「行動経済学が最強の学問である」相良奈美香

オススメ度 ★★★★☆ 3/5
アメリカで行動経済学を専門とする著者が体系的に行動経済学を説明する。

最近の日本の書籍の傾向なのか、内容をわかりやすくするだけではなく、間引いているように見える。本書もその一つで、本書の中でも触れられていて同じく行動経済学を扱った「ファスト&スロー」や「予想通りに不合理」などと比較すると内容が薄いように感じる。

本書で新鮮だったのは、行動経済学という新しい分野を体系化しようと試みている点である。本書では認知のクセ、状況、感情という3つのカテゴリに分けて説明しようとしている。

認知のクセ
・計画の誤謬
・真理の錯誤効果
・快楽適応
・自制バイアス
・システム1vsシステム2
・ホットハンド効果
・身体的認知
・確証バイアス
・概念メタファー
・メンタル・アカウンティング
・解釈レベル理論
・非流暢性
状況
・フレーミング効果
・おとり効果
・ナッジ理論
・アンカリング効果
・プライミング効果
・系列位置効果
・感情移入ギャップ
・単純存在効果
・パワー・オブ・ビコーズ
・情報オーバーロード
感情
・アフェクト
・ポジティブ・アフェクト
・ネガティブ・アフェクト
・心理的コントロール
・拡張-形成理論
・不確実性理論
・心理的所有感
・境界効果
・目標勾配効果
・キャッシュレス・エフェクト

行動経済学関連の書籍を数冊程度読んだことがある読者にとっては、いずれも聞いたことばかりある事柄だろう。しかし、それぞれの事象を命名している点がありがたい。組織のなかに浸透させるためには、いちいち事象を説明するのではなく、簡潔な言葉を共通言語として繰り返し使うに越したことはない。自然と言葉が出てくるようにしたいと思った。

全体的には上に書いたように、体系化と言語化に努めている点のみに新しさを感じた。

昨今「・・が9割」や「・・が最強の・・である」など似たようなタイトルが目立っている。売れるための手法なのかもしれないが、売ることだけを目的とした大層なタイトルは、内容が伴わなければ失望感の方が大きく、結果的に出版社や著者の信用を傷つけることにしかならない。長期的には出版側にとっても読者側にとってもマイナスであることに気づいてほしい。

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「予想通りに不合理」ダン・アリエリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人間は実際には世の中が思っているほど合理的に行動していないのではないか、そんな疑問を抱いた著者がさまざまな実験を通して人間の不合理さを確認していく。

人間の不合理な行動をさまざまな実験や研究結果とあわせて説明していく。本書で触れられている内容の中には聞いたことがある事象もあるので、有名な書籍だと「ファスト&スロー」や「ヤバい経済学」「影響力の武器」と似ている部分があるし、内容としても若干重なっている部分があるだろう。

それでも新鮮な内容や改めて日常生活の中で意識したいと思える発見がいくつかあった。個人的に印象的だったのが社会規範と市場規範を扱った「社会規範のコスト」の章とプラシーボ効果を扱った「価格の力」の章である。

普通にお願いすると引き受けている頼み事が、お金を払うと拒絶されたり不快感を与えることがあることは誰しも体験として知っているあろう。本書では、そんな行動を社会規範と市場規範という二つの言葉で説明している。

  • 社会規範…わたしたちの社交性や共同体の必要性と切っても切れない関係にある。たいていほのぼのとしている。
  • 市場規範…ほのぼのとしたものは何もない。賃金、価格、賃貸料、利息、費用便益など、やりとりはシビアだ。

仕事やプライベートで現在うまくいっていない関係があるのだとしたら、現在どちらの規範に基づいてやりとりしているか、関係者はそれぞれどちらの認識で受け取っているかを考えると解決への糸口が見えるかもしれない。

「価格の力」の章ではプラシーボ効果について深掘りしていく。誰もがプラシーボ効果というのは聞いたことがあるだろう。思い込みが実際に効用として現れるという現象である。驚いたのは今でも、長年効果があるとされてきた薬や治療法が実はただのプラシーボ効果だったと判明する例があるのだという。

数年前に妻の大腸癌の抗がん剤治療治療をデータを見て受けない決断をしたことがあった。データを見てわずか8%の人間にしか効果がないにもかかわらず高い費用とつらい副作用を考慮して決断したのだが、あれもひょっとしたら数年後にはただのプラシーボ効果だった判明するかもしれない。

一方で、高いお金を払っているからこそより高い確率でプラシーボ効果が発揮されるという点や、医師自身も信じているからこそ効果が出やすいという点で、医療費や薬代の高騰は今後も簡単には止まらないのだと思い知った。

前述のように似た内容の本によく出会うが、このような本にも定期的に触れる必要があるだろう。早速日常生活に活かしていきたい。

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「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2つのシステムという考え方をベースとして人間がどのように決断するのかを解明していく。

2つのシステムという考えを中心としている。システム1は自動的に高速で動き、コントロールできないもの。つまり僕らが第一印象とか、直感的にという言葉で表現するものである。システム2は頭を使わなければできないもののことを言う。本書ではこの2つのシステムを用いて、人間がどのように決断するのかを、多くのひねりの効いた質問を被験者に投げかけた結果の例とともに説明していく。

注目すべきは、システム2はより正確な答えを出すにもかかわらず、人間はシステム1の出す直感的な答えに飛びつきがちだと言うことである。その代表例として本書で紹介している例が次の問いである。

バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
バットはボールより1ドル高いです。
ではボールはいくらでしょう?

こちらの問いに、ハーバード大学などの有名大学の学生の50%以上が間違えたと言うのである。

そのほかにも、アンカリング効果、プライミング効果、損失回避、平均回帰、ピークエンドの法則などを説明している。システム1とシステム2の動きを理解するための、例が多数含まれているので、自分自身でそれを経験して納得しながら理解することができるし、飲み会のネタとしても面白いかもしれない。

実験の結果を掲載する必要があったためかもしれないが、若干似たような話の繰り返しに感じる部分もあったが、サービスを作る上で知っておくといいと思える人間の心理を多数紹介している。Webサイトの文言を考えたり、同僚を説得する際にぜひ取り入れていきたいと思った。

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「ヤバい経済学」スティーブン・D・レヴィット/スティーブン・J・ダブナー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1990年代の後半のアメリカ。誰もが犯罪の増加を予想する中、殺人率は5年間で50%以上も減少した。多くの人がその理由を語り始めたという。銃規制、好景気、取り締まりなど、しかしどれも直接的な理由ではない。犯罪が激減した理由はその20年以上前のあるできごとにあったのだ。

わずか数ページで心を引きつけられた。経済学と聞くと、どこか退屈な数学と経済の話のように感じるかもしれないが本書で書かれているのはいずれも身近で興味深い話ばかりである。大相撲の八百長はなぜ起こるのか。なぜギャングは麻薬を売るのか。子供の名前はどうやって決まるのか。こんな興味深い内容を、数値やインセンティブの考え方を用いて、今までになかった視点で説明する。

個人的には冒頭のアメリカの犯罪率の話だけでなく、お金を渡したら献血が減った話や、保育園で迎えにくる母親の遅刻に罰金を与えたらなぜか遅刻が増えた話などが印象的だった。お金を使って物事を重い通りに運びたいならそこで与えるお金の量は常に意識しなければならないのだろう。
なんだか世の中の仕組みが今まで以上に見えてくるような気にさせてくれる一冊。
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