「千里眼 岬美由紀」松岡圭祐

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
4年ぶり2回目の読了。前作「千里眼 メフィストの逆襲」と2冊で一つの物語となっており、北朝鮮問題を題材とした物語の完結編である。岬美由紀(みさきみゆき)や蒲生誠(がもうまこと)は東京カウンセリングセンターの研修生となった謎の女性、李秀卿(リ・スギョン)を北朝鮮の工作員と疑って身辺警護する。
北朝鮮で生きてきた李秀卿(リ・スギョン)と美由紀(みゆき)は物語中で何度も言い争いをする。信じるものや育った環境によってどんなに理論的な会話を重ねようともお互いに理解することは難しいものだと感じさせるが、それを辛抱強く続けることによってそれは可能になるということもまた教えてくれる。
そして、物語中盤から、正体を現した李秀卿(リ・スギョン)によって、日本と北朝鮮の関係の中で多くの日本人が誤解している一つの真実の形を見せている。

日本国内の犯罪。だが、容疑者扱いされた外国の関係者はそれによって迷惑を被る。ところが、その疑いを晴らす機会を日本政府は外部の人間には与えない。それが結果的に非協力態勢を生む。相互の信頼関係を遠ざける。
日本も過去に嘆かわしい行為の数々をはたらいているだろう。アメリカと手を結び、アジアに強大な軍事力を展開させている。原子力発電所も数多く建設している。それらについては朝鮮民主主義人民共和国になんら事情を説明しようとしない。一方で、わが国が防衛のためにミサイル開発をしたり、発電所建設のために原子力の研究施設を築こうとすると、すぐに核ミサイルを配備するかもしれないといって喧嘩ごしになる。きみらは自分たちが正しく、わが国が間違っていると信じ込んでいる。
北朝鮮も紆余曲折を経て、近代化の波のなかで平和を維持しようとしつづける。内乱を防止するために人々に一つの統一された思想を持たせる。日本ではそれを”洗脳”と呼ぶ。だが彼らにとっては、それはひとつの平和維持のための手段だ。それが正しかったかどうかうかは、数十年後の歴史の判断に委ねられる

もちろんこの物語は松岡圭祐の作り出したフィクションなのだから、必ずしも真実が描かれているとは限らない、しかし、僕らが「真実」として受け止めていること。つまり、ニュースや新聞から得られる情報によって僕らが持っている北朝鮮に対する印象も、必ずしも真実とは限らないのである。北朝鮮に対する考え方を変えてくれる作品である。


チュチェ思想
北朝鮮のいわゆる「主体思想」。1960年代の中ソ対立の中で北朝鮮の自主性を守るために、金日成〔キムイルソン〕が打ち立てた。マルクス・レーニン主義を下敷きに、人間観、歴史観、領導論、自主路線政策、関係理論などを粗描したもの。
参考サイト
アメリカ大使館爆破事件(Wikipedia)

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