オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
クリスマスイブの女性たちの奇跡を描いた5つの物語。
注目の百田尚樹の新作ということでやや好みのテイストとは異なるにも関わらず「こういう物語はどんなふうに描くのだろう」という想いで手に取った。5編ともクリスマスイブに女性に起こった奇跡を描いている。
最初の1編、2編あたりは、こんな物語もたまにはいいな、などと思いながら読んでいたが、さすがに4編、5編とありえない偶然が続けば、感動よりもむしろ冷めてしまう。むしろ想ったのは、こんなありえない確率のできごとでも起きない限り恋愛は成立しないのだろうか、という疑問。
この物語で感動するには現実を知りすぎてしまったようだ。どちらかというえば中学生、高校生向けのラブストーリーという感じ。5編とも主人公の女性のこころがあまりにも美しすぎるのも現実感が乏しい、あまり百田尚樹に恋愛ものは期待できないかも。
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とにかくおすすめ
ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け
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ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント
泣ける本
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優しい気持ちになれる本
悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本
世界を知る
世界の大きな流れを知りたい人向け
深い物語
いろいろ考えさせられる、深い物語
生き方を考える
人生の密度を上げたい方が読むべき本
学習・進歩
常に向上していたい人が読むべき本
組織を導く人向け
日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本
デザイン
ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本
英語読書初心者向け
英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選
英語でしか読めないおすすめ
英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。
「埋み火 Fire’s Out」日明恩
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
希望を失った老人ばかりが火災で死亡するという事件が続いていた。消防士の雄大(たけひろ)は死亡した老人たちの間の関連性に気づく。
前作「鎮火報」の続編で文庫化を待ちに待った作品。自称「安定して金がもらえるからなった」という「やる気のない」消防士雄大(たけひろ)を中心とした物語。序盤は前作同様に、僕ら一般人が描く消防士というものが、実際のそれと大きく異なっていることをリアルに語ってくれる。
雄大(たけひろ)は火災で死亡した老人たちの関連性に気づいて、その背後をさぐろうとする。その背後には、家族に必要とされなくなった老人たちの孤独さや、家族のありかたや理想、世代間の価値観の相違などが描かれている。
そんな物語と平行して、雄大(たけひろ)の周囲の人たちの悩みや生き方についてもしっかりと描いている。目の前で母親が自殺するのを止めなかったことをずっと後悔しながら生きている雄大(たけひろ)の親友の祐二(ゆうじ)や、親の都合のいい子供になっていることに気づいて悩む中学生の裕孝(ゆたか)など、それぞれの登場人物にしっかりとした背景があって説得力があるという点で、日明恩(たちもりめぐみ)作品に例外はないようだ。
後半、女で一人で雄大(たけひろ)を育てた母民子(たみこ)に雄大(たけひろ)が積年の感謝の思いを口にするシーンが特に印象的である。
全体的には若干期待値が大きすぎたせいか、前作に比べるとやや物足りなさも覚えたが、それでも読みどころ満載である。
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「ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記」常岡浩介
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
チェチェンで実際に独立軍とともに行動した日本人ジャーナリストが、チェチェンとロシアについて語る。
「チェチェン」と聞くと、中央アジアのカスピ海と黒海の間で紛争の耐えない地域…、そして、ロシアはその対応に悩まされている、正直、僕のイメージはこんなものである。どちらかといえば、チェチェン側が無差別な殺戮を繰り返しているようなイメージさえある。しかし、本書によって語られているのは、ほとんど反対の内容であった。
また、チェチェンだけでなく、プーチンの就任後、どれほど多くの人が、暗殺されたり不審な死を遂げているかも語っている。この一冊だけで、それを事実と鵜呑みにするほど僕は子供ではないが、公になっている事実、諸外国からの報道をあわせて見比べてみると、その多くが事実に見えて来る。
2000年以降ロシアで起きた大きな事件。たとえば、モスクワ劇場占拠事件、北オセチア学校占拠事件など、当時の日常の忙しさのなかでは、遠い外国で起きている事件として、わずかに関心を向けた程度のものでしかなかったが、本書に書かれていることと、僕がそのニュースから理解したことがずいぶん異なることに気づかされる。
日本のメディアはどちらかというと、物事を客観的に報道できているほうだと思っているが、ロシアのニュースに関しては、かなりの部分、ロシア政府の情報操作によって捻じ曲げられたものを日本のメディアが報道し、それを僕らが目にしているということに恥ずかしながら今頃気づいた。本書を読んで改めてその事件をWikipediaで調べてみて、日本語版と英語版とで記述内容が大きく異なることを知った。
そして、巻末には著者が取材したときのアレクサンドル・リトビネンコのインタビューがそのまま掲載されている。この部分だけでも十分に読む価値ありである。彼はこの2年後に毒殺される。
著者が本書の冒頭で、本書と合わせて読んでほしいと挙げたいる2つの作品。アンナ・ポリトコフスカヤの「チェチェン やめられない戦争」、アレクサンドル・リトビネンコの「ロシア 闇の戦争」。どちらの著者もすでに殺されている。なんか、読まなければいけないような気がしてきた。
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「遠い国のアリス」今野敏
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
少女漫画家の有栖(ありす)は休暇中に熱にうなされて、不思議な世界にたどり着く。そこでは自分の知っている人たちが少しずつ違うように振舞っていた。
警察小説で有名な今野敏の作品である。警察小説の面白さはすでに知っているが、その著者がこうも異なるジャンルをどう描くのか興味があって手に取った。「不思議の国のアリス」をもじったタイトルにどうしてもファンタジーを連想させるが、実際には本作品はむしろSFである。有栖(ありす)が別世界から来たことを受け入れて、みんなで彼女をもとの世界に送り返す方法を考え始める。
そこで議論される時間と空間の話、「四次元」「時空」「亜空間」などは、どちらかといえば理系的な話でファンタジー小説を求めて本作品を買った読者にはひょっとしたら敬遠したい話かもしれない。とはいえ、夢と現実、四次元空間における時間の受け止め方、などはすでに知られている考え方とはいえ、改めて別視点から説明してもらった気がする。
ただ、物語としてはかなり未熟な感が否めない。時間と空間の話を会話形式で進めた初心者向けの教科書、みたいなちょっと残念な出来である。
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「ボックス!」百田尚樹
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
電車内で喫煙している男たちに絡まれた教師、耀子(ようこ)を救ったのは同じ高校のボクシング部の生徒だった。それが耀子(ようこ)のボクシングとの出会いだった。
物語は20代半ばの女性教師耀子(ようこ)と、天才と呼ばれるボクサーであり高校の期待の星である鏑矢(かぶらや)、そしてその幼馴染でいじめられっこでありながらもボクシング部への入部を考える勇紀(ゆうき)を中心に進む。
マイナースポーツでありながらも、通常のスポーツと同一視できないボクシングという競技の特殊性を語りながら、さまざまな動機をもって集まってきたボクシング部の生徒たちの青春を描いている。
生まれながらの天才鏑矢(かぶらや)、そして努力の天才であることが次第に明らかになる勇紀(ゆうき)。そんな親友でありながらも対照的な2人を中心にすえている点が物語を面白くさせている。そして2人の前に立ちはだかるライバル校の無敗のモンスター稲村(いなむら)。複雑なことを考えずに一揆読みできる作品である。
「武士道シックスティーン」や「ひかりの剣」など最近スポーツものに涙腺が甘いようだ。常に思いっきり打ち込める何かを探し続けている僕にとっては、本作品で歩けなくなるほど力を出し尽くす登場人物たちがなんともうらやましい。
そもそもこの本を手にとったのは、その物語に惹かれたからではなく「永遠の0」で魅力的な作品を書いた著者百田尚樹がほかにはどんな作品を書いているのだろう、という思いからである。太平洋戦争を描いた「永遠の0」とはジャンルが違いすぎて比較にならないかもしれないが、ボクシングという一歩間違えれば命さえも奪いかねないスポーツに対して、物語を通じて、多くの見方を提供するあたりに共通点が見え隠れする。
とりあえずしばらく百田尚樹作品は見逃さないようにしたい。
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「万能鑑定士Qの事件簿I」松岡圭祐
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
出版社に勤める小笠原(おがさわら)は、東京の街中に張られている「力士シール」の鑑定を依頼するため、「万能鑑定士Q」という鑑定士と出会う。その鑑定士は凛田莉子(りんだりこ)。まだ20代前半の若く女性だった。
気がつけばずいぶん長いこと松岡圭祐作品から遠ざかっていた気がする。「千里眼シリーズはもう完結してしまったのか。そんな、松岡ワールドへ久しぶりに触れたいと思い、その新たなヒロインと思える本書を手に取った。
物語は、鑑定士である凛田莉子(りんだりこ)と、かなり不器用な雑誌記者小笠原(おがさわら)の出会いから始まる。同時に、高校を卒業し東京に出てくる凛田莉子(りんだりこ)という過去のエピソードが平行して展開する。本作品のメインはむしろその過去の凛田莉子(りんだりこ)のエピソードで、勉強は苦手なのにもかかわらず、東京での暖かい人たちの出会いでその才能を開花させ、鑑定士としての生き方光明を見出すまでが描かれている。
本書は物語としては凛田莉子(りんだりこ)の紹介に以上の部分はないと言っていいだろう。これから起こる大きな混乱が続編「万能鑑定士Qの事件簿II」で解決されるらしく、本書中にちりばめられた多くの謎は「II」まで持ち越しとなっている。
松岡圭祐作品はいままで現実的な話は「催眠シリーズ」で、やや過渡なエンターテイメント性を持った物語は「千里眼シリーズ」で展開していたが、本シリーズはどちらかというと後者に近くなりそうな印象を受けた。
ただの思いつきだけで出来上がったヒロインではなく、今後取り上げられるエピソードで、強く読者に訴えるものがすでに用意された上で、それをつくりあげられるために用意されたヒロインであってほしいものだ。
【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿I」
「The Secret Speech」Tom Rob Smith
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
過去への償いから2人の少女と暮らし始めたLeoとRaisa。しかし、ある日少女の1人Zoyaが誘拐され、犯人の要求にしたがって、一人の男を強制労働所から救い出すために、犯罪者を装ってGulag57へ向かうことになる。
前作「Child44」の続編である。この物語のキーとなる事件、そして同時にタイトルとなっている「Secret Speech」とは、1956年にニキータ・フルシチョフよって行われた「スターリン批判」を描いている。体制側の悪口を言うことするできなかったKGBに監視された社会の中で、その国のトップに近い立場の人間がその方法を否定したことによって、大きく世の中が変わっていく。そんな混乱のソビエトを描いている。
物語中盤までは、MGB時代にLeo自身が犯罪人として捕らえたLazerを救うため、自らも犯罪人を装って船に乗り、Gulag57へ進入する。見所はなんといってもSecretSpeechを聞いて、不当に犯罪者とされて働かされていた人々が蜂起し、刑務所職員を拘束して逆に裁くシーンだろう。それは、13段の階段の前に職員を立たせて、ひとつの罪を告発されるごとに一段上り12個の罪で銃殺というもの。裁かれる際の、刑務所長の言葉がまた印象的である。
実際、私はここにある階段の段よりも多くの罪を犯しただろう。しかし、階段を上ることができるのなら、降りることも許されるべきではないのか?私が救った命もあるだろう。スターリンが死んでから、私はみんなの労働時間を短くして、休憩時間を多くした。だからこそみんな健康でいられて、だからこそ刑務官たちを打ち負かすことができた。言ってみればこの反乱を可能にした一因は私にある。
そして、平行して描かれるのは、誘拐された少女Zoyaのその後である。父親を殺された心の傷を癒せぬままLeoとの生活になじめず、誘拐されたことによって自らvory(ロシアのギャングのようなものらしい)の一員としての生活に自分の居場所を見つけていく。
そして終盤は隣国ハンガリーの動乱へとつながっていく。
正直、本作品を読んで初めて「スターリン批判」や「ハンガリーの動乱」について知ることとなり、ロシア史について改めて好奇心を掻き立ててくれた。また、上でも書いた、この時代のロシアの大きな変化は、なにかどうにもならない人間の醜い本章のようなものを見せてくれたように感じる。言ってみれば、「権力を持った人間は正義ではいられない」、とか、「多数派は少数派にも公平ではいられない」といったものである。
やや、物語の展開的には物足りない部分もあったが、基本的には満足のいく作品である。
「危ない世界一周旅行」宮部高明
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
世界一周航空券で320年かけて行った世界旅行記。
ここ最近旅行記はよく本になるが、この本は旅のすばらしさよりも、そのタイトルからも推測できるように、旅の危険さに焦点があてられている。単に著者の体験のなかで危険なことの占める割合が多かったせいでそうなったのかどうかはわからないが、ある意味新鮮である。
ほかのよくある旅行記同様、自分に酔っている感があふれていて、「俺」口調も最初は気になったが、慣れれば無視できるもので、それなりに楽しませてもらった。
タイトルのとおり、著者は各地で危険な目に遭うわけだが、読んでいる側からすれば、自殺行為にしか見えない行動も多々あり、やや著者が勇気ある、というよりも無知でおろかな人間に見えてしまうが、それが旅の魔力なのだろうか。「安全な場所で冷静に本を読んでいる人にはなんとでも言える」と著者も読者に言いたくなることだろう。
各訪問地を、治安、人柄、物価の5段階で評価しており、これから世界一周を考えている人は軽く読んでみてもいいのではないだろうか。ちなみに治安の評価がもっとも低かったのは南アフリカとコロンビア。
まあ、そうだろうな。
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「アップルvs.グーグル」
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
iPhoneとアンドロイドで世の騒がせるアップルとグーグル。IT業界の2大巨人の動向を説明している。
まずは、当然のように世の中のスマートフォンの話題をさらっているiPhoneとアンドロイド携帯について話から入る。世の中では出荷量や販売台数など、多くのデータによって優劣がつけられているが、では実際はどうなのか。そして、それぞれの戦略や過去の発展の経緯についても語っている。
また世の中では一般的にアップルとグーグルは敵対しているように語っているが、実際にはどうなのか、そもそもアップルとグーグルのサービスは共存し得ないものなのか、など。そして、アップルとグーグルだけでなく、明らかに後手にまわっているマイクロソフトや、日本企業は今後どうあるべきか、なども含めて語られている。
僕らが、iPodやGoogleMapなど、すでに日常の中に自然と溶け込んでいる両者のサービスを使う中で、感じ取っているアップルとグーグルのベクトル違い理解するのに大いに役立つだろう。同時に本書によって今後の動向にもさらに関心を持つことになるだろう。
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「その英語、ネイティブは笑ってます」
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
どんなに英単語を覚えても、会話のなかでは自分のなかではいいたいことを言えずにときどきストレスを感じる。わずかな言葉で、同意や感嘆を示すことは、かならずしも必要のなきことなのかもしれないが、会話を盛り上げる上では大きな意味を持つ。
そして、会話のなかでそんなタイミングを逃さずに適切な反応を示すためには、その言葉は短くなければならない。僕らはその英語学習のせいで、いいたいことを英語にするとどうしても長くなりがちだが、実際にネイティブスピーカーたちはいいたいことを実に少ない単語で表現する。
本書はそんな視点にたって、会話によく使われる短い表現を集めている。その多くがなかなか辞書から探そうと思っても見つけにくいものばかり。
おもしろいのは、そんな便利表現を
「◯◯」と2単語で表現するには?
といういふうに問題形式で展開される点だろう。例えば「そんなことにならなければいいけど」と2語で表現するには?というように。そのほかにも目からウロコの表現で溢れている。
また、いままで間違って使っていたのは表現もいくつか発見させてもらった。
とりあえずこれからはThey say〜とかWe have〜をもっと効果的に使いたいものだ。そのほかにも
などを自分お口から自然と出るようにしたいものだ。あと新しかったのは「beat」と「hurt」の使い方だろうか。
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「ネイティブはこの「5単語」で会話する」晴山陽一
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
have、take、get、give、makeの5つの動詞でどれだけ多くの表現ができるか、ということに焦点をあてて英語表現を解説している。
僕らはどうしてもその学習の過程のせいで、「have」=「持つ」や、「give」=「与える」のように覚えており、その覚え方のせいで、この5つの動詞の表現の幅をせばめている。多くの例文や会話例の中でそれぞれの動詞の意味の「捕まえ方」について解説している。
英語の表現を増やすうえで、使える単語量を増やすのはもちろん大切だが、すでに知っている単語の用法を増やすこともまた大きく会話力の向上に役立つだろう。
本書で取り上げている5つの動詞のなかでも、特に「take」と「make」には使えていない表現があることを改めて認識させてもらった。
意識して使ってこそ自らの表現となるのだろう。
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「ジェネラル・ルージュの伝説」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「ジェネラル・ルージュ」と呼ばれる東城医大の天才救命医、速水晃一(はやみ)の短編集である。
速水(はやみ)を主人公とする「ジェネラルルージュの凱旋」は僕が海堂尊作品を好きになったきっかけとなる作品。そこで大活躍した速水晃一(はやみ)に焦点をあてた短編集である。
「ひかりの剣」は速水の医大生時代を描いているが、本作品中の3編はいずれも医師時代。とはいえ最初のエピソードは新米医師の速水を描いており、類まれなる才能に恵まれながらも、自らの技術を過信し、先輩医師にはむかう生意気な新米を描き、物語としてはもっともオススメである。
実際の救命の混乱と、己を知らなかった自分と向き合い、自らを向上させる決意をする、と、言ってしまえばありがちな展開なのだが、その細かい展開と、速水という人物の魅力に楽しませてもらえる。相変わらず看護婦の猫田は存在感抜群である。
イカロスは人々の希望なの。その失墜を見て、意気地なしたちは安全地帯から指さしあざ笑う。だけど心ある人はイカロスを尊敬する。
2章目は「ジェネラルルージュの凱旋」と同じ時間を、経費削減に奔走する事務長三船(みふね)目線で描いた作品。すでに「ジェネラルルージュの凱旋」を読んだのが2年以上まえなために若干記憶が薄れているが、展開もほとんどそのままなのだろう。
そのとき心を動かされた言葉に、今回も同様にゆすぶられた。
だが、現実にはこの病院にはドクター・ヘリはない。なぜ?
事故を報道し続ける、報道ヘリは飛んでいるのに。
3編については満足だが、その後の「海堂尊物語」や登場人物の解説はページを稼ぐためだけのものにしか見えない。
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「The Girl Who Kicked the Hornets’ Nest」Stieg Larsson
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
前作のラストで実の父親でありスパイであるZalachenkoとの死闘の末、頭に銃弾を浴びたSalander。本作品はまさにそのSalanderが病院に運び込まれるシーンから始まる。
前作「The Girl Who Played with Fire」の続編であり、「The Girl…」シリーズ三部作の最終話である。大怪我を追ったとはいえ、殺人未遂などの罪の容疑によって拘束中の身であるSalanderは、再び、Zalachenkoがロシアのスパイであるという事実を隠蔽しようとする闇の組織「The Section」のターゲットとなる。
その一方で、は「The Section」の秘密を暴いて世に知らしめようと、出版社Milleniumの仲間たちと動き出す。そんななか、再びネット上で協力し合う、SalanderとBlomkvistの少しちぐはぐな協力関係が面白い。実際、前作「The Girl Who Played with Fire」でもSalanderはひたすら、Blomkvistと顔をあわせるのを避けており、ようやくBlomkvistがSalanderに出会えたときはすでにSalanderは品詞の状態、という結末であった。本作品中で2人が平和に面と向かって会話をすることがあるのか、というのが気になるひとつである。
本作品では前二作で、脇役に徹していた人物の活躍も目覚しい。出版社Milleniumの代表のBergerは大手新聞社に引き抜かれてそこで新たなスタートを切り、新たな職場で、保守的な経営陣と対立する。また、Blomkvistの妹で、弁護士のGianniniはSalanderの弁護を担当し、Salanderの発言のすべてを社会不適格者の妄想として処理しようとする「The Section」の一味と法廷で争うことになる。本作品でもっともかっこいいのはGianniniかもしれない。
人付き合いの苦手なSalanderがGianniniに少しずつ心を開いていくシーンに心が温まる。いつものようにそれぞれの登場人物の個性や、それぞれの人間関係まで、最後まで飽きさせない作品である。
著者Stieg Larssonはすでに亡くなってしまったが、本作品の終わり方を見る限り、まだまだMilleniumシリーズには続く物語が彼の頭のなかにはあったのではないか、と思えてなんとも残念である。
「名前探しの放課後」辻村深月
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
新年を迎えたはずの依田いつかは、突然3ヶ月前にタイムスリップした。同級生の誰かが自殺した記憶だけをもったまま。誰かの意思の力で自分が選ばれたのか?名前のわからない自殺者の自殺を食い止めるためにいつかは動き出す。
誰かが自殺をしたはずだが、それがだれかがわからない。というこの設定。思いっきり辻村深月のデビュー作の「冷たい校舎の時は止まる」とかぶっている気がするが、それが彼女の僕のなかでの最高傑作には違いないので手にとった。
いつかは同級生の誰かが自殺をするという手がかりだけを頼りに、自分がタイムスリップしたしたということも含めて、同級生の何人かに協力を求める。
相変わらず辻村作品の登場人物は魅力的な人ばかり。タイムスリップという事実をかなりすんなり受け入れてしまう同級生たちに抵抗を抱く読者も多いかもしれないが、個人的には、本作品中で、未来の学級委員長である天木(あまき)が見せるように、信じる信じないではなく、要求された仕事をするから、と見返りを求めるほうが現実味があるように思える。
さて、そんな自殺を防ぐという目的のもとでいつかの2回目の3ヶ月はまったく違ったものになっていく。
物語がいつかだけでなく、最初にいつかがタイムスリップを告白した同じクラスの女生徒坂崎(さかざき)あすなの目線にたびたび変わるのが面白い。
いつかもあすなも過去の苦い経験と次第に向かい合っていく。人は誰でも、忘れたいような過去を経験し、コンプレックスを抱えて生きているということが伝わって来るだろう。そしてそんな出来事に対して、向き合うことは勇気がいるし、逃げることにもまた勇気がいる。
人間同士の関係のこの独特な描き方は辻村作品でしか味わえないものだろう。
それにしても「子供たちは夜と遊ぶ」のときにも感じたのだが、辻村作品にはどこか、「かっこわるく不器用にあがいている男こそかっこいい」的な表現がよく見られる。そこも含めて自分が辻村ワールドにはまっていることを感じる。
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「姑獲鳥の夏」京極夏彦
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
20ヶ月も妊娠したまま出産しない女性。そんな奇怪な事件を知り、関口(せきぐち)は古本屋の変わり者、京極堂に話を持ちかける。やがて事件に深く関わることになり、忘れていた過去の出来事にも気づいていく。
見た目の厚さのせいで完全な食わず嫌いであった京極夏彦だが、友人が進めてくれたのを期に、京極作品の中でもっとも薄くもっとも有名な本作品を手にとった。そしてそれは予想通りユニークな世界だった。分厚い本の最初の1/10にもわたって古本屋の京極堂と関口の不思議な会話で占められる。
たとえば「幽霊が存在するかしないか」と考えるなら、なによりもさきに「存在」という言葉の定義をはっきりさせる必要があるだろう…。短くたとえるならこんな感じだろうか。
実際京極堂は徳川家康と妖怪のダイダラホウシを例に挙げて、「なぜ、どちらも実際にみたわけではないのに、家康の存在は信じて、ダイダラホウシの存在は信じないのだ?」と関口に問いかける。読者はその問いに対する自分なりの答えを持とうとするだろう。
個人的に、今まで深く考えもせずに受け入れていたもの、つまり「常識」にもう一度疑問を投げかけて考え直させるような流れは嫌いではない。とはいえ、嫌悪するひとも、逆に病みつきになるひともいるのだろう。
本作品の面白さはそんな独特な視点だけでなく、京極堂を含む不思議な登場人物にもある。探偵の榎木津(えのきづ)などもその一人である。本作品では微妙な存在感だけを残すにとどまったが、シリーズのほかの作品では活躍したりするのだろうか?
物語の流れはやや複雑怪奇で受け入れがたい部分もあるが、京極ワールドに病みつきになる人も気持ちもなんとなくわかる。
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「悪人」吉田修一
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
石橋佳乃(いしばしよしの)は携帯サイトで知り合った男と会った翌日、遺体となって発見される。容疑者としてあがった2人の男性。1人は男性からも女性からも人気のある大学生増田圭吾(ますだけいご)、もう一人は土木作業員として働き、車だけが趣味の清水祐一である。
物語の序盤は増田圭吾(ますだけいご)が逃亡中ということで、真犯人が誰かわからない状態でしばらく展開するが、、むしろ物語の面白さは単純な犯人探しではなく、その事件の周囲の人間たち内面にこそある。
犯人や被害者の友人、上司、親戚、家族など、多くの人の目線から物語が展開するため、その人の悩みや思いが見えて来る。そんな数ある登場人物の中の誰一人として、「こんな人間になりたい!」と思えるような人はいないが、むしろだかこそ現実的であると言えるだろう。周囲からはどんなに輝かしい人だろうと誰もが悩みを抱えていきているのだから・・・。読者の多くは、そんな数多くの登場人物のいずれかに自分を重ね合わせることができるのではないだろうか。
本作品から伝わってくるのは希望ではなく、悲しいむなしさである。多くの人がひしめきあってこんなに近くで生きているにもかかわらず、心は通じ合えない。だからこそ、単純に一人でいる以上にさびしい…。そんな現代の寂しさがにじみ出てくる。必ずしも悪意を持った人間や、際立って不幸な環境に育ったものだけが犯罪を犯すのではなく、世の中のどんな人にも殺人者となりうる可能性がある…。そんな、なんとも吉田修一らしい作品である。
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「世界を変えたアップルの発想力」
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松下電器からアップルに転職した著者目線で、アップルという会社を主要人物が語った明言を引用しながら説明していく。典型的な日本企業である松下とアップルを比較することで、アップルのその異質な社風が見えてくる。
アップルがどれだけ偉大なことを成し遂げてきたか、ということを考えると、誰もがそんなプロジェクトに関わりたいと思うだろう。しかし、偉大な商品をつくったからといって、その会社が誰にとっても魅力的な労働環境を提供しているとは限らないのだ。よくも悪くもアップルという会社がユニークな会社であることが見えてくる。また同時に、僕らが「会社はこうあるべきだ」と考えているもののいくつかが、必ずしも会社に必要でないものであることも気づくだろう。
それでも思うのだ、アップルで働いたら、きっと何時間でも働かなければならないだろうし、仕事以外のことを一切放棄しなければならないときもあるだろう。それでもここまで熱意を注いで仕事ができることは幸せなんだろう、と。
本書で挙げられている歴史をつくったアップルの偉人たちの名言の中の、いくつかが胸に刺さるのかもしれない。
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「ファーストクラスの英会話」荒井弥栄
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元国際線のCAがその経験から、日本人が間違えやすい表現を、「ビジネスクラス」「ファーストクラス」とその丁寧さを2段階に分けて説明する。僕らは英語と日本語の違いを、「英語は直接的で日本語は遠まわし」などと漠然と思っているかもしれないが、どんな言語においても、相手に反対したりするときは、相手に不愉快な思いをさせないような遠まわしな言い方が必要なのである。
「英語で言いたいことを言う」の次のステップ、「英語で気持ちよくコミュニケーションをとる」の段階に移ろうとしている人には非常に役に立つだろう。
一般的な丁寧表現の「Could you?」「Would you mind if?」のほかにも、ビジネスシーンに使えそうな、丁寧表現が満載である。「add up」「up to scratch」「be snowed under」「under the weather」などはぜひ覚えておきたい表現である。
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「沈底魚」曽根圭介
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第53回江戸川乱歩賞受賞作品。
中国のスパイが日本に潜んでいるという情報を得て、警視庁外事課は動き出す。
江戸川乱歩賞受賞作品ということで期待したのだが、残念ながら最近増えてきた公安警察小説のなかでも特に際立ったところはない。スパイものはどうしても2重スパイ、3重スパイ、騙し合いという展開になってしまって、その範囲内ではいくら裏をかこうとも読者の想像を超える面白さには繋がらないのだろう。もう少し何かスパイスがほしいところだ。
とはいえ、このような中国などを相手にしたスパイ物語を最近よく読むようになった気がする。つまりそれが現実のものとして受け入れ始めているからなのだろう。
本作品に限らずスパイ物語というのは登場人物の名前が多くなりすぎるうえ、おのおのの利害関係が複雑になりすぎるため、なかなか物語にしっかりと着いていきずらいのもよくあることで、いかにその多くの登場人物を個性を持って描けるかが、諜報活動を描く小説には求められるのではないだろうか。
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「テレビの大罪」和田秀樹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
昨今のテレビ番組がどれだけ世の中に悪影響を及ぼしているか、という視点に立った内容である。昨今の若者のテレビ離れは、インターネットなど、テレビ以外のエンターテイメントの普及だけによるものではなく、発信者としての責任を負うことを恐れて、ひたすらクイズ番組に走る、というテレビ局側のモラルの低下も影響しているのだろう。
僕自身ここ数年で一気にテレビを見なくなったから、その「テレビ離れ」の裏にある原因や人の考え方にはおおいに興味があったので、本書を手にとったのだが、ところどころうなずける部分はあるものの、著者のかなり強引な論理と断定的な書き方にやや抵抗を抱きながら読み進めることになってしまった。
とはいえ、確かに、テレビ局が東京に集中していなかったらおそらく飲酒運転の取り締まりは今ほど厳しくはならなかっただろう、という考え方には納得できるものがあるし、自殺報道は規制すべき、という考え方もうなずける。
結局テレビの大罪が「大罪」になってしまう原因は、情報を取捨選択せずに鵜呑みにしてしまう視聴者の側にもあるのだということは、改めて今回思ったことである。
【楽天ブックス】「テレビの大罪」