オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ビブリア古書堂シリーズの第4弾。毎回本を絡めた興味深い物語を展開してくれる。今回は江戸川乱歩のコレクターが遺した謎に栞子(しおりこ)と五浦(ごうら)は挑む。
本シリーズは今まで多くの有名な本を扱ってきたが、今回扱う江戸川乱歩シリーズはまさに僕自身が小学生の頃親しんできたシリーズで、物語中で触れられるタイトルの数々に懐かしさを感じてしまった。
また、そんな本に絡めた謎やそれぞれの本や作家が持つ深い歴史だけでなく、栞子(しおりこ)への五浦(ごうら)の想いもまたほのぼのと描かれている。そして、本書で何よりも注目すべきなのは失踪していた栞子(しおりこ)の母、篠川智恵子(しのかわちえこ)が登場する点だろう。栞子(しおりこ)よりもさらに深い本に対する知識と行動力のある智恵子(ちえこ)に対して、栞子(しおりこ)と五浦(ごうら)は謎解きで挑むのである。
まだまだこの先一波乱ありそうな流れである。
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カテゴリー: 和書
「ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家」ムハマド・ユヌス/アラン・ジョリ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グラミン銀行の創始者ムハマド・ユヌスの自伝。バングラディシュという国の成り立ちやその貧しさ。そしてそこ育ったムハマド・ユヌスの成長の過程などとともに、グラミン銀行を語る。序盤は著者自身の家庭環境や成長の過程で起こった印象的な出来事などとともに、バングラディシュの悲惨な状況について触れている。そもそも今の僕らの世代の一体どれほどの人が東パキスタンという国の名前を知っているのだろうか。その独立の過程を知るにつれて、まだまだ知らなければならないことが多い事に気づかされる。
そしてそんな不安定な国の状況のせいで、人々は教育の機会に恵まれないため貧困から脱出することができない。また宗教的理由もその貧困をなくすことの弊害となっており、そんななかで育ったユヌスはやがてそれを解決する1つの方法にたどりつくのである。
そんな中、本書のなかで印象的だったのは、技術はすでに持っているのだから教える必要がない、という考え方である。確かに本書で書かれているように、世の中では貧しい人を助けるために、職業訓練などで技術や知識を与える傾向があるだろう。しかし、ユヌスの考え方は、誰もがその人生のなかで人に役立てる技術や知識を手に入れているはずで、必要なのはそれを実現する資金だというものなのだ。また、貧困の解決方法として職業訓練という手法が世にはびこる理由として、訓練ならその後に何が起こっても教える側に被るデメリットはなく、教える側は教えて終わりにすることができる、としている。
イスラム教を信じる人たちの間で、女性にお金を持たせて仕事をさせることの難しさが伝わってくる。またそんな幾多もの問題を乗り越えながら貧困をなくそうと努める著者の姿を知るにつれ、日本や先進国で同じ事ができないわけがないと思えてくる。
あまり文章に強弱がないため、読み進めるのは若干大変かもしれないが、世の中にはびこる貧困の問題点や貧困への向き合い方や信念を持って仕事や人生を送ることのすばらしさを感じる。
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「宮本武蔵(八)」吉川英治
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の最終巻。武蔵は小次郎との決闘へ向かう。
8冊にわたって続いた宮本武蔵の物語も本書で完結する。伊織やお通、お杉や又八などが武蔵のもとに集まるのである。それぞれがすでにその道で有名になっており、世間も2人の決闘への関心が高い。決闘当日までの周囲の七人の行動や、武蔵の態度が読みどころと言えるだろう。
個人的には小次郎との決闘の後の武蔵の人生にも触れて欲しかったがそのあたりは他の作家や漫画家に譲って、これを1つの有名な武蔵の物語として受け入れるべきなのだろう。
1つの有名な小説をようやく読み終える事ができた。個人的には武蔵が伊織と出会う5巻あたりが好きである。
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「ドンナビアンカ」誉田哲也
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
40歳目前で独身の村瀬は配送の仕事で出入りのある店で若い中国人女性と知り合いになる。また警視庁練馬警察署の魚住久江(うおずみひさえ)は誘拐事件に関わる事になる。
魚住久江(うおずみひさえ)が登場する事なのでおそらく同じ著者の別作品「ドルチェ」の続編になるのであろう。「ドルチェ」では、その仕事のなかで扱う様々な細かい事件を通して、いろんな人々の生活や心の内を描いていたが、本作品では基本的に1つの誘拐事件に焦点をあてている。久江(ひさえ)目線から少しずつ犯人や真実に迫っていく様子と、村瀬(むらせ)目線で若い女性と知り合ってそれまでの人生が少し明るくなっていく様子が交互に描かれる。
村瀬(むらせ)目線で物語を見ることによって、社会的には下位にいるであろう人々の考え方や生き方、そして社会の問題点が見えてくる。世の中の犯罪の多くは、人が起こしているのではなく、社会のシステムが創り出しているのではないだろうか。
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「ローマ人の物語 勝者の混迷」塩野七生
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
カルタゴが滅亡して大国となったローマ。しかし領土が増えて人が増えれば様々な問題が噴出する。タイトルが「勝者の混迷」と付けられていることからも想像できるように、とりたてて大きな出来事があるわけでもないが、平和ゆえに噴出する多くの問題が見えてくる。
ローマは領土が拡大する過程で、すべての市民に平等な市民権を与えれば旧市民の反感を招き、平等な市民権を与えなければ新しく支配下に入った領土の人々に不信感を与える。というジレンマに陥るのである。また、世界を完全に制覇しない限り常に隣国は存在し、隣国との関係や争いは常に発生するのである。この「勝者の混迷」で見せてくれるのは、まさにそんな組織を維持する事の難しさである。
投票権や税金は言うまでもなく、新しい制度への段階的移行など、現在僕らが生きているこの社会が、過去の何千年もの人類の試行錯誤の結果などだと思い知る。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語 勝者の混迷(上)、「ローマ人の物語 勝者の混迷(下)
「宮本武蔵(七)」吉川英治
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の物語の第7巻。全8巻のこの物語もいよいよ終盤に近づいていく。
過去の登場人物が勢揃いするような一冊。武蔵と別れた城太郎(じょうたろう)は立派な青年となって、現在の武蔵の弟子である伊織(いおり)と遭遇する。そしてかつて武蔵と勝負した夢想権之助(むそうごんのすけ)は伊織(いおり)とともに旅することとなる。
特に際立った大きな動きはないが、物語が終わりに向かっている事を感じさせる。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(七)」
「ドルチェ」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁練馬警察署の巡査部長である魚住久江(うおずみひさえ)の関わる6つの事件を描く。
40歳を超えた女性目線ということで、警察小説といえども、本書で扱われる事件は、殺人といった派手なものではなく暴行、傷害、虐待などである。事件自体は些細な物に見えるが、それゆえにその事件を通じて見えてくる、いろんな人間の側面は他人事とは思えないものを感じる。
多くの登場人物が30代以降であるのも興味深い。希望を持って生きている20代に対して、未来の可能性が急激に狭まっていく30代は、世の中に絶望して犯罪に走りやすい傾向があるのだろうか。人生をやり直すのに遅いならば、人生自体を壊してしまう事をためらわないのだろうか。
「ストロベリーナイト」シリーズや「ジウ」で派手な警察小説を描いている著者誉田哲也があえてこういう質素な物語を描くと、ここから何を伝えようとしているのだろう、と必要以上に考えてしまう。
【楽天ブックス】「ドルチェ」
「モルフェウスの領域」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日比野涼子(ひびのりょうこ)は未来医学探究センターの唯一の職員。彼女の仕事は世界初の人工冬眠について少年モルフェウスを維持する事だった。そしてやがてモルフェウスが冬眠から目覚める時が近づいてくる。
人口冬眠、コールドスリープなど言葉の使い方はいろいろあるけれども、人が眠りについて未来にそのままの姿で生き返る、というのは過去多くのSF作品で使われてきたできごと。本書は医療を専門としている著者海堂尊(かいどうたける)が描く事で、より現実世界に関連した内容に仕上がっている。
これまで同じ著者の物語に多く触れてきたなかでは、現実的な医療技術を物語に取り込んでいるという印象を持っていた。そのため、ひょっとしたらコールドスリープもすでに実現可能な技術なのかもと検索したが、どうやらそのような事実はまだないようである。
本書では、目を摘出しなければならなくなった少年が、その治療薬の開発・認可を待つためにコールドスリープを選択する、という過程をとっている。関係者や政治家がコールドスリープをした対象の人権をどのように守るかという議論や、その技術をどのように維持するかの駆け引きが面白い。むしろ過去さまざまなSF作品に描かれていたような、コールドスリープをする前とした後での時代の間の文化の違いやその人やその人に接する人々が感じる違和感などは本書でほとんど描かれていない。
またほかのシリーズ作品同様、東城医大の高階医院長や田口先生など本書にもたくさん別シリーズの主要人物が登場する。海堂尊(かいどうたける)作品に多く触れている人はそういう意味ではさらに楽しめるのではないだろうか。近いうちに続編が出るようなのでそちらも楽しみにしたい。
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「宮本武蔵(六)」吉川英治
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宮本武蔵の第六巻。武蔵は旅の途中で一人で暮らしている少年と出会う。彼に請われて武蔵はその少年を弟子にして一緒に過ごしはじめる。
決闘の場面こそ少ないが、伊織(いおり)という少年とともに生活を始める武蔵を描く本書は違った意味で印象的な場面が多い。特に強盗集団に教われている村の人々を助け、村人に武器をとらせて戦わせる場面は爽快である。
そして、伊織を育てる上で、剣の技術だけでなく礼儀作法についても厳しく教えようとする。かつでは城太郎という少年と旅をともにしながらも自由奔放にさせたがゆえに何も遺せなかったという武蔵の後悔がそうさせるのだ。
そんな武蔵の新たな視点は、読者にも何か考えさせるものがある。
また、現在おそらく日本人で知らない人はないないだろいうというぐらい有名な武蔵ですら当時「生まれたのが20年遅かった」と思っているところが印象的だ。17歳で時代の節目と成る関ヶ原の合戦を経験し、それい以降、武蔵のような野生の人間を世の中が必要としなくなっていったのである。きっといつの時代も人は前の時代の人々に憧れを抱くのだろう。賞賛すべきはそれをそうぞうして描いた著者吉川英治の方かもしれない。
また、一方で佐々木小次郎もその強さを見せ始める。物語の終わりを期待とともに予感させる一冊。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(六)」
「宮本武蔵(五)」吉川英治
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の物語の第5話。吉岡道場との決闘の後を描く。
ようやく後半に差し掛かった武蔵の物語。吉岡道場との決闘の後を描く本書は物語のなかでも山場の少ない内容となっている。おつう、城太郎と再び行動を共にしてはまたはぐれるなど、それぞれ新たな人生の方向へと導かれていく。
個人的に印象に残ったのは、はぐれた城太郎、おつうの行方を探すのを手伝ってくれた見知らぬ人へ、御礼に残り少ないお金を渡そうとする武蔵の心の内である。
これまでは悩み葛藤を続けてきた武蔵だが、ここへきてその心のありようが結構な境地に達してきたような気がする。残り3冊も楽しみである
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「1%の人だけがやっている 会社に「使われない人」になる30のヒント」渡辺雅典
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アフィリエイターとして著名な著者が会社に使われない人間になるための心得を語る。
序盤は、高校を中退し、仕事でもあまりいいスタートを切れなかった著者自身の過去に触れ、その後、インターネットでの仕事を始めてからの成功と、現在の心がけについて語っている。書かれている内容はどれも特別な事ではなく、むしろその内容からは読者としてもっと本当に会社にいくのが嫌でしょうがないネガティブな思考の会社員を対象にしているようにさえ思える。
書かれている内容に信憑性がないわけではなく、むしろどれも納得のいくものばかりなのだが、世の中に溢れかえっている「成功のための本」の多くに書かれていそうなことばかりで、あまり印象に残らなかった。しかし、定期的にこのような本を読む事はいろんな意味でモチベーションの維持に役立つ気がする。
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「四色問題」ロビン・ウィルソン
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
すべての地図は4色で塗り分ける事ができる。経験的に受け入れられてきたこの事実の証明は何年も数学者達を苦しめてきた。そんな四色問題が証明されるまでを描く。
コンピュータを使った美しくない証明として議論を呼んだ証明として興味を持っていた。もちろん問題自体(つまり地図が4色で塗り分けられるという考え)がわかりやすいというのも理由の1つだろう。こういう本は数学者でもない限りすべてを理解するのは不可能なのだが、それでもその雰囲気や数学者達の努力が感じられれば僕にとっては十分なのである。
序盤は「四色問題」がどのように始まり、どのように数学界に広がっていったかを描き、中盤からは、簡単な塗り分けから考え方を説明し、四色問題が難しい理由などを説明する。その過程では11年間にわたって信じられてきた間違った証明も含まれている。
興味深いのは、この証明の「美しくなさ」である。証明をしたアッペルとハーケンは非難されてさえいるということである。
数学の証明の難しさ、あるべき姿、など考えさせられる一冊。
【楽天ブックス】「四色問題」
「主よ、永遠の休息を」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
記者の鶴田吉郎(つるたよしろう)は14年前に起きた女児誘拐殺人事件の映像がアダルトサイトに流されていたことを知る。
誉田哲也の初期の作品。物語として「ストロベリーナイト」や「ジウ」といったシリーズと繋がっているわけではないが、著者の原点とも言える。記者である主人公が、すでに過去のものとなった誘拐殺人事件を調べるうちに少しずつ奇妙な点に気づいていくのだが、全体的にはとくに予想を超えたひねりがあるわけでもなく、心情描写も最近の誉田哲也作品と比較すると少なく印象的な部分は少ないように思える。
物語自体を楽しむよりも、誉田哲也という著者を知る上では価値のある一冊かもしれない。
【楽天ブックス】「主よ、永遠の休息を」
「ローマ人の物語 ハンニバル戦記」塩野七生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ人の物語の第二章である。紀元前264年から紀元前133年までの130年間を描く。
ハンニバル戦記と名付けられたこの章は、その名の通りカルタゴの名将ハンニバルによって大きな変化を強いられたローマを描いている。アフリカ大陸で栄えたカルタゴのハンニバルはスペインへ侵攻し、やがてローマへと向かうのである。
著者も冒頭で書いているが、学校の教科書ではこの時代をわずか5行程度で済ませてしまうという。しかし、それではわずかな事実が伝わるのみで、過程を知らずに、その時代に生きた人々は見えてこない。本書を読むと、祖国から遠くは慣れて孤立していくハンニバル。ハンニバルへの対抗手段をめぐって対立するローマ国内など、2000年以上も前に生きていた人々が信じられないほど現実感を伴って見えてくる。
実は僕自身本書を読むまで、カルタゴという国の場所や名前や、ハンニバルがどこの国の人物かすら知らなかった。当時の人々の崇高な生き方に触れるほどに、知るべき歴史を知らない自分の無知を感じてしまうのである。
さて、何度も戦いに勝利しながらもやがてハンニバルはローマを後にせざるを得なくなる。一方で、ハンニバルの引き起こしたポエニ戦役によってローマは一段と力を増し、一層帝国主義の傾向を強めていく。
なにより印象的なのは、700年も栄えたカルタゴの滅亡だろう。過去の歴史だけを見ると、それが必然だったように見えるが、歴史的事実のいくつかは偶然の重なりによって覆ったこと。著者はカルタゴの滅亡をまさにそんな一例と捉えている。栄枯盛衰を感じずにはいられない。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語(3) ハンニバル戦記(上)」、「ローマ人の物語(4) ハンニバル戦記(中)」、「ローマ人の物語(5) ハンニバル戦記(下)」
「人間関係をしなやかにするたったひとつのルール」渡辺奈都子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人間関係をどのように良好に維持するか、と調べているうちに「選択理論」という言葉に出会った。本書は真理カウンセラーの著者がその「選択理論」について語る。
基本となるのは、「変えられるのは自分だけ」という考え方であり、「外的コントロール」つまり他者のコントロールをしないように勧めている。他人の行いに対してひたすら我慢をすることを理想とするように聞こえるかもしれないが、実際には希望を伝えることも勧めている。こちらの希望に沿わなかった場合に罰を与えたり、非難をしなければそれは「外的コントロール」にあたらないのだ。
また、人の感情や行動をいくつかのたとえを用いて興味深く説明している。1つは、車の4輪を用いて前輪を「思考」と「行為」、後輪を「感情」「生理反応」と例えている。つまり車の前輪と同じように「思考」と「行為」は自らの意思で操作できるが、後輪の「感情」「生理反応」はその前輪の結果についてくるものということである。
人の性格についての考え方もわかりやすい。人間は5つの基本的欲求「生存」「楽しみ」「自由」「力/価値」「愛/所属」のグラスを持っているが、それぞれのグラスの大きさは人によって異なるため、そのグラスを満たす量もことなるのだという。
全体を通じたのは、ここ数年自分が人間関係において意識していることとそれほど乖離してはいないということ。見方を変えれば、人によっては「他人に対する諦め」と否定的に受け取ることもあるのかもしれないが、個人的には、本書が推奨する「コントロールしない/されない関係」はもっとも相手を尊重した関係のように思える。人の見方に新たな視点を与えてくれる一冊。
【楽天ブックス】「「人間関係をしなやかにするたったひとつのルール」
「「書」を書く愉しみ」武田双雲
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
書道家である著者が「書」について語る。
コンピューターが世の中に浸透し、文字を書く機会は本当に少なくなった。そのせいか、文字を書く事が嫌いな人は多い。実際、自分の書く文字が嫌いな人も多いという。僕自身もそんな一人で、特に字が汚いわけでもなく、むしろ「字がキレイ」と言われる事のほうが多いのだが、どうしても自分の書く字が好きになれない。本書はそんな人に、字に対して新しい考え方を与えてくれるだろう。
字がうまくなる方法として「下手な字競争」を紹介している。その名のとおり下手な字を書こうと努めるのだが、どうやったら下手に見えるか、という視点に立って字を眺める事に良って、より深い考察をすることができるという。また、お手本通りに書くという学校での書道の授業に異を唱えている。なぜなら同じ人物が書いたとしても二度と同じ文字は書けないのだそうだ。
その他にも中国や日本の歴史的な書を紹介している。有名な書のなかにも読みやすいものもあれば読みにくいものもあり、そこから伝わってくるのは、文字に正解はないということ。服装や姿勢や髪型などと同じように、文字もその人の個性を表すものなのだろう。
改めて文字というものと向き合ってみたくさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「「書」を書く愉しみ」
「光圀伝」沖方丁

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第3回(2012年)山田風太郎賞受賞作品。世の中が徳川幕府によって安定に向かうなか、水戸徳川家の次男として生を受けた水戸光圀(みとみつくに)の生涯を描く。
日本の歴史に疎い僕にとって水戸光圀と言えば水戸黄門、本当にそれぐらいしか知識がなかった。本書が描くのはそんな一人の男の物語である。
すでに戦国時代は過去の話で世の中は一気に生活を向上する方向に動いている。人々が学べる環境を作り税の制度を整備していくなど、それは戦後の日本の復興と似ているような印象を受けた。
光圀は次男として生まれたのに理由も知らされずに水戸徳川家を引き継ぐとされた。序盤はなぜ自分が選ばれたのかわからないというなかで成長する光圀の苦悩が中心と成る。本来水戸家を背負うはずだった優しい兄に対する罪悪感や、それでも良き理解者として接してくれることに対する感謝の気持ち、それが初期の光圀の人間性を形作ったように見える。
若いうちは、よくある良家の跡継ぎと同様、父から何度も厳しい試練を与えられ、外ではそれなりの粗暴な行為を行いながらも学び成長していく。そんななか書物を重視し、常に学ぶ事を怠らないその姿勢には感銘を受ける。どこまでが事実に基づいているのかわからないが、宮本武蔵との出会いも本書の読みどころの1つである。「書で天下をとる」という光圀の野望は武蔵との出会いから生まれた物だろう。
そのようにして、光圀は、妻の死や将軍との不和など、徳川水戸家を背負って密度の濃い人生を送っていくのだ。
もっとも印象に残ったのは、決断をするときに「これは義か?」と自らに問い続ける生き方である。僕らに現代人にとっては「大義」の方が聞き慣れているのかもしれないが、「義」とは「人の踏み行う正しい道筋」のことで、光圀は常に世のため人のためになることを優先して決断をするのだ。
争乱の時代の後のあの時代に、水戸光圀が果たした役割の大きさが見えてくるだろう。そして、現代に生きる僕らも光圀と同じように、日々信念を持って決断しているか、つまり「義」を行えているかと、改めて考えさせられる。時代は違えど、現代にもそれぞれが果たせる「大義」はきっとあるはず。
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「本田式サバイバルキャリア術」本田直之
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ハワイと日本の二重生活を送る著者がその経験を基に今の時代を生き抜く考え方を語る。
成功した人は、その成功の多くが偶然的要素に左右された結果であるにも関わらず、本を出してあたかも自分の視点が正しく世間一般的な視点が間違っているように語ることが多い。そういう意味で本書にもあまり期待していなかったのだが、むしろ予想外にまともなことを語っている点が驚いた。
実は、著者の経歴から「思い切って行動すればなんとかなる」的な内容を想像していた。しかし実際には、社内や社外の人脈の作り方や、転職エージェントの利用のすすめなど、今の時代を生き抜くために、リスクを最小限に抑えて、利用できる物はなんでも利用すべき、という考え方が本書のなかで一貫としている。
著者が繰り返し使うのが「サバイバビリティ」という言葉である。何が起きるかわからない今、1つの会社や1つのキャリアに依存する事こそリスクが高く、「シングルキャリア」から「マルチキャリア」へ、「雇われ型」から「スキル提供型」への移行こそ、生き抜くために必要なのだろう。
【楽天ブックス】「本田式サバイバル・キャリア術」
「宮本武蔵(四)」吉川英治
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
吉岡清十郎(よしおかせいじゅうろう)との勝負に勝った武蔵に、その弟伝七郎(でんしちろう)が再び試合を申し込む。後がなくなった吉岡道場がなりふり構わない行動に走り出す。
宮本武蔵の第4弾である。本書の見所はやはり武蔵と吉岡道場ということになるが、個人的には再開を果たした武蔵とお通(つう)の場面が特に印象に残った。武蔵はお通(つう)の武蔵に対する想いを受け入れつつも自らの剣に対する想いを吐露する。
1つの道を極めようとしながらも、その過程で思い悩み葛藤する武蔵の姿は、長い時を隔てた現代の人でも共感できることだろう。読者は何か忘れていた情熱を思い出すかもしれない。
そして、吉岡道場との対決は佳境に入っていく。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(四)」
「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」北健一郎
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ガンバ大阪の遠藤保仁(えんどうやすひと)、FCバルセロナのシャビ。強いシュートを打つわけでもなく、驚くような鋭いパスを放つわけでもない彼らだがそれぞれのチームの中心人物と評価されている。彼らのどんなプレーがすごいのかを、彼らがときどき出す弱いパスを中心に解説する。
正直サッカーを何年もプレーした事がある人にとってはそんなに新しい内容ではないだろう。遠藤やシャビほど計算し尽くしてはいなくても無意識にやっていることかもしれない。それでもこうやって言葉にしていくつかの例とともに説明されると改めていろいろ戦術というものについて考えるだろう。
また、本書では遠藤(えんどう)のプレーに対して、一緒にプレーした事のある他のプレーヤーの意見も書かれている。そこで語られるのは意図を感じさせるパス。パスカットされる可能性があれば出さないという相手ゴール付近であっても出さないという選択、サイドチェンジの効果などである。いずれも賛否両論あるとはいえ、何事もそうだがパス一本とっても極めようとすればいくらでも上がある、ということを再認識させられる。
サッカーを知らない人にとっても、これからサッカーをテレビなどで観戦する際の助けとなるだろう。
【楽天ブックス】「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」