オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学で研究を続ける姉の菜穂子(なおこ)とラジオのパーソナリティを勤める妹の和貴子(わきこ)。2人は中学生のときに両親を交通事故で失い、妹の和貴子(わきこ)は2年前に恋人を失った。そんな2人の姉妹愛を描く。
回想シーンを交えながら姉の菜穂子(なおこ)目線で物語は進む。和貴子(わきこ)の亡くなった恋人が、菜穂子(なおこ)の元クラスメイトであったことが、二人の間の溝を広げていく。
それぞれ、自分の嫉妬や怒りの原因を探し、時には相手が悪くはないとわかっていてもお互いに怒りをぶつけずにはいられない…。1まわり大きな「大人」になるための大事な葛藤や衝突を本作品は描いている。
印象的なのは、自分の本当にやりたいことを見つけるために、自分の名前の書いたおもちゃ箱の中からいらないものを一つずつ捨てていって最後に何が残るか考える、という行動だろう。僕の場合、一体何が残るだろうか…。
人に嫉妬したことのない人などいない、人に八つ当たりしたことの人などいない。嫌な感情で、出来ればしたくない振る舞いだけど、きっとそういう行動をして、そんな行動を後悔して受け入れて、他人のそんな行動を許せる、優しく諭せる大人になるのだろう。
【楽天ブックス】「北緯四十三度の神話」
カテゴリー: ★3つ
「白夜街道」今野敏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁公安部の倉島(くらしま)警部補は、元KGB所属のロシア人ヴィクトルが日本に入国したという情報を得る。
物語は「曙光の街」の5年後という設定である。「曙光の街」のエピソードの中で、ヴィクトルの強さを肌で感じ、平和に見える日本の中でも、裏では命をかけたやりとりがあり、だからこそ公安という仕事の必要性を肌で感じた倉島(くらしま)が、5年を経て成長した姿を本作品で見ることができる。
本作品でも物語の視点は主に、ヴィクトルと倉島(くらしま)で展開していく。前作では、日本を舞台にした闘いや本当の強さにあこがれる男達の人間物語であったが、本作品の半分近くがロシアでの物語りとなっていて、僕ら日本人にはあまりなじみのないロシアの文化や、その周辺国の歴史を中心に進められているため、ロシア、中央アジアの歴史、文化などに興味をかきたてられる作品に仕上がっている。
ヴィクトルと倉島(くらしま)、お互い多くの人間と同じように、自分の良心に背かないように生きていこうとしながらも、その生まれ育った国や文化が異なるために異なる考え方をするその人生の差と、その2人が合間見えて何かを感じ合う展開がこのシリーズの魅力なのだろう。
そしてロシアと日本を比較することで、日本にある安全がかならずしも永遠に続くものではない、言い換えるならいつ終わってもおかしくない貴重なものであることを訴えてくる。
ただ、前作を読んでない読者にはやや理解しにくいのかもしれない。
【楽天ブックス】「白夜街道」
「ロンリー・ハート」久間十義
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松島早紀(まつしまさき)巡査部長とその上司の永倉(ながくら)警部補の所属する所轄警察署は、拉致事件と中国人によるキャバクラ強盗事件を扱っていたる。その一方で、落ちこぼれの高校生3人組みは日々の鬱憤をナンパなどで晴らしていた。
高校生三人組の生活と、警察の捜査を交互に見せることで、いつかこの2つの物語が重なっていくのだろうという期待を持たせる。そして、高校生三人組の目線でも、他の二人の行き過ぎた悪さに戸惑う博史(ひろし)、自分を他の二人のおろかな行為の尻拭いをしなければならない被害者としか思わない、亮(あきら)など常に目線は移り変わり、一見自分勝手にしか見えない人間にもそれぞれポリシーがあり言い分があるのだということを認識させられる。
そして、捜査の忙しさによって家庭のケアに時間を割けない永倉(ながくら)とその高校生の娘、絢子(あやこ)のやりとりも重要な要素となっていく。そして、キャバクラ強盗事件から、中国人組織と、日本国内における、中国人、日本の暴力団、警察組織の駆け引きにも触れられている。
そんな捜査の過程で刑事達は嘆く…
終盤の、目の前で起こる出来事に戸惑い暴走する少年と、恐怖によって判断力を失った少女の行動を共にするシーンは個人的にはもっとも印象に残っている部分である。前半の展開の遅さにはややストレスを感じたが、後半は十分によみごたえがあった。
ただ、個人的には、松島(まつしま)巡査部長の女性被害者を守る立場と、犯人を逮捕したいという気持ちや、女性蔑視がはびこる警察組織内ゆえの葛藤をもっと表現して欲しかったと感じる。
【楽天ブックス】「ロンリー・ハート(上)」、「ロンリー・ハート(下)」
「サスツルギの亡霊」神山裕右
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
カメラマンの矢島拓海(やじまたくみ)は一枚の絵葉書を受け取った。その差出人は2年前南極で死亡したはずの義理の兄だった。期を同じくして拓海は南極越冬隊への仕事の依頼を受ける。
この作品の魅力は、その舞台を南極という地に設定している点だろう。その土地自体がすでに僕らにとっては未知の土地であるし、常に雪に覆われている点や、時に太陽さえも昇らないその場所はそれだけで十分に魅力的な素材となっている。しかし、本作品の仔細な描写と通じて、その生活の様子を知ることによって、南極という地に対して、僕ら一般の人間がどれほど偏見と幻想を抱いているか知るだろう。
物語は、南極へ向かう航路から不可解な事件が起こり始め、次第に2年前の義理の兄の死亡の裏に隠された真実に迫っていく、という流れであるが、個人的にはミステリーや謎解きの色合いよりも、南極という地特有の厳しさや不思議。そして、少人数社会ゆえに起こる諍いや各人が感じる存在意義などに焦点を当てているように感じた。
とはいえ、物語展開としての面白さが欠けているというわけでもなく、特に、鍵となる登場人物の背景がしっかり描かれていることに好感が持てる。そして、もちろん南極で過ごし、少しずつ義理の兄の生きてきた足跡に触れることによって変化する拓海(たくみ)の心情も描いている。
南極という地特有の出来事を要所要所に小道具として盛り込んでいるため、ややイメージしにくい部分もあるが、本作品を通じて得られる知識や、歓喜された好奇心という点では十分に満足のいく作品である。
【楽天ブックス】「サスツルギの亡霊」
「千里眼 優しい悪魔」松岡圭祐
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
千里眼第2シリーズ第9作。スマトラ島自信で記憶を失った女性を治療するためにインドネシアに趣いた岬美由紀(みさきみゆき)はそこで、世界を操る闇の集団メフィスト・コンサルティング・グループのダビデと出会う。因縁の戦いが再び始まる。
例によって、時事ネタや、感心するような小話を随所に散りばめて展開しており、物語の面白さ以外にも楽しめる作品に仕上がっている。
本作品は、小学館の千里眼シリーズからたびたび登場するメフィスト・コンサルティング・グループのダビデと「千里眼 ファントム・クォーター」などで登場するジェニファーレイン、そして「千里眼 シンガポールフライヤー」で表に出てきた人の心を信じない集団、ノン=クオリアの間で繰り広げられる争いを描いており、角川文庫のシリーズの大きな区切りとなるような構成となっている。
中盤から利害が一致したことによってダビデと美由紀(みゆき)は行動を供にして、ジェニファーレインの悪事を阻もうと試みる。美由紀(みゆき)はいつのもとおりその正義感から、そして、ダビデは、かつての部下だったジェニファーレインを思ってか、仕事としてか…、今まで、そのおどけた表情の裏に隠されたダビデの本性だが、本作品ではダビデ目線で描かれるシーンもあり、過去のシリーズの流れとは少し違った空気を感じる取ることができるかもしれない。
本作品では、登場人物だけでなく、過去の事件などが何度か引用される。僕自身この千里眼シリーズは小学館と角川文庫で10年近く、ほぼすべてを読んでいるが、それでもその引用される登場人物や事件の前後関係が思い出せない。このあたりに松岡圭祐のおごりを感じてしまう。
物語的にはやや物足りない印象も受けるが、今後の展開に対する期待を感じさせる作品である。
【楽天ブックス】「千里眼 優しい悪魔(上)」、「千里眼 優しい悪魔(下)」
「ミッキーマウスの憂鬱」松岡圭祐
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
夢を支える仕事がしたいという思いから、ディズニーランドでの勤務が決まった青年、後藤大輔(ごとうだいすけ)の職場での姿を描いている。
松岡圭祐の初期の作品ということで、ずいぶん前からタイトルだけは耳にしていたが、なかなか触れる機会がなく、今回ようやく書店で目に止まり読むことができた。
本作品はもちろん、ディズニーランドを扱った作品である。物語中にはたくさんのアトラクション名が出てくるため、ディズニーランドに何度も足を運んだことのある人には非常に楽しめる作品かもしれない。残念ながら僕は2度しか行ったことがないので、そのイメージが湧いたのは、シンデレラ城、カリブの海賊、ビッグサンダーマウンテンなどわずか数点で、ディズニーシーに話が及ぶとまったくイメージできない、という具合であった。とはいえ物語はディズニーランドの舞台裏もかなり詳細に描いているので、夢は夢のままでとっておきたかった、と後悔する人もいるのかもいれない。
物語中でも、夢の世界の舞台裏に入ったことで、現実を突き付けられ、失望する後藤(ごとう)の姿が描かれる。
それでもやがて後藤(ごとう)は、周囲の人に支えられて、夢を支える仕事に自分の存在意義を見出していく。
物語の過程で描かれる、キャストたちの着付けの様子や、来場者の夢を壊さないためにキャストに強いられるさまざまなルールに、ディズニーランドの成功の秘訣を見ることができる。
また、物語の中で描かれる複雑な人間関係や、そこで発生する諸問題によって、東京ディズニーランドという、世界で唯一ディズニーカンパニーが経営権を持たないディズニーランドという企業としての利害関係についても理解を深めることができるだろう。
夢の舞台の裏側を描いたという展では本作品を読む意義はあっても、物語としてはややありきたりな印象を受けた。
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「ストロベリーナイト」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
溜池近くの植え込みから発見された惨殺死体から、捜査一課の警部補、姫川玲子(ひめかわれいこ)はその遺体損壊の必要性に気づく。類まれなる勘によって真実に近づいていく玲子の前に現れた謎の言葉は「ストロベリーナイト」。
最近では特に珍しくもなくなったが、本作品も、事件解決へ向かうとともん、警察組織内の縄張り争いや、刑事同士の足の引っ張り合いなどもしっかり描いている。
何か過去のトラウマを抱えていると思われる玲子(れいこ)の言動、そして、次第に浮かび上がる死体遺棄事件の関連性。それでいて読みにくさを感じさせないテンポや思わず笑ってしまう喜劇タッチも随所にちりばめられている面白さにも事欠かない。
前半部分で期待値は絶頂に達するが、残念ながら後半はあっけないほどあっさり事件が解決。やや拍子抜けである。
本作品では玲子(れいこ)の真実を見抜く力は、犯罪者に近い嗜好回路ゆえと結ばれている。しかし、それならば読者にも、犯罪者が犯罪者に走らざるを得なかったと納得させるような、苦悩や葛藤の描き方をして欲しかった、というのが個人的な感想である。
とはいえ総合的に評価すれば、今までにない刑事物語という印象を受けた。徐々に明らかになる玲子の過去と刑事になるまべのいきさつのくだりは、少々出来すぎな感もあるが、全体的には新しい警察物語で、読んでも損にはならないだろう。
【楽天ブックス】「ストロベリーナイト」
「カディスの赤い星」逢坂剛
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第96回直木賞受賞作品。
1975年、楽器メーカーを得意先に持つPRマン漆田亮(うるしだりょう)はスペインから来日したギター製作家から、一人の男を捜すように依頼される。その調査はやがて独裁政権末期のスペインへと繋がっていく…。
以前より気になっていた逢坂剛(おうさかごう)という作家に触れるためとりあえず直木賞受賞作品から手に取った。
物語の舞台は日本とスペインに渡っているのだが、物語中では終始スペイン文化が溢れている。日本を舞台とした序盤では、メインとなる調査のほか、漆田の恋愛やPRマンという仕事の様子にも触れられていて、刑事物語と似た雰囲気を感じる。
一方舞台をスペインに移した後半では、独裁政権下のスペインの様子がよく描かれていて、冒険物のような絵がかれ方をしている。スペインというどちらかというとクールな印象を抱くヨーロッパの国が、実はわずか30数年前までヨーロッパ最後の独裁政権と呼ばれていたというのは新しい驚きであり、ヨーロッパ各国の時代背景をほとんど知らないことに気づかされる。
やや内容を詰めすぎた感は否めない。もう少しコンパクトにまとめられたのではないか、とも思うが、多くのスペインの都市の名前が挙がり、余裕があればGoogleストリートビューなどで町並を感じながら読むのもいいだろう。スペイン好きにはたまらない一冊かもしれない。
【楽天ブックス】「カディスの赤い星(上)」、「カディスの赤い星(下)」
「仇敵」池井戸潤
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
地方銀行である東都南銀行で庶務行員として働く恋窪商太郎(こいくぼしょうたろう)は基は都市銀行のエリート行員。商務行員としての優雅な日を満喫しながら、時々若い行員に助言を与えて日々を送る。そんな恋窪(こいくぼ)を中心とした銀行の出来事を描いている。
池井戸潤(いけいどじゅん)の経験からリアルに描かれた銀行を舞台とした物語。
序盤は地方銀行の一般的ともいえる業務の様子を通じて、地域に根ざした企業と銀行員の物語を描いている。大企業を相手にできない地方銀行は、行員たちが必死で歩き回って融資先を探すしかない。経営者と親しくなることによって、経営に関して的確な助言を与えられることもあれば、逆に融資先として適当かどうかを客観的に判断できなくなることもある。
そして一方では、かつては壮大な夢を語って自信に満ちていた経営者たちが資金繰りに苦しんで会社をたたんだり、時には親友さえも裏切って会社を守ろうとする。
恋窪(こいくぼ)の仕事を通して見えてくる、夢や希望や努力だけではどうしようもない人生の厳しさが感じられる。
そして後半は、都市銀行の幹部たちが絡む陰謀へと焦点が移っていく。人の弱みに付け込んだり、意図的に会社を倒産させて設けようとするその企みの、細かい部分まで理解しようとするのは、その専門性ゆえにやや難しい印象も受けたが、その雰囲気を理解していくだけでも楽しめることだろう。
【楽天ブックス】「仇敵」
「ララピポ」奥田英郎
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
格差社会の底辺で生きる6人の男女を描いている。
人に頼まれたら断ることができないために徐々に泥沼にはまっていく男。作家という栄光にすがって生きていたらいつのまにか官能小説しか書いていない男。そのほかにも対人恐怖症のフリーライターや風俗専門のスカウトマンなど、僕にとってはあまり縁のない類のかなり刺激的な日常を描いている。
この物語の主人公はみんな自分の才能をみかぎってしまったひとばかり。そして、普通に会社で働いている人たちに気後れして生きていて、だからこそどんどん世間に認められる生き方からはずれていく。そして追い詰められた生活をしているからこそ人を思いやる余裕を持てない。それはもはや不幸のスパイラルである。
そんな希薄な人間関係の中で生活するから、寂しく、風俗などのつかの間の人との触れ合いにわずかなお金と時間を費やして、更なるどの沼へと落ちていくのだろう。
それでもこの物語を読みながら感じたのはこんなこと。平和な日本では、プライドさえ捨てれば生きていくことはできる、ということだ。ホームレスとしてでも、体を売ってでも。
また、人間は意図するしないにかかわらず同じような境遇の人間と近付いていくのだとも改めて思った。お金のある人はお金のある人同士。そしてこの物語のようにお金も希望もない人たちは、お金も希望もない人となぜか近づいていく。だから、視野を広げるには無理をしてでもその人間関係の自然の法則に逆らうしかない。
最後に裏ビデオ女優がが嘆く言葉が心に響く。
こういう人間が世の中に存在するということを僕たちはもっと意識しなければいけないのかもしれない。「一生懸命生きれば幸せになれる。」などという言葉は彼らにとっては幻想でしかないのだ。
ふと魔が差したことを発端として人生を転がり落ちるそのスピード感はもはや奥田英郎の最大の売りと言えるかもしれない。「最悪」「真夜中のマーチ」で存分に繰り広げられたその展開力は本作品でも健在である。
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「容疑者xの献身」東野圭吾
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第134回直木賞受賞作品。2006年このミステリーがすごい!国内編第1位
一人娘と暮らす靖子(やすこ)のもとに、別れた夫である富樫(とがし)が現れる。口論の末に富樫(とがし)を殺してしまった靖子(やすこ)は、隣にすむ石神(いしがみ)の指示でアリバイ工作をする。
本作品の面白さは、犯罪を犯して犯罪を隠蔽しようとする靖子(やすこ)や石神(いしがみ)といった犯人側の目線をメインに描きながらも、その偽装工作の詳細が最後まで明らかにならない点である。
そして、そんな数学者である石神の考え抜かれた偽装工作に、これまた数学者でありドラマ化された「ガリレオ」の主人公としても名をはせた湯川学(ゆかわまなぶ)が挑む。湯川(ゆかわ)の追及によって少しずつ危機感を抱く石神。2人の天才の対決がこの物語の見所であるが、それだけでは終わらないのが東野圭吾ワールドである。最後は読者の想像のさらに上を行ってくれることだろう。
直木賞受賞作品ということでかなり期待したのだが、残念ながら、過去の東野作品の面白さの範囲を出ない。むしろ前回読んだ「さまよう刃」や名作「白夜行」のほうがはるかに強烈な物語だった。
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「1985年の奇跡」五十嵐貴久
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校の弱小野球部にすごいピッチャー沢渡(さわたり)がやってきた。勝利の味と悔しさを知った野球ことで部員達とその周囲に少しずつ変化が起こり始める。
舞台となっているのは1985年である。「キャプテン翼」によってサッカーの人気が出てきたあの時代。弱小野球部の野球部員はおニャン子倶楽部に夢中だった。そんな、僕自身よりも10歳ほど上の世代の青春時代を描いた作品。
この時代に対する僕らのイメージは、この時代に世にでていた漫画やドラマのせいだろうか、「根性」とか「青春」とか、なんかどこか敬遠してしまうようなイメージばかり抱いてしまうが、時代は違えど、高校生などどの時代も似たようなものなのだろう。手を抜くことと女の子と仲良くなることばかり考えていたのかもしれない。
本作品で描かれる野球部員達も、そんな種類の人間。「努力」と「根性」はせずに目の前の人生を楽しく生きたいという考え方。それでもそんな彼らが、野球とその仲間を通じて、少しずつ変化していく様子を描いている。
夏休みのこの時期にぴったりな爽快な物語。
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「ガラス張りの誘拐」歌野晶午
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
連続婦女誘拐殺人事件が発生した。佐原を含む刑事たちの努力によって事件は終結したかに見えたが不振な点を残す。そして第二の事件が起きる。
物語の目線である佐原(さわら)は娘との関係に悩む刑事である。彼を中心として2つの事件が描かれていて、それぞれの事件は単純な刑事物語のように感じられるが、少しずつ不振な点を残して最終的に一つの大きな意図が見えてくる。
特に大きなテーマがあるわけではなく、数ある刑事事件を扱ったミステリーの中に、一つの回答例を挙げているような印象を受けた。ただその意外性だけに頼りすぎてしまった感が否めない。例えば佐原と娘の関係など、もうすこしリアルな心情描写、読者が感情移入できるような表現が盛り込まれていたならもっと強烈な何かを感じることができたのではないだろうか。
【楽天ブックス】「ガラス張りの誘拐 」
「それでも、警官は微笑う」日明恵
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第25回メフィスト賞受賞作品。
刑事の武本(たけもと)と麻薬取締官の宮田(みやた)は違う組織に所属しながらも一人の麻薬常習犯の起こした事件で遭遇し、事件の全貌を追求するために協力しあうことになる。
物語の目線の大部分は刑事である武本に置かれている。武本は強い正義感と曲げることのない信念を持った、どちらかというと頑固で融通の利かない古い刑事という描かれ方をする。彼のモットーとしている父親の台詞が印象的だ。
そして武本だけではどうしても事件の謎解きだけに焦点があたってしまっただろう警察内部の登場人物に、潮崎(しおざき)という、これまた個性的な人間をペアとして組ませることで、本作品の大きな魅力の一つとなっている。
潮崎(しおざき)はその由緒ある家系のせいで、警察上層部さえも扱いに困る存在。しかしそれゆえに本人は自分の実力を正当に評価されないという悩みにぶつかる。家系に恵まれているからこそ陥る葛藤。「シリウスの道」の新入社員、戸塚英明(とつかひであき)を思い出してしまったのは僕だけだろうか。悪い環境に悩む人間もいれば、いい環境に悩む人間もまた存在するのである。
物語は序盤から宮田ら麻薬取締官と武本ら警察官がたびたび衝突し、ここでも警察の高慢さや柔軟性の乏しさが言及される。
正義を全うするという共通の目的を持ちながらも、その方法も権力の範囲も異なる麻薬取締官と警察。少しずつお互いを理解し認めていくその過程をリアルに描くからこそ、現実の問題点が浮き彫りになるのだろう。
さらに、個人的に印象に残っているのは、潮崎(しおざき)が情報を得るために行った掲示板への書き込みが、特定の個人への攻撃へと発展し、潮崎(しおざき)がきっかけを作った自分の行動を悔やむシーンである。
深い。物語に取り入れられているすべてが深くしっかり描かれている。本作品だけでなく「鎮火報」についても同様だが、僕にとって魅力的な物語を創るために必要な、人の心に対する深い洞察力と、現実に起こっている問題を読者に伝える優れた表現力。日明恵という作者にはその2つの能力がしっかり備わっていると感じた。またすべての作品を読まなければならない作家が増えてしまったようだ。
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「クローズド・ノート」雫井脩介
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学で音楽サークルに所属する堀井香恵(ほりいかえ)は部屋のクローゼットの中で一冊のノートを見つけた。小学校の先生の日記で、そこにはその先生の日常や悩みが描かれていた。
沢尻エリカの「別に」騒動で映画化時に話題になっていたこの作品。僕はむしろ雫井脩介らしくないラブストーリーテイストな作品ということで注目していた。刑事事件やミステリーに定評のある作家なので、ある程度ハズレ作品であることも覚悟して手に取った。
物語は大学生である加絵(かえ)の友人関係や恋愛、アルバイトなど日常を描いている。内容として特に大きなテーマがあるわけでもないが、加絵(かえ)の文房具屋でのアルバイトの風景から万年筆というもに非常に興味を掻き立てられた。
多くの読者は物語中盤でその結末に気づくことだろう。ありふれた結末とありふれた泣かせの手法。他の読者がこれをやると途中で醒めてしまうのだが、本作品についてはしっかりと泣かせてもらうことができた。
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「イコン」今野敏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
有森恵美(ありもりめぐみ)というアイドルのイベントの最中に殺人事件が起きた。警察は事件の解決に動き出すが、肝心の有森恵美(ありもりめぐみ)というアイドルの実態を関係者の誰も知らないという不思議な事態に戸惑う。
本作品はインターネットが日常になる以前の1990年代中ごろを舞台としているため、キーとなるオンラインのやりとりはもちろん「インターネット」ではなく「パソコン通信」とである。そして、そのコミュニケーションはほんの一部の人間のみが楽しむものとして描かれている。
そして、有森恵美(ありもりめぐみ)というオンライン上から広まったアイドルの奇妙な存在を描くことで、アイドルという存在の変化、ファンにとってアイドルという存在の意味を考えさせられる。
物語の二つの主な視点である安積(あづみ)は事件を担当する所轄の刑事として捜査を行い、偶然第一の犯行に居合わせた少年課に勤める宇津木(うつぎ)は、旧友である安積(あづみ)の仕事に対する姿勢への嫉妬と、初めて触れる文化への興味から事件を調べ始める。
宇津木(うつぎ)は実在が確認できていないのにアイドルが多くのファンを抱えることに戸惑うが、自分が若かったころのアイドルもテレビを通じて顔が見れて声が聞けただけで、実際にあったことがあるわけではないのだと、思い至る。
そして真実に迫る過程で、新しい文化と向き合ったときの、とても柔軟とは言い切れない対応に走る警察組織の脆さも描かれている。容疑者としてネットアイドルの名前を挙げただけでその人物をタレント名鑑から探そうとした警視庁刑事の大下(おおした)の行動などはその典型と言えるだろう。
特異な事件を中心に、変化する若者文化を変化するメディアへと関連付けて描いている。80年代にベストテンやトップテンなどの番組に代表されるようなアイドルをもてはやした番組が90年代に入ってなくなり、アイドルがゴールデンタイムから姿を消す、そんな文化の変化を説得力のある形で説明しており、ただの刑事物語とは一線を画す作品に仕上がっている。
本作品は「時代が今野敏に追いついた」のキャッチコピーの帯とともに店頭にひだ積みされていた1冊。確かに本作品の内容は、初版発行の1998年よりも、インターネットが人々の生活に広まった今だからこそ理解される作品なのかもしれない。
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「サヨナライツカ」辻仁成
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
入籍を控えた東垣内豊(ひがしがいとうゆたか)は、バンコクで真山沓子(まやまとうこ)という女性と出会う。日本で待つ婚約者、光子(みつこ)に対する罪悪感を感じながらも、豊かは沓子(まとうこ)に惹かれて行く。
名作と呼ばれながら読んでいない本が、僕にもたくさんある。本作品も自分にとってはそんな中の一つで、タイトルだけはかなり前からたびたび耳にしていた。
一言で言うなら、時代を超えたラブストーリーと言えるだろう。中盤までは1975年の出会いを描き、中盤以降は2000年以降の物語となっている。「二股」とか「不倫」と言うと汚らわしいイメージがあるが、「立場や体裁を気にせず誰かを好きになる」と言うとなんだか美しく聞こえてくるから不思議である。そして、終盤には涙を誘う展開が待っている。
「世界の中心で愛を叫ぶ」など、この類の本と出会うと必ずといっていいほど僕は思うことであり、今回も同様に言わせてもらうが、涙を誘うだけの物語を創るのはそれほど難しいことではない。悲しい人生をその主人公に感情移入できる形で描けばいいのだから。涙を誘ったうえで心の中に何か大きなものを残してこそ傑作といえるのだと僕は思うのだ。残念ながらこの作品は、涙を何ccか外に出しただけで心の中にはほとんど何も残らない作品だった。
しかしそれではあまりにも悲しいので、本作品の肝となる言葉を引用する。
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「名もなき毒」宮部みゆき
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
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連続無差別毒殺事件が世間を騒がしていた、そんなとき、大企業の社内報編集部に勤める杉村三郎(すぎむらさぶろう)を含めた社員たちは、アルバイトである原田(げんだ)いずみの感情的過ぎる行動に悩み解雇することを決意する。
世の中で大きな連続殺人事件が起きているとはいえ、多くの人は自分は無関係なのだと、どこか他人事で過ごしている。なぜなら誰もが多少なりとも悩みを抱えているからだ。娘の喘息のこと、母親の介護のこと、職場の人間関係など、世間的に見れば小さな悩みでも本人にとってはそれが悩みの大部分を占める大問題なのである。
それでも物語の視点となる杉村(すぎむら)は、毒殺被害者の孫で女子高生の美知子と出会うことによって、それは他人事ではなくなる。そして関係者と会話を重ねるうちに気づいていく。世の中の多くの場所に、人の体を蝕む物質が、人の心を蝕む空気や環境が存在するということに。この物語はそれを総称して「毒」と読んでいる。名もなき、正体不明の「毒」だ。
そして、そんな「毒」はふとした瞬間に人の心に悪意を芽生えさせ、さらには悪へと走らせる。本来ならそれを周囲の人間が気づいて止めてやらなければならないのだろう。
でも、都会で生きている僕らは周囲に無関心で、塀を一枚隔てた先で何が起きているか、誰が住んでいるかを知らない。悪意を咎めてくれる友達も、大人もいなければ、その悪意は犯罪という形の悪へと変わっていき、不幸の連鎖が始まる。
この物語は世の中の何かが悪いと訴えているわけではない、しかし、世の中には犯罪因子がいくつも存在するという事実を突きつけてくる。ふとしたきっかけで世間を騒がす事件に変わる。僕らが普段目を向けていないだけだ。
宮部みゆきらしい視点と展開。悪くはないが、期待値はもっと大きいのだ。
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「セリヌンティウスの舟」石持浅見
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
年齢も職業もバラバラの6人は石垣島のダイビング中に起きた遭難事故によって絆を深める。しかしそれから数ヶ月、そのうちの1人である米村美月(よねむらみつき)が自殺を遂げた。彼女は仲間を裏切ったのだろうか。鎮魂のために、その死の疑問点について残された5人が考え始める。
物語の大半は、ダイビングメンバーの1人で最年長者の三好(みよし)の部屋の中でのみ展開することとなる。小さな世界の中で、知性あふれる人たちが問題や謎を解決するために言葉を交わして真実に近づいていくのが石持浅見作品の特徴である。今回の物語も登場人物は死んだ美月(みつき)を除けばわずか5人で、そのうち真実への近づくための牽引役となるのは、どちらも冷静で論理的思考回路を持つ磯崎義春(いそざきよしはる)と吉川清美(よしかわきよみ)である。
発端は、なぜ美月(みつき)は自殺の際に青酸カリの入った瓶のふたを閉めることができて、なぜその瓶は転がっていたのか。ということである。小さな不審点に対して異常とも思えるこだわりを持ってすべての可能性を検討する5人。そのやや強すぎるこだわりと、すべての人間が合理的な行動をするはずだという考え方の2つの不自然さにさえ目をつぶれば、石持浅見作品は大いに楽しむことができる。
そして往々にしてこの著者の物語の結末には、ゾクリとするような瞬間が用意されている。だからこそ僕は、やや広がりに欠けるという不満をこの著者の世界観に感じながらも、繰り返し作品に手を伸ばすのだろう。また、今回は「セリヌンティウス」という言葉も僕の目には新鮮に映ったのだ。
今回も石持浅見らしいラストが用意されていた。残念ながら僕の心をわしづかみにするほどのものではなかったが…。
【楽天ブックス】「セリヌンティウスの舟 」
「破滅への疾走」高杉良
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大手自動車メーカーとその労働組合の間の抗争を描いている。
何万人もの社員を抱えるほどの大企業であれば、そこに勤める人にとってはそれは世界も同然であり、生活の中の大きな割合を占めることだろう。だからこそ人事権を持っている人間の決定が人生をも左右する。そうやって大企業の中の恐怖政治は進んでいくのだろう。
そしてそんな企業の中で、各幹部たちは、各々の権力や情報を武器に、社内の人間関係を渡り歩く。人によっては企業や社員のために働く立派な人間もいるが、一方で、自分の財産や権力を守るためという人間もまた少なくない。
本作品は、労働組合の長となり、企業の人事権にも影響を及ぼすまでに力をつけた塩野(しおの)という男を主に描いている。自らの権力に執着するその行動はにわかには信じられないほどの徹底ぶりだが、これが現実に起こった日産自動車の労働組合との抗争をモデルにしているというから興味深い。そして、物語の登場人物の多くも実在した人間をモデルに描かれており、物語の軸となる塩野(しおの)も現実に存在した塩路一郎(しおじいちろう)に由来する。だからこそ単にフィクションとしては片づけられないリアリティを醸し出すのだろう。
物語自体は大きな山や谷もなく進められており、客観的な目線で終始展開するため登場人物の深い心情描写などはされていない。そのため詳細に描写された歴史年表を見ているような感覚であり、読者を引き込む巧みな描写力などとはとてもいえないが、一つの大企業内で起こる問題点やそれに対する対策や駆け引きなど、おおいに興味を喚起させられる作品だった。
【楽天ブックス】「破滅への疾走」