「あなたの才能も一気に開花 プロだけが知っている小説の書き方」森沢明夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
小説家の著者が小説の書き方を語る。

最近小説を書いてみようかと思い立って、書き始めたのだが、予想以上に難しい。特に自分の体験は比較的書けるにもかかわらず、女性の登場人物が難しい。少しでもヒントがあればと思い本書を手に取った。ちなみにこの著者の作品には触れたことがないので、面白い小説なのかどうかもわからない。

本書は作家を志す人々からの質問に答える形で、著者の考え方を解説している。特にどれかの項目が印象的だったわけではないが、なんとなく行き詰まった時に何をすべきか掴めた気がする。

また、詰まった時にこのような本に触れたいと思った。

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「Chatter 頭の中のひとりごとをコントロールし、最良の行動を導くための26の方法」イーサン・クロス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
内省という素晴らしい行動を呪いに変えてしまうチャッターを、良い方向に導く方法について語る。

本書では「循環するネガティブな思考と感情」をチャッターと呼び、その特徴や制御するための方法を語っている。昨今、人間の幸せは、持っている物の量やお金の量よりもむしろその人のマインドセットに依存する、というのはよく聞く話である。しかし、ではどんなマインドセットを持てばいいのかどのようにしてそのマインドセットを育てればいいのか、という点においてはなかなか明確な指針がない。本書はそんなニーズに応えた構成となっている。

基本的な解決策は、自分から距離を置いて状況を客観的に見ること、であり、その手法についてさまざまな説明や関連する話と合わせて説明している。

僕自身は比較的客観的に自分を見つめることが得意な人間だと自負しているが、本書によるとそれは必ずしもそれはいいことばかりでないらしい。特に嬉しい時などは自分を客観視している人間は、自分に埋没している人ほど素直に喜べないのだと言う。

ラファエル・ナダルが試合中に重視するさまざまな儀式の重要性など、関連する物語も面白かった。末尾にチャッターを制御するための26の方法が掲載されているので、チャッターに振り回されそうになった時のために覚えておきたい。

自分だけで実践できるツール
1.距離を置いた自己対話を活用しよう。
2.友人に助言していると想像しよう。
3.視野を広げよう。
4.経験を試練としてとらえ直そう。
5.チャッターによる身体反応を解釈し直そう。
6.経験を一般化しよう。
7.心のタイムトラベルをしよう。
8.視点を変えよう
9.思ったままを書いてみよう。
10.中立的第三者の視点を取り入れよう
11.お守りを握りしめる、あるいは迷信を信じよう。
12.儀式を行なおう。
チャッターに関する支援を与えるためのツール
1.感情・認知面のニーズに応えよう。
2.目に見えない形で支援しよう。
3.子供にはスーパーヒーローになりきってみようと言おう。
4.愛を込めて(敬意も忘れずに)触れよう。
5.他の誰かのプラセボになろう。
チャッターに関する支援を受けるためのツール
1.顧問団をつくろう。
2.体の触れ合いを自分から求めよう。
3.愛する人の写真を眺めよう。
4.儀式を誰かと一緒に行おう。
5.ソーシャルメディアの受動的使用を最小限にしよう。
6.ソーシャルメディアを利用して支援を得よう。
環境に関わるツール
1.環境に秩序を作り出そう。
2.緑地をもっと活用しよう。
3.畏怖を誘う経験を求めよう。

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「存在のすべてを」塩田武士

オススメ度 ★★★★★ 5/5
1991年厚木と山手で同時発生した男児誘拐事件、厚木の被害者は直後に無事保護され、山手の被害者は3年後祖母の家に戻ってきた。時効を過ぎた2021年、新聞記者の門田次郎(もんでんじろう)が空白の3年間を追う。

物語は誘拐事件を担当していた刑事中澤(なかざわ)の死をきっかけに、空白の3年間を追うことを決意した新聞記者の門田次郎(もんでんじろう)と、もう一方で画廊を経営する30代の女性土屋里穂(つちやりほ)の視点で進む。

誘拐事件の被害者だった内藤亮(ないとうりょう)は現在は著名な写実画家として成功をしており、高校時代は里穂(りほ)と同級生だったのである。週刊誌で報道された同級生の近況に触れて、里穂(りほ)は過去の甘い想いに思いを馳せるのである。

並行して、門田次郎(もんでんじろう)の調査によって少しずつ誘拐事件の空白の3年間が明らかになっていく。誘拐事件と空白の3年間に対して沈黙を続ける内藤亮(ないとうりょう)との間に、一人の写実絵画家の存在が浮かび上がっていく。古い体質の美術界で大成することのできなかった才能の持ち主である彼が、一体どんな経緯を経て誘拐事件に関わることとなったのか。

その過程で写実絵画の深さや、美術界での立ち位置や、閉鎖的な美術界などが描かれる。そして次第に写実がに情熱を注ぎながらも慎ましく生きる優しい男女の姿が浮かび上がっていく。

ひさしぶりに面白い作品に出会った。登場人物がただの名前だけの存在でなく分厚い人生とともに描写されていてどの人生にも共感できる。また写実絵画という新しい世界まで見せてくれるうえに、里穂(りほ)の物語からは一途に一人の男性を想う甘い恋が描かれており、さまざまな要素を見事なバランスで一つの物語に仕上げた作品。極上の読書時間を体験させてもらった。

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「地図と拳」小川哲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第168回(2022年下半期)直木賞受賞作品。1899年、日本が満州へと領地を拡大するなか、その地で生きる日本人や中国人を描く。

日本の側は、満州の地図を描くプロジェクトを中心にそこに関わる人々を描く。一方で中国の側は、外国人が押し寄せてきたことによって家族や家を失った李大綱(リーダーガン)が、その思いを力に変え、のし上がっていく様子と合わせて、同じように不幸な環境で育ったその娘の孫氶琳(ソンチョンリン)を中心に描く。

タイトルにあるように日本の川では満州の地図を描くことや建築についての思考錯誤する様子が繰り返し描かれる。現代で言うとAIのように、正確な地図が広まっていなかった当時は、正確な地図を描くことが単に個人の知識としても、国家間の争いにおいても大きな意味を持ったことが伝わってくる。

しかし、満州という新しい国土をどのように発展させるかを議論を重ねて進める中で、満州という場所を国土として維持できないのであれば、苦労して築いた場所がそのまま敵国のものになってしまうという事実もあるのである。世界を巻き込んだ戦争へと突き進む中で、立場や持っている情報によって、日本人の間でも満州にしっかりとした街を築こうとするものと、満州への資源の投資を節約しようとする人など立場が分かれるのが興味深い。

カンボジアの内戦を描いた「ゲームの王国」でも感じたことだが、著者小川哲が膨大な時間をかけて歴史の調査にあてながら物語に仕上げているのを感じる。しかし、その一方で、それぞれの登場人物の心情描写が乏しく人間としての深みがほとんど感じられない。登場人物の個性が薄いため名前だけの存在になってしまい、読んでいるうちに誰が誰だかわからなくなることが多々ある。読者として有意義な読書にするためには、人間の物語に期待するのではなく、教科書よりも詳細に描かれた歴史として、少しでも現代に通じる真理や知識を学び取ろうという積極的な姿勢が求められる。

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「可燃物」米沢穂信

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
群馬県警の葛(かつら)警部の下に起こった5つの事件を扱う。

群馬県で起こった、遭難事件、交通事故、殺人事件などを部下と共に対応する葛(かつら)警部を描いていく。

正直登場人物が薄っぺらい。著者米沢穂信は以前よりたびたびその作品に触れて、年齢とともに作品が深みを増しているのを感じる。今回もさらに深みを増した作品を期待しただけに、登場人物の人生も言動も薄っぺらく残念である。

警察物語だと深い物語を書けないというなら日明恩の作品を読んでほしいし、短編集だと深い作品を描けないというなら「第三の時効」など横山秀夫の作品を読んでほしい。

王とサーカス」のような良い作品を知っているだけに、本作品から本気で書いている感がまったく感じられない。著者が暇潰しで書いのではないかと思われるような薄っぺらい物語の集まりである。

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「成瀬は天下を取りにいく」宮島美奈

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第21回(2024年)本屋大賞受賞作品。けん玉やシャボン玉など幼い頃からなんでもできて、周囲に振り回されない生き方を貫く中学二年生成瀬あかりの様子を友人の島崎(しまざき)が語る。

成瀬(なるせ)と島崎(しまざき)は地元の西部デパートの閉店のカウントダウンで毎日西武に通うことにしたり、一緒にM-1グランプリに出場するために漫才をしたりするのである。そんな毎日一生懸命生きる二人の様子はきっと良い刺激になることだろう。

本書の魅力は成瀬(なるせ)の真っ直ぐな考え方やその行動力であるが、もう一つ面白いのは滋賀県の膳所(ぜぜ)を舞台にしていることである。大都市でもなければ田舎でもなく、そんなほどほどの街だからこそあまり物語に登場しない場所なので新鮮である。

全体的に、成瀬(なるせ)真っ直ぐに生き方が爽快である。現実ではなかなかここまで割り切って生きることが難しいからこそ、読者の琴線に触れるのではないだろうか。とりあえず自分も成瀬を見習って200歳まで生きることを挑戦したいと思った。

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