「ノルウェイの森」村上春樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
37歳のワタナベが1969年の19歳のときに起こった出来事を思い出す。
言わずと知れた有名作品。周囲のハルキストから村上春樹作品について熱い話を聞かされるたびに挑戦して、相変わらずその世界観の魅力を理解せずに終わるということを繰り返しているが、今回もそんな挑戦の1つである。
本書はワタナベがノルウェイの森という曲によって、過去を思い出す、という形式で描かれている。19歳だった当時のワタナベの日常には、自殺した友人のキズキ、その恋人の直子、直子と一緒に療養所で過ごしてるピアノ教師のレイコ、ワタナベと同じ寮の部屋で過ごす長沢など、どこか奇妙な人々が関わっていた。それぞれがそれぞれの不思議な視点から物事を語る言葉がワタナベ自身の生き方に影響を与えたのだろう。そんな言葉の数々は、読者自身にもなんらかの影響を与えるのではないだろうか。
個人的に印象的だったのは、ワタナベが同じ部屋の友人長沢について、その彼女に別れを勧めながら語るシーン。

もちろん僕だって僕なりにあの人のこと好きだし、面白い人だし、立派なところも沢山あると思いますよ。僕なんかの及びもつかないような能力と強さを持ってるし。でもね、あの人の物の考え方とか生き方はまともじゃないです。

なんか自分のことを言われているような気がした。きっと誰もが、心のなかに、決して他の人には理解してもらえないと思える一面を持っており、それゆえに表に出さずに心のなかに封印したまま生きているのではないか、と思った。そんな封印を解いて生きる長沢と、それを言葉で語ってしまったワタナベに少しどきっしたのである。
相変わらず春樹ワールドを楽しめたとは言えない気がするが、これまで読んだ春樹作品の中では一番楽しめた気がする。
【楽天ブックス】「ノルウェイの森(上)」「ノルウェイの森(下)」

「君の膵臓を食べたい」住野よる

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校生の僕は偶然のできごとからクラスメイトの女子の余命僅かであることを知ってしまう。余命僅かな女子高生桜良(さくら)とクラスで唯一真実を知る目立たない生徒「僕」との交流が始まる。

桜良(さくら)の余命がわずかであることを知りながらもお互いに普段通りの会話を続ける点が、なぜか現実味があふれて感じる。実際、同じような状況に置かれたらきっと僕自身もこんな反応をするのだろう。それはきっと、事実を受け入れていないとか、信じられていないとかではなく、身近な人がこの世からいなくなるということが体験として理解できていないからなのだろう。高校生という年代にとってはなおさらそんな気がする。

桜良(さくら)自身も、自らの死を決して深刻に語ることなく、それでいて唯一真実をしる「僕」を心の拠り所としているようだ。桜良(さくら)に振り回される「僕」を描きながら物語は進んで行く。終盤に近づくにつれ、少しずつ態度の変わってくる桜良(さくら)の様子に、戸惑いを表わにする「僕」の様子が痛ましい。結末はぜひ予備知識なしに味わってほしい。単純で使い古された物語ではあるが涙なしには読めないだろう。

「世界の中心で愛を叫ぶ」を思い起こさせる高校生の純愛物語ではあるが、現代風に描かれている気がする。今の高校生は泣いたり叫んだり驚いたりすることを恥ずかしがる、という僕の持っている印象もただの偏見かもしれないが。
【楽天ブックス】「君の膵臓を食べたい」

「新人コンサルタントが入社時に叩き込まれる「問題解決」基礎講座」 松浦剛志/中村一浩

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
社会で企業の一員となって生きる中で有効とも思える考え方をまとめてある。
僕自身の警官からも、多くの企業で非常に偏りのある考え方をする人々を多く見てきたので、このような実践的な考えかがを流布する有用性は感じるが、一方で常に合理的に考えて社会で生きてきた人間にとっては、どれも驚くような内容ではないように感じた。読者自身が毎日「問題解決」という状況にどのように向き合っているかによって、本書の受け取り方は大きく異なるだろう。
【楽天ブックス】「新人コンサルタントが入社時に叩き込まれる「問題解決」基礎講座」

「イエール+東大、国立医学部に2人息子を合格させた母が考える究極の育て方」小成富貴子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長男をイェール大と東大に、次男を国立大学医学部に合格させた母親が、その教育方法について語る。
僕自身の関心が向いているせいか、最近この手の教育方法を語った書籍が多いように感じる。このような本を読む時、気をつけなければならないのは、結果が良かったからと言って、その過程で行ったことのすべてがその成功に結びついているとは限らないということだ。
そんななかで、本書を読んでぜひ真似したいと思ったことは、「謝罪と感謝の際に理由をつけさせる」というものと「机ではなくリビングで勉強させる」というものである。ただただ「ありがとうと言いなさい」では考える力や表現力は育まれずただ機会的に「ありがとう」を繰り返すだけになってしまうだろう。またリビングで勉強することで、小学生の頃には子供にとってすぐに質問しフィードバックを受けることのできる環境となるし、中学生や高校生になればそれが適度な親子のコミュニケーションの機会になるのだろう。
また、家族会議を開いて、旅行先をみんなで決めながら歴史を学ぶという点も非常に面白いと思った。
その一方で、漫画やゲームやテレビを見せないという方針は、本当に正しい選択なのか疑問である。難関大学への合格というのが人生のゴールであれば問題ないかもしれないが、変化の激しい世の中に対応しどのような状況においても優れた能力を発揮できる人間を育てるのであれば、様々なものに早いうちから触れておく方がいいように個人的には感じた。
どの方法も大学合格のための方法としては納得感のあるものばかりだが、両親ともに多くの時間と情熱を注ぐ覚悟があってこそできることだと感じた。
【楽天ブックス】「イエール+東大、国立医学部に2人息子を合格させた母が考える究極の育て方」

「理由」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ある高層マンションで4人の人間が殺害された。やがてその4人が本来その部屋に住んでいるはずの人々ではなかったことがわかる。
15年ぶり2度めの読了。直木賞受賞作品でありながらも、最初に読んだ当時はこの作品の訴えようとしていることがつかめずにいた。15年経ち、僕自身にとっても人生は15年前とは違うように見えているはずで、今回こそこの作品の本質が理解できるのではないかと思って読み直した。
事件自体は、高級マンションのローンを支払えずに手放さざるをえなくなった元の持ち主と、格安でその物件を手に入れようとする人、そして不当にマンションに居座って利益を出そうという占有屋の間で起こったことである。占有屋という聞きなれない職業についても非常に興味深いが、事件に関わることになったそれぞれの人々の人生が興味深い。
少し背伸びしてローンを組んでマンションを購入した夫婦、息子たちに自分の能力を誇示するために抵当物件を購入することを選んだ人、占有屋に雇われてそのマンンションに居座ることになった人々などである。
いずれも、人生のなかでどこにでも転がっていそうなきっかけから、人生が少しずつおかしな方向に転がってしまった結果、この事件の関係者になってしまったのである。4人の殺人事件というと、僕らは極悪非道な犯人や事件関係者を想像してしまうが、
実際には普通の人生が絡み合った結果起こったことなのである。誰であろうが、被害者にもなりうるし、加害者にもなりうる、そんな現実を突きつけてくれる。
物語が訴えようとしているテーマとしては同じく宮部みゆきの「火車」に似ている気がする。ただ、本書は「火車」と違って、描かれ方が誰かの視点を中心にしているわけではないので、少し共感しづらい点が残念である。
【楽天ブックス】「理由」

「UX Strategy: How to Devise Innovative Digital Products that People Want」Jaime Levy

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
革新的なデジタルプロダクトの先駆者として25年以上にわたって活躍している著者が本当に求められているユーザー体験を構築するための方法を語る。
非常に実践的で具体的な方法が書かれている点が予想とことなる部分だった。もう少し概念的な部分を知りたい人にとっては、具体的にすぎて自分たちのケースへの適用が難しいと感じるかもしれない。
僕自身最近何度かユーザーインタビューをする機会があったので、ユーザーインタビューの方法を細かく解説している部分を面白く読むことができた。カフェでやるときには店員に見えない席で行う、とか、インタビューを受ける人が気が散らないように壁に向かうようにする、とか、チップを弾む、など、笑い事ではないけどなんだか妙に現実的な方法が溢れている。
もっとも印象的だったのが、昨今Design Sprintという手法のなかで推奨されているユーザージャーニーマップを否定している点である。

ジャーニーマップは作るのに時間がかかりすぎる上に、あまり頼りにならない、なぜなら製品が市場に出た後の現実に即していないことが多いからだ・・・。
もし、あなたがその戦略過程において、より経験に基づいた進め方をしたいなら、この方法をもっと発展させ、制作物を検証可能な開発の流れを作り、そのアイデア出しや発展のサイクルのなかで常に改善していく必要がある。

スタートアップにおいて、どのように新しい考えを生み出し、どのように無駄なコストをかけるリスクを最小限に抑えて製品を大きくしていくかは、重要な問題である。だからこそ本書で推奨されているFunnel Matrixという手法もしっかり理解したいと思った。
最後の章では、UX戦略の舞台で活躍する人々に著者自身が10の質問をぶつけた内容が含まれている。それによって著者の考えだけでなく、多くのUXの最先端で働く人たちの考え方が見えてくるだろう。

「Her Final Breath」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
パブで踊る女性ダンサーたちが同じような手口で殺害される。妹の死の謎を解明したばかりのTracy Crosswhiteが犯人を追う。
第1作の焦点が、20年前の妹の失踪の謎を解明する、というシリーズ物では1度しか使えない内容であるだけに、このシリーズが第1作品単体としてではなくシリーズとしても面白いものであるかはこの第2作目が握っているのではないだろうか。
まず、第1作からほとんど時間的な経過がないことことに驚かされる、実際このダンサー殺害の記述は第1弾の「My Sister’s Grave」でもされており、どちらかというと日々起こっている殺人事件の1つどいう描かれ方をしていたので、本作品でその事件が本筋になるとは思っていなかった。
多くの警察物語と同様に、連続殺人を繰り返す犯人を、同僚達と協力して追いつめていくのであるが、本シリーズには他のシリーズにないいくつかの面白い点がある。まずはリポーターであるMaria Vanpeltの存在がある。警察の失態を報道するために常に目をひからせて、秘密の情報を報道して捜査を妨害しかねないVanpelにどう対処するかというのは、Tracy達が常に気にかけないこととなる。またTracyを嫌う上司Nolascoも本シリーズを面白くしている要素の一つで、2人の確執も本作品ではより顕著に描かれる。
この2作目も期待に応えてくれたとは感じるのだが、なかなかその理由をうまく説明できない。本シリーズの魅力は主人公であるTracy Crosswhiteが20代の若くて容姿端麗な女性ではなくアラフォーの女性だということだろう。20年前の妹のSarahの失踪をようやく乗り越えて自分の人生をようやく前向きに歩み始めたTracyは、恋人のDanと故郷に戻って子供を持つという選択肢も考えている点が興味深く、シリーズとしてどのように進展していくのかが楽しみである。

「ありえないデザイン」梅原真

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高知県で活躍するデザイナーの著者が仕事の取り組み方、考え方について語る。
「デザイナー」という名前でその肩書きを語っているが、その仕事の内容を見るとむしろ「プロデューサー」に近い。それでも著者が自らを「デザイナー」と呼び続ける気持ちは理解出来る。僕自身「デザイナー」とも呼べる職業で何年も生活していると、その言葉の持つ範囲が少しずつ広くなっていくのを感じるのだ。実際には「デザイン」という言葉は、視覚的な何かをつくることをさすだけではなく、新しく何かを作ることすべてに、例えばそれが、仕組みや人間関係やルールを作り出すことだったとしても、使えるのである。
本書では、高知県を中心にそのコミュニティをその企画力とセンスで活性化させていく著者の仕事の様子が描かれている。誰もがこんな生き方してみたいって思うのではないだろうか。
ただ「ありえないデザイン」というタイトルにはやはり違和感が残る。このタイトルが指しているような内容は含まれていなかったし、むしろ著者のすばらしい仕事の様子が描かれていたにもかかわらずデザインを学びたい人が間違って手に取ることを期待したようなタイトルのつけ方が非常に残念である。
本書でもっとも印象的だったのは、「ありのままの良さを伝えるデザインをする」という著者のポリシーである。世の中のいろんな商品をみれば、中身はたいしたものではなくても、美しくデザインされたパッケージに惹かれて買ってしまう、というのはよくあること。そしてそんな仕事を実際デザイナーは求められていたりもいるのだが、著者はそんな人を騙すようなデザインを否定しているのである。だからこそ、本書のタイトルは残念である。
【楽天ブックス】「ありえないデザイン」

「潮騒」三島由紀夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人口1400人の小島で漁師として働く18歳の新治(しんじ)はある日見知らぬ少女と出会い、恋に落ちる。
三島由紀夫というとその作品よりもその壮絶な人生の印象が強く、今まで作品自体を読む機会はなかった。そんななか、本作品は三島由紀夫作品のなかでも異色で読みやすいという評判を聞いて手に取った。
物語全体としては十代の新治(しんじ)と初江(はつえ)の純愛物語とまとめることができるが、もっとも印象的なのはその舞台となった小島の風景の描写である。実際に伊勢湾に存在する神島を舞台としており、島の名前以外の多くは実際に存在する地名で、伊良湖水道や伊勢湾の記述もある。そして、物語中で描かれているその島の人々は、島ゆえに非常に閉鎖的だが、普段つながりの希薄な都会で過ごしているであろう多くの読者にとっては、魅力的な暖かさを感じさせてくれるのではないだろうか。
新治(しんじ)と初江(はつえ)の恋愛からは、地位もお金も気にせずに恋に落ちることのできる若さが感じられる。また新治(しんじ)の母や初江(はつえ)の父など、多くの人間がその恋愛をより強固なものにするために一役買う点が面白い。昨今はコミュニティのなかで恋愛することを嫌う傾向があると聞くが、必ずしもデメリットばかりではないとも感じた。
残念ながら本書について文学的な評価をするほどの知識はないが、他の三島作品にも触れてみたいと思った。
【楽天ブックス】「潮騒」

「アートディレクションの「型」」水口克夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
数々の有名広告を手がけた実績を持つ著者がアートディレクションの心がけを語る。
本書では「つくる」「かたる」「すすめる」と、大きく3つに分けてアートディレクションの「型」を語っているのが、印象的だったのは「つくる」の章。そんななかでも今後意識したいと重っったのは。

「?」と「!」をつくる

というもの。単純に綺麗なものをつくるだけでなく、見た人がまず「ん?」となり、そして、「あ、そういうことか!」となるような広告はいい広告だというのである。言われてみればそれほど驚くことではないかもしれないが、これを常に頭においてデザインができているかというと疑問である。
もうひとつが

捨てる

である。これもそこらじゅうで語られることであって、シンプルなものがもっともわかりやすく使いやすく、理解しやすい、と誰もが分かっていながらも、世の中には複雑なものが増えていってしまう。ある程度の経験を積んだデザイナーなら誰しもこの意識はもっているだろうが、本書で取り上げる実例を見るとその「捨て方」のバッサリ具合が徹底していて驚かされる。こちらもぜひ改めて意識したい。
残念ながら実例が20年以上前のものばかりで、リアルタイムに見た記憶のある広告が少なかった。本書のターゲット層はきっともっと下の世代であろうことを考えると、その違和感は他の読者にはもっと激しいのではないだろうか。
上でも語っているが、とりたてて新しいことを語っているわけではないので、多くのデザイン関連書籍の一冊として読むべきなのだろう。
【楽天ブックス】「アートディレクションの「型」」

「グラフィック・デザインの歴史」アラン・ヴェイユ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アールデコの代表的なグラフィックデザイナーであるカッサンドルの展覧会を訪れる機会があり、その今見ても斬新と思えるデザインに惹かれ、グラフィックデザインの歴史を改めて知りたくなり本書を手に取った。
アールヌーボーやアールデコなど19世紀後半から現代までのグラフィックデザインの流れを、代表的な作品とともに紹介している。グラフィックデザインは芸術ではない。それゆえに、ただ単に美しいだけではなく、どうやって人々の注目を集めるか、試行錯誤してきた歴史が見えてくる。
ミュシャやカッサンドルなど、すでに知っているデザイナーの歴史的な位置を知ることができただけでなく、今まで知らなかったデザイナーの作品をたくさん見ることができた。経済と商業とともに発展してきたグラフィックデザインの流れに触れることで、ただ単に美しいものだけを作って満足していないか、自分自身のデザインのスタンスを改めて考え直すきっかけになった。
【楽天ブックス】「グラフィック・デザインの歴史」

「Front Rowアナ・ウィンター ファッション界に君臨する女王の記録」ジェリー・オッペンハイマー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「プラダを着た悪魔」のモデルになったと言われる実在する女性編集者アナ・ウィンターを描いた作品。
映画の印象だと、部下を育てようという、厳しさの裏にある優しさのようなものを感じた。しかし、本書を読むと、ただひたすら能力のある人間だけで周囲を固めて、自らがのし上がっていくのに手段を選ばず必死な印象を受けた。どちらかというとこのような人間がどうして周囲から認められて世界的なファッション誌のトップにまで上りつめたのか不思議な気がしたが、それは実力主義のアメリカと礼儀を重んじる日本の文化の違いからくる違和感かもしれない。
ファッション誌というと、流行を記事にするという印書を持っていたが、本書で描かれているヴォーグなどの雑誌はむしろ「流行を作り出す」という感じである。アナによって認められたデザイナーたちは、それによって流行となり成功するのであるから、大きな権力となるのも納得できる話である。
本書でもっとも印象的だったのは、アナのファッションに対するこだわりの強さである。もちろん立場的にはアナは世界で最もファッションに精通している人間なので当たり前かもしれないが、それでもそのファッションに対する姿勢には驚かされる。人間、誰しも外見も大事だということはわかっていながらもなかなか毎日細かい身だしなみにこだわりつづけることはできないもの。本書を通じて改めて自分の普段の身だしなみも見つめ直してしまった。
普段接することのない世界で、情熱を注いで生きている人間の考え方は、視野を広げてくれる気がする。
【楽天ブックス】「Front Rowアナ・ウィンター ファッション界に君臨する女王の記録」

「同時通訳者の頭の中 あなたの英語勉強法がガラリと変わる」関谷英里子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
同時通訳者が英語の勉強方法を語る。
著者自身、主に日本でその英語力を身につけたゆえに、その勉強方法はとても参考になる。著者が特に強調するのは「イメージ力」と「レスポンス力」である。そして、その能力の向上のための方法として、パラフレージング、シャドーイングを挙げており、その理由とその方法を解説している。
シャドーイングについてはすでに多くの本で触れられていて、実際やっているひとも多いのでその効果は疑う理由もないが、パラフレージングについては今まであまり取り組んでこなかった。本書を読んで改めてその効果を実感したのでぜひ自分の勉強のなかに取り入れたいと思った。
もっとも印象的だったのが、著者がお気に入りの映画「ビフォア・サンライズ」を見ていたときの話。そのなかで、著者は、主人公のセリーヌのフランス訛りの英語を素敵だと思ったと書いているのである。僕らはいつも、英語らしい英語を話そうとし、日本語っぽいカタカナ英語を恥ずかしいと思う傾向がある。しかし、見方を変えれば日本語訛りの英語を誇らしく思う、という方向もあるのではないかと思った。
全体的には、ページ増しのための内容のように思える部分や、まとまりや内容の流れに違和感を感じる部分もあった。そこらじゅうの英語教材に書いてあるような学習方法や学習教材、言葉の意味にページを割かずに、著者自身の考え方や勉強方法に絞ったらさらに濃い内容になったのではないだろうか。それでも、英語学習者にとっては参考になる内容が多く書かれていると感じた。
【楽天ブックス】「同時通訳者の頭の中 あなたの英語勉強法がガラリと変わる」

「赤穂浪士」大佛次郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

「赤穂浪士」や「忠臣蔵」というタイトルは聞き慣れており、47人の武士が復讐を果たす物語は知っていながらも、ここまで語り継がれている物語に一度も触れたことがないことに疑問を感じて本書を手に取った。そもそもどうして、ただそれだけの単純な物語が上下巻含めて1200ページを超える物語になり得るのかという点も興味深かった。
実際には単純に復讐しようとしてすぐにそれを成し遂げるのではなく、発端となる出来事から実際にその復讐を成就するまで思っていた以上に長い月日が流れていることに驚いた。また、そんななかで、大将である内蔵助(くらのすけ)が行った根回しや、ともに行動する同志、単純なその場の怒りや苛立ちから立ち上がったものを含まぬように、言葉を変え、行動を変えて、本当に強い意思を持った者だけに絞っていく様子が印象的である。また、命を狙われる吉良上野介(きらこうずのすけ)の周囲の人間の思惑もおもしろく、どれも歴史上の事実だからこそある現実味にあふれている。
残念なのは、歴史上の事実だからこそなのか、登場人物が多く、またすでに100年近くも前に書かれた本ということで、理解しづらい部分も多かったということ。全体の内容を考えると、もう少し短くまとめられそうな気もする。
【楽天ブックス】「赤穂浪士」

「夏美のホタル」森沢明夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
プロの写真家を目指す相羽慎吾(あいばしんご)は恋人の夏美とともに年老いた母と離婚してその息子の暮らす店を見つけ、そこを拠点に写真を撮ることになる。

序盤は、慎吾と夏美、そのお店のヤスばあちゃんと、息子の地蔵さん(笑顔からそう呼ばれる)によるほのぼのとした田舎生活が描かれている。ホタルやオイカワなど、慎吾と夏美が田舎町で遊ぶシーンは懐かしい子供時代を思い起こしてくれるだろう。

物語のなかでやや異質な存在なのが同じ村に住んでいる仏師雲月(うんげつ)の存在である。雲月(うんげつ)の彫る仏像は、まるで生きているかのような躍動感があるのだという。天才と呼ばれる雲月(うんげつ)であるが、妻と別れて村に移り住み、慎吾や夏美と出会うことになる。職業柄ぶっきらぼうな態度をとりながらも、少しずつ打ち解けていく様子が微笑ましい。

やがて、地蔵さんの過去が少しずつ明らかになっていく。時間をともにすることで2人に家族のような親しみを感じる慎吾と夏美はできるかぎり力になろうとするのである。
夏の匂いが漂ってくる物語。
【楽天ブックス】「夏美のホタル」

「シューマンの指」奥泉光

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
語り手「私」は、古い友人から指を失ったはずの天才ピアニストの長嶺修人(ながみねまさと)が復活したことを聞く。信じられない思いから、長嶺修人(ながみねまさと)が指を失うまでの出来事を振り返る。
物語は、音楽に青春をかけた3人の男子高校生、語り手である「私」、長嶺修人(ながみねまさと)と鹿内堅一郎(しかうちけんいちろう)を中心に進む。圧倒的に音楽的能力の高い長嶺修人(ながみねまさと)が2人に持論を語るなかで、音楽には僕ら一般の人間が理解できないような、音楽家だけがわかる世界があることが伝わって来る。シューマンを中心に作曲家のことを語るシーンが多く、音楽の知識が少ないことを残念に思う一方で、実際に作曲家やその音楽について知識を持っている人ならどの程度本書で長嶺修人(ながみねまさと)が語っていることに共感するのだろうかと興味を持った。
そして、ある春休みの夜、3人が目撃した殺人事件を機に物語は動き出すこととなる。
音楽という要素を多く含む点は新しく、いろんなクラシック音楽を聴いてみたいと思わせてくれたが、結末はありがちな展開に感じてしまった。
【楽天ブックス】「シューマンの指」

「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて 」クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
企業が破壊的イノベーションへ対抗するための方法を語る。
まず、持続的イノベーションと破壊的イノベーションという言葉を用い、ソニーやアップルが行ってきたイノベーションを説明し、相互依存型アーキテクチャとモジュール型アーキテクチャという言葉で、企業が作る商品を説明している。世の中の多くの企業の栄枯盛衰が、この考え方で説明できる点が面白いが、実際にはこのあたりの内容は「イノベーションのジレンマ」に含まれる部分なのだろう。
中盤以降は、そんな今までわかってても避け方のわからなかった、破壊的イノベーションを避けるために、持続的イノベーションの状態にある企業はどのような取り組みをすべきなのかを語っている。
とてもすべてが理解できたとは言い難いが、世の中の流れについて新たな視点をもたらしてくれる。
【楽天ブックス】「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて」

「教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に改革する」クレイトン・クリステンセン/マイケル・ホーン/カーティス・ジョンソン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
破壊的イノベーションの説明を用いて、教育がいつまでたっても進歩しない理由と、教育の今後の進化すべき方向性を語る。
印象的だったのは教育のモジュール化という考え方である。現在の教育はすべて、それ以前の学んだことが理解できていないと、その次の内容を理解できない仕組みになっており、それが問題だというのである。例えば、足し算、掛け算を理解していないとその先にある、分数の計算が理解できないために、すべての生徒が同じ順番で学んでいかなければならないために教育を非効率にしているのだという。つまり、教育のプログラムは相互依存性が強いのだ。
そんななか解決策として本書が主張しているのは、教育をモジュール化し、1人1人が独立したコースを自由に履修し、必要な時間をかけて理解するという方法である。それによって全員が同じ授業を受ける必要もなく、全員が同じ内容に同じだけ時間をかける必要もないというのである。確かに、以前であればそもそも「先生の数が足りなくて実現できない。」で終わっていしまったであろう話が、現在であればインターネットを使うことで実現できそうな気がする。
教育の発展だけでなく、経済的なイノベーションの考え方を用いて教育界を語っている点が面白い。
【楽天ブックス】「教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に改革する」

「彼が通る不思議なコースを私も」白石一文

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
霧子(きりこ)がある日出会った死神のような男性、椿林太郎(つばきりんたろう)は教育に情熱を注ぐ男だった。やがて2人は結婚しともに生きることとなる。

白石一文は人生を描くのが非常にうまい。本作もそんな作品を期待して手に取った。実は霧子(きりこ)が出会った椿林太郎(つばきりんたろう)は人の人生の長さがわかるという。そんな彼が結婚相手として霧子を選んだ理由はなんだったのだろう。彼の能力が霧子との結婚にどのような結末をもたらすのかが、物語の焦点となる。

貶すほどの内容ではないが、期待に応えてくれるような印象的な内容ではなかった。人の残りの人生の長さが見えるというのは、最近読んだ百田尚輝の「フォルトゥナの瞳」と重なる部分が多いからなのかもしれない。
【楽天ブックス】「彼が通る不思議なコースを私も」

「Leaving Everything Most Loved」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インドから家庭教師としてイギリスに移住してきた女性が狙撃された。誰もが羨むような美しい女性だったのも関わらず、なぜ殺されなければならなかったのか。Maisieはその女性の兄の依頼によってその真実を調査する。
調査の過程でMaisieはその女性Ushaが誰からも好かれるような女性だったことを知る。誰からも好かれるような女性なら、殺人の動機は一体どんなものだろう。と思うところだが、本書では「誰もが羨むような眩しい女性は、いるだけで妬みを買う」という視点にも触れている。人間の醜い部分を見せてくれるようで興味深い。
また、事件の解決へと調査をすすめるなかで、Maisieの大きな決断をする。結婚を求めている交際相手Jamesとの関係に区切りをつけるため、またメンターであり亡くなったMauriceの教えに習って、Maisie1人で旅に出ることを決意するのである。事件の解決と同じぐらい、Maisieのこの決断が本書の焦点だと感じた。そして、そのために事務所を閉めて、Maisieと共に働いていたSandraとBillyもそれぞれの道を進むこととなるのである。
最終回のような一冊だが、まだ続編はあるようだ。