「フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?」小林章

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ドイツで活躍する日本人の書体デザイナー小林章(こばやしあきら)が外国語のフォントについて独自の切り口で語る。
サブタイトルの「ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?」にあるように。普段フォントというものに関心を持っていない人にとっても興味をひく切り口で始めている。LOUIS VUITTON、GODIVAなど、フォント単体で見ると普通に見えるのに、なぜ高級感が感じられるのか。
そんな出だしで始まって、海外のフォントの文化や手書き文字の文化の違いについても触れている。日本語でも同じだが、印刷につかわれるフォントと手書き文字ではその見え方や書き方は異なる。外国でもそれは同じで、特に手書き文字にはその国独自の文化が根付いているらしい。数字の「1」の書き方がこんなにも国によって違う事に驚かされた。何も知らずに海外にいったら、僕らは手書きの「1」という文字すら識別できないだろう。
そして、フォントに関する使えそうなトリビアも満載。フォント好きにはおすすめである。世の中のそこらじゅうにあふれているフォント。それを知れば普段の生活はもっと楽しくなるはず。
【楽天ブックス】「フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?」

「Pretty Little Liars」Sara Shepard

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女性から見ても美しく魅力的なAlisonを中心として集まった仲良しの女子5人組、しかしある夜を境いにAlisonは行方不明になり、それから3年が経って残りの4人Aria、Hanna、Spencer、Emilyもそれぞれ少しずつ疎遠になり、それぞれ新しい友人や生活を見つけて別々の日々を送るようになっていた。
日本で言うと中学生から高校生にあたる年代なので、彼女たちの興味の対象はもちろん勉学だけでなく、部活動や女友達や恋人やパーティなど。そんななか、4人はそれぞれ実はAlisonと個別に他の人に知られたくない秘密を共有していた。そのためにAlisonの失踪を嘆きはすれど、どこかで、これで秘密が公になることはない、と安堵する思いも持っている。そんな微妙な心のうちが面白い。
そんななかAという名乗る人物からそれぞれのもとに、Alisonしか知り得ない内容のメールが届き、それぞれがAlisonの影におびえ始めるのである。これは誰かのいたずらなのか、それともAlisonはどこかで生きているのか、と。
そんな物語の進行とは別に、彼女たちの興味のあるブランドや、食べるものなど、アメリカの生活に根付いているだろうものや表現がたくさん出てくるのが個人的にうれしい。「ビバリーヒルズ青春白書」や「The O.C.」を小説で楽しめる感じである。
残念ながら本作品は物語の本当にプロローグに過ぎないという事が読み終わってわかる。多くのいくつかの謎を残して続編に引き継がれてしまうのだ。急がずに読み続けていきたいと思う。

「ダイナー」平山夢明

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大藪春彦賞受賞作品。
退屈な人生に嫌気がさし、ちょっと魔が差した末に殺されかけて、最終的に、殺し屋が集まる会員制のダイナーでウェイトレスをすることなったオオバカナコ。下手な事をしたらその場で殺されかねない日々を送り始める。
設定が設定なだけにそのレストランで起きること、そこを訪れる人、いずれも小説だからこそできるような残酷さ、醜悪さを持っている。したがって、物語自体は非常に現実離れしたものになっている。
しかし、ダイナーを訪れる殺し屋たちも、もちろんなんの理由もなく殺し屋になったわけではなく、物語中で語られるその「殺し屋になったきっかけ」は、まだ「正常な生活」の範囲にいる僕らが見ないようにしている現実世界の暗い部分を見せつけてくれるようだ。今の状況を放っておいたらこんなことにもなるかもよ、こんな人が生まれるかもよ、と。
そんななかで、オオバカナコはコックであるボンベロとその飼い犬でこれまた殺し屋の菊千代とダイナーを切り盛りしていくのだが、少しずつ過去のつらい経験が明らかになっていく。
なにか訴えるものが感じられるかもしれない。
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「龍神の雨」道尾秀介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第12回大藪春彦賞受賞作品。
添木田連(そえきだれん)と妹の楓(かえで)は事故で母を亡くし、継父と暮らしている。また、溝田辰也(みぞたたつや)とその弟の圭介(けいすけ)は母に続いて父を亡くし、父の再婚相手とともに暮らしている。家庭に不和を抱えた2組の兄弟が少しずつ近づいていく。
2組の兄弟がそれぞれ、添木田連(そえきだれん)目線と、溝田圭介(みぞたけいすけ)目線で展開する。添木田連(そえきだれん)と楓(かえで)は、働きに出ない継父の行為に嫌悪感を抱いている一方で、溝田辰也(みぞたたつや)と圭介(けいすけ)は、必死に本当の母親になろうとしてくれる、父親の再婚相手の里江(さとえ)に心を開けないでいる。2組の兄弟は似たような境遇に置かれながらあるいみ対照的なところが面白い。前半はそんな家庭の不和のなかで思い悩み、葛藤するそれぞれの心のうちが非常にいい空気を醸し出している気がする。
後半は一点物語が大きく動き出すのだが、個人的にはむしろ物語前半の雰囲気が気に入っていて、むしろ後半の大きな展開は物語全体の質を落としてしまったようにも感じる。
今回で著者道尾秀介の作品に触れるのは3回目だが、その内容の変化に驚かされる。まだ独自のスタイルが確立されていないような印象はあるが、この先が楽しみでもある
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「一瞬の風になれ」佐藤多佳子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2007年本屋大賞受賞作品。
神谷新二(かみやしんじ)は高校に入ってからそれまで打ち込んできたサッカーを辞めて陸上部に入部することを決めた。一緒に入部したのは天性の才能を持つスプリンター連(れん)。陸上にかける高校生たちの青春物語。
最近陸上を扱った物語というと、マラソンか駅伝であることが多いが、本作品は、短距離100メートル走と、400メートルリレーを扱っている点が新しい。著者は実際にある陸上部を長い間かけて取材し、その結果本作品を書いたという事なので、物語中で語られる理論や練習法はいずれも非常に興味をひかれる内容である。そもそも、陸上経験者でない人にとっては、100メートル走を走る選手がどんな理論でトレーニングを積み重ね、どのように意識しては知っているのかについて触れる機会がない。読んでいるだけで少し自分も速く走れるのではないか、という気がしてしまうから面白い。
もちろん、そんな陸上理論は物語の一部分でしかなく、高校生らしいいろいろなドラマを繰り広げてくれる。部活内の恋愛や、顧問の先生の過去などはもちろんであるが、1年ごとに後輩から先輩へと立場が変わり、やがて引退を迎えるという部活動ならではのエピソードも懐かしい。結果を残せずに引退をすることになった先輩を見送る場面は印象的である。

ここで何回、トラックの白線を引き、何回その線に沿って走ったのだろう。どんな試合の喜びの涙も、みな、ここから生まれてきたものだ。かけがえのない場所だ。俺たちに皆にとって。

そんななかで、神谷(かみや)もまた一時期心を折りそうになるが、それでも再び陸上へと戻ってくるのだ。

短距離でも長距離でも、タイムにも順位にもかかわらず、限界にチャレンジして走ることが、単純に尊い。その苦しさと喜びを共有できるのだ。走るのは一人ひとりでも、バトンや襷がなくても、俺たちは分かち合うことができる。

そして物語は終盤にかけてライバル校との直接対決へと向かっていく。全身全霊をかけて物事に取り組むことの尊さを改めて感じさせてくれる。力を与えてくれる青春小説。
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「成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝」レイ・クロック/ロバート・アンダーソン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
マクドナルドを築いたレイ・クロック。マクドナルド兄弟に出会う前の彼の人生と、マクドナルド兄弟に出会ってからマクドナルドを拡大する過程も含め、その生涯を描く。
まず最初の驚きは、彼がマクドナルド兄弟に出会ってそれを大きくしようと決断したのが、彼がすでに50歳を超えていたということだ。確かに今とは時代が違うかもしれないが、人間は歳をとるにしたがって若いころ持っていた情熱やエネルギーは少しずつ薄れていくというのが一般的に言われていることだけに、50歳を超えてからその情熱をマクドナルドに注いだというのは印象的である。
基本的には、マクドナルドを拡大させる過程での人との出会い、困難や葛藤などを語っている。本人も語っているように、誰も注目していなかったフライドポテトに力を入れた点がマクドナルドの拡大の最初の決め手になったようだ。
例によってこの手の成功物語というのは、人名や法的手続きに関する内容が多く、若干わかりにくい部分もあったが、レイ・クロックがその生涯にわたって持ち続けた情熱は伝わってくるだろう。

やり遂げろ──この世界で継続ほど価値のあるものはない。才能は違う──才能があっても失敗している人はたくさんいる。──天才も違う──恵まれなかった天才はことわざになるほどこの世にいる。教育も違う──世界には教育を受けた落後者があふれている。信念と継続だけが全能である。

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「勝者のエスプリ」 アーセン・ベンゲル

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
現在では「人の才能を見抜く天才」と呼ばれ、日本の名古屋グランパスの指揮をとったのち、イングランドプレミアリーグの名門アーセナルで偉業を成し遂げたベンゲルであるが、そんな彼がアーセナルへの発ったのちに日本のサッカーについて語った内容をまとめている。
序盤からその物事を分析する観察力の鋭さに驚かされる。才能のある人間が陥りやすい罠と、監督がするべき役割が非常に説得力のある形で描かれている。大人になって、若手を指導する立場へと変わっていく人々にとって参考になるのではないだろうか。
そして後半では、グランパスでの出来事や、日本のサッカーの将来についても語っている。残念ながら、本書が出版されたのがすでに15年以上前という事で、その空白による違和感は拭えないが、ベンゲルが本書で述べている日本サッカーへの提言はいくつかはすでにJリーグの中に反映されているように見える。
むしろ、アーセナルで何人もの若手選手を世界的選手に育て上げた現在の彼の考えに触れてみたいと思った。
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「ボーダー」垣根涼介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生になったカオルはある日友人からファイトパーティの話を聞く。それはかつてカオル自身が仕切っていたパーティでしかも主催者たちは自分たちの名前を語っているという。カオルはかつてのリーダー、アキに連絡を取る事を決める。
「ヒートアイランド」シリーズの第4弾だが、同時に同著者の作品「午前3時のルースター」の内容も絡んでくるため、本作品から読んで楽しむにはややハードルが高いかもしれない。逆に、今までの4作品を読んでいる人にとっては間違いなく読み逃せない内容である。
その後のアキ、その後のカオルの生活を描きながら、過去の出来事についてもハイライトのように触れているので、必ずしも過去の物語をすべて憶えている必要はない。
物語の主な展開のほかに印象的なのは、カオルとカオルの大学の友人である慎一郎(しんいちろう)の心の内面だろう。どこかその年齢以上に達観した雰囲気を持つ2人は次第に近づいていく。終盤にはその理由と、それぞれのその複雑な思いが見えてくる。
個人的にはこのシリーズで出てくる柿沢(かきざわ)という男の常に冷酷までに最善の行動を選択する部分に魅力を感じているのだが、本作品でもそれは健在である。ぜひいままでの4作すべて読んでから読んで欲しい。
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「Twilight (The Twilight Saga)」Stephenie Meyer

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
家庭の都合からワシントン州のForksに引っ越した高校生のBellaはそこで父親との新たな生活を始める事となる。しかし、新しい高校でBellaは他からは距離を置いているグループと出会い、次第にそのなかの一人Edwardに惹かれていく。
映画にもなった有名な物語。すでに映画を第3作まで見てしまったため、どうしても映画の印象が拭いきれないが、聞くところによると、小説が非常に美しくまとめられているということだったので読む事にした。
今更説明するまでもないが、本作品は人間と吸血鬼との恋愛物語。第1弾の本作品は基本的にはBellaとEdwardが惹かれ合い、お互いの生き方考え方の理解を深めていく様子が主に描かれているため、あまり大きな展開はない。続編に対する下準備という意味で読むべきだろう。
強いて言うなら吸血鬼という生き方に憧れるBellaの気持ちが巧く伝わってくるような描き方がされている気がする。BellaとEdwardの会話のシーンが多いので、若干退屈するかもしれない。

「オシムの言葉」木村元彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
元日本代表監督でその前は降格寸前のジェフ千葉を再建させた手腕を持つオシム。しかし、彼もまたユーゴスラビア出身故に戦争に振り回された人間の一人。そんなオシムの人生を描く。
前半は日本に来る前のそのサッカー人生について書いているが、その人生からは何より日本とユーゴスラビアの環境の違いが見えてくる。サッカー以外にできることがなかったからサッカーを始めた、というそのコメントには、サッカーに対する日本人と貧しい国の人々の考え方の違いを表しているように思う。
やはり90年のイタリアワールドカップの内容が非常に印象深い。準々決勝のアルゼンチン対ユーゴスラビア。あの当時、僕自身はようやく世界のサッカーに興味を持ち出して、正直アルゼンチンのマラドーナを含む一握りの選手しか知らなかったので、ユーゴスラビアなどというチームがこのようなドラマを抱えていたとは知るはずもない。実際には彼らは崩壊しつつある国のユニフォームをまとって戦っていて、その試合はPK戦にもつれこんだのだ。

監督、どうか、自分に蹴らせないで欲しい。
オシムの下で9人中7人がそう告げて来たのだ。彼らはもうひとつの敵と戦わなくてはいけなかった。
祖国崩壊が始まる直前のW杯でのPK戦。これほど、衆目を集める瞬間があうだろうか。

当時の状況を知ると、PKを蹴る事が文字通り命がけ、どころか家族までも危険に晒す事になったかもしれないのである。
後半は日本に来てからの様子が描かれている。最初は不可解だったオシムの振る舞いが、少しずつジェフの選手の理解を得て、チームや個々の強さへと変わっていく様子がうかがえる。リーダーという役割を持つ人間のあるべき姿が見えてくる。むしろリーダーシップを学びたい人はオシムの言葉をしっかり受け止めるべきだろう。また、海外から来て日本の文化にとけ込もうとする人のみ見える日本の文化の問題点も見えてくる。

私には、日本人の選手やコーチたちがよく使う言葉で嫌いなものが二つあります。「しょうがない」と「切り換え、切り換え」です。それで全部を誤摩化すことができてしまう。これは諦めるべきではない何かを諦めてしまう、非常に嫌な語感だと思います。

ユーゴスラビア代表でそのたぐいまれなる才能にもかかわらずオシムによってベンチに退けられながらも、サビチェビッチは数年後チャンピオンズリーグを制して、観客として感染していたオシムとその息子のもとに駆け寄って感謝を伝えたという。
試合に出させてもらえなかった選手が、その監督にこれほど感謝の念を抱くという状況が信じられない。そんな指導者に出会える幸運に恵まれた人間が本当に羨ましく思えてくる。
サッカー関連の本を漁っていて偶然にも今回、ストイコビッチを描いた「誇り」と2冊連続で、ユーゴスラビア出身のサッカー選手を描いた、同じ著者の作品を読む事になってしまったが、ユーゴ紛争についてもっと知らなければならない、とも思った。
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「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」木村元彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フィールドの妖精ピクシー。Jリーグ史上最高の外国人選手と言われ、見る者を魅了したてドラガン・ストイコビッチ。そのサッカー人生は政治に翻弄されたといっていいだろう。そんな彼の人生の軌跡を描く。
僕はサッカーをずっとやっていたし、同時にサッカーファンでもあるからJリーグやワールドカップにはそれなりに関心を持っている。だから、一般の日本人がどれだけストイコビッチのことを知っているのかわからない。
簡単に説明するなら、ストイコビッチは90年のイタリア大会でユーゴスラビア代表の中心となってプレーするが、その後は国内紛争に起因する制裁措置によってユーゴスラビア代表は国際大会に出られなくなるのである。個人的にもっとも印象的なのは、1999年名古屋グランパス時代、ゴールを決めた後に、ユニフォームを脱いでそのうちがわに来ていたシャツに書いた文字を示したときである。「NATO STOP STRIKES」。
サッカーという分野に技術を極めたその心構えは多くのアスリートと同様に非常に刺激になるだろう。そのうえでそんな国が分裂するなかで生きるというその強い意志を感じたいと思ったのだ。
内容はピクシーのたどったサッカー人生の軌跡を丁寧に面白く描いている。僕は90年のワールドカップとその後1997年頃のJリーグのストイコビッチしか知らないが、その間を本書はしっかりと埋めてくれる。しかし残念ながら、その間を埋めるのはほとんど悲劇ばかりである。

国連の経済制裁にはいったい何の効果があったのか。ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争に微塵でも貢献したのか。断じてそうではない。戦争を巻き起こした張本人たちの地位はむしろ盤石になり、シワ寄せは政治的弱者に及んだ。ストイコビッチとそのイレブンをフィールドから追放し、セルビア共和国の庶民をどん底の生活に叩き落とした忌まわしい措置。

思ったのは、ストイコビッチを襲った悲劇はとてもやるせないものだが、それがなければストイコビッチが日本でプレーすることもなかったということ。そしてストイコビッチが国民から愛されているという事だ。
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