「極楽征夷大将軍」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第169回 (2023年上半期)直木賞受賞作品。足利家に生まれた兄弟、又太郎(またたろう)と次三郎(じさぶろう)が、やがて室町幕府を起こすまでを描く。

本書は足利尊氏とその弟直義(ただよし)や高師直(こうもろなお)中心に室町幕府を起こすまでを描いている。

正直、今まで触れてきた歴史物は、戦国時代から江戸時代のものが多かったし、それ以前の物語だと武蔵坊弁慶や源義経など鎌倉幕府に関わる物が多かったので、この時代についてはほとんど知らなかった。それだけに本書で描かれていた足利尊氏(あしかがたかうじ)の人間性や室町幕府成立に対するる尊氏(たかうじ)の弟直義(なおよし)の貢献さには大きさには驚かされた。

本書では足利尊氏(あしかがたかうじ)は、政治に才能を発揮する弟の、直義(ただよし)や師直(もろなお)に任せきりで、人情味あふれる人間ではあれど、ほとんど政治に興味を示さない野心ない人間として描かれているのである。

後半では、室町幕府が成立して以降の、終盤では、さまざまな内紛の様子が描かれる。それまで一緒に室町幕府を支えていた。直義(ただよし)と師直(もろなお)が、少しずつ疎遠にいく様子からは、当時の遠方との意思疎通の難しさが伝わってくる。

そういう意味では、日本という大きな土地を長く統治することがどれほど難しいかが伝わってくる。一方でそれは、のちに長く全国を平和に統一した徳川家康につても興味を掻き立ててくれる。

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「黒牢城」米澤穂信

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第166回直木賞受賞作品。織田信長に反旗を翻して長岡城に立て篭もる荒木村重(あらきむらしげ)を描く。

時代小説ではあるが、本作品はこれまで出会ってきた時代小説と異なる新鮮な要素がある。まず、興味深いのが謀反を起こして籠城中という設定である。物語全体を通じても、ほとんど戦は起きない。むしろ、焦点となるのは、籠城という先の見えない状態の中で、すこしずつ疲弊していく民や、誰に従うべきかと考え揺れ動く武将たちの心や、自分の大将としての影響力を気に掛ける村重(むらしげ)の葛藤である。

もう一つ興味深いが、小寺官兵衛(こでらかんべえ)という武将の存在である。村重の謀反を思いとどまるように進言しにきた小寺官兵衛(こでらかんべえ)は、その場で村重(むらしげ)に捉えられ牢に入れられたのである。しかし、しだいに大将として籠城を行う長岡城を統べる村重(むらしげ)が、唯一本音で語れる相手となっていくのである。

やがて、村重(むらしげ)は城内で起こっていた不可解な出来事の答えに辿り着くこととなる。そこで村重(むらしげ)はさまざまな考えを知るのである。

犬死をおそれる殿の気持ちも、わからないではございませぬ。…
されどわたくしはーーこの先も苦しみが続くと思いながら迎える死こそが、もっとも残酷と思うております。

著者米澤穂信作品は長く読み続けており、軽い雰囲気のミステリーを描いていた頃から知っているため、一人の作家の成長ぶりも併せて楽しませてもらっている。前回読んだ著者作品「可燃物」が評価の割に登場人物の人間味が薄く期待はずれだったため、本書もそれほど期待値は高くなかったが、同じ著者がここまで異なる雰囲気の作品を描けるのかと驚かされた。

昨今、今村翔吾垣根涼介などによって戦国時代を描いた歴史小説が一気に面白くなったが、本書もまったく引けをとらない。

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「信長の原理」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
織田信長の生涯を描く。

織田信長といえば、戦国武将の中でももっとも有名な武将の一人である。しかし、その生涯を描いた物語にはこれまで漫画や映画も含めほとんど触れてこなかった。以前読んだ垣根涼介の「光秀の定理」が面白かったので、本書も、新しい視点を盛り込んだ歴史小説を期待して読むに至った。

そもそも織田信長という武将については、天下を初めて統一したこと、その後天下を統一した豊富秀吉や徳馬が家康に比べると非常に厳しい人格であること。そして、本能寺の変で明智光秀に裏切られて命を落としたことぐらいしか知らなかったので、細かい出来事はどれも楽しめた。

基本的には信長の生涯を時代の経過とともに描いているが、面白い試みとして、信長が常に世の中の不思議な法則に注意を向けている点である。5人の人間が集まれば、秀でているものは1人だけで3人は平凡になり1人は怠け者になるという、つまり現代はパレートの法則と呼ばれる法則である。「光秀の定理」ではモンティ・ホール問題が物語の鍵となっていたが、本書ではまさにこのパレートの法則が常に一貫したテーマとなっているのである。

物語は、信長目線だけでなく、のちの秀吉である木下藤吉郎や明智光秀目線でも展開する点も面白い。また、今村翔吾の「じんかん」でも描かれた松永弾正(まつながだんじょう)についても、非常に好意的に描かれているのが印象的であった。

終盤、信長の最期、つまり本能寺の変に近づくにつれて、光秀目線の物語展開が増えてくる。光秀側の正当化された光秀像が見えてくる。

いずれの出来事も、どこまでが歴史的な事実として明らかになっている出来事で、どこからが著者による新たな解釈なのかを知りたくなった。そのためには別の著者の書いた織田信長の物語に触れるしかないのだろう。人間の深みを感じるとともに歴史にも改めて目を向けさせてくれた。

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「人を動かす」D・カーネギー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人を動かす方法をさまざまな例とともに説明する。

中盤まで読んだあたりで、タイトルがかなり異なるので気づかなかったが、英語版の「How To Win Friends and Influence People」で読んでいることに気づいた。ただ、このような重要なことは何度読んでも読みすぎるということはないだろう。

それぞれの例や物語を読んだ方がさらに実感をともなって伝わることは間違いないが、重要な項目は目次として抜き出されている。

人を動かす三原則
盗人にも五分の理を認める
重要感を持たせる
人の立場に身を置く
人に好かれる六原則
誠実な関心を寄せる
笑顔を忘れない
名前を覚える
聞き手にまわる
関心のありかを見抜く
心からほめる
人を説得する十二原則
議論を避ける
誤りを指摘しない
誤りを認める
穏やかに話す
”イエス”と答えられる問題を選ぶ
しゃべらせる
思いつかせる
人の身になる
同情を寄せる
美しい心情に呼びかける
演出を考える
対抗意識を刺激する
人を変える九原則
まずほめる
遠まわしに注意する
自分の過ちを話す
命令をしない
顔をつぶさない
わずかなことでもほめる
期待をかける
激励する
喜んで協力させる

どれも新しいことではないが、常にできている人はほとんどいないのではないだろうか。人間関係でうまくいかないとき、この項目を見れば解決策が見つかるかもしれない。

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「Malibu Rising」Taylor Jenkins Reid

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
カリフォルニアの海辺の街Malibuでレストランを経営しながら生活するNina, Jay, Kitの4人の兄弟を描く。4人は恒例行事となったパーティの準備を進めることとする。

著名なサーファーでかつプロテニス選手との結婚していたNinaは、夫との破局直後だったため、パーティで人に顔を合わせるのが憂鬱な状態であった。そんなNinaを気遣って弟たちJay, Hud, Kitはパーティの準備を手伝いつつ、Ninaを外に連れ出そうとする。

パーティの準備が進む中で、少しずつ4人の兄弟の置かれた状況が明らかになっていく。彼らの父親は著名なアーティストですでに何年も前に家を出てって帰ってきていないこと。Hudは実は同じ母の子ではなく父親が別の女性と作った子であること。また、数年前に母が突然亡くなって、それ以来、長女のNinaが学業などあらゆることを我慢して3人の兄弟の面倒をみているということである。

特にNinaの生き方が印象的である。Ninaは弟たちの学費や、家事のために自分の学業を諦め、また必要なお金を稼ぐために世の男性の下心ある視線にさらされることを知りながらも自分の写真を世に出すことを決意したのである。

そんななかパーティが始まり、著名人たちがあつまってくるのである。さまざまなことが同時に起こる中で疲れ切っているNinaに友人のTarineがぶつける言葉が印象的である。

I suspect you have not lived a single day for yourself.
あなたは一日たりとも自分のために生きたことがないんじゃない?

そして、パーティにはやがて、長く帰ってこなかった父親までもが姿を見せる。4人は父の正直な思いを前に、長く抱えてきた思いをぶつけるのである。自分は父親にはなれなかったと語る父にぶつけるNinaの言葉が強烈である。

I didn't feel capable of any of that! But did that matter? Of course not. So I've gotten up every single day since Mom dies and I have done what needed to be done. Capable is a question I never had the luxury of asking.
私は自分ができるなんて思わなかった。でもそれが重要?もちろん重要じゃないわ。だからママが死んでから毎日起きてやるべきことをやった。私は「できるか?向いているか?」なんて自分に問いかける贅沢すら与えられなかった。

自らを犠牲にして誰かを支える生き方は、尊い生き方ではあるが、本人が幸せかどうかは別問題である。本人も周囲の人間も何が本当に最適な生き方なのかしっかり考えなければならないだろう。

やがてNinaもあるべき自分の生き方を悟っていく。

And Nina understood maybe for the first time, that letting people love you and care for you is part of how you love and care for them.
そしてNinaはおそらく初めて悟った。愛してもらったり世話してもらったりすることは、誰かを愛して世話することの一部でもあるということを。

良好な人間関係に必要なのは、自立や強さだけではないということである。

あまり出会ったことのない種類の物語で新鮮である。家族の愛の物語ではあるが、Nina目線だと自己犠牲側面も強くあり、考えさせられる。

英語新表現
with abandon 後先考えずに
stave off 食い止める、しのぐ
fend for ourselves 自力で切り抜ける
be in someone's hair 〜を煩わせる、〜にまとわるつく
be out on bond 保釈中である

「走り革命理論 今まで誰も教えてくれなかった「絶対に足が速くなる」テクニック」和田賢一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
足の速さは才能ではないとし、ランニングとスプリントの違いとその習得方法を説明する。

僕自身ジョギングを趣味としており、最近では息子の走る練習に付き合ったりしているため、走るという行為をより論理的に理解したいと感じている。そんななか著者のYouTubeチャネルをみて基本的な考えは知っていたのだが、より深く理解したいと思い本書を手に取った。

本書はランニングよりもスプリント、つまり長距離よりも短距離に焦点をあてているが、個人的には効率よく走るための基本的な考えはどちらにも応用できると感じている。足の回転を増やすためにすべきことは、可能な限り地面への設置時間を短くすることであり、それをするためには本書のいう空中スイッチをすることである。

本書では効率の良い空中スイッチを習得するためのさまざまなドリルを説明している。改めて思うのは、新しい技術を身につけるためにはそれを表現する的確な言葉が必要ということである。例えば本書ではスプリントに必要なそれぞれの動きに対して次のような言葉を使用している。

  • アンクルホップ
  • 空中スイッチ
  • ベースポジション
  • 足首ロック

いずれも非常に良い言葉なのでぜひ使わせてもらおうと思った。

なかでも印象的だったのは腕振りの章である。

力んでしまう人への本質的なアドバイスは、「力を抜け!」ではなく、力を入れる”瞬間“のタイミングを明確に伝えることなんです。

ちょうど腕振りの効果を最大限に発揮できていないと感じていた時期だったので、腕振りの考え方は大いに参考になった。また、それぞれの考え方は息子とのかけっこトレーニングや自身のジョギングに取り入れたい。

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「人魚が逃げた」青山美智子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
銀座に逃げた人魚を探している王子がいるらしい。そんな噂が流れる銀座で、人間関係に悩む6人の男女を描く。

青山美智子作品も何冊か読むと、その共通したテーマと、スタイルに気づくことだろう。いつでも今ある日常の人間関係の大事さを伝えようと、さまざまな立場の人間の目を通して伝えてくるのである。今回もそういう意味ではその哲学は変わらない。人魚姫という素材を盛り込みながら、うまくいかない人間関係をさまざまな視点で描いていく。

印象的だったのは19歳の友治(ともはる)と31歳の理世(りよ)の12歳の年齢差のカップルの物語である。第一章が友治(ともはる)目線と第五章がの理世(りよ)目線となっており、友治(ともはる)目線の物語からは、豪華なマンションで生活する理世(りよ)に劣等感を抱きながらも背伸びする男性の様子が描かれる。

また理世(りよ)目線の物語では、若い男性に自分はふさわしくないかも、と怯えながらも強がって大人の女性を演じる様子が描かれる。結局のところ両思いにもかかわらず、不安を募らせる両者が、読者として第三者目線でみると、なんとももどかしい。

60歳を過ぎて離婚した男性を扱って第3章も面白かった。勢いではなく、冷静に離婚を決断した妻の言葉は世の男性すべてが心に留めておくべきだろう。

私が本当に、ああもうだめなんだなって悟ったのは、あなたが積み立て預金に手をつけたこと自体よりも、罪悪感もなく逆ギレされたことよ。人と人を繋ぐのは結局、愛とか恋より、信頼と敬意なのよ。

どの物語からも、正直な思いを言葉にして伝えることが、どれほど重要か、そしてそれを怠ることでどれほど無駄なすれ違いを生むのかが伝わってくる。

「でも、私は彼にふさわしい人間だなんて思えない。」
「彼はきっとこう言うわ。それは僕が決めることなのに、って」

恋愛に躊躇しているすべての人に伝えたい言葉である。

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「ユーモアは最強の武器である」ジェニファー・アーカー/ナオミ・バグドナス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ユーモアの重要性とさまざまな実験の結果や事例とともに説明する。

序盤はユーモアの有効性、特にビジネスシーンにおける必要性を語りながら、人々がユーモアを発揮にくくさせている4つの思い込みについて触れている。

  • 1.ビジネスは真面目であるべきという思い込み
  • 2.うけないという思い込み
  • 3.面白くなくちゃいけないという思い込み
  • 4.生まれつきの才能という思い込み

面白いのは、ユーモアを試みるだけでも、つまりつまらないユーモアだったとしても職場の雰囲気は大きく変わるということである。

中盤ではさまざまな有名企業でのユーモアの事例を挙げている。本書ではグーグルやピクサーの例を紹介しており、リーダーや会社のトップがどのようにユーモアを使い、社員のユーモアにどのように反応するかが、組織におけるユーモアの文化を決めていくのだということがわかる。

特に印象的だったのが、立場において使えるユーモアが変化するという考えである。立場が低い人は、自虐ネタよりも上司をいじるユーモアが有効な一方、上司は自虐ネタの方が安全なのである。言われてみれば納得であるが、ユーモアを効果的に使えるように気をつけたいと思った。

さっそく、生活の中で使うユーモアの量を少しずつ増やしていきたいと思った。

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「マインクラフト 革命的ゲームの真実」ダニエル・ゴールドベリ/リーナス・ラーション

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現在では子供から大人まで多くの人に愛されているゲーム、マインクラフトをつくったマルクス・パーションの生活とマインクラフト立ち上げまでをの様子を語る。

マインクラフトというゲーム自体は名前は聞いたことあるものの実際にプレイしたことはなかった。以前プレイしたバーチャルワールドであるセカンドライフのようなものという印象を何となく持っていた。子供が幼稚園生になって園児のなかにもマインクラフトを日常的にプレイしている子が多々いるということで、改めてマインクラフトについて知りたくなった。

本書を読むとマインクラフトというゲームが、ただ単に開発者であるマルクスの試行錯誤だけでなく、さまざまな過去のゲーム開発者たちの考え方を結集してたどり着いた結果であることがわかる。漫画であればスラムダンクが大きくその後の漫画を変えたように、電話であればiPhoneが革命を起こしたように、マインクラフトもゲーム史の大きな革命を起こしたのだと感じる。

また、本書からはマルクスがお金儲けよりも自分の地位よりも、ただ純粋にゲームをプレイすることやゲームを作ることを楽しんでいる様子が伝わってくる。「Tomorrow and Tomorrow and Tomorrow」でも感じたことだが、本書のマルクスのように、ゲームが生活の一部になっている人たちの話に触れると、ゲームをプレイしない自分は人生をかなり損しているのではないかと感じてしまう。映画や漫画や小説と同じように、きっとゲームも楽しいことだろう。さっそくマインクラフトをインストールして触ってみたいと思った。

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「じんかん」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第11回山田風太郎賞受賞作品。織田信長(おだのぶなが)に謀反を企てている松永秀久(まつながひでひさ)の過去について、信長(のぶなが)は家臣の又九郎(またくろう)語り始める。そこから見えてくるのは平和な世の中を目指した信念を持った生き方だった。

本書は信長(のぶなが)が謀反に対応する様子と、その信長自身が松永秀久(まつながひでひさ)について知っていることを語る内容、つまり過去の九兵衛(くへい)の成り上がっていく様子を交互に描く。

過去の九兵衛(くへい)の描写からは、不幸な少年期のなかで仲間を失い、やがて三好元長(みよしもとなが)の描く理想の世界に共感して、それを実現することを目的として生きていく様子を描く。それは、武士を消し去り、民の支配する世の中を作るというものであった。

中盤以降は元長(もとなが)と九兵衛(くへい)の思い通りことが運ばない様子が描かれる。

戦国時代の歴史を知ると、なぜこんなにも長く、多くの死傷者を生む戦いを繰り返していたのだろう。と不思議に思うだろう。同じように現代でも、独裁政権が倒れたら平和が訪れると思っていた国が、結局同じような紛争を繰り返すのを不思議に思うだろう。結局大部分の人間は、嫉妬、欲望、疑心暗鬼からは逃れられないのである。本書はまさにそんな人間(じんかん)の本質示してくれる。

長年敵対していた高国(こうこく)が九兵衛の問いに答える場面はまさに人間の本質を捉えている。

お主は武士が天下を乱していると、民を苦しめていると思っているのではないか?…民は支配されることを望んでいるのだ…日々の暮らしが楽になるのは望んでいる。しかし、そのために自らが動くのを極めて厭う。それが民というものだ。

やがて年齢を重ねながら、多くの仲間を失いながら、思いをなかなか達成することができずに、九兵衛も少しずつ悟ることとなる。

本当のところ、理想を追い求めようとする者など、この人間(じんかん)には一厘しかおらぬ。残りの九割九部九厘は、ただ変革を恐れて大きな流れに身をゆだねるだけではないか

現代の政治家と重なって見える。結局いつの時代も人は同じことを繰り返しているのである。自分の生活が脅かされれば反抗したり文句を言うが、本書の言葉を借りるならば、九割九分九厘の人間はは自らの責任で世の中を改善しようとしないのである。

自分は世の中を良くするために行動できる残りの一厘の人間だろうか、それとも不平を言いつつ動こうとしない残りの九割九分九厘の人間だろうか。そんなことを考えさせられる一冊である。

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「幸村を討て」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
豊臣家の最後の生き残りをかけた大坂の陣、徳川軍と豊臣軍参加した武将たちはそれぞれの思惑を持ちながら参加する。そんななか鍵となるが幸村を筆頭とする真田家であった。

それぞれの武将の目から大坂の陣を語る。織田家、豊臣家、徳川家、によって少しずつ戦の機会が減り、戦国の世の中が終わりに近づく中で、自らの名を上げる機会を求める者、家の名を歴史に刻もうと努める者、自らの信念を貫く者、いまだに天下をとる夢を捨てられない者など、さまざまな思惑をもった武将たちが大坂での最後の決戦に臨む。

これまで触れてきた今村翔吾作品とは少し趣が異なる作品。それぞれの武将たちが自分の目的のために、さまざまな手段を駆使して情報を集め、さまざまな駆け引きをする様子は、「デスノート」や「ライアーゲーム」のような緊張感を感じさせる。

同時に、400年以上前の人々を想像力豊かに、深く描くその人物描写の力量に驚かされる。戦国時代の武将たち一人一人も、現代を生きる人間たちを同じように、自らの信念や世間体や子供たちの未来を考えて生きる生身の人間であったことを思い知らせてくれる。歴史的事実に分厚い人物描写を組み合わせて、これまで体験したことのない見事な歴史小説に仕上がっている。歴史小説嫌いな人も一読の価値ありである。

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「深追い」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
三ツ鐘警察署でおこった事件を扱った7つの物語。

最近横山秀夫作品のすごさを改めて感じている。一冊に5つ以上の物語が入った短編集の、それぞれの数十ページの物語にでさえ、登場人物の分厚い人生を感じる。今までは長編しか読もうとしなかったのだが、短編集も全部読みたいと思い、本作もその流れの中でたどり着いた。

警察の物語というと、凶悪な連続殺人事件や誘拐事件などをイメージする人が多いだろう。しかし、短編集の本書が扱っているのは、実際に起こったとしても地方の新聞にも載らないような小さな事件ばかりである。ただ、それは小さな事件ではあるが、当事者や家族にとってはその人生に影響を与えるような大きな出来事なのである。

本書ではまさにそんな、事件に影響を受けた人々の苦悩を描いており、その横山秀夫の描写力から、どんな人間も物語の主人公になりうるのだということが伝わってくる。

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「コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた」細田高広

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コンセプトとは何か、コンセプトの必要性、そしてコンセプトの作り方を語る。

昨今、コンセプトの重要性が語られることが多くなってきた。大きなビジネスから小さなプロジェクトまで、明確なコンセプトを持っていることは、ブレなく進めるための必須条件と言ってもいいだろう。僕自身デザイナーとして、デザインコンセプトをクライアントと一緒につくることが多いので、さらにその精度を上げたいと考え、本書にたどり着いた。

重要なことはすべて前半に詰まっており、なかでも機能するコンセプトの条件、コンセプトと似て非なるもの、はいつでも取り出せるようにしたいと思った。

機能するコンセプトの条件
・「顧客目線」で書けているか
・「ならでは」の発想あるか
・「スケール」は見込めるか
・「シンプル」な言葉になっているか
コンセプトと似て非なるもの
・コンセプトはキャッチコピーではない
・コンセプトはアイデアではない
・コンセプトはテーマではない

面白いのは、コンセプトを作る過程でインサイト型ストーリー、ビジョン型ストーリーという二つのストーリーづくりを取り入れている点である。インサイト型ストーリーは次の4つのCでコンセプトを語る物語を作ることである。

  • Customer インサイト
  • Competitor 競合
  • Company 自社だけのベネフィット
  • Concept 新しい意味

具体的には次のようになるという。

  • 1 昔々あるところに、xxで困っている生活者がいました。
  • 2 しかし、世界中の誰も助けることができません。
  • 3 そこで、◯◯は自らの特殊な力を使って手を差し伸べました。
  • 4 つまり、□□という解決策によってユーザーは救われたのです。

コンセプトは非現実的になりかねないので、競合、消費者を交えた文章にするこの手法は取り入れたいと思った。ビジョン型ストーリーの冒頭では混乱しがちなミッションとビジョンを定義している。

  • MISSIONとは 組織が担い続ける社会的使命
  • VISIONとは 組織が目指すべき理想の未来

もう一つのわかりやすい説明として、それぞれ、創業、現在、未来と時間軸を用いて次のようにも説明している。

  • MISSION なんのために生まれたか?(創業)
  • CONCEPT いま、なにをつくるのか?(現在)
  • VISION なにを目指すのか(未来)

以降は良いコンセプトの作り方をさまざまな手法とともに説明している。どれも読んだだけだとわかった気になってしまうので、早速自分が関わる組織や活動に対して実践してみたい。

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「臨場」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
殺人事件が疑われる場所へ臨場する検視官のなかでも、多くの警察関係者から一目置かれ「終身検視官」と呼ばれる倉石義男(くらいしよしお)が、その洞察力で事件の真相を見抜いていく。

本書は8編の短編から構成されているが、共通しているのは死亡事件が発生し、検視官の倉石(くらいし)が真相の解明に重要な役割を担うことだろう。

8編の短編集というと一冊の本としては物語の数がやや多い。物語の数が多ければそれぞれの内容が薄くなりそうな気もするが、横山秀夫の手にかかるとページ数など関係ないことがわかる。少ないページ数に登場する、被害者、捜査官、新聞記者、いずれもそれぞれの人生がしっかり描かれることに驚かされる。

元々「クライマーズ・ハイ」や「ルパンの消息」「ノースライト」「64」など著者の作品には好きな作品が多いが、改めて、有名ではない作品も含めて横山秀夫作品は全部読まないとならないと感じた。

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「Chatter 頭の中のひとりごとをコントロールし、最良の行動を導くための26の方法」イーサン・クロス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
内省という素晴らしい行動を呪いに変えてしまうチャッターを、良い方向に導く方法について語る。

本書では「循環するネガティブな思考と感情」をチャッターと呼び、その特徴や制御するための方法を語っている。昨今、人間の幸せは、持っている物の量やお金の量よりもむしろその人のマインドセットに依存する、というのはよく聞く話である。しかし、ではどんなマインドセットを持てばいいのかどのようにしてそのマインドセットを育てればいいのか、という点においてはなかなか明確な指針がない。本書はそんなニーズに応えた構成となっている。

基本的な解決策は、自分から距離を置いて状況を客観的に見ること、であり、その手法についてさまざまな説明や関連する話と合わせて説明している。

僕自身は比較的客観的に自分を見つめることが得意な人間だと自負しているが、本書によるとそれは必ずしもそれはいいことばかりでないらしい。特に嬉しい時などは自分を客観視している人間は、自分に埋没している人ほど素直に喜べないのだと言う。

ラファエル・ナダルが試合中に重視するさまざまな儀式の重要性など、関連する物語も面白かった。末尾にチャッターを制御するための26の方法が掲載されているので、チャッターに振り回されそうになった時のために覚えておきたい。

自分だけで実践できるツール
1.距離を置いた自己対話を活用しよう。
2.友人に助言していると想像しよう。
3.視野を広げよう。
4.経験を試練としてとらえ直そう。
5.チャッターによる身体反応を解釈し直そう。
6.経験を一般化しよう。
7.心のタイムトラベルをしよう。
8.視点を変えよう
9.思ったままを書いてみよう。
10.中立的第三者の視点を取り入れよう
11.お守りを握りしめる、あるいは迷信を信じよう。
12.儀式を行なおう。
チャッターに関する支援を与えるためのツール
1.感情・認知面のニーズに応えよう。
2.目に見えない形で支援しよう。
3.子供にはスーパーヒーローになりきってみようと言おう。
4.愛を込めて(敬意も忘れずに)触れよう。
5.他の誰かのプラセボになろう。
チャッターに関する支援を受けるためのツール
1.顧問団をつくろう。
2.体の触れ合いを自分から求めよう。
3.愛する人の写真を眺めよう。
4.儀式を誰かと一緒に行おう。
5.ソーシャルメディアの受動的使用を最小限にしよう。
6.ソーシャルメディアを利用して支援を得よう。
環境に関わるツール
1.環境に秩序を作り出そう。
2.緑地をもっと活用しよう。
3.畏怖を誘う経験を求めよう。

【楽天ブックス】「Chatter 頭の中のひとりごとをコントロールし、最良の行動を導くための26の方法」
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「君のクイズ」小川哲

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
早押しクイズ大会の決勝戦で不可解な解答によって破れたは、クイズ関係者から上がるヤラセ疑惑を解明しようとする。

本書はクイズに人生を賭ける三島玲央(みしまれお)が、タレントである本庄絆(ほんじょうきずな)に早押しクイズ大会の決勝戦で敗れることから始まる。最後の問題は、問題文が読まれる前に本庄絆(ほんじょうきずな)がボタンを押して正解をしたことから、クイズ関係者のなかではタレントを勝たせたいという番組によるヤラセ疑惑が浮上したのである。

そんななか三島玲央(みしまれお)は冷静にその番組を見返してヤラセ以外の説明ができないか分析していく。その過程でクイズの実情が見えてくる。クイズでは、知識の量を競っているわけではなくクイズの強さを競っており、クイズに強い人はそのための技術や駆け引きを常に駆使しているのである。

正直感情移入できるような登場人物は一人もいない。ただクイズを扱った稀有な作品であり、新たな世界に目を向けてくれる点では一読の価値ありである。

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「THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法」ダニエル・コイル

★★★★☆ 4/5
優れたパフォーマンスを発揮するチームを作る方法をさまざまな実例とともに説明する。

昨今は心理的安全性などが多くの組織で語られるように、単純に優れた人間を集めただけでは組織は最高のパフォーマンスを発揮できないことはわかっているだろう。しかし、実際にそのような組織を作るのは簡単ではない。著者ダニエル・コイルは才能を育てることをテーマにした「The Talent Code」が印象的だったので、本書も組織作りに関しての新たな視点をもたらしてくれることを期待して手に取った。

本書は3つの章から成る。

  • 安全な環境をつくる
  • 弱さを共有する
  • 共通の目標を見る

一部の人間には「弱さを共有する」というのは新鮮かもしれないが、自分にとってはむしろこの言葉がこれまであまり語られてこなかったのが不思議なくらいである。本書ではチームのパフォーマンスは次の5つの要素の影響を受けるとしている。

  • 1.チームの全員が話、話す量もほぼ同じで、それぞれの1回の発言は短い
  • 2.メンバー間のアイコンタクトが盛んで、会話や伝え方にエネルギーが感じられる
  • 3.リーダーだけに話すのではなく、メンバー同士で直接コミュニケーションを取る
  • 4.メンバー間で個人的な雑談がある
  • 5.メンバーが定期的にチームを離れ、外の環境に触れ、戻ってきた時に新しい情報を他のメンバーと共有する

全体的に違和感ないが、それぞれ1回の発言の短さの重要性に触れている点が印象的である。つまり、中心人物が長々と演説をしているようではチームは育たないということだ。

最後の共通の目標を見るの章では、ジョンソン&ジョンソン、ピクサー、チャータースクールKIPPなどのさまざまなエピソードと共に、組織内で優先することを言葉として繰り返すことの重要性を伝えている。どんな組織でも使えそうな印象的な言葉がたくさんあったので、ここに挙げておきたい。

  • 問題を愛する
  • 門番ではなく使者になれ
  • 自分より賢い人を雇う
  • すべての人のアイデアを聞く

期待した通りいろいろな気づきを与えてくれる作品。会社だけでなく家庭でも今日から実践できることばかりである。一方で、リモートワークが普及する中で、これをオンラインで実現するにはどんな方法があるか、まだまだ試行錯誤が必要だと感じた。

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「THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す」アダム・グラント

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
考え直すこと、つまり既存の考えを見つめ直すことの重要性とその方法を語る。

著者アダム・グラントは「GIVE & TAKE」が有名な著者である。いつも刺激的な視点をもたらしてくれるので本書も同様に新たな考えを風をもたらしてくれることを期待して手に取った。

本書では、知的柔軟性の重要性をテーマに、新たな考えを受け入れること、周りの人に再考を促す方法、学び続ける組織を創る方法について順を追って説明している。

知的柔軟性を妨げているのは自分の予期するものを見る確証バイアスと、自分の見たいものを見る望ましさバイアスであり悪い流れと良い流れを過信サイクル再考サイクルとして次のように説明している

過信サイクル
自尊心→確信→確証バイアス&望ましさバイアス→是認
再考サイクル
謙虚さ→懐疑→好奇心→発見

また、学び始め直後に訪れる根拠のない自信をマウント・スチューピッドと表現しているのも面白い。全体的に改めて自分が過信サイクルに陥っていないで学び続けているかを考え直すきっかけとなった。

中盤の周りの人に再考を促す方法の話は、自分にとっては耳が痛い話ばかりである。

「完璧な論理」と「正確なデータ」だけでは人の心は動かない

解決策を言うべきではない、相手に寄り添わなければならない、など言われることは多々あるが実際にどうすればいいかがわからない人は多いのではないだろうか。悪い動機づけとして16項目挙げておりどれも興味深く、自分がやってしまった出来事にかぎらず、他者から受け取った行為も含めると身に覚えのあるものばかりである。

  • 当人のせいにしようとする
  • 説教する
  • 当人の意見を退ける
  • 恥入りさせる
  • 何をすべきか指示する
  • 支援しない
  • 当人の気持ちを気にかけない
  • 受動的攻撃
  • 愛情を示さない
  • 品位を傷つける
  • 当人の主張に耳を貸さない
  • 尊敬を示さない
  • 脅しの作戦をとる
  • 怒鳴る
  • 操作する
  • 小バカにする

本書の中には人に再考させるための多くの助言があるが、簡単な実践例としては、自分の考えを一才語らずに、相手の考えを語らせるということだろう。早速妻や子供相手に実践してみたいと思った。

そして、最後の学び続ける組織を創る方法では、心理的安全性について触れている。心理的安全性について「恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」など、昨今そこらじゅうで語られているので、良い復習の機会となった。

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「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」」吉田満梨/中村龍太

★★★★☆ 4/5
優れた起業家が実践するとされる手法であるエフェクチュエーションについて語る。

変化の早い現代において、不確実性への対処が必須となっており、世の中の多くの人や組織やそんな不確実性への対処に頭を悩ませている。その手法として一般的なのが、目的の定義と市場の分析から入る手法である。本書ではそのような手法をコーゼーションと呼んでおり、もう一つの選択肢としてエフェクチュエーションを提案するとともに説明していく。

エフェクチュエーションとは簡単に説明すると、自分の持っている資源を活用して小さく始めていく、ということである。本書では5つの原則として、つぎの項目を挙げ、続く章でそれぞれの詳細について説明している。

  • 手中の鳥の原則 「目的主導」ではなく、既存の「手段主導」で何か新しいものを作る
  • 許容可能な損失 機体利益の最大化ではなk、損失(マイナス面)が許容可能化に基づいてコミットする
  • レモネードの原則 予期せぬ事態を避けるのではなく、むしろ偶然をテコとして活用する
  • クレイジーキルトの原則 コミットする意思を持つ全ての関与者と交渉し、パートナーシップを築く
  • 飛行機のパイロットの原則 コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる

小さく始めるという点においてはリーンスタートアップなどにも共通しているが、目的や理想に縛られることなく、動きやすい範囲で動いていくというのは、かなり取り組みやすい現実的なアプローチに感じた。注意すべきはコーゼーションのアプローチを否定しているわけではなく、重要なのは使い分けや二つのバランスであるということである。

コーゼーション方向に寄りすぎている考え方の人にとっては大きな気づきとなるだろう。

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「Ank:a mirroring ape」佐藤究

★★★★☆ 4/5
京都で暴動が発生したは霊長類研究に起因するものだった。霊長類研究者の鈴木望(すずきのぞむ)が暴動を止めるために奔走する様子を描く。

物語は京都で発生した暴動と、そこに至るまでの京都の霊長類研究所の周辺で起こった出来事や関係者の間でのやりとりなどを交互に行き来しながら展開していく。

鍵となるのが類人猿だけが身につけた自己鏡像認識という能力である。鈴木望(すずきのぞむ)は自己鏡像認識が人類の言葉の発展の鍵と捉え、霊長類研究に情熱を注ぐのである。そんななか研究のためにアフリカから傷ついたチンパンジーを輸送したことから不測の事態へとつながっていく。

やがて不幸な出来事の連鎖により人間同士の暴動へとつながっていく。集団感染を世間が警戒する一方、現場近くにいた鈴木望(すずきのぞむ)は集団感染ではないとしながらも証拠なしに動かない国家のために自ら原因を特定しようとするのである。

正直物語のスピード感はそれほどではないが、どこまでが本書に限ったフィクションなのかがわからなくなるほど霊長類や人類の進化に関する科学的な視点を多くもたらしてくれる。そもそもApeとMonkeyの違いを知らなかった。Monkeyは猿だが、Apeの日本語訳は類人猿なのであり、映画「猿の惑星」は翻訳の都合から猿になっただけで、英語タイトルはThe Planet of Apesで、猿ではなく類人猿とするのが正しいのだという。

久しぶりの理系小説である。「パラサイト・イヴ」のような物語と同時に科学の世界に引き込まれるような楽しさを味わせてもらった。理系読者は存分に楽しめるのではないだろうか。

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