オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
社会で企業の一員となって生きる中で有効とも思える考え方をまとめてある。
僕自身の警官からも、多くの企業で非常に偏りのある考え方をする人々を多く見てきたので、このような実践的な考えかがを流布する有用性は感じるが、一方で常に合理的に考えて社会で生きてきた人間にとっては、どれも驚くような内容ではないように感じた。読者自身が毎日「問題解決」という状況にどのように向き合っているかによって、本書の受け取り方は大きく異なるだろう。
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カテゴリー: 和書
「イエール+東大、国立医学部に2人息子を合格させた母が考える究極の育て方」小成富貴子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長男をイェール大と東大に、次男を国立大学医学部に合格させた母親が、その教育方法について語る。
僕自身の関心が向いているせいか、最近この手の教育方法を語った書籍が多いように感じる。このような本を読む時、気をつけなければならないのは、結果が良かったからと言って、その過程で行ったことのすべてがその成功に結びついているとは限らないということだ。
そんななかで、本書を読んでぜひ真似したいと思ったことは、「謝罪と感謝の際に理由をつけさせる」というものと「机ではなくリビングで勉強させる」というものである。ただただ「ありがとうと言いなさい」では考える力や表現力は育まれずただ機会的に「ありがとう」を繰り返すだけになってしまうだろう。またリビングで勉強することで、小学生の頃には子供にとってすぐに質問しフィードバックを受けることのできる環境となるし、中学生や高校生になればそれが適度な親子のコミュニケーションの機会になるのだろう。
また、家族会議を開いて、旅行先をみんなで決めながら歴史を学ぶという点も非常に面白いと思った。
その一方で、漫画やゲームやテレビを見せないという方針は、本当に正しい選択なのか疑問である。難関大学への合格というのが人生のゴールであれば問題ないかもしれないが、変化の激しい世の中に対応しどのような状況においても優れた能力を発揮できる人間を育てるのであれば、様々なものに早いうちから触れておく方がいいように個人的には感じた。
どの方法も大学合格のための方法としては納得感のあるものばかりだが、両親ともに多くの時間と情熱を注ぐ覚悟があってこそできることだと感じた。
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「ストーリー・セラー」有川浩
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
小説家である妻と、その作品に惚れ込んだ夫の物語。
特別印象的な内容というわけではなかったが、女性の小説家を主人公に据えているということで、著者自身の体験が反映されておりかなりの部分が現実に近い形でえがいているんだろうと感じられた。
物語全体がSideAとSideBの大きく2編に分かれており「イニシエーション・ラブ」を連想させる。ひょっとしたら僕が読み取ることができなかった裏の意図が込められているのかもしれない。
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「二十億光年の孤独」谷川俊太郎
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
タイトルはずいぶん前から知っていたが、知り合いから勧められたことで、読んだことはなかったことに気づき、今回手にとった。
正直、わからない。もう少し共感できるような詩があるのではないかと期待したのだが、どこか表面的に感じられてしまった。それぞれの詩になにかもっと深い真意のようなものがあるなら僕には理解できなかったようだ。
印象的なのはこの「日日」という詩の最初の4行。
僕に持ち上げられないものなんてあるだろうか
次の日僕は思った
僕に持ち上げられるものなんてあるだろうか
誰しも、辛い日もあれば調子のいい日もある。そんな思いを綴ったのだろう。
ひょっとしたらもっと若いときに読むべき詩集だったのかもしれない、と感じた。
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「理由」宮部みゆき
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ある高層マンションで4人の人間が殺害された。やがてその4人が本来その部屋に住んでいるはずの人々ではなかったことがわかる。
15年ぶり2度めの読了。直木賞受賞作品でありながらも、最初に読んだ当時はこの作品の訴えようとしていることがつかめずにいた。15年経ち、僕自身にとっても人生は15年前とは違うように見えているはずで、今回こそこの作品の本質が理解できるのではないかと思って読み直した。
事件自体は、高級マンションのローンを支払えずに手放さざるをえなくなった元の持ち主と、格安でその物件を手に入れようとする人、そして不当にマンションに居座って利益を出そうという占有屋の間で起こったことである。占有屋という聞きなれない職業についても非常に興味深いが、事件に関わることになったそれぞれの人々の人生が興味深い。
少し背伸びしてローンを組んでマンションを購入した夫婦、息子たちに自分の能力を誇示するために抵当物件を購入することを選んだ人、占有屋に雇われてそのマンンションに居座ることになった人々などである。
いずれも、人生のなかでどこにでも転がっていそうなきっかけから、人生が少しずつおかしな方向に転がってしまった結果、この事件の関係者になってしまったのである。4人の殺人事件というと、僕らは極悪非道な犯人や事件関係者を想像してしまうが、
実際には普通の人生が絡み合った結果起こったことなのである。誰であろうが、被害者にもなりうるし、加害者にもなりうる、そんな現実を突きつけてくれる。
物語が訴えようとしているテーマとしては同じく宮部みゆきの「火車」に似ている気がする。ただ、本書は「火車」と違って、描かれ方が誰かの視点を中心にしているわけではないので、少し共感しづらい点が残念である。
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「ありえないデザイン」梅原真
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高知県で活躍するデザイナーの著者が仕事の取り組み方、考え方について語る。
「デザイナー」という名前でその肩書きを語っているが、その仕事の内容を見るとむしろ「プロデューサー」に近い。それでも著者が自らを「デザイナー」と呼び続ける気持ちは理解出来る。僕自身「デザイナー」とも呼べる職業で何年も生活していると、その言葉の持つ範囲が少しずつ広くなっていくのを感じるのだ。実際には「デザイン」という言葉は、視覚的な何かをつくることをさすだけではなく、新しく何かを作ることすべてに、例えばそれが、仕組みや人間関係やルールを作り出すことだったとしても、使えるのである。
本書では、高知県を中心にそのコミュニティをその企画力とセンスで活性化させていく著者の仕事の様子が描かれている。誰もがこんな生き方してみたいって思うのではないだろうか。
ただ「ありえないデザイン」というタイトルにはやはり違和感が残る。このタイトルが指しているような内容は含まれていなかったし、むしろ著者のすばらしい仕事の様子が描かれていたにもかかわらずデザインを学びたい人が間違って手に取ることを期待したようなタイトルのつけ方が非常に残念である。
本書でもっとも印象的だったのは、「ありのままの良さを伝えるデザインをする」という著者のポリシーである。世の中のいろんな商品をみれば、中身はたいしたものではなくても、美しくデザインされたパッケージに惹かれて買ってしまう、というのはよくあること。そしてそんな仕事を実際デザイナーは求められていたりもいるのだが、著者はそんな人を騙すようなデザインを否定しているのである。だからこそ、本書のタイトルは残念である。
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「潮騒」三島由紀夫
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人口1400人の小島で漁師として働く18歳の新治(しんじ)はある日見知らぬ少女と出会い、恋に落ちる。
三島由紀夫というとその作品よりもその壮絶な人生の印象が強く、今まで作品自体を読む機会はなかった。そんななか、本作品は三島由紀夫作品のなかでも異色で読みやすいという評判を聞いて手に取った。
物語全体としては十代の新治(しんじ)と初江(はつえ)の純愛物語とまとめることができるが、もっとも印象的なのはその舞台となった小島の風景の描写である。実際に伊勢湾に存在する神島を舞台としており、島の名前以外の多くは実際に存在する地名で、伊良湖水道や伊勢湾の記述もある。そして、物語中で描かれているその島の人々は、島ゆえに非常に閉鎖的だが、普段つながりの希薄な都会で過ごしているであろう多くの読者にとっては、魅力的な暖かさを感じさせてくれるのではないだろうか。
新治(しんじ)と初江(はつえ)の恋愛からは、地位もお金も気にせずに恋に落ちることのできる若さが感じられる。また新治(しんじ)の母や初江(はつえ)の父など、多くの人間がその恋愛をより強固なものにするために一役買う点が面白い。昨今はコミュニティのなかで恋愛することを嫌う傾向があると聞くが、必ずしもデメリットばかりではないとも感じた。
残念ながら本書について文学的な評価をするほどの知識はないが、他の三島作品にも触れてみたいと思った。
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「アートディレクションの「型」」水口克夫
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
数々の有名広告を手がけた実績を持つ著者がアートディレクションの心がけを語る。
本書では「つくる」「かたる」「すすめる」と、大きく3つに分けてアートディレクションの「型」を語っているのが、印象的だったのは「つくる」の章。そんななかでも今後意識したいと重っったのは。
というもの。単純に綺麗なものをつくるだけでなく、見た人がまず「ん?」となり、そして、「あ、そういうことか!」となるような広告はいい広告だというのである。言われてみればそれほど驚くことではないかもしれないが、これを常に頭においてデザインができているかというと疑問である。
もうひとつが
である。これもそこらじゅうで語られることであって、シンプルなものがもっともわかりやすく使いやすく、理解しやすい、と誰もが分かっていながらも、世の中には複雑なものが増えていってしまう。ある程度の経験を積んだデザイナーなら誰しもこの意識はもっているだろうが、本書で取り上げる実例を見るとその「捨て方」のバッサリ具合が徹底していて驚かされる。こちらもぜひ改めて意識したい。
残念ながら実例が20年以上前のものばかりで、リアルタイムに見た記憶のある広告が少なかった。本書のターゲット層はきっともっと下の世代であろうことを考えると、その違和感は他の読者にはもっと激しいのではないだろうか。
上でも語っているが、とりたてて新しいことを語っているわけではないので、多くのデザイン関連書籍の一冊として読むべきなのだろう。
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「英EU離脱の衝撃」菅野幹夫
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
イギリスのEU離脱の背景や今後の課題などについて語る。
2006年6月のイギリスの国民投票によるEU離脱は大きなニュースとなった。あるイギリス人の友人はFacebook上で友人に謝っていた。「これは僕らが望んだことではない」と。起きたことはニュースで知ることができるが、その裏にある理由についてもっと知りたいと思って本書を手に取った。
今回の国民投票によって、北部と南部、年配者と若者の考え方が大きく分かれた理由だけでなく、EUという組織の歴史的系などについても今まで知らなかったことを知ることができた。考えてみれば当たり前なことなのかもしれないが、国民投票で離脱という結果になったからといってすぐに離脱と決まるわけではなく、その後イギリスがEUに離脱の意思を伝えて初めて手続きが始まる、という事実も本書を読むまで知らなかった。また、イギリスが島国ゆえに他のEU諸国とは少し異なるスタンスを持ってEUに接していたという事実も印象的だった。
離脱推進派の政治家たちが自らの責任を取ることもない状態で、EU離脱という事実に向き合わなければならないテリーザ・メイ首相の苦悩は想像に難くない。本書でも今後の課題として語られている部分ではあるが、イギリスが今後どのようにEUと向き合っていくのか注目したい。
実際以前にもEUについて詳しく知りたくて本を買ったことがあったのだが、その本はデータなどの数字が多くて、あまり読みやすいとはいえなかった。それに比べて本書はとても読みやすく、内容も細かすぎず、まさに「イギリスのEU離脱について知りたい」という人にぴったりの内容である。
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「グラフィック・デザインの歴史」アラン・ヴェイユ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アールデコの代表的なグラフィックデザイナーであるカッサンドルの展覧会を訪れる機会があり、その今見ても斬新と思えるデザインに惹かれ、グラフィックデザインの歴史を改めて知りたくなり本書を手に取った。
アールヌーボーやアールデコなど19世紀後半から現代までのグラフィックデザインの流れを、代表的な作品とともに紹介している。グラフィックデザインは芸術ではない。それゆえに、ただ単に美しいだけではなく、どうやって人々の注目を集めるか、試行錯誤してきた歴史が見えてくる。
ミュシャやカッサンドルなど、すでに知っているデザイナーの歴史的な位置を知ることができただけでなく、今まで知らなかったデザイナーの作品をたくさん見ることができた。経済と商業とともに発展してきたグラフィックデザインの流れに触れることで、ただ単に美しいものだけを作って満足していないか、自分自身のデザインのスタンスを改めて考え直すきっかけになった。
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「Front Rowアナ・ウィンター ファッション界に君臨する女王の記録」ジェリー・オッペンハイマー
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「プラダを着た悪魔」のモデルになったと言われる実在する女性編集者アナ・ウィンターを描いた作品。
映画の印象だと、部下を育てようという、厳しさの裏にある優しさのようなものを感じた。しかし、本書を読むと、ただひたすら能力のある人間だけで周囲を固めて、自らがのし上がっていくのに手段を選ばず必死な印象を受けた。どちらかというとこのような人間がどうして周囲から認められて世界的なファッション誌のトップにまで上りつめたのか不思議な気がしたが、それは実力主義のアメリカと礼儀を重んじる日本の文化の違いからくる違和感かもしれない。
ファッション誌というと、流行を記事にするという印書を持っていたが、本書で描かれているヴォーグなどの雑誌はむしろ「流行を作り出す」という感じである。アナによって認められたデザイナーたちは、それによって流行となり成功するのであるから、大きな権力となるのも納得できる話である。
本書でもっとも印象的だったのは、アナのファッションに対するこだわりの強さである。もちろん立場的にはアナは世界で最もファッションに精通している人間なので当たり前かもしれないが、それでもそのファッションに対する姿勢には驚かされる。人間、誰しも外見も大事だということはわかっていながらもなかなか毎日細かい身だしなみにこだわりつづけることはできないもの。本書を通じて改めて自分の普段の身だしなみも見つめ直してしまった。
普段接することのない世界で、情熱を注いで生きている人間の考え方は、視野を広げてくれる気がする。
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「同時通訳者の頭の中 あなたの英語勉強法がガラリと変わる」関谷英里子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
同時通訳者が英語の勉強方法を語る。
著者自身、主に日本でその英語力を身につけたゆえに、その勉強方法はとても参考になる。著者が特に強調するのは「イメージ力」と「レスポンス力」である。そして、その能力の向上のための方法として、パラフレージング、シャドーイングを挙げており、その理由とその方法を解説している。
シャドーイングについてはすでに多くの本で触れられていて、実際やっているひとも多いのでその効果は疑う理由もないが、パラフレージングについては今まであまり取り組んでこなかった。本書を読んで改めてその効果を実感したのでぜひ自分の勉強のなかに取り入れたいと思った。
もっとも印象的だったのが、著者がお気に入りの映画「ビフォア・サンライズ」を見ていたときの話。そのなかで、著者は、主人公のセリーヌのフランス訛りの英語を素敵だと思ったと書いているのである。僕らはいつも、英語らしい英語を話そうとし、日本語っぽいカタカナ英語を恥ずかしいと思う傾向がある。しかし、見方を変えれば日本語訛りの英語を誇らしく思う、という方向もあるのではないかと思った。
全体的には、ページ増しのための内容のように思える部分や、まとまりや内容の流れに違和感を感じる部分もあった。そこらじゅうの英語教材に書いてあるような学習方法や学習教材、言葉の意味にページを割かずに、著者自身の考え方や勉強方法に絞ったらさらに濃い内容になったのではないだろうか。それでも、英語学習者にとっては参考になる内容が多く書かれていると感じた。
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「赤穂浪士」大佛次郎
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

「赤穂浪士」や「忠臣蔵」というタイトルは聞き慣れており、47人の武士が復讐を果たす物語は知っていながらも、ここまで語り継がれている物語に一度も触れたことがないことに疑問を感じて本書を手に取った。そもそもどうして、ただそれだけの単純な物語が上下巻含めて1200ページを超える物語になり得るのかという点も興味深かった。
実際には単純に復讐しようとしてすぐにそれを成し遂げるのではなく、発端となる出来事から実際にその復讐を成就するまで思っていた以上に長い月日が流れていることに驚いた。また、そんななかで、大将である内蔵助(くらのすけ)が行った根回しや、ともに行動する同志、単純なその場の怒りや苛立ちから立ち上がったものを含まぬように、言葉を変え、行動を変えて、本当に強い意思を持った者だけに絞っていく様子が印象的である。また、命を狙われる吉良上野介(きらこうずのすけ)の周囲の人間の思惑もおもしろく、どれも歴史上の事実だからこそある現実味にあふれている。
残念なのは、歴史上の事実だからこそなのか、登場人物が多く、またすでに100年近くも前に書かれた本ということで、理解しづらい部分も多かったということ。全体の内容を考えると、もう少し短くまとめられそうな気もする。
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「夏美のホタル」森沢明夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
プロの写真家を目指す相羽慎吾(あいばしんご)は恋人の夏美とともに年老いた母と離婚してその息子の暮らす店を見つけ、そこを拠点に写真を撮ることになる。
序盤は、慎吾と夏美、そのお店のヤスばあちゃんと、息子の地蔵さん(笑顔からそう呼ばれる)によるほのぼのとした田舎生活が描かれている。ホタルやオイカワなど、慎吾と夏美が田舎町で遊ぶシーンは懐かしい子供時代を思い起こしてくれるだろう。
物語のなかでやや異質な存在なのが同じ村に住んでいる仏師雲月(うんげつ)の存在である。雲月(うんげつ)の彫る仏像は、まるで生きているかのような躍動感があるのだという。天才と呼ばれる雲月(うんげつ)であるが、妻と別れて村に移り住み、慎吾や夏美と出会うことになる。職業柄ぶっきらぼうな態度をとりながらも、少しずつ打ち解けていく様子が微笑ましい。
やがて、地蔵さんの過去が少しずつ明らかになっていく。時間をともにすることで2人に家族のような親しみを感じる慎吾と夏美はできるかぎり力になろうとするのである。
夏の匂いが漂ってくる物語。
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「昨夜のカレー、明日のパン」木皿泉
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
7年前夫に先立たれたテツコは亡くなった夫の父ギフと今も暮らし続けている。微妙なバランスで保たれている2人の関係に、テツコに結婚を申し込んだ岩井さんが入り込んでいく。
不思議でなんか暖かい物語。夫の父親と2人で暮らし続けているテツコも不思議だが、その夫の父親、ギフ(「義父」がそのまま呼び名になったらしい)も、テツコに結婚を申し込んだ岩井さんも不思議な性格だけどとてもやさしくて、そんな3人のやりとりが、読者の心を和ませてくれるだろう。
何かを学べるわけではないが、今まで読んだ事がないような不思議な作品。人間関係のあり方に正解はなく、それぞれが心地よい関係がその人にとっての正解なんだと感じた。
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「シューマンの指」奥泉光
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
語り手「私」は、古い友人から指を失ったはずの天才ピアニストの長嶺修人(ながみねまさと)が復活したことを聞く。信じられない思いから、長嶺修人(ながみねまさと)が指を失うまでの出来事を振り返る。
物語は、音楽に青春をかけた3人の男子高校生、語り手である「私」、長嶺修人(ながみねまさと)と鹿内堅一郎(しかうちけんいちろう)を中心に進む。圧倒的に音楽的能力の高い長嶺修人(ながみねまさと)が2人に持論を語るなかで、音楽には僕ら一般の人間が理解できないような、音楽家だけがわかる世界があることが伝わって来る。シューマンを中心に作曲家のことを語るシーンが多く、音楽の知識が少ないことを残念に思う一方で、実際に作曲家やその音楽について知識を持っている人ならどの程度本書で長嶺修人(ながみねまさと)が語っていることに共感するのだろうかと興味を持った。
そして、ある春休みの夜、3人が目撃した殺人事件を機に物語は動き出すこととなる。
音楽という要素を多く含む点は新しく、いろんなクラシック音楽を聴いてみたいと思わせてくれたが、結末はありがちな展開に感じてしまった。
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「神去なあなあ日常」三浦しをん
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校を出たばかりの平野勇気(ひらのゆうき)は、母の半強制的な勧めによって、林業の盛んな山奥の神去村(かむさりむら)で働くこととなる。平野勇気(ひらのゆうき)が少しずつその村のしきたりや山の魅力に惹かれていく様子を描く。
林業に対して僕らが持っているイメージは、木を切って、植えて、とそのぐらいだろう。しかし実際には、木を運ぶことも必要だし、木が成長するように適度な間隔をあけることも必要だったりと、その一連の流れには、長年の知恵と英知が結集されているのである。本書は18歳の平野勇気(ひらのゆうき)の戸惑いとともに、そのような林業の奥深さを教えてくれる。
そのような考え抜かれた毎日の繰り返しの作業の一方で、神去村(かむさりむら)の人々の心神深さも印象的である。移り変わりの激しい山の天気や、気温の変化など、どうしようもないものに人生を左右されるからこそ、神に祈らずにはいられないのだろう。神去村(かむさりむら)の人々が時には理由もわからないまま何年も続けている行動を知ると、都会で生きているとわからない自然の偉大さが感じられる。
そんななかで山の魅力にとりつかれていく平野勇気(ひらのゆうき)だが、もちろん若い男なので色恋沙汰も描かれている。神去村(かむさりむら)の個性的な登場人物と合わせて楽しめるのではないだろうか。
続編も出ているようなので楽しみにしたい。
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「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて 」クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
企業が破壊的イノベーションへ対抗するための方法を語る。
まず、持続的イノベーションと破壊的イノベーションという言葉を用い、ソニーやアップルが行ってきたイノベーションを説明し、相互依存型アーキテクチャとモジュール型アーキテクチャという言葉で、企業が作る商品を説明している。世の中の多くの企業の栄枯盛衰が、この考え方で説明できる点が面白いが、実際にはこのあたりの内容は「イノベーションのジレンマ」に含まれる部分なのだろう。
中盤以降は、そんな今までわかってても避け方のわからなかった、破壊的イノベーションを避けるために、持続的イノベーションの状態にある企業はどのような取り組みをすべきなのかを語っている。
とてもすべてが理解できたとは言い難いが、世の中の流れについて新たな視点をもたらしてくれる。
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「教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に改革する」クレイトン・クリステンセン/マイケル・ホーン/カーティス・ジョンソン
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
破壊的イノベーションの説明を用いて、教育がいつまでたっても進歩しない理由と、教育の今後の進化すべき方向性を語る。
印象的だったのは教育のモジュール化という考え方である。現在の教育はすべて、それ以前の学んだことが理解できていないと、その次の内容を理解できない仕組みになっており、それが問題だというのである。例えば、足し算、掛け算を理解していないとその先にある、分数の計算が理解できないために、すべての生徒が同じ順番で学んでいかなければならないために教育を非効率にしているのだという。つまり、教育のプログラムは相互依存性が強いのだ。
そんななか解決策として本書が主張しているのは、教育をモジュール化し、1人1人が独立したコースを自由に履修し、必要な時間をかけて理解するという方法である。それによって全員が同じ授業を受ける必要もなく、全員が同じ内容に同じだけ時間をかける必要もないというのである。確かに、以前であればそもそも「先生の数が足りなくて実現できない。」で終わっていしまったであろう話が、現在であればインターネットを使うことで実現できそうな気がする。
教育の発展だけでなく、経済的なイノベーションの考え方を用いて教育界を語っている点が面白い。
【楽天ブックス】「教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に改革する」
「彼が通る不思議なコースを私も」白石一文
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
霧子(きりこ)がある日出会った死神のような男性、椿林太郎(つばきりんたろう)は教育に情熱を注ぐ男だった。やがて2人は結婚しともに生きることとなる。
白石一文は人生を描くのが非常にうまい。本作もそんな作品を期待して手に取った。実は霧子(きりこ)が出会った椿林太郎(つばきりんたろう)は人の人生の長さがわかるという。そんな彼が結婚相手として霧子を選んだ理由はなんだったのだろう。彼の能力が霧子との結婚にどのような結末をもたらすのかが、物語の焦点となる。
貶すほどの内容ではないが、期待に応えてくれるような印象的な内容ではなかった。人の残りの人生の長さが見えるというのは、最近読んだ百田尚輝の「フォルトゥナの瞳」と重なる部分が多いからなのかもしれない。
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