「Lead with a Story」Paul Smith

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人間は規則や心がけを伝えただけではすぐに忘れてしまう。しかし、よくできた物語は人の記憶にしっかり残り、聞いた人はまた別の人に語って聞かせることさえある。だから、本当に伝えたいことを伝えるために、そしてそれを組織の中に浸透させるためには物語として伝えることは非常にいい。

本書はそんな物語の伝え方を、ビジネスシーンで発生しそうな様々なシーンにあわせて紹介している。物語の作り方、語り方だけではなく、印象的な多くの物語に触れることができる。本書を読んだだけで最低でも10個は人に語り伝えられる物語を手に入れられるだろう。

個人的には

  • 陪審員のテーブルの話
  • 檻の中の猿の話
  • 震災中に自動販売機に並んだアメリカ人の話
  • ベネズエラの交差点で出会った少年の話
  • 近づくほど小さくなる巨人の話
  • 怪我をしながら完走したマラソンランナーの話

などが印象に残った。

後半では自分自身で物語を作り出す方法を書いている。本書の物語の受け売りだけでなく、オリジナルの物語を今後集めていきたいと思った。

「Design Leadership」Richard Banifield

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デザインのチームを機能させるための考え方を、多くの成功しているデザイン企業から紹介している。

この先、デザイナーとして組織に関わる中でチームを率いることが増えると考え、本書にたどり着いた。本書でで紹介されている多くの方法は、決して著者が「正しい」と考えていることではない。著者がインタビューした多くの企業のリーダーたちの声を紹介しているだけである。その人のこれまでの経験から発せられた意見に過ぎず、決してどんな企業にも当てはまることではないし、なかには相反する意見もふくまれている。それでも、日本のデザイン企業よりもはるかに多様な人材と多様な文化の入り混じったデザインチームを機能させているリーダーたちの声はどれも非常に参考になる。

そんななか最も印象的だったのが、働く場所へのリーダーたちのこだわりである。オフィスのある都市や、オフィスのレイアウトがチームの文化への影響の大きさをどのリーダーも強調するのである。その他にも、採用の際に悩みがちな、「技術で選ぶか、情熱で選ぶか」など発展段階にある組織が遭遇する困難の多くに触れている。

そんななかでも結局、リーダーの役目はこちらの言葉に集約されている気がする。 リーダーの仕事は、自分の意思を押し付けることではなく、創造性が発揮される場所をつくることだ。

また、リーダーとして組織を導く中で、困難に出会ったら読み返したいと思った。

「Molly’s Game」Molly Bloom

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ロサンゼルスでウェイトレスとして働き始めたMollyはやがて、Readonという男性に雑用として雇われる。Mollyを自身がReadonが主催しているポーカーを手伝うこととなり、Mollyは大富豪たちの世界へと足を踏み入れていく。
Molly’s Gameという同名の映画を見て、もっと詳しいことを知りたくなり本書を手に取った。ギャンブルのことはほとんど知識がなかったため、テキサスホールデムというルールや、コール、ベット、レイズ、フォールドの意味など、本書で書かれているギャンブル用語は知らないことばかりであった。そんななか驚いたのが、本書の中でも大きなターニングポイントとして描かれている、手数料の話である。州によって法律が異なるらしいが、手数料をとらなければ違法とはならないのだという。Mollyは実際、自身の主宰するポーカーでは手数料を一切とらず、参加者からのチップによって大きな利益を上げるのである。
やがてMollyはニューヨークへと場所を移し、さらに大きな利益を上げるのである。数年前には考えられないような豪華な生活と、誰もが羨むようなスターたちとともに過ごしながらも、虚しさを感じるMollyの葛藤が興味深い。その一方で、人生も含めて、大きなリスクをとることから離れられない、Mollyのお客となったギャンブル依存症のスターたちの生き方も面白い。
普通の生活をしているかぎり見ることのできない世界を、同じように数年前まで田舎者だったMollyの目線で見せてくれる。

「Lost Symbol」Dan Brown

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
偽りの電話によってワシントンに呼び出されたRobert Langdonはそこで、友人であるSolomonの切断された腕を見つける。犯人と名乗る Mal’akhの電話によると、Solomonを救うためにLangdonはMason’s Pyramidを見つけなければならないのだという。
話の流れは前作「The Da Vinci Code」と非常によく似ている。「The Da Vinci Code」をすでに読んだ読者にとっては、扱っている内容と、舞台が異なるだけで、物語のスピード感や展開にあまり新鮮さは感じられないだろう。物語を通じて明らかになるアメリカの首都ワシントンD.C.の謎に興味がある人にとっては、これ以上のエンターテイメントはないのではないだろうか。
個人的には、すでにDan Brownがてがけた続編として「Inferno」や「Origin」があるにもかかわらず、あまり物語としての大きな新鮮さは期待できないのではないかとの印象を受けた。続編を読むか読まないかは現時点ではなんとも言えないところである。

「A Dangerous Place」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Maisie Dobbsの第11弾。時代は1934年、時代はまさに第二次世界大戦へと突入しようとしている。それまで探偵業を営んでいたMaisieは前作で新しい生活を始める決意をし、本作品はそのあとの物語である。
まず驚かされるのは、前作までの間に時間的な隔たりがあり、Maisieの夫であるJamesが事故死している点であろう。友人や親の心配を感じながらも、その悲しみと向き合うためにジブラルタルに降り立ったMaisieはそこで暴行に襲われた写真家の死と遭遇するのである。失意の底にありながらも自らの存在意義を確認するかのようにMaisieはその真実を解明しようと動き出すのである。
亡くなった写真家の捜査をするなかで、ジブラルタルの多くの人と出会う。そしてそんななか少しずつMaisieは過去と向き合って夫を失った自分の今後の行き方を模索する。それでも戦況は悪化する一方で、やがてゲルニカ爆撃が起きるのである。
全体的には、登場人物など、過去の作品と繋がったエピソードが多く、本書だけで楽しむのは難しい印象を受けた。ここまでシリーズのすべてお読んでいる僕にとっても、すべてを理解したとは言えないだろう。本シリーズが残りどれほどあるのかわからないが、Maisieにとって前向きな終わり方をしてほしいと思った。

「A Steep Price」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Tracy Crosswhiteのシリーズ第6弾である。
前作までで、恋人のDanと結婚して妊娠したその後の物語であり、序盤は妊婦という立場でありながらも、仕事との間に揺れ動くTracyの心が描かれている。そんなTracyの心を見透かしたように、子育ての先輩であるパートナーのKinsが語る言葉が今回もっとも印象的だった。

あっという間に、予想よりもずっと早く、子供達を大学に送り出さなくなるし、さよならを言わなければならなくなる。そして自分自身に問いかけるさ。あの数年間はどこへ行ったのだろう、って。写真を見て、いつ子供達が幼かったかすら思い出せなくて・・・。まだ子供達が小さかったらよかったのにって思うさ。あの頃に戻れたら、子供達がまだ家にいたらいいのにって。だから、家にいることを罰だなんて思わないでくれ。そう思っているのなら、いつかきっと後悔するから。

前作がTracyと同じチームの所属するDelが活躍する物語であったが、今回はDelのパートナーであるFazが主役のような活躍をする。妻であるVeraが癌と診断されたことにより動揺しながらも、家で思い悩んで過ごさないように、仕事に集中しようとするFazであったが、パートナーのDelが腰を痛めたことによって、代わりに新人のAndreaとペアを組むこととなる。ところが、そのAndreaが聞き込みの最中に、容疑者を射殺してしまうという事件に発展していくのである。
一方でTracyは行方不明のインド人女性Kavitaの捜査に関わっていく。Kavitaの友人で、同じくインド人女性のAditiの証言からは、インドの文化における女性の地位の低さが、アメリカで過ごす2人を苦しめていることがわかる。
並行して進む2つの事件と、事件の解決を進めながらも私生活に悩むTracyとFazの2人の様子から、人生のおける多くを学ぶことができる。
こんどはぜひKinsを主人公にしてほしいと思った。

「Interviewing Users」Steve Portigal

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

ユーザーインタビューの方法について書いている。本書は

デザインにおけるインタビューの重要性
インタビューのフレームワーク
インタビューの準備
ただ質問するだけでなく
インタビューの段階
どのように質問するか
インタビューをまとめる
インタビューを最適化する
調査結果でインパクトを与える

の9章からなる。特に学びが多かったのが「How to Ask Questions」の章である。
まずは、沈黙の使い方について書いている。インタビュー中はどうしても沈黙を埋めたくなるが、沈黙を埋めたいというプレッシャーを感じるのはユーザーも同じこと。だからこそ、その沈黙をユーザーに破らせてこそ、貴重な情報が得られるのだという。
また、「相手を正さない」というのも非常にインタビューにおいてやってしまいがちな間違いである。相手の助けたいという高からきたとしても、インタビューが終わってから行うべきなのだという。
例えばユーザーが「こんな機能があったらいいのに」と、すでにある機能について言った時、プロダクトに常に関わっているインタビュアーとしては、「その機能は実はここにあります」と言いたくなるが、一度それをやってしまうと、ユーザーは「ではこんな機能ありますか?」「こうやるにはどうしたらいいんですか?」という流れになってしまい、本来ユーザーの状況を理解するためのインタビューが、出張サポートへと変わってしまうからだという。
結局、インタビュアーが教えるのではなく、ユーザーから彼らの状況や考え方を教わるのが、ユーザーインタビューの目的なのである。そのことを常に念頭においておかなければならないのだろう。
「How to Ask Questions」の章は、今後もインタビューのたびに読み直して、インタビューするメンバーがほかにもいるならぜひ共有したいと思った。

「UX Research: Practical Techniques for Designing Better Products」Brad Nunnally, David Farkas

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
UX調査について語る。
例えば、定量調査、定性調査について詳しく説明しているだけでなく、どんなときにその調査方法を用いてどんなときにもちいるべきでないのか、等を説明している。また、調査のやり方だけでなく、調査結果からどのように組織を動かしていくかなど、なかなか他のUX関連の書籍では扱っていない点に触れているのも新鮮である。また、たくさんの調査方法を紹介している。それぞれの手法については概要程度の記述しかなかったが、今まで知らなかったいくつかの方法を知ることができた。それぞれの方法については今後さらに深めていきたいと思った。
また、ところどころに実際にUXリサーチャーのインタビューを交えている点が面白い。海外では「UXリサーチャー」という職種がここまで普及していることに驚かされる。
後半では、リクルーティングや調査のファシリテートの仕方について書いている。ユーザーの表情や姿勢でその発言からは見えない心理を読み取る方法などについても描かれており、なかなか一度読んだだけで実現できそうもないが、UXについてたくさん勉強している人に取っても、新しい発見がたくさんあるのではないだろうか。非常に細かい部分にまで触れているため、組織によっては、ここまで調査に時間や人を避けないというところもあるかもしれないが、知識として持っておいたり、「ここにこの情報がある」と知っておくことはいつか役に立つことだろう。
調査の結果の報告のなかでWord Cloudsで表現している場面があり印象に残った。今まで使ったことのない方向9手法だったので、機会があれば使ってみたいと思った。これからUXリサーチをするなかで読み返したいと思えるほど内容の濃い1冊。

「Measure What Matters」John Doerr

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
グーグルやゲイツ財団がOKRを利用してどのように現在あるような偉業を成し遂げたのかを語る。
OKRの仕組みを理解するのは簡単だが、導入の過程では組織に合わせた多くの微調整が必要である。本書はGoogle, YouTube、Adobe,ピザチェーンなどいくつかの組織がOKRsの導入を試みてから、OKRsが組織のなかで機能するまでを描く。OKRの仕組みを理解しただけでは不十分な知識を補ってくれるだろう。
本書で新しいのはOKRsとは別にCFRsという考えを取り入れていることである。CFRsとはConversations, Feedback, Recognitionのことで、マネージャーとの会話、チームメイトの間における進捗の評価と発展の案内、および達成した成果に対する賞賛の重要性を示している。OKRsに関わる人々の間でのコミュニケーションを活性化し、そのメリットを最大限に活用するためにCFRsは役立つという。
今後OKRsの導入に実際に関わっていくなかで繰り返し読む必要があると感じた。

関連書籍
High Output Management by Dov Seidman
Lean In Sheryl by Sandberg

「Caraval」Stephanie Garber

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2018年本屋大賞翻訳小説部門。
ScarlettとDonatellaという姉妹の元に魔法の島、Caravalで行われるゲームへの招待状が届いた。結婚を目前に控えたScarlettとDoantellaは、迷いながらもCarabalへ向かうこととなる。
地元の権力者で2人の娘に厳しい父の教えを守って生きるScarlettと、外の世界に飛び出したい妹のDonatella、そんな対象的な2人を中心に物語は展開していく。
島にたどりついたScarlettを含む、ゲームの参加者すべてに課せられたのはScarlettの妹Donatellaを探すこと。そのためにScarlettは島まで案内してくれた船乗りの男性Julianと協力して行動することとなる。不思議な魔法を体験しながらScarlettはゲームに勝ち、妹のDonatellaを取り戻そうとする。
その過程で出会う多くの人々。Julianの本当の狙いは何なのか。2人に招待状を送ったCarabalの主Legendは善人なのか悪人なのか。Scarlettが少しずつ成長していく様子が面白い。
カテゴリとしてはファンタジーになるのだろうが、なかなか触れることない類の作品。好みの好き嫌いはあるだろうが、一読の価値ありである。

「Fifty Quick Ideas To Improve Your User Stories」Gojko Adzic, David Evans

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アジャイルにおける開発の速度は、ユーザーストーリーをどのように作り出すかによって大きく変わってくる。本書はそんなユーザーストーリーを効果的に作り出す50の方法を解説している。
それぞれの手法に対して「採用することによる主なメリット」と「どのように採用するか」を箇条書きにわかりやすくまとめていて非常に読みやすい。それぞれの手法は、組織の大きさや形態によって、適応できそうなものや難しそうなものもあるが、開発を効果的かつ効率的に発展させるための重要な考え方で溢れており、プロダクトオーナーやスクラムマスターだけでなく、開発にかかわる全ての人に役立つだろう。
個人的に印象的だったのがユーザーの行動を変えるフェーズとして頭文字をとったCREATEである。

Cue
Reaction
Evaluation
Ability
Timing

僕らがユーザーの行動を変えようとした時、上記のどの行動に変化をもたらそうとしてのかを明確にすると、より具体的な施策へとつながるだろう。
また、Storyの優先順位を決める上で指標となる考え方で、書籍「Stand Back And Deliver」のなかでNiel Nickolaisenが語っている考え方である。その考え方で重要なのは目の前のStoryに対して次の2つの問いかけをすることである。

それはミッションにとって不可欠か
(ビジネスはそれなしに進められるか?)
それはマーケットで差別化するものか
(ユーザーに大きな利益をもたらすか?)

そのあとの決断の仕方等は詳しくはぜひ本書を読んでいただきたい。
なかなか一度読んだだけで、実際の開発に適用することは難しいだろう。繰り返し読んで実践することで組織に浸透していく内容だと感じた。

「Camino Island」John Grisham

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
プリンストン大学の図書館から盗まれた5つの有名作家のオリジナル原稿は、Camino islandにある本屋のオーナーが所持しているとの疑いを持った保険会社は、Camino島で生まれ育った女性作家Mercerに本屋のオーナーBruce Cableに近づいて調査をすることを依頼するのである。
Mercerが執筆作業という名目でCamino等に滞在し、本屋のオーナーであるBruceや、Camino島にいるたくさんの作家と知り合いになるなかで、本屋や多くの作家事情が描かれている点が面白い。また、有名作家の初版本やサイン本、オリジナル原稿などが取引される闇マーケットについても描かれており、作家である著者の専門分野だけに真実に近い部分も多く含まれていることだろう。
普段あまり関わりのない世界に触れさせてもらえたという意味では新しいが、物語の内容としては特に驚くような展開もなく特別進めるような部分はない。
本書が初めて読んだJohn Grisham作品だが、他にも映画化された名作がたくさんなるので、少しずつ読んでいきたい。

「Don’t Tell a Soul」D. K. Hood

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
田舎町に赴任した警察官のKaneはその街の保安官代理
Jennaとともに、街で行方不明になった人々の捜索を続ける。真実に少しずつその町の大きな犯罪が明らかになっていく
よくあるアメリカ警察物語という印象。シリーズのなかでこれから面白くなるのかもしれないが、本作品に関しては特に驚くようなことはなかった。暗い過去を持っているらしいKaneとJennaの関係が今後どのように発展していくのかが唯一気になる部分である。
DeputyやSherifなど、アメリカにおける保安官と警察官の役割の違いなどを自分がよくわかってないことを知った。
シリーズの続編を読むことはしばらくないと感じた。

「Mapping Experiences: A Guide to Creating Value Through Journeys, Blueprints, and Diagrams」Jim Kalbach

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
多くの企業が様々な局面で非効率な業務フローを採用していたり、不必要なものを生産していたりする。その多くは視覚化することによって解決が容易になるのだ。本書はそんな視覚化の手法を「Alignment Diagram」として紹介している。
カスタマージャーニーマップやエクスペリエンスマップなどのUXデザインにおいて有名なものから、サービスブループリントやメンタルモデルダイアグラムとあまり知られていないものまでを、企業が陥りそうな状況を例としてその使い方を説明している。
本書ではたくさんの視覚化の手法をその名前とともに紹介しているが、実際には名前は重要ではない。状況に従って、紹介された手法を組み合わせることも必要である。大切なのは、状況に応じて的確な視覚化を行うことなのだ。
読むだけで身につくということはないので、必要なときに何度も読み直したいと思った。各章の末尾に掲載されているオススメの書籍、記事も少しずつ読んでいきたいと思った。

「Vanishing Girls」Lisa Regan

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女性警察官Josieはなかなか進まない女性の行方不明者の捜査にいらだち、謹慎処分中にも拘らず自ら捜査に動き出す。
Josieは謹慎中という身にもかかわらず、被害者や生存者が口にする「Ramona」という謎の言葉の正体を追って、真実に迫っていく。そんななかJosieの人としての葛藤や人間関係も多く描かれている。離婚届に判を押さない前の夫のRayや、現在の恋人のLukeは、物語のなかでも重要な役割を果たす。また報道者として第一線に戻ろうとするあまりJosieとたびたび衝突するTrinity Payneの存在も面白い。
暇つぶしには悪くないが、よくある警察小説の範囲を出ていない。この本でなければ知ることのできない何かを教えてくれることはなかった。

「Speak Human: Outmarket the Big Guys by Getting Personal」Eric Karjaluoto

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インンターネットが発展した今、小さい会社でも大きな会社と対等に渡り合える。本書はそんなテーマでブランド戦略、マーケティング戦略について書いている。序盤では「小さいことは悪いことではない」ということを繰り返し強調した後、それの実現方法について次の順番で例と筆者自身の経験を交えながら語る。

  • 自分のブランドを定義する
  • 自分のブランドに合った人との関係を築く
  • 自分のブランドに合って人との繋がりと会話を維持する
  • 行動し、修正する

印象的だったのは最後の「行動して、修正する」で語られている次の4つのレイヤーである。

  • Direction 方向
  • Strategy 戦略
  • Messaging メッセージ
  • Delivery 伝え方

著者はこのように語っている「マーケットの問題に直面していると感じている多くの会社が、実は方向性の問題に直面していることが多い」。つまり、多くの会社が自分たちがどのような方向に進むべきかを考えもしないで、目の前の仕事に忙殺されているのだ。

あなたは何で、あなたは何がしたいのか?

何よりもまずこれを定義せずに、周囲の企業の真似ばかりしていてはいつまでたっても方向が定まらない。その結果、その先にあるはずの戦略も、メッセージも伝え方も決まらないまま時間ばかりが経ってしまうのだ。

本書は中小企業のための本であるが、人間関係においてもそのまま適応できると感じた。当面起業する予定はないがしっかり頭に刻んでおきたいと思った。

「Close to Home」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
12歳の黒人男性がバスケットの試合の帰り道に車にはねられて死亡した。犯人の車はすぐに特定され、海軍の運送担当の男性と判明するが、その男性は犯行を否認し続けるのである。
女性刑事Tracy Crosswhiteシリーズの第5弾である。シリーズの他の作品と同様に物語の中心はTracyだが、同じチームのDelの妹の娘がドラッグの過剰摂取で亡くなったばかりなため、Delの違法ドラッグ密売の捜査も多く描かれている。また、ひき逃げ事件の裁判の過程で、海軍の専門の弁護士としてLeah Battlesという女性弁護士が登場し、Leah Battlesの知り合いの検事との因縁や、趣味のクラブマガの様子など、本作品はTracy以外の描写が多かった。
Tracyの私生活の方は、結婚したばかりのDanとのあいだに子供を授かるために奮闘する様子が描かれる。仕事や家庭などさまざまな場所で悩みながら生きていくTracyの様子が非常にリアルである。Tracyがどのように家庭と向かっていくのかは今後もきになるところである。

「The Design Method: A Philosophy and Process for Functional Visual Communication」Eric Karjaluoto

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
目的を達するためのデザインを作成する手法について説明している。

僕自身もデザイナーであり15年以上デザインの仕事に関わってきた。現在でこそ作業フローは確立されてきているが、最初の頃はただただ美しくかっこいいものを作ることに大量の時間を費やしていた。きっと現在も多くのデザイナーがそんな美しいだけのデザインを作ることに大量に時間を費やしているのだろう。

しかし、本書の冒頭でも語られているように、デザインとアートは違うのである。アートであれば美しくかっこいいものを作ればそれでよかったかもしれないが、デザインは常に目的がありその目的を達成してこそ「いいデザイン」なのである。

本書はそんなデザインの流れを体系化して説明している。読者によっては反論したくなるようなこともあるだろうが、個人的には納得のいくことばかりで、僕自身が辿り着いた手法とかなり近いと思った。

まず、良くあるデザインの勘違いと、デザイナーが心がけるべきことにいくつかの例を挙げながら触れた後に、著者が辿り着いたDesign Methodの説明へと入っていく。それは次の4つのステージから構成される。

1.Discovery
データを収集し、観察と分析から状況を知る 
2.Planning
問題とニーズを突き止め戦略と実行可能な計画を作る
3.Creative
考えうる案を検討しデザインの方向性を決める
4.Application
試験と分析を繰り返しながらデザインを適用する

デザイナーによってその作業範囲はそれぞれであるが、実際に多くの人が「デザイン」という言葉からイメージするのは「Creative Stage」以降なのではないだろうか。残念ながら今でも多くのデザイナーや制作プロダクションが1のDiscoveryステージと2のPlanningステージにほとんど時間をかけていないのが実情である。

4つのステージを順を追って細かい進め方、陥りやすい間違いなどについて詳細に説明している。部分的にでも参考にできそうな部分はたくさんあるだろう。

個人的には4のApplicationステージの進め方が印象に残った。本書ではデザインの作成段階でも常に、適応しつつ結果を見て調整していくとしている。つまり、少しデザインを適応しては結果を確認し、その結果によってその先のデザインの適用を調整していくというのである。

確実に機能するデザインを作るという点で非常に納得ではあるが、そのようなテストをしながらデザインを適用するためには、クライアントとの信頼関係づくりがかなり重要となるだろう。実際本書では何度もクライアントとの関係づくりの重要性に触れている。クライアント側の担当者目線でデザインがどのように見えるか語っている部分も印象的だった。確かに、ほとんどデザインのことを知らないなかで、デザイナーと打ち合わせて決めていかなければならない、クライアント側の担当者の立場に立つと、今までとは違った部分が見えてくる。

デザイナーだけでなく、デザインプロジェクトの担当者としてこれからデザイナーを探さなきゃいけない人など、デザイナーに関わる全ての人にとって学べる内容がたくさん含まれている。

関連書籍
「The 80/20 principle」Richard Koch
「The Dip」Seth Godin
「The Elements of Typographic Style」Robert Bringhurt
「Good to Great」Jim Collins
「How to Be a Graphic Designer without Losing Your Soul」Adrian Shaughnessy
「Positioning」Al Ries and Jack Trout
「Whatever You Think the Opposite」Paul Arden
「Zag」Marty Neumeier

「The Girl Who Takes an Eye for an Eye」David Lagercrantz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
刑務所に服役中のSalanderに会いに行った際、BlomkvistはLeo Mannheimerという36歳の男性について調べるように言われる。Blomkvistが調べたところ、ある日を境にLeo Mannheimerが左利きから右利きになったという。

Stieg Larssonの「The Girl with the Dragon Tattoo」に始まる物語の5作目。著者がDavid Lagercrantzへ変わってから2作目にあたる。前作「The Girl in the Spider’s Web」で法律に反する行為を行なったSalanderが刑務所で服役している状態で本作品は始まる。

その刑務所のなかでさえ、すべての権力を掌握し、艦種でさえ逆らうことのできない囚人Benitoや同じ刑務所にいるバングラデシュ出身の美しい女性Fariaの存在など、最初から問題山積みであるが、物語は、助けを申し出たBlomkvistに対してSalanderがLeo Mannheimerという男性の名を挙げたことで始まるのだ。

そして、いろんな情報源を頼りに少しずつLeo Mannheimerの真実に迫るうちに、Salanderの過去と大きくつながっていることが明らかになっていくのである。

シリーズ全体を通じて言えることだが今回も、普段なじみのないストックホルム周辺の地名が多く出てきて、遠い異国の地の人生を感じることができる。そして、人当たりは悪いながらも、正義感に突き進むSalanderの冷静な行動は爽快である。ただ、残念ながら、前作までにはあった一日中読んでいたくなるような勢いが今回は感じられなかった。著者が変わったせいなのか、物語の展開ゆえにそうなったのかはなんとも判断できない。

また、物語の過程で、「人の人格を決めるのは、才能なのか環境なのか」という研究結果に触れている部分があり、過去何度も議論が重ねられたこの問題について改めて考えさせられた。また、過去関連する多くの実験が試みられたこともわかり、その実験の内容や結果をもっと知りたくなった。
シリーズとしてはまだまだ続きそうなので、続巻が出る限り読み続けたいと思った。

「The Da Vinci Code」Dan Brown

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ルーブル美術館のキュレーターJacques Saunièreが技術館の館内で殺された。その死ぬ間際に書き残したメッセージによって、警察から殺人の疑いをかけられた言語学者のLangdonはJacques Saunièreの孫娘Sophieとともに真実を探ることとなる。
映画化もされた有名作品ではあるが、すでに映画を見たかどうかも忘れており、新鮮な気持ちで読むことができた。本書でもっとも興味深いのはやはり、物語中でも最大のテーマになっている、イエス・キリストの新しい真実だろう。
なんとローマ帝国のコンスタンティヌス以前は、キリスト教およびユダヤ教は女性を神聖化していたのだという。ローマ帝国が国教として取り入れるにあたって、それまでの考え方を政治に都合のいい方向に変えていった結果、今の女性の地位が男性より低い世の中になっているというのである。
物語としてはキュレーターJacques Saunièreの残したメッセージの謎を少しずつ解きながら非常に価値のある宝物に近づいていくという使い古された形式ではあるが、その過程で描かれる真実が印象的なので物語全体を面白いものにしている。
本より映画のほうがいいこともたくさんあるので、映画を否定するわけではないのだが、映画を見てしまうと深い物語が2時間のひどく陳腐で大衆受けする物語になってしまうこともよくあり、この物語は映画が有名だっただけになおさらそんな印象を持っていたが、実際こうして原作を読んでみるととても素敵な物語だということを知った。
映画しか見ないでこの物語を評価した人に、おそらく物語の内容を忘れてしまったであろう今、改めて本書を読んで欲しいと思った。