「Cause of Death」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
海軍の船の近くを潜水中に亡くなったジャーナリストは毒殺されたことが判明した。調査の過程で少しずつKay Scarpettaの周辺で不審な出来事が起き始める。

Kay Scarpettaシリーズの第7弾である。「The Bone Collector」シリーズに飽きて、事件捜査だけでなく家族や恋人との人間的な側面の描写の多いこちらを読み続けており、今回もそんななか惰性で手に取った。今回も、事件捜査と同じぐらいKay自身の複雑な人間関係についての悩みが描かれる。不倫関係にあるWesleyとの関係、長年のパートナーで離婚とともに少しずつ堕落していく様子を隠さないMarinoとの関係、成人して少しずつ危険な警察組織としての道へと進んでいく姪のLucyとの関係などである。

事件自体は警察の汚職なども絡んでくるが若干深みに欠けて物足りない。このシリーズの良い点は事件が解決した後にダラダラその後の物語を描かない点である。前作品と今回の作品は、事件解決の余韻に浸る間も無く終わってしまった。

英語新表現
pass on 亡くなる
run-in 口論、衝突、いざこざ
have my head in the sand 見て見ぬふりをする
blow off steam 不満を発散する
do a number on … …に損害を与える

「Nightcrawling」Leila Mottley

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
父が亡くなり、母もいなくなった家庭で、兄のMarcusと生活をする17歳のKiaraの様子を描く。

Kiaraは兄のMarcusとともに生活していたが、家賃の値上げをきっかけに、アルバイトを探し始める。兄のMarcusは音楽家になる夢を捨てられずに仕事が続かないことから、やがてKiaraは自分の体を売ることとなる。そして少しずつ、大きな売春へと関わることとなっていく。

これまであまり黒人女性を描いた物語に触れたことがなかったので新鮮だった。Kiaraが自分や友人のために少しずつ体を売る生活をせざるを得なくなる点が印象的で、映画などで見る白人の豊かな生活はアメリカ社会の一部でしかないのだと感じた。あまり描かれることのないアメリカの貧困層の生活を知ることができるだろう。

英語新表現
neighborhood staple 近所になくてはならない存在
zip-tie 結束バンドで結ぶ
take a beat 一拍置く、少し間を置く
tug-of-war 綱引き

「The Starless Sea」Erin Morgenstern

The Starless Sea

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
大学の図書館で不思議な本と出会ったZacharyは、その本のなかに自分自身が描かれていることを知り、その本の秘密に迫っていくこととなる。

前半は大学生のZacharyが図書館でSweet Sorrowsという、蔵書記録のない本と出会う。Zacharyは子供の頃家の近所にドアの絵が描かれていたにも関わらず、そのドアを開けないとい選択をしたことが強く記憶に残っており、その出来事がSweet Sorrowsに描かれており、またその主人公の親もZacharyの親と同様に占い師であることからSweet Sorrowsが描かれた理由を探し始めるのである。

やがてZacharyはわずかな手がかりからStarless Seaの世界へと入り込んでいくこととなる。

前半の壁に描かれたドアの描写などは久しぶりに出会った面白いファンタジーの入り口のようで期待感高まったが、中盤以降は登場人物たちが物語のなかを彷徨っている様子をひたすら描いているだけなのでかなり焦れて退屈だった。自分の好みには合わなかったが、このような物語が好きな人もきっといるだろう。日々忙しい人よりも、ゆっくりとした時間のなかで過ごしている人向きの物語である。

英語新表現
she took it upon oneself to 自ら進んで~することを課す
bail on A Aとの約束をすっぽかす
waxing moon 上弦の月
waning moon 下弦の月
lunar new year 旧正月
collect oneself 気を落ち着ける
spot on 正しい、どんぴしゃりである

「Artemis」Andy Weir

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人類が月面の都市で生活をするなか、配達をして生計を立てる女性Jazzを描く。

序盤は月面での生活を詳細に描いていく。重力が少ないゆえに起きる出来事や、都市の機能が未発達ゆえに起きる治安上の問題など、しっかり科学的に説明していく点が著者Andy Weirらしい。

やがて、月面生活の中で少しでも理想の生活を手に入れたいとお金を稼ぐことに勤しむJazzに、危険な仕事を持ちかけられたことから物語は大きく動いていく。そしてやがれそれは月面都市全体の未来を守る使命へと発展していく。

"Artemis" by Andy Weir

Jazzの父親が製錬工の職人であり、Jazz自身も十代の頃には一緒に仕事をしたことがあるだけに、そんな親子の仲違いや絆も描かれる点も面白い。

普通にいろいろ興味深く物語としても楽しめるが、やはり前作「Project Hail Mary」が想像を超えた面白さだったせいで、期待値が上がってしまっているのを感じる。残念ながらそれを超えるほどのものではない。

英語新表現
tourist trap 観光客向けの罠
foot trafic 歩行者交通量
make a stand 断固として抵抗す
hit on people 人々を口説く
in red tape お役所仕事、形式的で非効率な仕事
five by five 音声の大きさと明確さが最高レベル
conk out 意識を失う
take a sniff かぎまわる
cardiac arrest 心停止

「Bringing Down the House: The Inside Story of Six M.I.T. Students Who Took Vegas for Millions」Ben Mezrich

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
MITで将来に悩む学生だったKevinはMITで長きにわたって存在してきたブラックジャックチームに加入することとなり、さまざまなカジノでお金を稼ぐ生活に入り浸っていく。

物語は進路に悩むMITの学生の20歳のKevinが、カードカウンティングチームに勧誘され、カジノで大金を稼ぐ様子が描かれている。

「Bringing Down the House: The Inside Story of Six M.I.T. Students Who Took Vegas for Millions

序盤は、そんなKevinがカードカウンティングの技術を学んで、カジノで仲間と協力して大金を稼ぐ様子が描かれている。

中盤以降は、少しずつカジノ側も対応してきて、次第にMITチームはカジノから出入り禁止や、脅迫を受けることとなる。そんななか、カジノで稼ぐことと自分の辿り着きたい人生とのギャップに苦しむKevinと、カードカウンティングで生きることにこだわる他のメンバーとの意識の差が大きくなっていく。

Was this where he belonged? Was this who he had become?
これが自分がいるべき場所か? これが自分がなりたかった人間か?

カードカウンティングというのは聞いたことがあったが、出たカードを記憶しておくことで、残りのカードを推測することかと思っていたが、実際にはもっと単純なものであることがわかった。

本作品では後半には「マネー・ボール」のBilly Beaneについても触れられているが、数字を重視して、一般的な人が陥りがちな先入観から解放され、ブラックジャックやプロ野球など特定の分野で成功することは、理系の人間には最高に楽しく爽快な瞬間だろうなと感じた。まだ数値的な分析が未開拓な分野を探してみたくなった。

英語新表現
trespass act 不法侵入行為
crash out 眠りにつく
hit the pool プールで泳ぐ、プールに入る
face cards トランプの絵札
break a sweat 汗をかく
raise a sweat 汗をかく
arbitrary point 任意の時点
failure point 限界点、機能停止点
grounded family 地に足の着いた家族、現実的な家族

「From Potter’s Field」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
セントラルパークで女性が殺害された。手口が逃亡中のシリアルキラーTemple Brooks Gaultのこれまでの犯行と酷似していることから、ニューヨークで捜査協力という形で、KayやMarinoは事件捜査に関わることとなる。

検視官シリーズの第6弾である。今回はニューヨークを舞台としてシリアルキラーGaultを追い詰めていく。KayやMarinoだけでなく、前回に引き続き、警察関係者であるKayの姪であるLucyも活躍する。

Kayは足取りの掴めないGaultの行方を追うために、殺害された女性の身元を割り出そうとする。その過程で、Gaultの両親にたどり使い、単にシリアルキラーとしてしか描かれなかったGaultの過去や家族の様子が少しずつ明らかになっていく。

終盤はニューヨークの地下鉄を中心とする追跡劇が繰り広げられるのでニューヨークの地下鉄の駅名や地理をより詳しく知りたくなった。

Bone Collectorシリーズでも言えることではあるが、小説のシリーズもので複数冊にまたがって犯人を登場させられても、前作品の展開を覚えていないことも多く物語についていけなくなってくる。もちろん著者としては他の本を買ってもらう戦略だったりマンネリ化を防ぐ方法だったりするのもわかるが、すぐに次の回を読む漫画やドラマとは違うのである。

英語慣用句
rub our nose しつこく言い続ける
make a statement 自分らしさを表現する
entertainment center 音声と映像のシステムを含む壁の装置
pull hens' teeth 無駄なことをする、暖簾に腕押し
have a full house 満員である

「The Danish Way of Parenting」Jessica Joelle Alexander, Iben Dissing Sandahl

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世界一幸福な国と言われるデンマークの子育てを、アメリカの子育てと比較しながら説明する。

デンマークの子育ての鍵となる行動をPARENTの頭文字を使って6つ紹介している。

  • Play
  • Authenticity
  • Reframing
  • Empathy
  • No Ultimatum
  • Togetherness and Hygge

アメリカでは個人主義を尊重するあまり、近年自分勝手な人間が増えているようだが、本書では共感量を高めるために「私」よりも「私たち」の利益を考えるように教えることを勧めている。

When You Substitute "We" for "I", Even "Illness" Becomes "Wellness"

本書ではデンマークの子育てと比較しながら、アメリカの親の振る舞いや子育てを嘆いている点が多いが、現在の日本の子育てはそこまで卑下するほどデンマークの子育ての考え方と変わらない印象を受けた。しかし、日本はアメリカに20年ほど遅れて追随しているので、今のまま個人を尊重しすぎることで思いやりの欠けた自己中心的な人をたくさん生み出さないかと懸念してしまった。

世の中の母親たちについたえたいと思ったのは次の言葉である。

You lose control, and yet we expect our children not to.
自分は子供にブチ切れるくせに、子供には自制心を求めている。

本書のなかで意識的に取り入れたいと思ったのはReframingとTogetherness and Hyggeである。Reframingとは、物事の悪い面ばかりにとらわれるのではなく、良い面を見つめるための考え方である。ポジティブな考え方は両親の言動からも伝わるだろうが、その考え方を言葉にして伝えることでより確実に、次の世代に受け継がれるのだと感じた。

日本語版はこちら

誤解を与える日本語タイトルなので一言添えておくが、本書は子供を誉めることを否定していない。過剰に誉めることがよくないと書いているだけである。

英語慣用句
attention deficit disorder 注意欠陥障害
at one's wit's end 途方に暮れて、困り果てて
corporal punishment 体罰
pit people one another 人々を競わせる
health boundary 健全な境界線

「The Wish」Nicholas Sparks

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2019年写真家として名声を得たMaggie Dawesは癌で余命が限られたものとなった。そんなおり、アルバイトのMarkに請われて若い頃の恋愛の話を聞かせることとした。それはMaggieがノースカロライナの島Ocracokeで過ごした十代のときの話である。

物語は2019年の、写真家としてニューヨークで共同ギャラリーを経営するMaggieの様子と、Markに生涯最高の恋愛として十代の頃の恋愛を語って聞かせる1996年の物語が交互に展開する。

2019年の物語では、余命わずかとなったMaggieが自らの終活を始めると共に、その頃アルバイトとしてギャラリーで働き始めたMarkの優秀さ優しさによって、少しずつ家族のことや人生のことを打ち明け始める様子が描かれる。

一方で、1996年の物語は、高校生にも関わらず一夜の過ちから妊娠してしまったMaggieが、周囲に知られずに子供を出産し養子に出すために、叔母のLindaの住むノースカロライナの離島Ocracokeで過ごす様子を描く。Ocracokeにいる間に家庭教師としてMaggieの元に訪れたBryceと、Maggieは妊娠中であるという事実にもかかわらず距離を近づけていくのである。

物語として大きな驚きはないが、それでも最後は涙してしまった。死期を知ったMaggieがそれを家族に知らせるためにクリスマスを避けようとしたり、それまで不仲だった人々にも感謝を伝える点が印象的である。こんな生き方をしてみたいと思った。

著者Nicholas Sparksの本を読むのは本書が初めてであるが、映画化された作品のなかには「メッセージ・イン・ア・ボトル」や「君に読む物語」のように名作といえる恋愛物語が多い。ありがちな若い男女の恋愛物語の印象を持っていたが、死を目の前にしたMaggieの生き方に感銘を受けた。

英語慣用句
hit it off 意気投合する
Ferris wheel 観覧車
mobility assistance dog 移動補助犬
seeing-eye dog 盲導犬
have a second helping おかわりをする
with flying colors 見事に
measure up to 応える

「Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow」Gabrielle Zevin

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Samは大学のキャンパスで、小学生の頃一緒にゲームを楽しんだSadieと再会する。やがて二人はゲーム作りに夢中になっていく。

序盤はSadieとSamの再会と出会いのシーンから始まる。出会いは小学生の時、母を交通事故で失って言葉を失ったSamは、入院していた病院でSadieとゲームを通じで出会ったことによりに救われるのである。再会は二人の大学生時代である。Samは恋人と別れて落ち込んでいるSadieをゲーム作りに誘うことですこしずつゲーム作りに情熱を注ぐこととなる。

もう一人の主要な登場人物は、SamのルームメイトであるMarksである。Marksはさまざまな人から好かれる人物で、主張が強く他人を遠ざけがちなSamやSadieとは異なる存在である。当初はゲーム開発用に部屋を貸してくれるだけの存在だったMarkは、少しずつゲーム作りのプロデューサーとしての役割を担っていく。

その3人がゲーム作りや、会社を経ちあげるなかで、時には分裂したり衝突しながら物作りに打ち込んでいく。

SamとMarksはそれぞれ韓国人と日本人の血をひいているし、Sadieも白人ではないとうい点も面白い。アメリカという国で少数派として暮らすがゆえに見えてくる悩みにもところどころで触れられている。そして彼らが作るゲームも日本やアジアの文化を大きく反映する点も面白い

終盤、ある不幸からSadieは共同のゲーム作りから離れていく。それでも必死にSamはSadieにもう一度一緒にゲームを作ろうと声をかけ続ける。SadieがSamに語った言葉が印象的である。

There's no point in making something, if you don't think it could be great.
良いものができると思わないで、何かを作ることに何の意味もない。

物作りに関わる人間としては耳の痛いことがである。

僕自身はゲーマーといえるほどゲームにのめり込んではいないが、ゲームを愛する人の気持ちが伝わってくる。物語中に多くの名作ゲームの名前が唐書酢売るのでもう一度ゲームをやりたくなった。

英語慣用句
remission rate 寛解率
candy striper ボランティア看護助手
distinguish oneself 他者より抜きん出る
keep it close to the vest 手の内を見せない
at each other's throat お互いに攻撃し合う
swing for the fences 大きな目標を狙う
sun oneself 日に当たる
take it in stride 冷静に受け止める
take a gander at 見る、一瞥する

「Salvage the Bones」Jesmyn Ward

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2011年全米図書賞受賞作品。ミシシッピ州に住むEschと3人の兄弟はハリケーンカトリーナの上陸に備える。

母を失った家庭で父と3人の兄弟と生きる女の子Eschの視点で描く。一番上の兄Randallはバスケットに情熱を注ぎ、二番目の兄Skeetahは闘犬に入れ込む。物語はSkeetahのお気に入りの闘犬のChinaが子供を産むシーンから始まる。

弟のJuniorの面倒を見ながらもSkeetahとともに犬の世話をしながら日々を送るEschは、自分の体調の変化から、妊娠に気づくのである。弟のJuniorの誕生とともに母を失った家族の中で唯一の女性であるEschは戸惑いながらも日々を送る。1人秘密を抱えながら生きるEschからは男の中で強く生きなければいけない女性の葛藤が見えてくる。

After Mama died, Daddy said, What are you crying for? Stop crying. Crying ain't going to change anything. We never stopped crying. We just did it quieter. We hid it.
ママが死んでからパパは言った
「泣いてどうするんだ? 泣くな、泣いたって何も変わらないぞ」
でも人はなくのをやめない。静かに泣くようになるだけ。隠れて泣くようになるだけ。

そして、少しずつハリケーンカトリーナの上陸が近づいてくるのである。大きな台風を話でしか聞いたことのないEschやその兄弟は、台風に備える父をどこか冷めた目でその様子を眺めるのである。

アメリカ南部の裕福とは言えない黒人の家族の様子を見せてくれる点が新鮮である。また、ハリケーンカトリーナという出来事を当事者の目線で伝えたものに触れたのが今回初めてだったので、ニュースで触れるのとはまた違った視点で大きなハリケーンの様子を知ることができた。

英語慣用句
cuss 悪口を言う
fishing pole 釣竿
concession stand 売店
lead sinker (釣りの)おもり

「The Friend」Sigrid Nunez

オススメ度 ★★★☆☆ 2/5
2018年全米図書賞受賞作品。自殺した友人が遺した犬Apolloを飼うこととなった女性の日々を描く。

物語は、自殺した友人の過去の妻と話したり、友人が遺した犬と過ごす中で彼女が考えることを書いている。彼女自身も作家であり、作家志望の人々向けにワークショップを開催しているため、小説を書くという生き方についてのさまざまな、考えが書かれている。

But remember, there is at least one book in you that cannot be written by anyone but you.
My advice is to dig deep and find it.

その一方で、さまざまな文学作品や著名な作家が引用されるので、世界の文学作品に普段からどっぷりつかっているような人にはもっと楽しめるのかもしれない。

作家という独自の視点からの面白い考えもあったが、物語としては大きな動きもなく、文体自体もかなり読みにくい。正直な感想として同じ作家の本を読みたいとは思わなかった。本書が全米図書賞受賞ということでかなり玄人受けする作品なのかもしれない。

英語慣用句
john sting 性犯罪利用者を対象とした囮捜査
sting operation 囮捜査
gang up on 団体で攻撃する

「The Body Farm」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ノースカロライナで11歳の女の子Emily Steinerが教会の帰りに遺体となって見つかった。逃亡中のシリアルキラーと手口が似ていることからFBIとKay Scarpettaは事件の捜査に関わることとなる。

Kay Scarpettaのシリーズ第5弾である。序盤からGaultというシリアルキラーが捕まっていない状態という設定なのでシリーズ前の作品を飛ばしてしまったか、展開を忘れてしまったのでは、と思ったが、そんなことはなく本書が急展開の設定らしい。

物語はEmily Steinerの死の真相を突き止めるために、地方警察とFBIが協力して捜査を進めていく。しかし、Kayの周囲では事件以外にもさまざまな問題が生じる。一つ目は長年の相棒であるMarinoが、離婚をしたことを機に少しずつ自暴自棄になって、それが捜査にも悪影響を与え始めたこと。2つ目は、同僚であるWesleyとの仲である。妻がいるWesleyに惹かれる自分に戸惑い罪悪感を抱えるのである。

そして3つ目は、姪であるLucyとの関係である。大学を卒業してKayと同じくFBIで働き始めたLucyではあるが、FBIでは働いてほしくないKayの想いで干渉するKayとの心の距離は次第に広がっていくのである。そんななかLucyがFBI情報に不正にアクセスしたという疑惑が持ち上がるのである。

そんな多くの問題に悩まされながらも、事件は少しずつ解決に近づいていく。Emily Steinerを殺害したのは本当にシリアルキラーGaultの仕業なのか。シリーズ作品というのは少しずつマンネリ化していくものだが、続きも楽しみになった。

英語慣用句
as a crow flies 最短距離で
crib death 幼児突然死症候群
heat exhaustion 熱中症

「One Plus One」Jojo Moyes

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
母親一人で2人の子供を育てるJessは数学が得意な娘Tanzieの入学金のため、数学オリンピック出場を目指しスコットランドまで旅することを決意するのである

以前読んだJojo Moyesの「The Girl You Left Behind」が素晴らしくて、同じような過去の歴史事実と現代をそれぞれの時代に生きてきた人たちの視点とともにつなぐような作品を期待して本書にたどり着いた。

本書は、夫が実家に帰ってしまった結果、一人で子供を育てることとなったJessと女性関係のもつれからインサイダー取引の容疑がかかり、自ら立ち上げた会社を追われたEdの二人の出会いを中心に描いている。Jessはクリーニングの仕事でEdの家を訪れ、その後、EdがJessの働いているバーで酔い潰れたことで、JessはEdを認識する。

そして、数学オリンピック出場のための旅で困っていたJessたちに、Edが酔い潰れた時に送ってもらったお礼として運転手を買って出たことで大きく関係が変わっていく。狭い車内でぎこちない会話を続けるうちに、少しずつお互いを理解していくのである。

Rich is paying every single bill on time without thinking about it. Rich is being able to have a holiday or get through Christmas without having to borrow against January and February.
お金持ちは考えずに毎月の請求書を支払える人のこと。お金持ちとは祝日やクリスマスを1月や2月分の給料を前借りしなくて過ごせる人のこと

家族や人間関係を描いた優しい物語である。ギリギリの生活をしながらも、二人の子供に対して良い母、良い見本であろうとするJessは言うまでもないが、自らがインサイダー取引の裁判を控えていることで、余命短い父親に会う決断をすることができないEdの生き方もまた家族に対する優しさに溢れている。

旅のなかで2人の子供TanzieとNickyと仲良くなっていくEdがNickyに伝える言葉もそんな優しい振る舞いの一つである。

Everyone I've met who waw worth knowing was a bit different at school.
知り合いになってよかったと思った人はみんな、学校では少し変わり者だったよ。

終盤は、Jessとの関係に悩むEdに対して、Edの姉Gemmaが諭すシーンが印象的である。

I'm not saying she wasn't wrong to do it. I'm just saying maybe that one moment shouldn't be the whole thing that defines her. Or your relationship with her.
彼女が間違ってなかったとは言わない。ただ、その出来事だけで彼女のすべてや彼女との関係を決めつけるべきではないと言っているのよ。

期待していた物語をは少し違ったが、十分楽しむことができた。

英語慣用句
crap at maths 数学が苦手である
form tutor 担任の先生
borrow against お金を借りする
have the grace to … するだけの礼儀はわきまえている

「One Last Kill」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
過去の未解決事件を担当するTracyは、30年前の連続殺人事件Seattle’s Route 99 serial killerを捜査するよう指示される。

Tracy Crosswhiteのシリーズの第10弾である。Seattle’s Route 99 serial killerは、上司Johnny Nolascoが担当していた事件だったことから、Tracyの人手が欲しいという依頼に応える形で、Nolascoが協力することとなる。

これまでTracyと犬猿の仲だったNolascoが事件解決のために少しずつ心をお互いに心を開いていく。またその過程で30年前の事件発生当時に捜査本部を指揮していたNolasco苦悩が明らかになっていく。

これまでのシリーズでは、理解力のない女性差別主義者としてしか描かれていなかったNolascoであるが、本書では過去の事件により、順風満帆なキャリアから外れて家庭まで崩壊していく様子を描いている点が新鮮である。

前回に引き続き、予算獲得のためにメディア露出を狙うWeberと事件解決を優先するTracyのやりとりも各所に見られる。過去に解体された麻薬取締のための組織Last Lineの応酬した麻薬を警察関係者が横領していたことを未だ明らかにできないことなど、前作に繋がっている部分が多い。

シリーズを途中から読むなら本書ではなく一つ前の「What She Found」から読むのが良いだろう。

英語慣用句
have the upper hand 優位に立つ、優勢になる
drop a gauntlet 宣戦布告する
get under one's skin 〜の気に触ることをする
save your breath 余計なことを言わないでおく
under the gun プレッシャーにさらされている
hit the fan 突然困った事態になる
have a shit fit 怒りを爆発させる
yank one's chain からかう
get ducks in a row タスクを整理する
face the music 立ちむかう
hindsight is twenty-twenty 振り返って考えればなんとでも言える(振り返った時の視力は2.0)
get someone's goat 怒らせる
pound sand 意味のないことをする
put soneone on a pedestal 尊敬する

「What She Found」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Tracyの元に、25年前に失踪した母親を探して欲しいという依頼が舞い込む。

失踪した女性は当時新聞社のレポーターであり、その調査が失踪に関連があるとみて当時の事件を洗ううちに、Last Lineという過去の麻薬取り締まり部隊の汚職の可能性に近づいていく。なぜLast Lineは解体されたのか、なぜLast Lineの構成員は秘密にされているのか。そして、その過程でTracyの前の部署の仲間であるFazとDelのルーキー時代の経験が明らかになっていく。仲間の過去の過ちを明らかにするべきか悩むながらも、少しずつ真相に近づいていく。

また、警察の予算のためにメディア受けを求める所長Weberとの衝突も面白い。今回は20年以上前の出来事を扱っているために告発できないという法律、Statute of limitations(出訴期限法)という法律が何度も登場し、日本とアメリカの法律の違いなども知ることができた。

どうやら、Last Lineという麻薬取締部隊を描いた物語もあるようなので、そちらも機会があったら読んでみたい。

「Cruel and Unusual」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
検視官Kay Scarpettaシリーズの第4弾である。死刑囚のRonnie Joe Waddellの死刑が執行された直後に、連続して不可解な殺人事件が起き、その現場から死刑囚の指紋が見つかる。

これまでの3作品とは少し異なる物語展開である。死刑囚のRonnie Joe Waddellの死刑が実行されたその日に、Eddie Heathという13歳の少年が殺害され、その殺害現場は、Ronnie Joe Waddellが10年前にRobyn Naismithの殺害後に残したものとそっくりだった。また、その数日後に遺体で発見された占い師の家でも10年以上刑務所にいたはずの、Ronnie Joe Waddellの指紋が発見されるのである。処刑されたのはRonnie Joe Waddellだったのか、そして、彼は一体何を知っていたのか。

また、かつてのKay Scarpettaの恋人Mark Jamesが亡くなったことも明らかになる。Kay ScarpettaはMarkの死から立ち直りながら、事件の真実に迫っていくのである。

これまでの作品のなかで、かなり大きな陰謀の気配を感じさせる内容である。ただ、ちょっと消化不良な内容だった。

「Verity」Colleen Hoover

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
二流作家のLowenは、交通事故で続編を書けなくなった人気作家Verityの続編を任され、その執筆のためにVerityの残した資料を調べ始める。

Colleen Hooverは「November 9」が面白かったので、同じくおすすめとして挙がる本書にたどり着いた。

Verityとその夫Jeremyは、双子の娘を事故で亡くしており、Verityは交通事故で満足に話すこともできなくなったことを知る。そんなVerityの続編を書くためにLowenはVerityの書斎の大量の資料を自由に見ることを許されるが、そんななかVerityのそれまでの生活を描いた手記を発見する。

そんな一方、Lowenは健気に身動きのできない妻の看病をし、唯一残された息子Crewを可愛がるJeremyは惹かれていくのである。

時間を見つけて少しずつVerityの遺した手記を読み進めるLowenは、その夫婦関係が経験した悲劇の経緯とVerityがどのように考えていたかを知ることとなるのである。

November 9」が結構印象的だったので期待したのだが、比較的ありがちなサスペンスで終わっている気がする。

「The Martian」Andy Weir

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
火星探索中の事故で火星にただ一人取り残されたMark Watneyは、次の火星探査機がやってくるまでの生き残る手段を考え始める。

Project Hail Mary」が面白かったので同じ著者のデビュー作である本書にたどり着いた。マット・デイモン主演で映画になった「オデッセイ」の原作でもある。

物語はMark Watneyが生き残ろうと火星で1人で試行錯誤する様子、そして地球からWatneyが生きていることをを知って見守るNASAの様子、また、Watneyを火星に置いてきて、仲間を失って後悔に苛まれれながらも地球に向かう火星探査者たちの3つの視点からを描いている。

Watneyの火星の様子の大部分はWatneyが残す日記形式で描かれており、その中で、どれだけ僕らが地球の環境を当たり前として生きているかを改めて思い知る。例えばその日記のタイトルは「SOL1」などとなっており「1日目」ではないのである。当たり前のことであるが、火星の1日は地球に1日とは長さが異なるのである。そんなことすら本書を読むまで意識することがなかったことが驚きである。

特に面白いと思ったのは、食糧を増やすためにじゃがいもの栽培を試みるシーンである。植物学者でもあるWatneyだからこそ思いつくアイデアがたくさん登場するし、地球と異なる環境の火星ゆえの制約がまた印象的である。また、Watneyの試行錯誤の過程で過去の火星探査や、火星の地名が登場するので、火星の地形もかなり判明していることを知った。

正直「Project Hail Mary」の印象で本書に入ると、物語にあまり大きな動きがないので期待はずれかもしれない。個人的には、水を作る過程や、生きていくために二酸化炭素を減らす方法などを試行錯誤する様子から、化学を勉強したくなった。

和訳版はこちら。

「November 9」Colleen Hoover

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2年前の11月9日に父の家に滞在中に、大やけどを負って女優のキャリアを失ったFallonは今まさに新たな人生に踏み出そうとしていた。そんなとき、Benという火傷の跡のの残る顔を気にしないで好きになってくれる男性と出会う。

出会った瞬間に恋に落ちたFallonとBenだったが、Fallonがブロードウェイを目指して翌日からニューヨークに引っ越すこととなっていた。Fallonの母の助言、23歳になるまでは他人に振り回されずに自分を見つける、という信念から、お互いが23歳になるまで、毎年11月9日に同じ場所で1度だけ会うことを約束するのである。物語は1年おきの11月9日の二人の様子を描くことで展開していく。

FallonとBenの視点で交互に描かれていく。序盤は出会いを中心に描かれる。火傷を負って女優としてのキャリアを諦めざるを得なかったにも関わらず、新しい道を踏み出そうとしているFallonと、またそれを後押ししようとするBenのそれぞれの人生を語る言葉に印象的である。

You'll never be able to find yourself, if you're lost in someone else.
人に夢中になっているうちは、自分を理解することはできない。
If people are laughing at you, it means you're putting yourself out there to be laugh about. Not enough people have the courage to even take that step.
人があなたを笑っているということは、自ら笑われる場所に立っていることで、そんな勇気を持った人は多くはない。
Loving someone means accepting all the things and people that person loves, too.
人を愛するということは、その人が愛するすべてを受け入れることです。

後半は、よりBenの視点から二人の出会いが描かれ、前半に散りばめられた伏線が回収されていく。少しずつBen自身のそれまでの苦悩の人生が明らかになっていく。

She knew I would be the one to find her. She knew what this would do to me and still do it…
俺が見つけるってわかっていただろう。それが俺にとってどういうことか、それを知っててなお決行したんだ…

なんといっても20代ですでに一生抱えていかなければならない傷を抱えた二人の物語なので、前向きに生きるための強さを与えてくれる。常にFallonとBenの視点で交互に物語を展開させながらも、感情表現の重点がFallonから少しずつBenに移っていくという物語展開の美しさも感じられる。軽く読み始められるが後半に進むにしたがって深みや生きる強さなどを感じさせてくれる作品である。

「The Sun Is Also a Star」Nicola Yoon

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アメリカの移民2世韓国人青年のDanielと不法滞在中のジャマイカ人女性のNatasha出会いを描く。

Natashaは、アメリカで俳優になる夢を追いかける父についてきて、観光ビザでそのままアメリカに不法滞在で生活していた。しかし、父が飲酒運転でつかまったことからジャマイカへ帰国をしなければならなくなる。Natashaは弁護士をあたってアメリカに留まる方法を探し続ける。一方で、Danielは両親の勧めで医者になるために、イェール大学の面接を受けようとしている。なりたくもない医者になるという葛藤を抱えながら面接に向かう際、Natashaに一目惚れするのである。

DanielとNatashaの出会いの1日を描く。Danielは運命を信じる一方で、Natashaはどちらかというと現実主義者であり、そんな二人の考え方の違いと、それを反映するように、少しずつ二人の家族の人間関係や歴史が見えてくるのが面白い。その過程で、韓国とジャマイカという国と、その家族がアメリカで生活することの現実が見えてくる。

アメリカ移民の話は本書に限らずよく耳にする。移民一世は子供の将来のためにと、母国を離れ慣れない土地に移り住み、その結果、人がやりたがらない仕事をやって生計を立てなければならない。一方、その子供の移民二世は、親が自分たちのために苦労して生きてきたことを見ているため、親の期待を裏切る生き方ができない。それが子供の心に葛藤をうむのである。

Natashaの不法滞在者という形は今回初めて触れたので印象的だった。見つかったら即強制送還というわけではないという点も、今回初めて知った。確かに、子供から見れば親についてくるしか選択肢がなかったなかでアメリカに留まる選択肢を与えたくなる心情も理解できるが、一方で、そんなことをしていたらアメリカは人口が増え続け、治安をまもるのも大変だろうと感じた。

全体的には、1日で恋に落ちる若者2人を描いているので、非現実的すぎるという批判もありそうである。映画化されたようなので心情描写が表現しにくい映像の方はなおさらただの非現実な恋愛物語になっている可能性が高いだろう。ただ、個人的には、上に挙げたように、移民二世、不法滞在者という普段触れることのない人生を体験できたのが新鮮で楽しめた。