オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
懸賞金のかけられたミレニアム問題の1つポアンカレ予想が2003年にロシアの数学者によって証明された。しかし彼は懸賞金を受け取る事を拒否して行方をくらました。彼はどのような理由からそのような行動をとったのだろうか。
ポアンカレ予想に関連する本を読もうと思って本書に出会った。残念ながらポアンカレ予想についてはあまり多く触れられておらず、むしろそれを証明した数学者ペレルマンの生い立ちや、証明を発表したときの彼の言動について書かれている。彼がロシア人という事で、むしろ数学よりもペレルマンやその周囲の人々が育った時代の厳しいロシア社会が印象的である。言いたいことを言う事ができず、海外に出るためのパスポートを手に入れる事さえ難しい時代、あらゆる学問や教育がその体制ゆえに被害を被ったという。
本書にはペレルマン自身へのインタビューなどは一切掲載されていない。そういう意味では読者の予想を裏切る事が多いのかもしれない。個人的にはそれでもいろいろ学ぶ部分はあったと感じるし、さらにポアンカレ予想や位相幾何学というものを理解してみたくなった。
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ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント
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世界を知る
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深い物語
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生き方を考える
人生の密度を上げたい方が読むべき本
学習・進歩
常に向上していたい人が読むべき本
組織を導く人向け
日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本
デザイン
ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本
英語読書初心者向け
英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選
英語でしか読めないおすすめ
英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。
「ドルチェ」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁練馬警察署の巡査部長である魚住久江(うおずみひさえ)の関わる6つの事件を描く。
40歳を超えた女性目線ということで、警察小説といえども、本書で扱われる事件は、殺人といった派手なものではなく暴行、傷害、虐待などである。事件自体は些細な物に見えるが、それゆえにその事件を通じて見えてくる、いろんな人間の側面は他人事とは思えないものを感じる。
多くの登場人物が30代以降であるのも興味深い。希望を持って生きている20代に対して、未来の可能性が急激に狭まっていく30代は、世の中に絶望して犯罪に走りやすい傾向があるのだろうか。人生をやり直すのに遅いならば、人生自体を壊してしまう事をためらわないのだろうか。
「ストロベリーナイト」シリーズや「ジウ」で派手な警察小説を描いている著者誉田哲也があえてこういう質素な物語を描くと、ここから何を伝えようとしているのだろう、と必要以上に考えてしまう。
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「図解 橋の科学」田中輝彦/渡邊英一他
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
橋についてわかりやすく語る。
先日、日本の明石海峡大橋がどうやらすごいらしいことを知った。急に橋とはどのように作れるのか知りたくなった。対岸にどうやって最初の一本の板を渡すのか、海や河の中にどうやってあの大きな橋桁を作るのか。そうして本書に行き着いた。
本書ではまずさまざまな橋の形状について語っている。わかりやすいものだと吊橋(つりばし)や桁橋(けたばし)、そして他にはトラス橋、斜張橋、ラーメン橋、アーチ橋で、それぞれの簡単な構造や世界の例について書いている。
また、中盤では橋の建築方法、そして後半では過去の橋の崩落事故や、橋を長く維持するための方法について触れている。本書自体が橋に興味を持った中学生や高校生に向けて書かれているので、本当にわかりやすく基本的な内容にとどまっているが、橋についてちょっと知りたい、といった人にはちょうどいいだろう。
個人的にはレインボーブリッジはずっと吊橋だと思っていたのでようやく斜張橋と吊橋の区別がつくようになった。世界にはいろんな橋があることがわかったし、また行きたい場所が増えた。普段生活している町のなかにまた1つ興味を持って見ることのできる対象が増えた気がする。
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「モルフェウスの領域」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日比野涼子(ひびのりょうこ)は未来医学探究センターの唯一の職員。彼女の仕事は世界初の人工冬眠について少年モルフェウスを維持する事だった。そしてやがてモルフェウスが冬眠から目覚める時が近づいてくる。
人口冬眠、コールドスリープなど言葉の使い方はいろいろあるけれども、人が眠りについて未来にそのままの姿で生き返る、というのは過去多くのSF作品で使われてきたできごと。本書は医療を専門としている著者海堂尊(かいどうたける)が描く事で、より現実世界に関連した内容に仕上がっている。
これまで同じ著者の物語に多く触れてきたなかでは、現実的な医療技術を物語に取り込んでいるという印象を持っていた。そのため、ひょっとしたらコールドスリープもすでに実現可能な技術なのかもと検索したが、どうやらそのような事実はまだないようである。
本書では、目を摘出しなければならなくなった少年が、その治療薬の開発・認可を待つためにコールドスリープを選択する、という過程をとっている。関係者や政治家がコールドスリープをした対象の人権をどのように守るかという議論や、その技術をどのように維持するかの駆け引きが面白い。むしろ過去さまざまなSF作品に描かれていたような、コールドスリープをする前とした後での時代の間の文化の違いやその人やその人に接する人々が感じる違和感などは本書でほとんど描かれていない。
またほかのシリーズ作品同様、東城医大の高階医院長や田口先生など本書にもたくさん別シリーズの主要人物が登場する。海堂尊(かいどうたける)作品に多く触れている人はそういう意味ではさらに楽しめるのではないだろうか。近いうちに続編が出るようなのでそちらも楽しみにしたい。
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「A Prisoner of Birth」Jeffrey Archer
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
結婚目前だったDannyは親友のBernieを殺した罪を着せられて終身刑を言い渡される。Dannyの刑務所生活と真犯人への復讐の計画が始まる。
もともと読み書きのできないDannyは刑務所で同じ部屋になったNickによって多方面の教育を受けてその才能を開花させていく。そして、偶然の出来事によって刑務所の外へ出る機会を得たDannyは、真犯人グループへの復讐を始めるのだ。
やや出来過ぎの感もあるが、全体的には目覚ましく動き続ける物語は読者を飽きさせる事はないだろう。また、物語自体が、ロンドンからスコットランド、スイスのジュネーブなど、いろんな場所へ展開される点も面白い。イギリス人でもスコットランドの発音に戸惑う場面など、日本にいてはわからない現地の人々の感覚が見えてくる。
Jeffrey Archerの物語は法廷の場面が多いという印象があるが、本書も同様に緊張感あふれる法廷シーンを見せてくれる。
個人的には物語の終わり方が好きだ。もちろんここで詳しく書く事ができないのが読んでもらえればこの余韻に浸れる終わり方をわかってもらえるかもしれない。
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「宮本武蔵(六)」吉川英治
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宮本武蔵の第六巻。武蔵は旅の途中で一人で暮らしている少年と出会う。彼に請われて武蔵はその少年を弟子にして一緒に過ごしはじめる。
決闘の場面こそ少ないが、伊織(いおり)という少年とともに生活を始める武蔵を描く本書は違った意味で印象的な場面が多い。特に強盗集団に教われている村の人々を助け、村人に武器をとらせて戦わせる場面は爽快である。
そして、伊織を育てる上で、剣の技術だけでなく礼儀作法についても厳しく教えようとする。かつでは城太郎という少年と旅をともにしながらも自由奔放にさせたがゆえに何も遺せなかったという武蔵の後悔がそうさせるのだ。
そんな武蔵の新たな視点は、読者にも何か考えさせるものがある。
また、現在おそらく日本人で知らない人はないないだろいうというぐらい有名な武蔵ですら当時「生まれたのが20年遅かった」と思っているところが印象的だ。17歳で時代の節目と成る関ヶ原の合戦を経験し、それい以降、武蔵のような野生の人間を世の中が必要としなくなっていったのである。きっといつの時代も人は前の時代の人々に憧れを抱くのだろう。賞賛すべきはそれをそうぞうして描いた著者吉川英治の方かもしれない。
また、一方で佐々木小次郎もその強さを見せ始める。物語の終わりを期待とともに予感させる一冊。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(六)」
「Song of Susannah」Stephen King
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Callaの町でWolves達との勝利にわくRoland一行だが、妊娠したSussannahが行方をくらました。Roland、Eddie、Jakeそして神父のCallahanがSusannahを追ってニューヨークに向かう。
多重人格者のSusannahが行方をくらましたことで、それぞれが別の世界へのドアをくぐる。EddieとRolandは1977年のメーン州、JakeとCallahanは1999年のニューヨークだった。それぞれの登場人物が別々に行動するため、今までのようなそれぞれの個性が団結した展開を見る事はできないが、それぞれまた違った側面が見えてくる。
子供を産んで育てようとするSusannahの中の人格Miaと、後から追ってくる救いを待つために少しでも時間を延ばそうとするSusannah。2人が1つの体のなかで駆け引きを繰り返すのが面白い。そしてそんななかにもう1つの人格Odettaが割り込んでいくのだ。
一方で、鍵となる駐車場を管理している本屋のオーナーを追うEddieとRolandは、やがてその近所にある小説家が住んでいることを知る。その小説家はStephen Kingというそうだ。現実世界がKingの小説のなかに取り込まれたのか、それともRolandやEddieが現実世界にでてきたのか、Stephen Kingのそんな試みが見られるのが本書の一番の山場かもしれない。
長く続いたシリーズの最後に繋がる一冊。これまでのシリーズと比較すると面白さとしてはやや不足しているかもしれないが、その後の展開には必要な一冊なのだろう。
「宮本武蔵(五)」吉川英治
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の物語の第5話。吉岡道場との決闘の後を描く。
ようやく後半に差し掛かった武蔵の物語。吉岡道場との決闘の後を描く本書は物語のなかでも山場の少ない内容となっている。おつう、城太郎と再び行動を共にしてはまたはぐれるなど、それぞれ新たな人生の方向へと導かれていく。
個人的に印象に残ったのは、はぐれた城太郎、おつうの行方を探すのを手伝ってくれた見知らぬ人へ、御礼に残り少ないお金を渡そうとする武蔵の心の内である。
これまでは悩み葛藤を続けてきた武蔵だが、ここへきてその心のありようが結構な境地に達してきたような気がする。残り3冊も楽しみである
【楽天ブックス】「宮本武蔵(五)」
「1%の人だけがやっている 会社に「使われない人」になる30のヒント」渡辺雅典
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アフィリエイターとして著名な著者が会社に使われない人間になるための心得を語る。
序盤は、高校を中退し、仕事でもあまりいいスタートを切れなかった著者自身の過去に触れ、その後、インターネットでの仕事を始めてからの成功と、現在の心がけについて語っている。書かれている内容はどれも特別な事ではなく、むしろその内容からは読者としてもっと本当に会社にいくのが嫌でしょうがないネガティブな思考の会社員を対象にしているようにさえ思える。
書かれている内容に信憑性がないわけではなく、むしろどれも納得のいくものばかりなのだが、世の中に溢れかえっている「成功のための本」の多くに書かれていそうなことばかりで、あまり印象に残らなかった。しかし、定期的にこのような本を読む事はいろんな意味でモチベーションの維持に役立つ気がする。
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「四色問題」ロビン・ウィルソン
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
すべての地図は4色で塗り分ける事ができる。経験的に受け入れられてきたこの事実の証明は何年も数学者達を苦しめてきた。そんな四色問題が証明されるまでを描く。
コンピュータを使った美しくない証明として議論を呼んだ証明として興味を持っていた。もちろん問題自体(つまり地図が4色で塗り分けられるという考え)がわかりやすいというのも理由の1つだろう。こういう本は数学者でもない限りすべてを理解するのは不可能なのだが、それでもその雰囲気や数学者達の努力が感じられれば僕にとっては十分なのである。
序盤は「四色問題」がどのように始まり、どのように数学界に広がっていったかを描き、中盤からは、簡単な塗り分けから考え方を説明し、四色問題が難しい理由などを説明する。その過程では11年間にわたって信じられてきた間違った証明も含まれている。
興味深いのは、この証明の「美しくなさ」である。証明をしたアッペルとハーケンは非難されてさえいるということである。
数学の証明の難しさ、あるべき姿、など考えさせられる一冊。
【楽天ブックス】「四色問題」
「主よ、永遠の休息を」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
記者の鶴田吉郎(つるたよしろう)は14年前に起きた女児誘拐殺人事件の映像がアダルトサイトに流されていたことを知る。
誉田哲也の初期の作品。物語として「ストロベリーナイト」や「ジウ」といったシリーズと繋がっているわけではないが、著者の原点とも言える。記者である主人公が、すでに過去のものとなった誘拐殺人事件を調べるうちに少しずつ奇妙な点に気づいていくのだが、全体的にはとくに予想を超えたひねりがあるわけでもなく、心情描写も最近の誉田哲也作品と比較すると少なく印象的な部分は少ないように思える。
物語自体を楽しむよりも、誉田哲也という著者を知る上では価値のある一冊かもしれない。
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「ローマ人の物語 ハンニバル戦記」塩野七生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ人の物語の第二章である。紀元前264年から紀元前133年までの130年間を描く。
ハンニバル戦記と名付けられたこの章は、その名の通りカルタゴの名将ハンニバルによって大きな変化を強いられたローマを描いている。アフリカ大陸で栄えたカルタゴのハンニバルはスペインへ侵攻し、やがてローマへと向かうのである。
著者も冒頭で書いているが、学校の教科書ではこの時代をわずか5行程度で済ませてしまうという。しかし、それではわずかな事実が伝わるのみで、過程を知らずに、その時代に生きた人々は見えてこない。本書を読むと、祖国から遠くは慣れて孤立していくハンニバル。ハンニバルへの対抗手段をめぐって対立するローマ国内など、2000年以上も前に生きていた人々が信じられないほど現実感を伴って見えてくる。
実は僕自身本書を読むまで、カルタゴという国の場所や名前や、ハンニバルがどこの国の人物かすら知らなかった。当時の人々の崇高な生き方に触れるほどに、知るべき歴史を知らない自分の無知を感じてしまうのである。
さて、何度も戦いに勝利しながらもやがてハンニバルはローマを後にせざるを得なくなる。一方で、ハンニバルの引き起こしたポエニ戦役によってローマは一段と力を増し、一層帝国主義の傾向を強めていく。
なにより印象的なのは、700年も栄えたカルタゴの滅亡だろう。過去の歴史だけを見ると、それが必然だったように見えるが、歴史的事実のいくつかは偶然の重なりによって覆ったこと。著者はカルタゴの滅亡をまさにそんな一例と捉えている。栄枯盛衰を感じずにはいられない。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語(3) ハンニバル戦記(上)」、「ローマ人の物語(4) ハンニバル戦記(中)」、「ローマ人の物語(5) ハンニバル戦記(下)」
「人間関係をしなやかにするたったひとつのルール」渡辺奈都子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人間関係をどのように良好に維持するか、と調べているうちに「選択理論」という言葉に出会った。本書は真理カウンセラーの著者がその「選択理論」について語る。
基本となるのは、「変えられるのは自分だけ」という考え方であり、「外的コントロール」つまり他者のコントロールをしないように勧めている。他人の行いに対してひたすら我慢をすることを理想とするように聞こえるかもしれないが、実際には希望を伝えることも勧めている。こちらの希望に沿わなかった場合に罰を与えたり、非難をしなければそれは「外的コントロール」にあたらないのだ。
また、人の感情や行動をいくつかのたとえを用いて興味深く説明している。1つは、車の4輪を用いて前輪を「思考」と「行為」、後輪を「感情」「生理反応」と例えている。つまり車の前輪と同じように「思考」と「行為」は自らの意思で操作できるが、後輪の「感情」「生理反応」はその前輪の結果についてくるものということである。
人の性格についての考え方もわかりやすい。人間は5つの基本的欲求「生存」「楽しみ」「自由」「力/価値」「愛/所属」のグラスを持っているが、それぞれのグラスの大きさは人によって異なるため、そのグラスを満たす量もことなるのだという。
全体を通じたのは、ここ数年自分が人間関係において意識していることとそれほど乖離してはいないということ。見方を変えれば、人によっては「他人に対する諦め」と否定的に受け取ることもあるのかもしれないが、個人的には、本書が推奨する「コントロールしない/されない関係」はもっとも相手を尊重した関係のように思える。人の見方に新たな視点を与えてくれる一冊。
【楽天ブックス】「「人間関係をしなやかにするたったひとつのルール」
「「書」を書く愉しみ」武田双雲
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
書道家である著者が「書」について語る。
コンピューターが世の中に浸透し、文字を書く機会は本当に少なくなった。そのせいか、文字を書く事が嫌いな人は多い。実際、自分の書く文字が嫌いな人も多いという。僕自身もそんな一人で、特に字が汚いわけでもなく、むしろ「字がキレイ」と言われる事のほうが多いのだが、どうしても自分の書く字が好きになれない。本書はそんな人に、字に対して新しい考え方を与えてくれるだろう。
字がうまくなる方法として「下手な字競争」を紹介している。その名のとおり下手な字を書こうと努めるのだが、どうやったら下手に見えるか、という視点に立って字を眺める事に良って、より深い考察をすることができるという。また、お手本通りに書くという学校での書道の授業に異を唱えている。なぜなら同じ人物が書いたとしても二度と同じ文字は書けないのだそうだ。
その他にも中国や日本の歴史的な書を紹介している。有名な書のなかにも読みやすいものもあれば読みにくいものもあり、そこから伝わってくるのは、文字に正解はないということ。服装や姿勢や髪型などと同じように、文字もその人の個性を表すものなのだろう。
改めて文字というものと向き合ってみたくさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「「書」を書く愉しみ」
「光圀伝」沖方丁

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第3回(2012年)山田風太郎賞受賞作品。世の中が徳川幕府によって安定に向かうなか、水戸徳川家の次男として生を受けた水戸光圀(みとみつくに)の生涯を描く。
日本の歴史に疎い僕にとって水戸光圀と言えば水戸黄門、本当にそれぐらいしか知識がなかった。本書が描くのはそんな一人の男の物語である。
すでに戦国時代は過去の話で世の中は一気に生活を向上する方向に動いている。人々が学べる環境を作り税の制度を整備していくなど、それは戦後の日本の復興と似ているような印象を受けた。
光圀は次男として生まれたのに理由も知らされずに水戸徳川家を引き継ぐとされた。序盤はなぜ自分が選ばれたのかわからないというなかで成長する光圀の苦悩が中心と成る。本来水戸家を背負うはずだった優しい兄に対する罪悪感や、それでも良き理解者として接してくれることに対する感謝の気持ち、それが初期の光圀の人間性を形作ったように見える。
若いうちは、よくある良家の跡継ぎと同様、父から何度も厳しい試練を与えられ、外ではそれなりの粗暴な行為を行いながらも学び成長していく。そんななか書物を重視し、常に学ぶ事を怠らないその姿勢には感銘を受ける。どこまでが事実に基づいているのかわからないが、宮本武蔵との出会いも本書の読みどころの1つである。「書で天下をとる」という光圀の野望は武蔵との出会いから生まれた物だろう。
そのようにして、光圀は、妻の死や将軍との不和など、徳川水戸家を背負って密度の濃い人生を送っていくのだ。
もっとも印象に残ったのは、決断をするときに「これは義か?」と自らに問い続ける生き方である。僕らに現代人にとっては「大義」の方が聞き慣れているのかもしれないが、「義」とは「人の踏み行う正しい道筋」のことで、光圀は常に世のため人のためになることを優先して決断をするのだ。
争乱の時代の後のあの時代に、水戸光圀が果たした役割の大きさが見えてくるだろう。そして、現代に生きる僕らも光圀と同じように、日々信念を持って決断しているか、つまり「義」を行えているかと、改めて考えさせられる。時代は違えど、現代にもそれぞれが果たせる「大義」はきっとあるはず。
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「富士見高原Iターン物語」村上方子
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
横浜で編集者として働いていた著者が、結婚11年目の37歳のときに夫と長野県の富士見高原に移り住む。そのきっかけや苦労、新しい土地での生活を描く。
偶然にも著者がその決断をしたのは現在の僕と同じ年齢。多くの人にとって「どう生きるべきか」「幸せとは何か」自らに問いかけ、行動を起こそうと思う年齢なのかもしれない。それでも実際に行動が起こせる人はわずかなのだろう。本書はそんな迷っている人の背中を押してくれるかもしれない。
序盤では、著者と夫もが、2人の子供を抱えながらもその人生の一大決心をする過程が描かれている。もちろんそこには、仕事、住居、友達、両親、子供の学校など様々な問題が発生する。そんな問題をひとつづつ乗り越えていくのだ。その様子から、行動を起こすには、ある程度の決意と覚悟とある程度の無鉄砲さが必要だと思えてくる。
印象的なのは、著者が何度も繰り返し言っているように、どこにいっても人間関係にわずらわされずに生きる事などできないということ。
後半はまさにそんな地域の人間関係に入り込んで地域に貢献しようと生き生きと毎日を送る著者の様子が描かれる。「こんな生き方もあるのだ」と改めて自分の生き方を見つめ直
す機会になるだろう。
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「本田式サバイバルキャリア術」本田直之
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ハワイと日本の二重生活を送る著者がその経験を基に今の時代を生き抜く考え方を語る。
成功した人は、その成功の多くが偶然的要素に左右された結果であるにも関わらず、本を出してあたかも自分の視点が正しく世間一般的な視点が間違っているように語ることが多い。そういう意味で本書にもあまり期待していなかったのだが、むしろ予想外にまともなことを語っている点が驚いた。
実は、著者の経歴から「思い切って行動すればなんとかなる」的な内容を想像していた。しかし実際には、社内や社外の人脈の作り方や、転職エージェントの利用のすすめなど、今の時代を生き抜くために、リスクを最小限に抑えて、利用できる物はなんでも利用すべき、という考え方が本書のなかで一貫としている。
著者が繰り返し使うのが「サバイバビリティ」という言葉である。何が起きるかわからない今、1つの会社や1つのキャリアに依存する事こそリスクが高く、「シングルキャリア」から「マルチキャリア」へ、「雇われ型」から「スキル提供型」への移行こそ、生き抜くために必要なのだろう。
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「Fahrenheit 451」Ray Bradbury
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本を燃やす事を仕事とするMontagはある日近所の少女Clarisseと出会う。Clarisseの自由な言動によって、Montagは自らの行いを振り返り悩み始める。
日本語タイトルは「華氏451度」であり、本を燃やすための温度を示している。舞台となっているのは未来の世界で本来なら消防士として火災にあった家を消化する人にあてられるべき「fireman」という言葉が、本を燃やすことを職業にする人に使われている。そして本書はそんなfiremanであるMontagの様子を描いている。
知識や思想を根絶するために本を燃やす、という思想は何年も前からあったもので、映画や物語のなかでもそんなシーンをたまに目にする。おそらく宗教的な対立や独裁政権下で多く起こったできごとなのではないだろうか。本作品が未来を舞台にして、見せててくれるのは、本を燃やすということの意味とその危険や重要性である。
firemanとしての職業を放棄したMontagはやがて社会から逃れて生活している人々に出会う。彼らは多くの本が失われる中で、知識や思想を守り、それを次の世代に受け継ごうとするのである。
本書が言おうとしていることの崇高さはしっかり伝わってくるが、書かれた時代の古さが安っぽさのように感じられてしまう点が残念である。情景描写ばかりで心情描写がほとんどない点も原因なのだろう。同じ意図で現代のすぐれた作家が描いたらどうなるだろう、と考えてしまった。
「宮本武蔵(四)」吉川英治
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
吉岡清十郎(よしおかせいじゅうろう)との勝負に勝った武蔵に、その弟伝七郎(でんしちろう)が再び試合を申し込む。後がなくなった吉岡道場がなりふり構わない行動に走り出す。
宮本武蔵の第4弾である。本書の見所はやはり武蔵と吉岡道場ということになるが、個人的には再開を果たした武蔵とお通(つう)の場面が特に印象に残った。武蔵はお通(つう)の武蔵に対する想いを受け入れつつも自らの剣に対する想いを吐露する。
1つの道を極めようとしながらも、その過程で思い悩み葛藤する武蔵の姿は、長い時を隔てた現代の人でも共感できることだろう。読者は何か忘れていた情熱を思い出すかもしれない。
そして、吉岡道場との対決は佳境に入っていく。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(四)」
「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」北健一郎
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ガンバ大阪の遠藤保仁(えんどうやすひと)、FCバルセロナのシャビ。強いシュートを打つわけでもなく、驚くような鋭いパスを放つわけでもない彼らだがそれぞれのチームの中心人物と評価されている。彼らのどんなプレーがすごいのかを、彼らがときどき出す弱いパスを中心に解説する。
正直サッカーを何年もプレーした事がある人にとってはそんなに新しい内容ではないだろう。遠藤やシャビほど計算し尽くしてはいなくても無意識にやっていることかもしれない。それでもこうやって言葉にしていくつかの例とともに説明されると改めていろいろ戦術というものについて考えるだろう。
また、本書では遠藤(えんどう)のプレーに対して、一緒にプレーした事のある他のプレーヤーの意見も書かれている。そこで語られるのは意図を感じさせるパス。パスカットされる可能性があれば出さないという相手ゴール付近であっても出さないという選択、サイドチェンジの効果などである。いずれも賛否両論あるとはいえ、何事もそうだがパス一本とっても極めようとすればいくらでも上がある、ということを再認識させられる。
サッカーを知らない人にとっても、これからサッカーをテレビなどで観戦する際の助けとなるだろう。
【楽天ブックス】「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」