「人魚が逃げた」青山美智子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
銀座に逃げた人魚を探している王子がいるらしい。そんな噂が流れる銀座で、人間関係に悩む6人の男女を描く。

青山美智子作品も何冊か読むと、その共通したテーマと、スタイルに気づくことだろう。いつでも今ある日常の人間関係の大事さを伝えようと、さまざまな立場の人間の目を通して伝えてくるのである。今回もそういう意味ではその哲学は変わらない。人魚姫という素材を盛り込みながら、うまくいかない人間関係をさまざまな視点で描いていく。

印象的だったのは19歳の友治(ともはる)と31歳の理世(りよ)の12歳の年齢差のカップルの物語である。第一章が友治(ともはる)目線と第五章がの理世(りよ)目線となっており、友治(ともはる)目線の物語からは、豪華なマンションで生活する理世(りよ)に劣等感を抱きながらも背伸びする男性の様子が描かれる。

また理世(りよ)目線の物語では、若い男性に自分はふさわしくないかも、と怯えながらも強がって大人の女性を演じる様子が描かれる。結局のところ両思いにもかかわらず、不安を募らせる両者が、読者として第三者目線でみると、なんとももどかしい。

60歳を過ぎて離婚した男性を扱って第3章も面白かった。勢いではなく、冷静に離婚を決断した妻の言葉は世の男性すべてが心に留めておくべきだろう。

私が本当に、ああもうだめなんだなって悟ったのは、あなたが積み立て預金に手をつけたこと自体よりも、罪悪感もなく逆ギレされたことよ。人と人を繋ぐのは結局、愛とか恋より、信頼と敬意なのよ。

どの物語からも、正直な思いを言葉にして伝えることが、どれほど重要か、そしてそれを怠ることでどれほど無駄なすれ違いを生むのかが伝わってくる。

「でも、私は彼にふさわしい人間だなんて思えない。」
「彼はきっとこう言うわ。それは僕が決めることなのに、って」

恋愛に躊躇しているすべての人に伝えたい言葉である。

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「ユーモアは最強の武器である」ジェニファー・アーカー/ナオミ・バグドナス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ユーモアの重要性とさまざまな実験の結果や事例とともに説明する。

序盤はユーモアの有効性、特にビジネスシーンにおける必要性を語りながら、人々がユーモアを発揮にくくさせている4つの思い込みについて触れている。

  • 1.ビジネスは真面目であるべきという思い込み
  • 2.うけないという思い込み
  • 3.面白くなくちゃいけないという思い込み
  • 4.生まれつきの才能という思い込み

面白いのは、ユーモアを試みるだけでも、つまりつまらないユーモアだったとしても職場の雰囲気は大きく変わるということである。

中盤ではさまざまな有名企業でのユーモアの事例を挙げている。本書ではグーグルやピクサーの例を紹介しており、リーダーや会社のトップがどのようにユーモアを使い、社員のユーモアにどのように反応するかが、組織におけるユーモアの文化を決めていくのだということがわかる。

特に印象的だったのが、立場において使えるユーモアが変化するという考えである。立場が低い人は、自虐ネタよりも上司をいじるユーモアが有効な一方、上司は自虐ネタの方が安全なのである。言われてみれば納得であるが、ユーモアを効果的に使えるように気をつけたいと思った。

さっそく、生活の中で使うユーモアの量を少しずつ増やしていきたいと思った。

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「マインクラフト 革命的ゲームの真実」ダニエル・ゴールドベリ/リーナス・ラーション

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現在では子供から大人まで多くの人に愛されているゲーム、マインクラフトをつくったマルクス・パーションの生活とマインクラフト立ち上げまでをの様子を語る。

マインクラフトというゲーム自体は名前は聞いたことあるものの実際にプレイしたことはなかった。以前プレイしたバーチャルワールドであるセカンドライフのようなものという印象を何となく持っていた。子供が幼稚園生になって園児のなかにもマインクラフトを日常的にプレイしている子が多々いるということで、改めてマインクラフトについて知りたくなった。

本書を読むとマインクラフトというゲームが、ただ単に開発者であるマルクスの試行錯誤だけでなく、さまざまな過去のゲーム開発者たちの考え方を結集してたどり着いた結果であることがわかる。漫画であればスラムダンクが大きくその後の漫画を変えたように、電話であればiPhoneが革命を起こしたように、マインクラフトもゲーム史の大きな革命を起こしたのだと感じる。

また、本書からはマルクスがお金儲けよりも自分の地位よりも、ただ純粋にゲームをプレイすることやゲームを作ることを楽しんでいる様子が伝わってくる。「Tomorrow and Tomorrow and Tomorrow」でも感じたことだが、本書のマルクスのように、ゲームが生活の一部になっている人たちの話に触れると、ゲームをプレイしない自分は人生をかなり損しているのではないかと感じてしまう。映画や漫画や小説と同じように、きっとゲームも楽しいことだろう。さっそくマインクラフトをインストールして触ってみたいと思った。

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「じんかん」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第11回山田風太郎賞受賞作品。織田信長(おだのぶなが)に謀反を企てている松永秀久(まつながひでひさ)の過去について、信長(のぶなが)は家臣の又九郎(またくろう)語り始める。そこから見えてくるのは平和な世の中を目指した信念を持った生き方だった。

本書は信長(のぶなが)が謀反に対応する様子と、その信長自身が松永秀久(まつながひでひさ)について知っていることを語る内容、つまり過去の九兵衛(くへい)の成り上がっていく様子を交互に描く。

過去の九兵衛(くへい)の描写からは、不幸な少年期のなかで仲間を失い、やがて三好元長(みよしもとなが)の描く理想の世界に共感して、それを実現することを目的として生きていく様子を描く。それは、武士を消し去り、民の支配する世の中を作るというものであった。

中盤以降は元長(もとなが)と九兵衛(くへい)の思い通りことが運ばない様子が描かれる。

戦国時代の歴史を知ると、なぜこんなにも長く、多くの死傷者を生む戦いを繰り返していたのだろう。と不思議に思うだろう。同じように現代でも、独裁政権が倒れたら平和が訪れると思っていた国が、結局同じような紛争を繰り返すのを不思議に思うだろう。結局大部分の人間は、嫉妬、欲望、疑心暗鬼からは逃れられないのである。本書はまさにそんな人間(じんかん)の本質示してくれる。

長年敵対していた高国(こうこく)が九兵衛の問いに答える場面はまさに人間の本質を捉えている。

お主は武士が天下を乱していると、民を苦しめていると思っているのではないか?…民は支配されることを望んでいるのだ…日々の暮らしが楽になるのは望んでいる。しかし、そのために自らが動くのを極めて厭う。それが民というものだ。

やがて年齢を重ねながら、多くの仲間を失いながら、思いをなかなか達成することができずに、九兵衛も少しずつ悟ることとなる。

本当のところ、理想を追い求めようとする者など、この人間(じんかん)には一厘しかおらぬ。残りの九割九部九厘は、ただ変革を恐れて大きな流れに身をゆだねるだけではないか

現代の政治家と重なって見える。結局いつの時代も人は同じことを繰り返しているのである。自分の生活が脅かされれば反抗したり文句を言うが、本書の言葉を借りるならば、九割九分九厘の人間はは自らの責任で世の中を改善しようとしないのである。

自分は世の中を良くするために行動できる残りの一厘の人間だろうか、それとも不平を言いつつ動こうとしない残りの九割九分九厘の人間だろうか。そんなことを考えさせられる一冊である。

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「幸村を討て」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
豊臣家の最後の生き残りをかけた大坂の陣、徳川軍と豊臣軍参加した武将たちはそれぞれの思惑を持ちながら参加する。そんななか鍵となるが幸村を筆頭とする真田家であった。

それぞれの武将の目から大坂の陣を語る。織田家、豊臣家、徳川家、によって少しずつ戦の機会が減り、戦国の世の中が終わりに近づく中で、自らの名を上げる機会を求める者、家の名を歴史に刻もうと努める者、自らの信念を貫く者、いまだに天下をとる夢を捨てられない者など、さまざまな思惑をもった武将たちが大坂での最後の決戦に臨む。

これまで触れてきた今村翔吾作品とは少し趣が異なる作品。それぞれの武将たちが自分の目的のために、さまざまな手段を駆使して情報を集め、さまざまな駆け引きをする様子は、「デスノート」や「ライアーゲーム」のような緊張感を感じさせる。

同時に、400年以上前の人々を想像力豊かに、深く描くその人物描写の力量に驚かされる。戦国時代の武将たち一人一人も、現代を生きる人間たちを同じように、自らの信念や世間体や子供たちの未来を考えて生きる生身の人間であったことを思い知らせてくれる。歴史的事実に分厚い人物描写を組み合わせて、これまで体験したことのない見事な歴史小説に仕上がっている。歴史小説嫌いな人も一読の価値ありである。

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「深追い」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
三ツ鐘警察署でおこった事件を扱った7つの物語。

最近横山秀夫作品のすごさを改めて感じている。一冊に5つ以上の物語が入った短編集の、それぞれの数十ページの物語にでさえ、登場人物の分厚い人生を感じる。今までは長編しか読もうとしなかったのだが、短編集も全部読みたいと思い、本作もその流れの中でたどり着いた。

警察の物語というと、凶悪な連続殺人事件や誘拐事件などをイメージする人が多いだろう。しかし、短編集の本書が扱っているのは、実際に起こったとしても地方の新聞にも載らないような小さな事件ばかりである。ただ、それは小さな事件ではあるが、当事者や家族にとってはその人生に影響を与えるような大きな出来事なのである。

本書ではまさにそんな、事件に影響を受けた人々の苦悩を描いており、その横山秀夫の描写力から、どんな人間も物語の主人公になりうるのだということが伝わってくる。

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「コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた」細田高広

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コンセプトとは何か、コンセプトの必要性、そしてコンセプトの作り方を語る。

昨今、コンセプトの重要性が語られることが多くなってきた。大きなビジネスから小さなプロジェクトまで、明確なコンセプトを持っていることは、ブレなく進めるための必須条件と言ってもいいだろう。僕自身デザイナーとして、デザインコンセプトをクライアントと一緒につくることが多いので、さらにその精度を上げたいと考え、本書にたどり着いた。

重要なことはすべて前半に詰まっており、なかでも機能するコンセプトの条件、コンセプトと似て非なるもの、はいつでも取り出せるようにしたいと思った。

機能するコンセプトの条件
・「顧客目線」で書けているか
・「ならでは」の発想あるか
・「スケール」は見込めるか
・「シンプル」な言葉になっているか
コンセプトと似て非なるもの
・コンセプトはキャッチコピーではない
・コンセプトはアイデアではない
・コンセプトはテーマではない

面白いのは、コンセプトを作る過程でインサイト型ストーリー、ビジョン型ストーリーという二つのストーリーづくりを取り入れている点である。インサイト型ストーリーは次の4つのCでコンセプトを語る物語を作ることである。

  • Customer インサイト
  • Competitor 競合
  • Company 自社だけのベネフィット
  • Concept 新しい意味

具体的には次のようになるという。

  • 1 昔々あるところに、xxで困っている生活者がいました。
  • 2 しかし、世界中の誰も助けることができません。
  • 3 そこで、◯◯は自らの特殊な力を使って手を差し伸べました。
  • 4 つまり、□□という解決策によってユーザーは救われたのです。

コンセプトは非現実的になりかねないので、競合、消費者を交えた文章にするこの手法は取り入れたいと思った。ビジョン型ストーリーの冒頭では混乱しがちなミッションとビジョンを定義している。

  • MISSIONとは 組織が担い続ける社会的使命
  • VISIONとは 組織が目指すべき理想の未来

もう一つのわかりやすい説明として、それぞれ、創業、現在、未来と時間軸を用いて次のようにも説明している。

  • MISSION なんのために生まれたか?(創業)
  • CONCEPT いま、なにをつくるのか?(現在)
  • VISION なにを目指すのか(未来)

以降は良いコンセプトの作り方をさまざまな手法とともに説明している。どれも読んだだけだとわかった気になってしまうので、早速自分が関わる組織や活動に対して実践してみたい。

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「臨場」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
殺人事件が疑われる場所へ臨場する検視官のなかでも、多くの警察関係者から一目置かれ「終身検視官」と呼ばれる倉石義男(くらいしよしお)が、その洞察力で事件の真相を見抜いていく。

本書は8編の短編から構成されているが、共通しているのは死亡事件が発生し、検視官の倉石(くらいし)が真相の解明に重要な役割を担うことだろう。

8編の短編集というと一冊の本としては物語の数がやや多い。物語の数が多ければそれぞれの内容が薄くなりそうな気もするが、横山秀夫の手にかかるとページ数など関係ないことがわかる。少ないページ数に登場する、被害者、捜査官、新聞記者、いずれもそれぞれの人生がしっかり描かれることに驚かされる。

元々「クライマーズ・ハイ」や「ルパンの消息」「ノースライト」「64」など著者の作品には好きな作品が多いが、改めて、有名ではない作品も含めて横山秀夫作品は全部読まないとならないと感じた。

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「Chatter 頭の中のひとりごとをコントロールし、最良の行動を導くための26の方法」イーサン・クロス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
内省という素晴らしい行動を呪いに変えてしまうチャッターを、良い方向に導く方法について語る。

本書では「循環するネガティブな思考と感情」をチャッターと呼び、その特徴や制御するための方法を語っている。昨今、人間の幸せは、持っている物の量やお金の量よりもむしろその人のマインドセットに依存する、というのはよく聞く話である。しかし、ではどんなマインドセットを持てばいいのかどのようにしてそのマインドセットを育てればいいのか、という点においてはなかなか明確な指針がない。本書はそんなニーズに応えた構成となっている。

基本的な解決策は、自分から距離を置いて状況を客観的に見ること、であり、その手法についてさまざまな説明や関連する話と合わせて説明している。

僕自身は比較的客観的に自分を見つめることが得意な人間だと自負しているが、本書によるとそれは必ずしもそれはいいことばかりでないらしい。特に嬉しい時などは自分を客観視している人間は、自分に埋没している人ほど素直に喜べないのだと言う。

ラファエル・ナダルが試合中に重視するさまざまな儀式の重要性など、関連する物語も面白かった。末尾にチャッターを制御するための26の方法が掲載されているので、チャッターに振り回されそうになった時のために覚えておきたい。

自分だけで実践できるツール
1.距離を置いた自己対話を活用しよう。
2.友人に助言していると想像しよう。
3.視野を広げよう。
4.経験を試練としてとらえ直そう。
5.チャッターによる身体反応を解釈し直そう。
6.経験を一般化しよう。
7.心のタイムトラベルをしよう。
8.視点を変えよう
9.思ったままを書いてみよう。
10.中立的第三者の視点を取り入れよう
11.お守りを握りしめる、あるいは迷信を信じよう。
12.儀式を行なおう。
チャッターに関する支援を与えるためのツール
1.感情・認知面のニーズに応えよう。
2.目に見えない形で支援しよう。
3.子供にはスーパーヒーローになりきってみようと言おう。
4.愛を込めて(敬意も忘れずに)触れよう。
5.他の誰かのプラセボになろう。
チャッターに関する支援を受けるためのツール
1.顧問団をつくろう。
2.体の触れ合いを自分から求めよう。
3.愛する人の写真を眺めよう。
4.儀式を誰かと一緒に行おう。
5.ソーシャルメディアの受動的使用を最小限にしよう。
6.ソーシャルメディアを利用して支援を得よう。
環境に関わるツール
1.環境に秩序を作り出そう。
2.緑地をもっと活用しよう。
3.畏怖を誘う経験を求めよう。

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「君のクイズ」小川哲

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
早押しクイズ大会の決勝戦で不可解な解答によって破れたは、クイズ関係者から上がるヤラセ疑惑を解明しようとする。

本書はクイズに人生を賭ける三島玲央(みしまれお)が、タレントである本庄絆(ほんじょうきずな)に早押しクイズ大会の決勝戦で敗れることから始まる。最後の問題は、問題文が読まれる前に本庄絆(ほんじょうきずな)がボタンを押して正解をしたことから、クイズ関係者のなかではタレントを勝たせたいという番組によるヤラセ疑惑が浮上したのである。

そんななか三島玲央(みしまれお)は冷静にその番組を見返してヤラセ以外の説明ができないか分析していく。その過程でクイズの実情が見えてくる。クイズでは、知識の量を競っているわけではなくクイズの強さを競っており、クイズに強い人はそのための技術や駆け引きを常に駆使しているのである。

正直感情移入できるような登場人物は一人もいない。ただクイズを扱った稀有な作品であり、新たな世界に目を向けてくれる点では一読の価値ありである。

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「THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法」ダニエル・コイル

★★★★☆ 4/5
優れたパフォーマンスを発揮するチームを作る方法をさまざまな実例とともに説明する。

昨今は心理的安全性などが多くの組織で語られるように、単純に優れた人間を集めただけでは組織は最高のパフォーマンスを発揮できないことはわかっているだろう。しかし、実際にそのような組織を作るのは簡単ではない。著者ダニエル・コイルは才能を育てることをテーマにした「The Talent Code」が印象的だったので、本書も組織作りに関しての新たな視点をもたらしてくれることを期待して手に取った。

本書は3つの章から成る。

  • 安全な環境をつくる
  • 弱さを共有する
  • 共通の目標を見る

一部の人間には「弱さを共有する」というのは新鮮かもしれないが、自分にとってはむしろこの言葉がこれまであまり語られてこなかったのが不思議なくらいである。本書ではチームのパフォーマンスは次の5つの要素の影響を受けるとしている。

  • 1.チームの全員が話、話す量もほぼ同じで、それぞれの1回の発言は短い
  • 2.メンバー間のアイコンタクトが盛んで、会話や伝え方にエネルギーが感じられる
  • 3.リーダーだけに話すのではなく、メンバー同士で直接コミュニケーションを取る
  • 4.メンバー間で個人的な雑談がある
  • 5.メンバーが定期的にチームを離れ、外の環境に触れ、戻ってきた時に新しい情報を他のメンバーと共有する

全体的に違和感ないが、それぞれ1回の発言の短さの重要性に触れている点が印象的である。つまり、中心人物が長々と演説をしているようではチームは育たないということだ。

最後の共通の目標を見るの章では、ジョンソン&ジョンソン、ピクサー、チャータースクールKIPPなどのさまざまなエピソードと共に、組織内で優先することを言葉として繰り返すことの重要性を伝えている。どんな組織でも使えそうな印象的な言葉がたくさんあったので、ここに挙げておきたい。

  • 問題を愛する
  • 門番ではなく使者になれ
  • 自分より賢い人を雇う
  • すべての人のアイデアを聞く

期待した通りいろいろな気づきを与えてくれる作品。会社だけでなく家庭でも今日から実践できることばかりである。一方で、リモートワークが普及する中で、これをオンラインで実現するにはどんな方法があるか、まだまだ試行錯誤が必要だと感じた。

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「THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す」アダム・グラント

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
考え直すこと、つまり既存の考えを見つめ直すことの重要性とその方法を語る。

著者アダム・グラントは「GIVE & TAKE」が有名な著者である。いつも刺激的な視点をもたらしてくれるので本書も同様に新たな考えを風をもたらしてくれることを期待して手に取った。

本書では、知的柔軟性の重要性をテーマに、新たな考えを受け入れること、周りの人に再考を促す方法、学び続ける組織を創る方法について順を追って説明している。

知的柔軟性を妨げているのは自分の予期するものを見る確証バイアスと、自分の見たいものを見る望ましさバイアスであり悪い流れと良い流れを過信サイクル再考サイクルとして次のように説明している

過信サイクル
自尊心→確信→確証バイアス&望ましさバイアス→是認
再考サイクル
謙虚さ→懐疑→好奇心→発見

また、学び始め直後に訪れる根拠のない自信をマウント・スチューピッドと表現しているのも面白い。全体的に改めて自分が過信サイクルに陥っていないで学び続けているかを考え直すきっかけとなった。

中盤の周りの人に再考を促す方法の話は、自分にとっては耳が痛い話ばかりである。

「完璧な論理」と「正確なデータ」だけでは人の心は動かない

解決策を言うべきではない、相手に寄り添わなければならない、など言われることは多々あるが実際にどうすればいいかがわからない人は多いのではないだろうか。悪い動機づけとして16項目挙げておりどれも興味深く、自分がやってしまった出来事にかぎらず、他者から受け取った行為も含めると身に覚えのあるものばかりである。

  • 当人のせいにしようとする
  • 説教する
  • 当人の意見を退ける
  • 恥入りさせる
  • 何をすべきか指示する
  • 支援しない
  • 当人の気持ちを気にかけない
  • 受動的攻撃
  • 愛情を示さない
  • 品位を傷つける
  • 当人の主張に耳を貸さない
  • 尊敬を示さない
  • 脅しの作戦をとる
  • 怒鳴る
  • 操作する
  • 小バカにする

本書の中には人に再考させるための多くの助言があるが、簡単な実践例としては、自分の考えを一才語らずに、相手の考えを語らせるということだろう。早速妻や子供相手に実践してみたいと思った。

そして、最後の学び続ける組織を創る方法では、心理的安全性について触れている。心理的安全性について「恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」など、昨今そこらじゅうで語られているので、良い復習の機会となった。

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「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」」吉田満梨/中村龍太

★★★★☆ 4/5
優れた起業家が実践するとされる手法であるエフェクチュエーションについて語る。

変化の早い現代において、不確実性への対処が必須となっており、世の中の多くの人や組織やそんな不確実性への対処に頭を悩ませている。その手法として一般的なのが、目的の定義と市場の分析から入る手法である。本書ではそのような手法をコーゼーションと呼んでおり、もう一つの選択肢としてエフェクチュエーションを提案するとともに説明していく。

エフェクチュエーションとは簡単に説明すると、自分の持っている資源を活用して小さく始めていく、ということである。本書では5つの原則として、つぎの項目を挙げ、続く章でそれぞれの詳細について説明している。

  • 手中の鳥の原則 「目的主導」ではなく、既存の「手段主導」で何か新しいものを作る
  • 許容可能な損失 機体利益の最大化ではなk、損失(マイナス面)が許容可能化に基づいてコミットする
  • レモネードの原則 予期せぬ事態を避けるのではなく、むしろ偶然をテコとして活用する
  • クレイジーキルトの原則 コミットする意思を持つ全ての関与者と交渉し、パートナーシップを築く
  • 飛行機のパイロットの原則 コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる

小さく始めるという点においてはリーンスタートアップなどにも共通しているが、目的や理想に縛られることなく、動きやすい範囲で動いていくというのは、かなり取り組みやすい現実的なアプローチに感じた。注意すべきはコーゼーションのアプローチを否定しているわけではなく、重要なのは使い分けや二つのバランスであるということである。

コーゼーション方向に寄りすぎている考え方の人にとっては大きな気づきとなるだろう。

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「Ank:a mirroring ape」佐藤究

★★★★☆ 4/5
京都で暴動が発生したは霊長類研究に起因するものだった。霊長類研究者の鈴木望(すずきのぞむ)が暴動を止めるために奔走する様子を描く。

物語は京都で発生した暴動と、そこに至るまでの京都の霊長類研究所の周辺で起こった出来事や関係者の間でのやりとりなどを交互に行き来しながら展開していく。

鍵となるのが類人猿だけが身につけた自己鏡像認識という能力である。鈴木望(すずきのぞむ)は自己鏡像認識が人類の言葉の発展の鍵と捉え、霊長類研究に情熱を注ぐのである。そんななか研究のためにアフリカから傷ついたチンパンジーを輸送したことから不測の事態へとつながっていく。

やがて不幸な出来事の連鎖により人間同士の暴動へとつながっていく。集団感染を世間が警戒する一方、現場近くにいた鈴木望(すずきのぞむ)は集団感染ではないとしながらも証拠なしに動かない国家のために自ら原因を特定しようとするのである。

正直物語のスピード感はそれほどではないが、どこまでが本書に限ったフィクションなのかがわからなくなるほど霊長類や人類の進化に関する科学的な視点を多くもたらしてくれる。そもそもApeとMonkeyの違いを知らなかった。Monkeyは猿だが、Apeの日本語訳は類人猿なのであり、映画「猿の惑星」は翻訳の都合から猿になっただけで、英語タイトルはThe Planet of Apesで、猿ではなく類人猿とするのが正しいのだという。

久しぶりの理系小説である。「パラサイト・イヴ」のような物語と同時に科学の世界に引き込まれるような楽しさを味わせてもらった。理系読者は存分に楽しめるのではないだろうか。

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「球界消滅」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本のプロ野球が4球団に縮小され、アメリカのメジャーリーグとの統一リーグとなることとなった。プロ野球の関係者たちはプロ野球の未来と自分の立場を憂いながらも大きな変化に適応しようとする。

選手、ファン、監督などさまざまなプロ野球関係者の視点から、日本のプロ野球とメジャーリーグ(以下MLB)の統合の動きを追っていく。もっとも興味深いのは大野俊太郎(おおのしゅんたろう)という20代の青年だろう。彼はファンタジーベースボールという実際のプロ野球のデータをもとに競うゲームで優勝者となったことから日本の球団の副GMという仕事にたどり着いたのである。「マネーボール」のような緻密な分析を日本のプロ野球に取り込んだことでチームの成績を上げたにも関わらず、プロ野球とMLB統合という大きな波に飲まれていくのである。

日本のプロ野球とMLBとの統合という考えは、サッカー界が国をまたいだ大会によって大きな成功を収めていることを考えると、現在の閉鎖的なプロ野球でありかつ人口減少が止まらない日本における解決策としては興味深い。しかし、細かいルールの違い、チームが抱える選手数の違い、移動距離の問題、など、実際に実現しようとなると克服しなければならないさまざまな障害があるのである。本書はそれぞれの登場人物の物語とともにさまざまな問題を取り上げていく。

物語として面白いかどうかは別として、プロ野球にかぎらずスポーツビジネスに興味がある人は楽しめるだろう。個人的に興味を持ったのが、アメリカで最も人気のあるスポーツアメリカンフットボールのビジネスモデルである。年間1チーム20試合に満たない試合数でこれほど成功するスポーツの秘訣は一体なんなのか、今年のシーズンは興味を持って見てみたいと思った。

面白く描いたスポーツのビジネス書として捉えるとちょうどいいかもしれない。

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「Aではない君と」薬丸岳

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第37回(2016年)吉川英治文学新人賞受賞作品。建設会社で働く吉永圭一(よしながけいいち)は14歳の息子の翼(つばさ)が、同級生の殺害の容疑で逮捕されたことを知る。

物語は離婚して、息子が大きくなるとともに少しずつ疎遠になっていった息子が、同級生の殺害の容疑で逮捕されたことで、息子との絆を取り戻そうとする父親吉永圭一(よしながけいいち)の様子を中心に描く。

息子は本当に同級生を殺害したのか、そこにはどんな理由があったのか、離婚して以来、家族と疎遠になっていたからこそ息子を心の底から信じきれない吉永(よしなが)の言動が痛々しい。

また、中盤以降翼(つばさ)は少しずつ真実を口にしはじめる。加害者だけでなく、殺害された少年の父親すら真実を封印したくなる出来事が明らかになっていく。

心を殺すのは許されるのにどうしてからだを殺しちゃいけないの?

少年犯罪を扱った作品はこれまでにも何度か出会ったが、本書はより親として立場に焦点をあてている。一人の親として改めて、子供たちの窮地にどのように行動すべきか、正解のない問いを突きつけられた。

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「八本目の槍」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
16世紀後半、徳川家康が勢力を増すなか、賤ヶ岳の七本槍とよばれた豊臣家に仕える七人の武将が過去の思い出や現在の思いを語る。

賤ヶ岳の七本槍とよばれた武将たちは、羽柴秀吉が少しずつ大名として地位を向上させる過程で家臣を増やす必要があり、そこに集ってきた似た境遇の若者たちである。賤ヶ岳の戦いで7人は一気に名を広めたが、それ以降は順当に地位を上げていくものもいれば、逆に期待された活躍をできなかったものもいる。そんな少しずつ異なる道をいく7人が、豊臣家と7人の仲間であった佐吉(さきち)つまりのちの石田三成について語る、という形で物語が進む。

「八本目の槍」今村翔吾

7人はいずれも、立派な人間になることを目指して豊臣家に仕えることを選んだが、学問に秀でているものもいれば武芸に自信を持つものもいる。いずれの人生にも、佐吉(さきち)の存在が多少なりとも影響を与えており、それぞれの語る言葉からは佐吉(さきち)が、どれほど仲間を想い、どれほど先の未来を見据えていたかが伝わってくる。

最終的に佐吉(さきち)視点で物語が語られることはないが、物語全体から佐吉(さきち)、つまり石田三成に対する憧憬の念が伝わってくる。

僕ら現代の人間が遠い過去の物語に触れる時、どうしても当時の人々を若干下に見がちである。それは現代では当然のこととして知っている技術や自然現象を、当時の人々は知らなかった、など知識や情報不足によるところが大きい。しかし、本書を読むと、いつの時代にも人は、家族や未来を憂い、自分の技術や地位を周囲の人と比べ悩んだりしながら生きているのだと感じた。

今年読んだ中で最高の作品であるし、これまで読んだ江戸時代以前を舞台にした物語の中でももっとも深みを感じた作品。

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「ちょっとピアノ 本気でピアノ 〜ブログでおなじみ、川上昌裕のレベルアップピアノ術〜」川上昌裕

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ピアノとの付き合い方をさまざまな視点から語る。

僕の場合は必ずしもピアノではなく電子ピアノやキーボードなのだが、ただただ音符を追って好きな曲を弾いているだけだと、いつまで経っても深みを感じられないと思い、新たな視点を得たく本書に辿り着いた。

本書は著者がブログに書いている内容をカテゴリごとにまとめて書籍化したものである。そのため体系的に順番に書かれているわけではなく、その場で思いついたことを羅列している感じではあるが、僕のように特定の目的もなくピアノの上達に関しての刺激や気づきを探している人間にとってはぴったりである。

「ちょっとピアノ 本気でピアノ 〜ブログでおなじみ、川上昌裕のレベルアップピアノ術〜」川上昌裕

結果的にいくつかの気づきが得られた、難しい曲をスムーズに弾くためには、指の筋肉をつけたり、指の感覚を研ぎ澄ます必要があり、そのためにハノンなどの練習にも力を入れるべきと感じた。また美しい音色を出すためには的確なペダリングをマスターすることも必要で、どんな練習があるのか知りたいと思った。

印象的だったのが著者がピアノ演奏のアルバイトの面接での出来事である。それなりにピアノの技術に自信を持っていた著者が、即興演奏ができないこと、同じ志願者のピアニストの即興演奏に驚いたことなどの体験を語っている。その出来事からはジャズピアノとクラシックピアノの考え方の違いの大きさが伝わってくる。今のところなんとなくピアノを練習しているが、上達するとどんなピアノを引きたいかを考えなければいけない時期が来るのだろう。

期待通りの刺激を与えてくれた。ピアノの練習や上達や進路で悩んでいる人にはちょうどいいのではないだろうか。

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「この夏の星を見る」辻村深月

★★★★☆ 4/5
コロナ禍で思い通りにいかない学生生活を送る日本各地の中高生たちが、星を見ることで繋がっていく。

茨城、東京、長崎県の五島列島の中高生たちの様子を描く。それぞれがコロナ禍の影響によって、部活動の大会などが自粛を余儀なくされる。期待していた学生生活とは程遠い現実に戸惑いながらも、星を見る活動へと導かれていく。やがてそんな動きは、同じ思いを抱く学生同士を結びつけることとなるのだ。

「この夏の星を見る」辻村深月

著者の久しぶりの学園ものである。また、著者辻村深月の作品によく見られる人間関係の暗い部分はあまり描かれず、珍しいほど爽やかな青春物語という印象である。新鮮なのはコロナ禍の学生たちの様子を描いている点である。東北大震災も震災から数年経って各物語に震災を扱った物語が増えたが、コロナ禍もまざまな物語の題材として描かれる時期なのだろう。

序盤はコロナ禍で思い通りにいかない学生生活が、終盤には、コロナ禍だからこそ開けた世界、としてプラスに描いている点が素敵である。社会人としてコロナ禍を経験していると、比較的問題なくリモートワークに移行したので、対面が基本の学生生活にコロナ禍が影響を与えたのかなかなか想像し難いが、そこに一つの視点を与えてくれる。また、舞台となる登場する高校の一つが五島列島の高校である点も面白い。沖縄ほど注目されない離島ではあるが、いつか行ってみたいと感じた。

物語の学生たちの情熱に感化されて、望遠鏡で星を見たくなった。人工衛星を作って打ち上げたくなった。いろんな刺激をもたらしてくれた。

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「WHYから始めよ!」サイモン・シネック

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
WHYを中心としてWHAT、HOWと外に向かう図をゴールデンサークルと呼び、WHYの重要性を語る。

TEDトークで、WHYの重要性を語る、有名な著者サイモン・シネックのプレゼンテーションを見たことがあったので、そのコンセプト自体は理解しているつもりでいたが、初めて動画を見てから数年経ち、改めてその世界に触れたいと思って書籍を手に取った。

WHYの重要性をさまざまな角度から例を交えて解説している。興味深かったのはのイノベーションの普及を示した図として有名な鐘形曲線で説明している章である。図の右側にいるレイト・レイトマジョリティ(後期多数派)やラガード(出遅れ)は値段、つまりWHATしか気にしないために、この層をターゲットにすると企業として低価格競争に巻き込まれてしまうのだ。つまり図の左側の層の、イノベーター(導入者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリー・マジョリティ(初期多数派)や忠誠心を抱いてもらうことこそ成功への近道で、そのためにWHATではなくWHYを広めるべきだと語る。

いくつかの企業の例を交えて説明している。サウスウェスト航空、マイクロソフト、ウォルマート、アップル、どれも興味深い話ばかりである。面白いのはWHYは重要だがWHYだけでも組織は動かないとしている点である。例えばアップルは常に企業の成功物語で名前の上がる企業であるが、著者はWHY型のスティーブ・ジョブズと、WHAT型のスティーブ・ウォズニアックの組み合わさったことが成功の大きな要因だとしている。アップルの成功の話を「Quiet」では、外向型人間と内向型人間が組み合わさったことを成功の要因として語っていたので、いろんな見方があるのだと感じた。

全体的に、本書の内容には自分の経験からも思い当たるふしが多々ある。常々多くの企業がWHYを明確にしないことでブランディングに失敗していると感じるし、株主の圧力ゆえにか、売上至上主義のなかでABテストなどでデータを重視しすぎた結果、WHYを見失ったWHAT型になっていると感じる。

例えば、Photoshopなどのクリエイティブツールを生み出したAdobeは、すでに当初の創造力を広める哲学を見失い、現在は詐欺まがいの手法で短期的な売り上げを上げることしか考えていない。iPhone以降10年以上革新的な製品を生み出していないアップルもAdobeほど惨憺とした例ではないが、WHYを失いかけている企業と言えるだろう。

昨今安定した売り上げを目指してサブスクリプション型のサービスを提供する企業が多く見られるが、WHYに共感できない企業のサブスクリプションサービスを利用しても、最終的にお金をむしり取られるだけである。著者が言うように、企業が本当に相手にすべき相手は低価格につられて簡単に動く人間ではなく、WHYを重視している人なのである。

当たり前ではあるが、動画で見ただけではわからない深みとともに著者の言いたいことが理解できた気がする。多くの企業のマーケター、ブランドデザイナーの必読の本とであろう。

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