各々の深い心のうちが明らかになっていく。誰もがおもいどおりにならない人生と時の早さに迷いながら生きているのだろうか。

何かが欲しいと願いながら、そのじつ何が欲しいのかわからない。生ぬるい飢餓感ばかりをもてあまし、いつかは何かいいものが見つかるような気がして探すのをやめられないでいる。

人から見たら「なんであいつは・・・」と強く非難したくなるような言動も、本人の心の内側に触れるとなんとも理解できそうな気がするから不思議である。そして、そんな理解できそうな心を持つ人々の集まりでも、多くの衝突を生んでしまうのだ。僕らはもっと会話を重ねるべきなのだろうか。僕らはもっと人の気持ちに敏感であるべきなのだあろうか。そんな人や家族の奥深さを感じさせてくれる点が本物語の魅力なのだろう。
最終的に6人の目線で語られるが、最後を締めるのが父重之(しげゆき)である。子供や妻に手をあげる重之(しげゆき)は序盤ではもっとも理解し難い人間のようにも見えるが、その人間性もまた、その心のうちがあらわになるにつれて不思議と同情できるように思えてくる。それは太平洋戦争中のその体験と結びついていくのだ。すでに死が遠くないと悟った重之(しげゆき)の思いは、物語を締めくくるにふさわしい。

消えない罪悪感と、誰かを愛し執着しすぎることへの怖れから家族に優しくもできず、かといって失うことを思うとなおさら怖ろしくて束縛せずにはいられない。胸の内で暴れ狂う獣を自ら抱えておくことのできなかった夫の弱さを、彼女らはかわりにその背中で受け止めてくれていたのだ。

幸せとは何なのか、家族とは、人とは、心に染み入るような作品である。
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「ファミコンの驚くべき発想力」 松浦健一郎

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
僕はファミコン世代。小学生時代はまさにそのブームのど真ん中。それからゲームは進化して、今ファミコンのゲームの画面を見ると、長い年月が経った事を実感するが、当時は、その限られたメモリや様々な制限のなかで面白いゲームを作ろうという、制作者たちの試行錯誤があったのだという。本書はそんな制作サイドの裏話に触れられることを期待して手に取った。
いくつかの有名なゲームを例にあげてその裏話を披露している。面白かったのはドラクエの呪文の話。メモリ使用量を減らすためには使用できるカタカナはわずか20文字にしていた。つまりホイミやラリホーなどドラクエIからある呪文はそんな制約のなかから生まれたのである。その他にもドルアーガの塔やスーパーマリオブラザーズなど懐かしのゲームの裏話を見せてくれる。
その制限がたくさんあったなかでゲームを作り出そうとしたファミコンソフト開発者の心を今の制作者たちも見習うべきだと著者はいう。現代のゲームはほとんどファミコン時代に比べるとほとんど制限がないといってもいいくらい何でもできる。しかし、だからといっていたずらにデータを増やして、ユーザを待たせたりするべきではないというのだ。
上にあげたドラクエやドルアーガの話は非常に面白かったが、残念ながらそんな話ばかりでなく、メモリや演算など、プログラムに普段触れている人にしかわからなそうな話も混在して、本書自体がターゲットを絞り込めていない印象を受けた。いろいろ語りたい事はあるのだろうが、もう少し読みやすさを優先して本を書いて欲しかった。
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「The Hunger Games」Suzanne Collins

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
その地域を支配していた一つの地区、その権力を誇示するために、ほかの12の地区から男女1人ずつを選び、計24人の男女による生き残りゲーム、「ハンガーゲーム」を開いていた。Katnessはクジで選ばれてしまった妹Primの代わりにHunger Gameに出る事を決意する。
一言で言ってしまえばバトルロワイヤルの焼き直し、ということになってしまうのかもしれないが、それが地域間での争いの果てに起こったという背景設定や、未来の物語であるという点が異なる。また、参加者24人それぞれが異なる地域の出身であるがゆえに、その地域の属している産業や自然環境によって、得意とするもの、知識が異なるという点も面白い。
スポンサーというシステムも物語を面白くしている要素の一つである。スポンサーは自らが勝たせたい参加者に贈り物をすることができるのだ。それは水だったり食べ物だったり武器だったり薬だったりと、ハンガーゲームの戦況を左右するものになりうる。だから、参加者たちはハンガーゲーム開始前のデモンストレーションやインタビューで、可能な限りスポンサーを得ようとアピールするのだ。ハンガーゲームの趣旨に賛同しようがしまいが、それが自らの生死を左右するからである。
さて、物語の性質上優勝するのはこのKatnessなのだろう、と誰もが予想するので、興味の対象はその過程になる。ハンガーゲームの途中で仲良くなった女性とは最終的に殺し合わなければならないのか。同じ地区から出場した男性とは恋愛関係になるのか。
最後は若干行き過ぎな印象もあるが、常にスリリングな展開で、読者を一気に読ませる力のある物語。すでに2つの続編が書かれているということなので、機会があったら読んでみたい。

「「みんなの意見」は案外正しい」ジェームズ・スロウィッキー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人は集団だと愚かな行動をし、実際には数人の賢い人間たちに導かれていると考えている人は多いが、本書が訴えるのはそれとは正反対のこと。序盤はいくつか身近な例をあげてそれを示している。
例えば、検索エンジンに革命をもたらしたGoogleのページランク(ペイジランクが正しいらしいが)がある。ページランクは、それぞれまったく関係のない個人が、自らの価値のあると思ったサイトにリンクを張り、そのリンクがされた数によってそのページの価値をはかるというものである。一人一人は特別インターネットに詳しい人というわけでも最新の情報に常に触れているような知識人でもないだろう。それでもそんなシステムによって検索結果を表示するGoogleの検索エンジンが、当時シェアをにぎっていたYahooを超えたのである。
また、行方不明になった船の行方を、わかっている前後の事実という情報だけを与えてある程度の数の人に予想させ、その結果を平均したところ、そこから数百メートると離れていない場所でその沈没した船が見つかった、などの例も挙げている。本書はそんな、集団の意見は個人の意見より正しい、という主張をベースに展開するが、その過程で強調している。もちろん決してすべての事例についてあてはまるものではないというは理解しなければならない。
後半にかけては、集団の意見が正しいにも関わらず、その集団の意見を拾い上げることの難しさを語っている。そこで挙がる悪い例には、世の中の多くの状況があてはまるように見える。重要なのは、それぞれの個人の意見が影響し合わないような状態にしなければならないということだ。例えば、集団の平均的な意見が正解にもっとも近いだろうという予想で、同じ部屋に集まってそれぞれの意見の平均を取ろうとしても、それぞれの立場に寄って、相互の意見は影響し合い、やがてその全体の意見は、上司や専門家の意見に偏る事になってしまうのだ。
集団の傾向を示す手段として、最後通牒ゲームなどが触れられている点が、先日読んだゲーム理論と繋がってきて個人的には面白い。語り口が淡々としているためにやや読むのに根気がいるが、集団をどのように機能させるべきか、という点では非常に興味深い内容である。会社の会議などをうまく運びたい考える人には参考になるのではないだろうか。

マンハッタンプロジェクト
第二次世界大戦中、枢軸国の原爆開発に焦ったアメリカ、イギリス、カナダが原子爆弾開発・製造のために、科学者、技術者を総動員した計画である。計画は成功し、原子爆弾が製造され、1945年7月16日世界で初めて原爆実験を実施した。さらに、広島に同年8月6日・長崎に8月9日に投下、合計数十万人が犠牲になり、また戦争後の冷戦構造を生み出すきっかけともなった。(Wikipedia「マンハッタン計画」

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