「あなたの才能も一気に開花 プロだけが知っている小説の書き方」森沢明夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
小説家の著者が小説の書き方を語る。

最近小説を書いてみようかと思い立って、書き始めたのだが、予想以上に難しい。特に自分の体験は比較的書けるにもかかわらず、女性の登場人物が難しい。少しでもヒントがあればと思い本書を手に取った。ちなみにこの著者の作品には触れたことがないので、面白い小説なのかどうかもわからない。

本書は作家を志す人々からの質問に答える形で、著者の考え方を解説している。特にどれかの項目が印象的だったわけではないが、なんとなく行き詰まった時に何をすべきか掴めた気がする。

また、詰まった時にこのような本に触れたいと思った。

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「地図と拳」小川哲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第168回(2022年下半期)直木賞受賞作品。1899年、日本が満州へと領地を拡大するなか、その地で生きる日本人や中国人を描く。

日本の側は、満州の地図を描くプロジェクトを中心にそこに関わる人々を描く。一方で中国の側は、外国人が押し寄せてきたことによって家族や家を失った李大綱(リーダーガン)が、その思いを力に変え、のし上がっていく様子と合わせて、同じように不幸な環境で育ったその娘の孫氶琳(ソンチョンリン)を中心に描く。

タイトルにあるように日本の川では満州の地図を描くことや建築についての思考錯誤する様子が繰り返し描かれる。現代で言うとAIのように、正確な地図が広まっていなかった当時は、正確な地図を描くことが単に個人の知識としても、国家間の争いにおいても大きな意味を持ったことが伝わってくる。

しかし、満州という新しい国土をどのように発展させるかを議論を重ねて進める中で、満州という場所を国土として維持できないのであれば、苦労して築いた場所がそのまま敵国のものになってしまうという事実もあるのである。世界を巻き込んだ戦争へと突き進む中で、立場や持っている情報によって、日本人の間でも満州にしっかりとした街を築こうとするものと、満州への資源の投資を節約しようとする人など立場が分かれるのが興味深い。

カンボジアの内戦を描いた「ゲームの王国」でも感じたことだが、著者小川哲が膨大な時間をかけて歴史の調査にあてながら物語に仕上げているのを感じる。しかし、その一方で、それぞれの登場人物の心情描写が乏しく人間としての深みがほとんど感じられない。登場人物の個性が薄いため名前だけの存在になってしまい、読んでいるうちに誰が誰だかわからなくなることが多々ある。読者として有意義な読書にするためには、人間の物語に期待するのではなく、教科書よりも詳細に描かれた歴史として、少しでも現代に通じる真理や知識を学び取ろうという積極的な姿勢が求められる。

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「成瀬は天下を取りにいく」宮島美奈

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第21回(2024年)本屋大賞受賞作品。けん玉やシャボン玉など幼い頃からなんでもできて、周囲に振り回されない生き方を貫く中学二年生成瀬あかりの様子を友人の島崎(しまざき)が語る。

成瀬(なるせ)と島崎(しまざき)は地元の西部デパートの閉店のカウントダウンで毎日西武に通うことにしたり、一緒にM-1グランプリに出場するために漫才をしたりするのである。そんな毎日一生懸命生きる二人の様子はきっと良い刺激になることだろう。

本書の魅力は成瀬(なるせ)の真っ直ぐな考え方やその行動力であるが、もう一つ面白いのは滋賀県の膳所(ぜぜ)を舞台にしていることである。大都市でもなければ田舎でもなく、そんなほどほどの街だからこそあまり物語に登場しない場所なので新鮮である。

全体的に、成瀬(なるせ)真っ直ぐに生き方が爽快である。現実ではなかなかここまで割り切って生きることが難しいからこそ、読者の琴線に触れるのではないだろうか。とりあえず自分も成瀬を見習って200歳まで生きることを挑戦したいと思った。

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「インフレーション宇宙論」佐藤勝彦

★★★☆☆ 3/5
宇宙の始まりに関するインフレーション理論について説明する。

宇宙の物語について少しでも理解したくて、宇宙論や量子論に関する本を読んでおり、本書にもその過程で出会った。

本書ではビッグバン理論までの流れとビッグバン理論の矛盾を説明し、その後インフレーション理論を説明していく。
相変わらず想像上の話が多く理解しずらいが、インフレーション理論とはそれまでのビッグバン理論を否定するものではなく、ビッグバン理論では説明できないビッグバン理論以前の宇宙を説明する理論、つまり捕捉する理論であることがわかった。

相変わらず読めば読むほどわからない考えや理論が溢れてくることに圧倒される。暗黒物質、暗黒エネルギー、真空のエネルギー、グレートウォール、力の統一論など、引き続き知識を深めていきたいと思った。

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「コーチング思考」五十嵐久

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
経営者専門のコーチである著者がコーチングの重要性と考えを語る。

年齢を重ねると若い頃のようにさまざまなことを指摘してもらう機会が減ってくるし、どうしても決まった考え方に流れがちである。そういう意味ではコーチングが重要であることは明確なのだが、コーチをつけた経験もないので、実際それがどんなものなのだかがわからない。同時に、むしろ自分自身が妻や子供、同僚への良いコーチになりえるなためのヒントが得られるのではないかと感じてこちらに辿り着いた。

コーチングにおいて重要な考え方のいくつかを箇条書きにしてくれている点がありがたい。例えば次のような項目である。

コーチャビリティを伸ばす「SPACE」
・自分を知っている(Sele-Awareness)
・情熱がある(Passion)
・当事者意識がある(Accountability)
・好奇心旺盛である(Curiosity)
・実行力がある(Execusion-Ability)

本書ではコーチャブルな人間としてこの項目を書いているが、成長を続けられる人の特徴とも言える。常に自分がSPACEであるか意識したいと思った。

なかでももっとも印象的だったのが、成功の循環モデルというものである。

成功の循環モデル
・関係性の質
・思考の質
・行動の質
・結果の質

世の中には良いサイクルと、悪いサイクルがあり良いサイクルは関係性の質の改善から取り組むのに対して、悪いサイクルは結果の質を改善しようと取り組むとしている。これこそまさに、世の中のうまくいっていない企業や人間関係を端的に表していると感じた。

全体的に日本の本屋にあふれている余白だらけでどこかで聞いたような話の寄せ集めのような内容の薄い本に見えたが、読んでみると初めて聞く話など印象的な内容もあった。

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「コロナ漂流録 2022の銃弾の行方」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
コロナの感染者数が増える中、前首相が手製の銃で狙撃される。コロナ禍の東城医大を中心に政治や社会の様子を描く。

コロナ三部作の三作品目である。前二作品と同様に、実際の出来事にかなり忠実に描かれているので、前首相の狙撃などは描かれているものの、読者の想像を超えるような物語の大きな動きは少ない。一方で中抜きのために税金を大量に投入してつくったコロナアプリや、ワクチンの補助金を受け取りつつワクチン開発を断念した企業の問題など、今まで御用メディアが報じない政治の深刻な問題に目を向けてくれる。

随意契約で四億円、問題が発覚した後の再委託が三億五千円、総額七億五千万円の税金を投入して開発されたアプリは、不具合が次々に噴出して機能不全になっていた。
しかも支払いは中抜きに次ぐ中抜きで、実際に開発した下請け会社に渡ったのはたったの四百万円だったというのだから、呆れて物が言えない。

上場以来二十年、株式市場から資金調達を続けながらも一度も黒字化していない製薬会社で、ワクチン開発実績ゼロのベンチャーに百億円以上も補助金をだすなんて決めやがったのは、一体どこのどいつだよ

結果として国への大きな失望感を感じるとともに、一人の国民として行動をしなければならないという危機意識を再認識させられた。そしてまた、世の中の動向を知るにはテレビだけでは不十分どころかむしろ危険で、多方面の視点から描かれた感想や物語に触れるのが一番だと感じた。

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「ELEVATE 自分を高める4つの力の磨き方」ロバート・クレイザー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自分を高める4つの力について順を追って説明している。

自分を高める4つの力を精神のキャパシティ、知性のキャパシティ、身体のキャパシティ、感情のキャパシティとしてそれぞれを章ごとに説明している。身体のキャパシティ以外の3つが若干区別しずらいが、日本語では目的、知識、健康、心構え、という言葉で語られることが多い。

印象的だったのは感情のキャパシティの章で触れられていた、人の心に変化を起こすとする次の公式である。

心のつながり+挑戦=変化

改めて、人や世の中を良い方向に変化させるためには、適度なつながりを構築する必要があることを感じた。

それぞれの章の冒頭に格言が書かれているのが興味深い。印象深かったものを挙げると次の2つである。

心の姿勢が正しい人が目標を達成するのを阻止することができる者は存在しないし、
心の姿勢が間違っている人を助けられる者もこの世には存在しない
自分が若いときにいてほしかった人になれ

ページ数も少ないうえに余白も多く、内容も引用や本やWebサイトの紹介が多く、値段に見合うほど中身の濃い本とは言えない。1時間程度で読み終わってしまうような内容なので、学べる点をなにがなんでも見つけようとか、紹介されている本やサイトをすべて見てみよう、など強く意識しない限り意味のある読書にはならないだろう。

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「Artemis」Andy Weir

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人類が月面の都市で生活をするなか、配達をして生計を立てる女性Jazzを描く。

序盤は月面での生活を詳細に描いていく。重力が少ないゆえに起きる出来事や、都市の機能が未発達ゆえに起きる治安上の問題など、しっかり科学的に説明していく点が著者Andy Weirらしい。

やがて、月面生活の中で少しでも理想の生活を手に入れたいとお金を稼ぐことに勤しむJazzに、危険な仕事を持ちかけられたことから物語は大きく動いていく。そしてやがれそれは月面都市全体の未来を守る使命へと発展していく。

"Artemis" by Andy Weir

Jazzの父親が製錬工の職人であり、Jazz自身も十代の頃には一緒に仕事をしたことがあるだけに、そんな親子の仲違いや絆も描かれる点も面白い。

普通にいろいろ興味深く物語としても楽しめるが、やはり前作「Project Hail Mary」が想像を超えた面白さだったせいで、期待値が上がってしまっているのを感じる。残念ながらそれを超えるほどのものではない。

英語新表現
tourist trap 観光客向けの罠
foot trafic 歩行者交通量
make a stand 断固として抵抗す
hit on people 人々を口説く
in red tape お役所仕事、形式的で非効率な仕事
five by five 音声の大きさと明確さが最高レベル
conk out 意識を失う
take a sniff かぎまわる
cardiac arrest 心停止

「行動経済学が最強の学問である」相良奈美香

オススメ度 ★★★★☆ 3/5
アメリカで行動経済学を専門とする著者が体系的に行動経済学を説明する。

最近の日本の書籍の傾向なのか、内容をわかりやすくするだけではなく、間引いているように見える。本書もその一つで、本書の中でも触れられていて同じく行動経済学を扱った「ファスト&スロー」や「予想通りに不合理」などと比較すると内容が薄いように感じる。

本書で新鮮だったのは、行動経済学という新しい分野を体系化しようと試みている点である。本書では認知のクセ、状況、感情という3つのカテゴリに分けて説明しようとしている。

認知のクセ
・計画の誤謬
・真理の錯誤効果
・快楽適応
・自制バイアス
・システム1vsシステム2
・ホットハンド効果
・身体的認知
・確証バイアス
・概念メタファー
・メンタル・アカウンティング
・解釈レベル理論
・非流暢性
状況
・フレーミング効果
・おとり効果
・ナッジ理論
・アンカリング効果
・プライミング効果
・系列位置効果
・感情移入ギャップ
・単純存在効果
・パワー・オブ・ビコーズ
・情報オーバーロード
感情
・アフェクト
・ポジティブ・アフェクト
・ネガティブ・アフェクト
・心理的コントロール
・拡張-形成理論
・不確実性理論
・心理的所有感
・境界効果
・目標勾配効果
・キャッシュレス・エフェクト

行動経済学関連の書籍を数冊程度読んだことがある読者にとっては、いずれも聞いたことばかりある事柄だろう。しかし、それぞれの事象を命名している点がありがたい。組織のなかに浸透させるためには、いちいち事象を説明するのではなく、簡潔な言葉を共通言語として繰り返し使うに越したことはない。自然と言葉が出てくるようにしたいと思った。

全体的には上に書いたように、体系化と言語化に努めている点のみに新しさを感じた。

昨今「・・が9割」や「・・が最強の・・である」など似たようなタイトルが目立っている。売れるための手法なのかもしれないが、売ることだけを目的とした大層なタイトルは、内容が伴わなければ失望感の方が大きく、結果的に出版社や著者の信用を傷つけることにしかならない。長期的には出版側にとっても読者側にとってもマイナスであることに気づいてほしい。

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「Las herederas de la Singer」Ana Lena Rivera

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1930年代から2010年代まで、フランコ政権からコロナ禍までのスペインの女性の生き方をAurora, Áqueda, Ana, Albaという四世代の女性を中心に描く。

四世代の女性の視点を何度も行き来しながら物語は進む。1940年代は石炭産業が盛んで、表向きは男性しか炭鉱に入ることを許されないというなか、Auroraは購入したミシンで、徐々に服飾の道で生計を立てていく。

Las herederas de la Singer

娘のÁquedaはAuroraの立ち上げた服飾の業務をさらに発展させていく。1990年代のその娘のAnaは、大企業の息子と結婚したことから、裕福な生活を送ることができたが、姑との関係や拒食症など、貧困とは別の悩みに苦しむこととなる。

21世紀を生きるさらにその娘のAlbaは同性愛者であることで生きにくさを感じながらも、女性や社会のためにできることを模索し続ける。

少しずつ改善してはいるものの、いずれの世代も男性中心の世の中で生きづらさを感じる女性の人生が描かれている。そんななか、Auroraの時代は必死で自分が生き抜くことを考えていたにもかかわらず、Albaの時代は他者への貢献に人生の目的を置いている点が興味深い。

スペイン人にとっては常識となっている大きな出来事が物語中に取り入れられているようだ。日本人にとっての、東日本大震災や地下鉄サリン事件などのようなもので、スペイン人にとってはきっと過去を当時を思い出しながら懐かしさと共に物語を楽しめるのだろう。映画フォレスト・ガンプがアメリカのさまざまな歴史的出来事を取り入れているにもかかわらず日本人には少し分かりにくいように、ひとつひとつの出来事に共感するのは難しいだろう。それでもスペインの歴史に触れたいと思って本書に触れる人にはちょうどいいかもしれない。

正直、物語の展開が4人の女性の視点を行き来するだけでなく、時間としても2000年代に移ったり1930年代に戻ったりするので、物語についていくのが正直つらかった。現代と過去の2つ程度の時間軸までにして、基本的にはそれぞれの時間軸の中で過去から未来へ進んでくれたらずっと読みやすかっただろう。

スペイン語新表現
para sus adentros 心の中で
como reza el dicho よく言われるように、諺にもあるように
antecedente penal 犯罪歴
tener cabida en に居場所を作る、におさまる
por fuera 外見上は

「オルタネート」加藤シゲアキ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第41回(2021年)吉川英治文学新人賞受賞作品。高校生向けSNSのオルタネートが生徒の中で広まる中、料理に情熱を注ぐ容(いるる)、高校を辞めたばかりの尚志(なおし)、オルタネートで運命の人を見つけようとする凪津(なづ)の3人を描く。

物語は都内にある円明学園という高校を中心にすすむ。料理に情熱を注ぐ容(いるる)は昨年出場した高校生向けの料理番組に今年も出場して好成績を上げるために調理部の部長として活動する。凪津(なづ)は高校生の間で普及しているSNSオルタネートを利用して運命の人を探そうとする。そして、関西で高校を辞めたばかりの尚志(なおし)は昔のバンド仲間を訪ねて円明学園を訪ねるのである。

それぞれが悩みを抱えながらも成長していく様子を描く学園青春小説である。新鮮なのはそれぞれの出会いや人間関係がオルタネートというSNSに大きく影響を受けているという点である。

僕自身はSNSの普及より前に学生時代を終えてしまったので、このようにSNSに大きく左右される学生時代の描写は新鮮である。現代の学生生活と自分の学生時代との違いを改めて考えてみるきっかけとなった。ただ、残念ながらそれ以上心に残るものはなかった。

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「Bringing Down the House: The Inside Story of Six M.I.T. Students Who Took Vegas for Millions」Ben Mezrich

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
MITで将来に悩む学生だったKevinはMITで長きにわたって存在してきたブラックジャックチームに加入することとなり、さまざまなカジノでお金を稼ぐ生活に入り浸っていく。

物語は進路に悩むMITの学生の20歳のKevinが、カードカウンティングチームに勧誘され、カジノで大金を稼ぐ様子が描かれている。

「Bringing Down the House: The Inside Story of Six M.I.T. Students Who Took Vegas for Millions

序盤は、そんなKevinがカードカウンティングの技術を学んで、カジノで仲間と協力して大金を稼ぐ様子が描かれている。

中盤以降は、少しずつカジノ側も対応してきて、次第にMITチームはカジノから出入り禁止や、脅迫を受けることとなる。そんななか、カジノで稼ぐことと自分の辿り着きたい人生とのギャップに苦しむKevinと、カードカウンティングで生きることにこだわる他のメンバーとの意識の差が大きくなっていく。

Was this where he belonged? Was this who he had become?
これが自分がいるべき場所か? これが自分がなりたかった人間か?

カードカウンティングというのは聞いたことがあったが、出たカードを記憶しておくことで、残りのカードを推測することかと思っていたが、実際にはもっと単純なものであることがわかった。

本作品では後半には「マネー・ボール」のBilly Beaneについても触れられているが、数字を重視して、一般的な人が陥りがちな先入観から解放され、ブラックジャックやプロ野球など特定の分野で成功することは、理系の人間には最高に楽しく爽快な瞬間だろうなと感じた。まだ数値的な分析が未開拓な分野を探してみたくなった。

英語新表現
trespass act 不法侵入行為
crash out 眠りにつく
hit the pool プールで泳ぐ、プールに入る
face cards トランプの絵札
break a sweat 汗をかく
raise a sweat 汗をかく
arbitrary point 任意の時点
failure point 限界点、機能停止点
grounded family 地に足の着いた家族、現実的な家族

「博報堂デザインのブランディング」永井一史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長年ブランディングに関わってきた著者がその考え方を語る。

前半は著者のブランディングの考えを語り、後半はこれまで著者が手がけてきた事例を紹介している。

僕自身もデザイナーとしてブランディングに関わることはあるが、その過程で、言葉が定着していないために聞き手に伝わりやすい言葉選びに悩むことがある。そのため、本書のように他のブランディングに関わる方がどのような言葉を使っているのかが気になるところである。

本書では一般的にはブランドコンセプトと呼ばれることが多いブランドの核となる考えを「思い」と呼んでいる。そして、コンセプトデザイン、ビジュアルデザインと呼ぶことが多い、二つのデザインのカテゴリを思考のデザインカタチのデザインと呼んでいる。どれも結局受け手に伝わりやすいかどうかで場合によって使い分けるべきだろう。

また、デザインにおいて適切な情報のインプットが必要なのはよく知られたことであるが、著者はそのインプットを5つに分類している点が印象的である。

  • 歴史性 ブランドのオリジンにさかのぼる
  • 機能性 何の仕事、どんな商品かを考える
  • 文化性 どんな豊かさやライフスタイルを提案できるかを考える
  • 社会性 ブランドがどう社会に役立つのかを考える
  • 関係性 ブランドと生活者の関係性を考える。

漠然とインプットを探すと視点が曖昧になりがちだが、こうして整理されるとしっかり網羅できる点が良さそうである。このインプットのぶんらうい方法は早速取り入れたいと思った。

後半は事例説明ではあるが、伊右衛門、表参道ヒルズなど誰でも知っている有名ブランドが溢れているのは圧倒される。知識としてブランディングの手法を知っているだけでは叶わない実績のインパクトと大企業でブランディングに関わるメリットをあらためて感じた。

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「罪の轍」奥田英朗

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1960年代の北海道礼文島、漁師の手伝いをしながら、空き巣を繰り返していた宇野寛治(うのかんじ)は警察に終われ東京に向かうこととする。

物語は序盤のみ礼文島の宇野寛治(うのかんじ)の様子を描き、中盤以降は、東京で刑事として働く落合昌夫(おちあいまさお)が他の刑事たちと、その警察官区で繰り広げられる窃盗、殺人そして、誘拐事件の解決に奔走する要するを中心に描く。

本を読むときに大切にしているのは、物語自体を楽しんだり、その本を読むことで得られる知識を吟味することだけでなく、なぜ著者は今これを書いたか、という視点である。本書でいうと、なぜ今さら1960年代を舞台にした誘拐事件を物語として描こうとしたのか、である。

正直最初の印象としては、誘拐事件と身代金の受け渡しという、そこらじゅうで使い古された物語で特に学ぶべき点はなさそう、というものだった。しかし、読み進めるにつれて少しずつ興味深い点も見えてくる。

高度経済成長期のこの時代を扱った物語は少なくないが戦時中ほど物語の舞台になることは多くないので、意外と知らないことが多いことに驚かされた。本書を読むまで、電話の普及のタイミングをあまり知らなかったが、本書によると、この時代に少しずつ固定電話を持つ世帯が増えたのだという。また、物語の舞台に東京スタジアムというプロ野球の野球場が登場する。こちらについても今まで聞いたこともなかったので、長いプロ野球の歴史に改めて感銘を受けた。

そんななか、誘拐事件に固定電話が使われるようになり、いたずら電話に悩む刑事が電話の匿名性を嘆く点が面白い。もちろん逆探知は可能なので完全な匿名性ではないのだが、現代のネットの匿名と似たような空気を感じる。結局人間の歴史とは、少しずつ人々が情報へのアクセシビリティの向上と、人と人との接点の数の増加の歴史であるであり、その過程で多くの議論や事件が生じるのだと改めて気付かされた。

歴史を学ぶ意義と同様に、過去を知ると、現代との比較で世の中の流れがわかり、未来が予想しやすくなる。そういう意味では50年前を舞台にした本書はいろいろと新たな視点をもたらしてくれたが、傑作というにはもう一つ何かが足りないという印象である。

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「火口のふたり」白石一文

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
賢治(けんじ)は従姉妹直子(なおこ)の結婚式のために帰省し、そこで久しぶりに直子(なおこ)と再会する。結婚式までの二人の様子を描く。

賢治は41歳、直子は36歳というアラフォーのひとときの関係を描く。

賢治(けんじ)は離婚経験があり、直子は独り身でこれまでフリーターとして生活してきた。そんな人生に心から満足されてない二人の、結婚式当日までの期限つきの関係からは、人生の矛盾や教訓が見えてくる。直子(なおこ)と賢治(けんじ)それぞれが別れ際に語るコメントが印象的である。

生きてるだけで楽しいって思える人と、成功しなきゃ楽しくない人がいたら、生きてるだけで楽しいって思える人の方が何倍も得だ

いまやりたいことをやっていると、人間は未来を失い、過去に何も残せない。明日のために必死の思いで今日を犠牲にしたとき、初めて立派な昨日が生まれる。
俺たちの住むこの社会において最大にして最善と見做されているルールはこれだ。

白石一文の物語は、「私という運命について」「一億円のさようなら」など、深みを感じさせる作品が多いので、今回も久しぶりにそんな世界に浸りたいと思って本作品を手に取ったが、残念ながらそこまで印象的なものではなかった。

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「具体と抽象」細谷功

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
具体と抽象について語る。

人間は動物に比べてずっと抽象的な概念の扱いに長けている。本書ではさまざまな事例を交えて、具体と抽象について語っている。例えば、人間同士の会話などで問題となる、物事の伝わりやすさは、想定している抽象度が語り手と受け手の間で異なることによって起きる。

最も印象的だったのは抽象と具体の世界をマジックミラーに例えた章である。

上(抽象側)の世界が見えている人には下(具体側)の世界は見えるが、具体レベルしか見えない人には、上(抽象側)は見えないということです。

基本的に具体側に近づけば近づくほど、誰でも理解できるようになっていく。逆に言えば、抽象側を広く理解できる人ほど、多くの視点を持っている賢い、時には変人と呼ばれる人間なのだろう。本書では相対性理論のアインシュタインを挙げているが、一般の人には問題の意味すら理解できない数学の問題なども、それのわかりやすい例である。

結局、多くの人が知りたいのは次の2点である。抽象寄りの人が、自分の立ち位置ほど抽象化した事象を理解できない人にどう対応すべきか抽象的思考能力を向上させるためにはどうすれば良いのか。しかし、残念ながら本書では、さまざまん経験を積むこととしか書いてない。実際、その答え以外ないだろう。

書いてあることはいずれももっともで、むしろ当たり前すぎる。しかし、当たり前にもかかわらず、この具体度と抽象度のずれが多くのコミュニケーションのずれを日常で気に生みながら、人はそれに対応する手段も持たず、また改善に努めようとさえしていないのである。

読後の感想としては、こんな当たり前のことをダラダラ書き連ねて、特に具体的な行動提案ももない残念な本という感じだったのだ。ちょっと時間が経ってみると、ここまで世の中の真理をしっかり語った本もなかったと、本書の斬新さに気づき始めた。つまり評価の難しい本である。ぜひ、自ら手に取って判断していただきたい。

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「マルセイユ・ルーレット」本城雅人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元サッカー選手の村野隼介(むらのしゅんすけ)はユーロポールの捜査員としてサッカー賭博の取り締まりに加わることとなる。

タイトルのマルセイユ・ルーレットとはフランスサッカーの英雄ジダンが好んで使っていた技であり、サッカーを好きなら人ならだれでも一度ぐらいは聞いたことがあるだろう。著者は「スカウト・デイズ」でプロ野球のスカウトの物語を描いていたので、今回も同じように普通にスポーツを楽しんでいる上では見ることのできない視点からサッカーを描いていることを期待して手に取った。

物語はフランスを中心としたサッカー賭博を題材としており、異国の地でサッカーに関わる3人の日本人の視点で描く。サッカー賭博を捜査するユーロポールの村野隼介(むらのしゅんすけ)、父親が遺したフランスで子供向けのサッカー教室の運営に奮闘する平井美帆(ひらいみほ)、そして、フランスでプロのサッカー選手として生きる水野弘臣(みずのひろおみ)である。

もっとも印象的なのは水野弘臣(みずのひろおみ)である。大きな夢を追ってフランスの地にやってきたにもかかわらず、少しずつサッカー賭博の罠に嵌まり込んでいくのである。きっかけは試合後の仲間と気晴らしで、カジノに行ったことだった。そして、気がついたときには大きなサッカー賭博の組織のために八百長をせざるを得ない状況に陥っているのである。

一般の人ば持つ、八百長に関わるサッカー選手に対するイメージは、お酒や麻薬に溺れる人のような自制心のない人間だろう。しかし、実際にはサッカー賭博の組織は、普通のサッカー選手でさえも陥るように巧妙に罠を張り巡らしているのである。改めてサッカー選手に限らず、多くの注目を集めるプロ選手は、私生活さえも質素に送るべきだと感じた。

サッカー賭博が世の中に多く存在するのはサッカーファンとしては残念なことであるが、大きなお金の動くところには、そこで儲けようとする人々が集まってくるのは当然の流れで、それは現実として受け入れなければならないだろう。本書はサッカーにそんな新たな視点をもたらせてくれた。

著者の作品には他にもスポーツを題材にしたものがいくつかあるようなので、他の作品も読んでみたいと思った。

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「Ugly Love」Colleen Hoover

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
看護師を目指して勉強中のTate Collinsはパイロットの兄のアパートでしばらく過ごすこととした。そこで同じように他のパイロットの男たちと出会う中、そのうちの一人Miles Archerに惹かれていく。

少しずつ惹かれ合うTateとMilesだが、Milesは二人の関係に2つの条件をつける。過去は詮索しないこと。未来を期待しないこと。そんな条件に抵抗感を抱きながらもMilesが好きでたまらないTateは、その条件を受け入れて関係を続けるが、もっとMilesのことを知りしたい、というジレンマに苦しんでいく。

物語はそんなTateとMilesの恋愛と並行して6年前のMilesの恋愛が描かれる。まだ大学生だったMilesが大学に転校してきたRachelという女性に恋をするのである。

そして次第に、6年前のRachelとの出来事がMilesの心に大きな傷を遺し、そのためにMilesはTateと必要以上に親密にならないようにブレーキをかけているとわかる。TateとMilesの現代の物語では少しずつそんな中途半端な関係に苦しむ様子が描かれ、6年前のRachelとMilesの物語では、一見幸せに見える二人の関係が描かれるが、6年後のMilesの苦しみを知っているからこそ、悲劇が起きる予感が漂うのである。

そんななかTateやMilesが住むマンションの管理人であり80歳のCapがTateやMilesの相談役となりの、しばしば深い言葉を吐く。

Some people… they grow wiser as they grow older. Unfortunately, most people just grow older.
年齢と共に賢くなる人がいる。しかし、残念ながら多くの人はただ歳をとるだけだ

最後は予想通り泣かせてもらった。「November 9」の印象からColleen Hooverの本は軽い部分と重い部分のコントラストが激しい傾向にあると知っていて、今回もきっと期待を裏切らないだろうと思ってはいたが、それでも前半はTateとMilesのラブシーンが多さには辟易してしまった。ラブシーンに突入するたびに「またこの学びのないラブシーンを時間をかけて読まなければならないのか」、と正直うんざりしてしまった。最後が思いっきり泣かせる展開なだけに、そのような前半のバランスの悪さが残念である。

英語新表現
talk myself down 自分を卑下する
I'm beat. 私はへとへどです。
outie 出べそ
closed off 心を閉ざしている
sell myself short 自分を安売りする

「替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方」国分峰樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
専門性の身につけ方について語る。

序盤はAIによって置き換えられていく仕事の話やChatGPTの話など、そこら中で語られているようなことばっかりだったので、また内容の薄い本を読み始めてしまったかと思ったが、中盤以降いくつか興味深い話に出会うことができた。

基本的に著者の語っていることは自分の考えと近いと感じた。特に「やらなければいけないこと」ではなく「好きなこと」に目を向ける、と自分らしい問いを立てること勧めている点は、自分が常々思っていて、今の日本ではもっと人々が目を向けるべき感じる部分である。

今まで僕が考えていなかった考えでは、本だけでなく、論文を読むことも勧めている点が印象的だった。論文の探し方についても説明しているので、こちらは早速取り入れたいと思った。

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「THINK BIGGER「最高の発想」を生み出す方法」シーナ・アイエンガー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
発想を生み出す方法THNK BIGGERについて説明している。

序盤はニュートン、ピカソ、ヘンリー・フォードなど過去の著名な人物の発明を例にとって基盤となる考えを説明する。それは、過去の斬新な発明や考えは、すでに知られていた技術や考えを単に組み合わせただけで、ゼロから何かを生み出そうとするのではなく、最適な組み合わせを考えることこそ重要、と言う考えである。

その後THINK BIGGERを6つのステップに分けて解説していく。

1.課題を選ぶ
2.課題を分解する
3.望みを比較する
4.箱の中と外を探す
5.選択マップ
6.第三の眼テスト

昨今多くの組織でブレインストーミングの文化が取り入れられているが、その効果が疑わしいのは実際に経験したことのある人なら薄々察していることだろう。

集団力学が個人の創造性を大きく妨げることも明らかになっている。人はさまざまなかたちで周りに忖度し、アイデアを間引いたり、最初や最後に提示されたアイデアに過度に影響されたり、最も都合のいいアイデアを選んだりする傾向がある。

もっとも印象的だったのは「課題の定義」を怠らないという言葉である。

複雑な課題に関しては、正しい課題を正しいレベルで特定しなければ、混乱し、労力を無駄にし、不本意な結果に終わるのは目に見えている。…
Think Biggerでは、意味がるほどには大きいが、解決できるほどには小さい課題を特定する。

それぞれの章で説明していることは納得のいくことばかりだが、全体の手法事態は組織のサイズなどによってカスタマイズする必要があるだろう。今後デザインスプリント等組織全体でアイデアを出す機会があったら本書で紹介されている考え方を部分的にでも取り入れてみたいと思った。

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