「国宝」吉田修一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長崎の極道の家に生まれた立花喜久雄(たちばなきくお)は、抗争で父を失ったのち、歌舞伎の家で生活しながらその道へと進んでいくこととなる。

すでに本作品は映画化されており、すでに複数の人からその映画を勧められた。同じ物語の本と映画があったら本から入るべきという哲学から、本書を読むに至った。

物語は極道の過程に生まれ育った立花喜久雄(たちばなきくお)が、父親の死をきっかけに勢力を失っていくなか、知り合いの歌舞伎役者の花井(はない)家の下に預けられる。元々演技をすることが嫌いではなかった喜久雄(きくお)は、本家の息子である俊介(しゅんすけ)とともに、歌舞伎の未来を担う役者として成長していく。

一般的には本と映画があったら本のほうが良い作品であることが多い。それはそもそも良い物語を2時間の尺に詰め込むのはむずかしいし、人の心情を表情などの映像で伝わる表現だけで表現するのは不可能だということからだろう。しかし、本書に関しては、歌舞伎の描写の説明が多く含まれており、よっぽどの歌舞伎愛好家でなければ理解できないような内容が多く、映画の方が多くの人にとって入りやすいだろうと感じた。

歌舞伎の歴史や描写以外でも、喜久雄(きくお)を中心にした人間の物語はそれなりに読み応えはあるのだが、歌舞伎の描写の部分になかなかついていけなかったこともあり、物語を存分に満喫したような感じは味わえなかった。

【楽天ブックス】「国宝(上)青春篇」「国宝(下)花道篇」
【amazon】「国宝(上)青春篇」「国宝(下)」

「シューメーカーの足音」本城雅人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ロンドンで靴職人として働く斉藤良一(さいとうりょういち)と、日本で靴職人を夢見る榎本智哉(えのもとともや)の二人を描く。

すでにロンドンで靴職人として独り立ちしながらも、さらにそのブランド価値を高めようとする斉藤良一(さいとうりょういち)を描くとともに、日本で、靴の修理という小さな対応を重ねながら、将来を夢見て自らの技術の向上に励む榎本智哉(えのもとともや)を描く。

物語が進むに従って少しずつ二人の過去が明らかになっていく。現在は成功している斉藤良一(さいとうりょういち)だが現在の地位を掴むための苦労が見えてくる。そんな斎藤の過去からは、靴づくりにかける情熱と並行して、狂気のようなものも見えてくる。

一方で、榎本智哉(えのもとともや)の日常からは、斉藤良一(さいとうりょういち)を過剰なまでに意識していることがわかる。そこには父親の最期が大きく関わっていた。

やがて、智哉(ともや)の計画が功を奏して、二人は対決することとなる。

若干物語の展開が少ない。一方で靴職人の靴づくりにかける思いは十分に伝わってきて、ものづくりに没頭することのすばらしさを改めて感じた。

【楽天ブックス】「シューメーカーの足音」
【amazon】「シューメーカーの足音」

「地雷グリコ」青崎有吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第37回(2024年)山本周五郎賞、第77回(2024年)日本推理作家協会賞受賞作品。勝負ごとに滅法強い女子高生の射守矢真兎(いもりやまと)がさまざまな勝負に挑む様子を描く。

グリコのおまけ、坊主捲り、じゃんけん、だるまさんがころんだ、ポーカーなど、誰もが知っている勝負に、少し異なるルールを加えて勝負する射守矢真兎(いもりやまと)が、最後は想像の一つ上をいく様子を描く。

一見勝負師同士の心理戦のようにも見えるが、勝負のルールも勝負が行われている部屋もすべて著者の都合のいいように作られているので、ミステリーの要素も多い。そういう意味ではこれまでにない斬新な作品と言えるだろう。

特に現実世界に行かせそうな学びは一才ないが、重いテーマの物語を読んだ直後の一服にはちょうどいいかもしれない。

【楽天ブックス】「地雷グリコ」
【amazon】「地雷グリコ」

「蹴球学 名称だけが実践している8つの真理」Leo the football

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
著者がさまざまなサッカーを研究し、また自分のチームで実践する中で身につけた理論を説明する。

本書は8つの真理としてサッカーにおいて意識すべき次の内容を説明する。

  • 正対理論
  • ポイント論
  • サイドバックは低い位置で張ってはいけない
  • アピアリング
  • ファジーゾーン
  • トゥヘルシステム
  • プレパレーションパス
  • 同サイド圧縮

いずれも自分が現役のときに知りたかった内容ばかりである。今できることとして、息子がサッカーを始めた際には伝えたいと思った。こうやって日本のサッカーがレベルアップしていくのだ感じ、実際に日本のサッカーが国際舞台で結果を出していくのを目の当たりにすると、このような書籍の貢献度の大きさを感じる。

【楽天ブックス】「蹴球学 名称だけが実践している8つの真理」
【amazon】「蹴球学 名称だけが実践している8つの真理」

「じんかん」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第11回山田風太郎賞受賞作品。織田信長(おだのぶなが)に謀反を企てている松永秀久(まつながひでひさ)の過去について、信長(のぶなが)は家臣の又九郎(またくろう)語り始める。そこから見えてくるのは平和な世の中を目指した信念を持った生き方だった。

本書は信長(のぶなが)が謀反に対応する様子と、その信長自身が松永秀久(まつながひでひさ)について知っていることを語る内容、つまり過去の九兵衛(くへい)の成り上がっていく様子を交互に描く。

過去の九兵衛(くへい)の描写からは、不幸な少年期のなかで仲間を失い、やがて三好元長(みよしもとなが)の描く理想の世界に共感して、それを実現することを目的として生きていく様子を描く。それは、武士を消し去り、民の支配する世の中を作るというものであった。

中盤以降は元長(もとなが)と九兵衛(くへい)の思い通りことが運ばない様子が描かれる。

戦国時代の歴史を知ると、なぜこんなにも長く、多くの死傷者を生む戦いを繰り返していたのだろう。と不思議に思うだろう。同じように現代でも、独裁政権が倒れたら平和が訪れると思っていた国が、結局同じような紛争を繰り返すのを不思議に思うだろう。結局大部分の人間は、嫉妬、欲望、疑心暗鬼からは逃れられないのである。本書はまさにそんな人間(じんかん)の本質示してくれる。

長年敵対していた高国(こうこく)が九兵衛の問いに答える場面はまさに人間の本質を捉えている。

お主は武士が天下を乱していると、民を苦しめていると思っているのではないか?…民は支配されることを望んでいるのだ…日々の暮らしが楽になるのは望んでいる。しかし、そのために自らが動くのを極めて厭う。それが民というものだ。

やがて年齢を重ねながら、多くの仲間を失いながら、思いをなかなか達成することができずに、九兵衛も少しずつ悟ることとなる。

本当のところ、理想を追い求めようとする者など、この人間(じんかん)には一厘しかおらぬ。残りの九割九部九厘は、ただ変革を恐れて大きな流れに身をゆだねるだけではないか

現代の政治家と重なって見える。結局いつの時代も人は同じことを繰り返しているのである。自分の生活が脅かされれば反抗したり文句を言うが、本書の言葉を借りるならば、九割九分九厘の人間はは自らの責任で世の中を改善しようとしないのである。

自分は世の中を良くするために行動できる残りの一厘の人間だろうか、それとも不平を言いつつ動こうとしない残りの九割九分九厘の人間だろうか。そんなことを考えさせられる一冊である。

【楽天ブックス】「じんかん」
【amazon】「じんかん」

「幸村を討て」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
豊臣家の最後の生き残りをかけた大坂の陣、徳川軍と豊臣軍参加した武将たちはそれぞれの思惑を持ちながら参加する。そんななか鍵となるが幸村を筆頭とする真田家であった。

それぞれの武将の目から大坂の陣を語る。織田家、豊臣家、徳川家、によって少しずつ戦の機会が減り、戦国の世の中が終わりに近づく中で、自らの名を上げる機会を求める者、家の名を歴史に刻もうと努める者、自らの信念を貫く者、いまだに天下をとる夢を捨てられない者など、さまざまな思惑をもった武将たちが大坂での最後の決戦に臨む。

これまで触れてきた今村翔吾作品とは少し趣が異なる作品。それぞれの武将たちが自分の目的のために、さまざまな手段を駆使して情報を集め、さまざまな駆け引きをする様子は、「デスノート」や「ライアーゲーム」のような緊張感を感じさせる。

同時に、400年以上前の人々を想像力豊かに、深く描くその人物描写の力量に驚かされる。戦国時代の武将たち一人一人も、現代を生きる人間たちを同じように、自らの信念や世間体や子供たちの未来を考えて生きる生身の人間であったことを思い知らせてくれる。歴史的事実に分厚い人物描写を組み合わせて、これまで体験したことのない見事な歴史小説に仕上がっている。歴史小説嫌いな人も一読の価値ありである。

【楽天ブックス】「幸村を討て」
【amazon】「幸村を討て」

「動機」横山秀夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
刑事、社会復帰中の犯罪者、女性新聞記者、裁判官、犯罪に関わる4つの物語を集めた短編集である。

最近、短編ほど著者の小説家としての力量を如実に示す媒体はないと悟り、これまで軽視してきた短編集を読み漁っている。なかでも横山秀夫は、好きな作家であるにもかかわらずその作品の半数ほどを短編集が占めるために、読んでいなかった作品が多い。本書もそんななかの一冊である。

本書は、期待した通り、良い小説家にかかれば、登場人物の人間を真実味を伴って描くのにページ数は必要ないということを証明してくれる。個人的には表題作となっている最初の「動機」が印象的である。警察という組織の中にも、立場に固執する者、職務に誇りを持っている者、将来を期待されている者、などさまざまな人間がいることが伝わってくる。そして表面的には異なる目的を持っているようで、結局誰もが家族を最優先に生きているのである。

今回も期待通りの著者の描写力を味わうことができた。

【楽天ブックス】「動機」
【amazon】「動機」

「深追い」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
三ツ鐘警察署でおこった事件を扱った7つの物語。

最近横山秀夫作品のすごさを改めて感じている。一冊に5つ以上の物語が入った短編集の、それぞれの数十ページの物語にでさえ、登場人物の分厚い人生を感じる。今までは長編しか読もうとしなかったのだが、短編集も全部読みたいと思い、本作もその流れの中でたどり着いた。

警察の物語というと、凶悪な連続殺人事件や誘拐事件などをイメージする人が多いだろう。しかし、短編集の本書が扱っているのは、実際に起こったとしても地方の新聞にも載らないような小さな事件ばかりである。ただ、それは小さな事件ではあるが、当事者や家族にとってはその人生に影響を与えるような大きな出来事なのである。

本書ではまさにそんな、事件に影響を受けた人々の苦悩を描いており、その横山秀夫の描写力から、どんな人間も物語の主人公になりうるのだということが伝わってくる。

【楽天ブックス】「深追い」

「解像度を上げる」馬田隆明

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
曖昧な思考をより明確にする作業を「解像度を上げる」として、その方法について語る。

もちろん本書でいう解像度は、画像のピクセル数の密度、という元々の意味ではない。本書でいう「解像度を上げる」とは、表現や考えの曖昧な部分がより具体的で明確な状態に近づけるということである。

本書では解像度を

  • 深さ
  • 広さ
  • 構造
  • 時間

という4つの軸で考え、それぞれの軸で向上させていく方法を語る。

全体的にかなり網羅的な内容になっている。正直網羅的すぎて、他の書籍と重なる部分も多い。例えば、解像度を深くする章ではユーザーインタビューの手法にまで触れている。本書一冊ですべてを理解したい人には良いかもしれないが、実際にはそのような読者は少ないだろう。核心となる考え方に絞って、他の書籍で語られている内容は削ぎ落としたほうが良い本になったのではないだろうか。

【楽天ブックス】「解像度を上げる」
【amazon】「解像度を上げる」

「夜に星を放つ」窪美澄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第167回(2022年上半期)直木賞受賞作品。さまざまな人間関係を扱った5つの物語。

双子の妹を亡くした婚活中の女性、離婚調停中の男性、父親と二人暮らしの女子高生など、少し変わった人々の様子を描く。

全体的に優しい物語ではあるが、直木賞受賞作品となるほどの個性や良さがあったかというと疑問である。自分には見出せなかった良さがあるのかもしれない。

【楽天ブックス】「夜に星を放つ」
【amazon】「夜に星を放つ」

「黛家の兄弟」砂原浩太朗

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第35回(2022年)山本周五郎賞受賞作品。筆頭家老をつとめる黛(まゆずみ)家の様子を、三兄弟、栄之氶(えいのじょう)、荘十郎(そうじゅうろう)、新三郎(しんさぶろう)を中心に描く。

大きく前編と後編に分かれており、前編は黛家のはみ出しもので行き場を失った次男の荘十郎(そうじゅうろう)の事件をめぐるできごとを中心に展開する。黛(まゆずみ)家を存続させることを優先する父、長くともに過ごしてきたことで決断しきれない栄之氶(えいのじょう)と新三郎(しんさぶろう)の苦悩を描く。

後編は前編の13年後の物語である。黒沢家で織部正(おりべのしょう)として生きるかつでの新三郎(しんさぶろう)と、父の跡を継いで清左衛門(せいざえもん)となった栄之氶(えいのじょう)が、表向きには疎遠になったように見せながらも、その立場を利用して黛(まゆずみ)家のために生きる様子を描く。

江戸時代における男の人生を非常に巧みに描く。一方で、当時の立場や役職などに詳しくないとなかなか理解が追いつかず、物語に没頭しにくいのを感じる。登場人物の多さや改名が一般的であることから名前が固定されていないのも要因の一つであり、この辺のわかりやすさと忠実度のバランスが物語の書き手として難しいところだろうと感じた。

【楽天ブックス】「黛家の兄弟」
【amazon】「黛家の兄弟」

「国を蹴った男」伊東潤

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第24回吉川英治文学新人賞受賞作品。信長、秀吉、家康と天下の情勢が大きく移り変わる戦国時代において、自らの生き方を貫いた6人の男たちを描く。

本書はいずれも1600年近辺の戦国時代に生きた男たちに焦点をあてた短編集である。牢人、茶人、職人など、後の世に名を残すことのない男たちの、誇り高い生き方を描いている。

個人的に印象的だったのは茶人山上宗二(やまのうえそうじ)を扱った「天に唾して」の章である。美しさがわからない秀吉を卑下する茶人と、嫉妬しつつ権力で支配しようとする秀吉という構図は「利休にたずねよ」などでも描かれているが、本書でも権力に屈しず信念を貫く茶人たちを描いている。

この辺は、CEOの意見の前に譲歩しなければならない現代のデザイン作業にも通じるところがあるのを感じる。異なるのは切腹しなくても良いというところだろう。

自分の印象では秀吉は農民から成り上がった人間として好意的に受け取っているのだが、本書ではどちらかというと、その出自ゆえのコンプレックスからか、権力とともに傲慢になっていくように描かれている。先日読んだ「八本目の槍」の描き方とはまた、大きく異なっていたので、あらためて、史実に忠実でありながらも人格についてはさまざまな解釈があるのだと感じた。

短編集という難しいスタイルでありながらも、どれも登場人物に深みを感じたので、引き続き著者伊東潤の他の作品にも触れてみたいと思った。

【楽天ブックス】「国を蹴った男」
【amazon】「国を蹴った男」

「まるまるの毬」西條奈加

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
吉川英治文学新人賞受賞作品。江戸で和菓子屋の南星屋(なんぼしや)を営む家族、治兵衛(じへい)、娘のお永(えい)、孫娘のお君(きみ)を描く。

物語は和菓子屋である南星屋(なんぼしや)を中心に進む。物語が進むに従って治兵衛(じへい)の和菓子作りだけでなく、お永(えい)の元夫との関係や、武家出身伝ある治兵衛(じへい)の過去など、家族の物語や、老舗和菓子屋との確執などにも広がっていく。

江戸時代という200年以上昔を描いているにも関わらず、人々の毎日の様子が生き生きと伝わってくる。このゆな人間のさまざまな感情を描いた時代小説に出会うと、いつの世も人間というのは変わらないのだと感じた。

【楽天ブックス】「まるまるの毬」
【amazon】「まるまるの毬」

「コロナと潜水服」奥田英朗

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
5編の少し不思議な物語。

どの物語も引っ越したり、リストラされたり、閑職に追い込まれたり、コロナ禍で世の中が大きく変わったり、と人生の転機を描いている。また、それぞれの物語で少し不思議なことが起きるので、昔懐かしい「世にも奇妙な物語」のほっこり版といった印象である。

5編のうち3編が50歳前後の男性を描いているということで、僕自身と年齢が近く、必ずしも共感ではないが暖かい気持ち読むことができた。一方で特に強くお勧めするほど何か学びや新鮮な描写があるわけではない。気楽な読書を楽しみたい人にはいいかもしれない。

【楽天ブックス】「コロナと潜水服」
【amazon】「コロナと潜水服」

「コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた」細田高広

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コンセプトとは何か、コンセプトの必要性、そしてコンセプトの作り方を語る。

昨今、コンセプトの重要性が語られることが多くなってきた。大きなビジネスから小さなプロジェクトまで、明確なコンセプトを持っていることは、ブレなく進めるための必須条件と言ってもいいだろう。僕自身デザイナーとして、デザインコンセプトをクライアントと一緒につくることが多いので、さらにその精度を上げたいと考え、本書にたどり着いた。

重要なことはすべて前半に詰まっており、なかでも機能するコンセプトの条件、コンセプトと似て非なるもの、はいつでも取り出せるようにしたいと思った。

機能するコンセプトの条件
・「顧客目線」で書けているか
・「ならでは」の発想あるか
・「スケール」は見込めるか
・「シンプル」な言葉になっているか
コンセプトと似て非なるもの
・コンセプトはキャッチコピーではない
・コンセプトはアイデアではない
・コンセプトはテーマではない

面白いのは、コンセプトを作る過程でインサイト型ストーリー、ビジョン型ストーリーという二つのストーリーづくりを取り入れている点である。インサイト型ストーリーは次の4つのCでコンセプトを語る物語を作ることである。

  • Customer インサイト
  • Competitor 競合
  • Company 自社だけのベネフィット
  • Concept 新しい意味

具体的には次のようになるという。

  • 1 昔々あるところに、xxで困っている生活者がいました。
  • 2 しかし、世界中の誰も助けることができません。
  • 3 そこで、◯◯は自らの特殊な力を使って手を差し伸べました。
  • 4 つまり、□□という解決策によってユーザーは救われたのです。

コンセプトは非現実的になりかねないので、競合、消費者を交えた文章にするこの手法は取り入れたいと思った。ビジョン型ストーリーの冒頭では混乱しがちなミッションとビジョンを定義している。

  • MISSIONとは 組織が担い続ける社会的使命
  • VISIONとは 組織が目指すべき理想の未来

もう一つのわかりやすい説明として、それぞれ、創業、現在、未来と時間軸を用いて次のようにも説明している。

  • MISSION なんのために生まれたか?(創業)
  • CONCEPT いま、なにをつくるのか?(現在)
  • VISION なにを目指すのか(未来)

以降は良いコンセプトの作り方をさまざまな手法とともに説明している。どれも読んだだけだとわかった気になってしまうので、早速自分が関わる組織や活動に対して実践してみたい。

【楽天ブックス】「コンセプトの教科書」
【amazon】「コンセプトの教科書」

「臨場」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
殺人事件が疑われる場所へ臨場する検視官のなかでも、多くの警察関係者から一目置かれ「終身検視官」と呼ばれる倉石義男(くらいしよしお)が、その洞察力で事件の真相を見抜いていく。

本書は8編の短編から構成されているが、共通しているのは死亡事件が発生し、検視官の倉石(くらいし)が真相の解明に重要な役割を担うことだろう。

8編の短編集というと一冊の本としては物語の数がやや多い。物語の数が多ければそれぞれの内容が薄くなりそうな気もするが、横山秀夫の手にかかるとページ数など関係ないことがわかる。少ないページ数に登場する、被害者、捜査官、新聞記者、いずれもそれぞれの人生がしっかり描かれることに驚かされる。

元々「クライマーズ・ハイ」や「ルパンの消息」「ノースライト」「64」など著者の作品には好きな作品が多いが、改めて、有名ではない作品も含めて横山秀夫作品は全部読まないとならないと感じた。

【楽天ブックス】「臨場」
【amazon】「臨場」

「しろがねの葉」千早茜

しろがねの葉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第168回(2023年)直木賞受賞作品。両親とはぐれたウメは銀の採掘で栄えていた石見で喜兵衛(きへい)のもとで生きることとなる。

石見で少しずつ大人になっていくウメの様子を描く。子供の頃は周囲の子供たちと同じように、大人たちをみてやがて銀山で働く人間になろうとする。しかし、成長するに従って、自分が女であり、石見では男と女の生き方は大きく異なることに気づいていく。男は多くの銀を掘り当てることて周囲からの尊敬を集めるが、その過酷な労働環境から長くは生きられない。一方、女は労働力となる男をたくさん産むことを求められ、夫が早死にすれば、またべつの夫と再婚して子供をもうけることを求められるのである。

そんな環境でウメは、幼い頃は喜兵衛(きへい)のもとで銀の採掘に関する多くのことを学びながらも、やがて、幼馴染の隼人(はやと)の妻となって多くの女性と同じように生きることとなる。

石見銀山については地理も歴史もほとんど知識がなかったので新鮮ではある。一方で、一人一人の登場人物、特にウメ、喜兵衛(きへい)、隼人(はやと)などの生き方や考え方をもっと深掘りできたら、もっと良い作品になったのではないだろうか。

【楽天ブックス】「しろがねの葉」
【amazon】「しろがねの葉」

「あなたの才能も一気に開花 プロだけが知っている小説の書き方」森沢明夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
小説家の著者が小説の書き方を語る。

最近小説を書いてみようかと思い立って、書き始めたのだが、予想以上に難しい。特に自分の体験は比較的書けるにもかかわらず、女性の登場人物が難しい。少しでもヒントがあればと思い本書を手に取った。ちなみにこの著者の作品には触れたことがないので、面白い小説なのかどうかもわからない。

本書は作家を志す人々からの質問に答える形で、著者の考え方を解説している。特にどれかの項目が印象的だったわけではないが、なんとなく行き詰まった時に何をすべきか掴めた気がする。

また、詰まった時にこのような本に触れたいと思った。

【楽天ブックス】「あなたの才能も一気に開花 プロだけが知っている小説の書き方」
【amazon】「あなたの才能も一気に開花 プロだけが知っている小説の書き方」

「Chatter 頭の中のひとりごとをコントロールし、最良の行動を導くための26の方法」イーサン・クロス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
内省という素晴らしい行動を呪いに変えてしまうチャッターを、良い方向に導く方法について語る。

本書では「循環するネガティブな思考と感情」をチャッターと呼び、その特徴や制御するための方法を語っている。昨今、人間の幸せは、持っている物の量やお金の量よりもむしろその人のマインドセットに依存する、というのはよく聞く話である。しかし、ではどんなマインドセットを持てばいいのかどのようにしてそのマインドセットを育てればいいのか、という点においてはなかなか明確な指針がない。本書はそんなニーズに応えた構成となっている。

基本的な解決策は、自分から距離を置いて状況を客観的に見ること、であり、その手法についてさまざまな説明や関連する話と合わせて説明している。

僕自身は比較的客観的に自分を見つめることが得意な人間だと自負しているが、本書によるとそれは必ずしもそれはいいことばかりでないらしい。特に嬉しい時などは自分を客観視している人間は、自分に埋没している人ほど素直に喜べないのだと言う。

ラファエル・ナダルが試合中に重視するさまざまな儀式の重要性など、関連する物語も面白かった。末尾にチャッターを制御するための26の方法が掲載されているので、チャッターに振り回されそうになった時のために覚えておきたい。

自分だけで実践できるツール
1.距離を置いた自己対話を活用しよう。
2.友人に助言していると想像しよう。
3.視野を広げよう。
4.経験を試練としてとらえ直そう。
5.チャッターによる身体反応を解釈し直そう。
6.経験を一般化しよう。
7.心のタイムトラベルをしよう。
8.視点を変えよう
9.思ったままを書いてみよう。
10.中立的第三者の視点を取り入れよう
11.お守りを握りしめる、あるいは迷信を信じよう。
12.儀式を行なおう。
チャッターに関する支援を与えるためのツール
1.感情・認知面のニーズに応えよう。
2.目に見えない形で支援しよう。
3.子供にはスーパーヒーローになりきってみようと言おう。
4.愛を込めて(敬意も忘れずに)触れよう。
5.他の誰かのプラセボになろう。
チャッターに関する支援を受けるためのツール
1.顧問団をつくろう。
2.体の触れ合いを自分から求めよう。
3.愛する人の写真を眺めよう。
4.儀式を誰かと一緒に行おう。
5.ソーシャルメディアの受動的使用を最小限にしよう。
6.ソーシャルメディアを利用して支援を得よう。
環境に関わるツール
1.環境に秩序を作り出そう。
2.緑地をもっと活用しよう。
3.畏怖を誘う経験を求めよう。

【楽天ブックス】「Chatter 頭の中のひとりごとをコントロールし、最良の行動を導くための26の方法」
【amazon】「Chatter 頭の中のひとりごとをコントロールし、最良の行動を導くための26の方法」

「存在のすべてを」塩田武士

オススメ度 ★★★★★ 5/5
1991年厚木と山手で同時発生した男児誘拐事件、厚木の被害者は直後に無事保護され、山手の被害者は3年後祖母の家に戻ってきた。時効を過ぎた2021年、新聞記者の門田次郎(もんでんじろう)が空白の3年間を追う。

物語は誘拐事件を担当していた刑事中澤(なかざわ)の死をきっかけに、空白の3年間を追うことを決意した新聞記者の門田次郎(もんでんじろう)と、もう一方で画廊を経営する30代の女性土屋里穂(つちやりほ)の視点で進む。

誘拐事件の被害者だった内藤亮(ないとうりょう)は現在は著名な写実画家として成功をしており、高校時代は里穂(りほ)と同級生だったのである。週刊誌で報道された同級生の近況に触れて、里穂(りほ)は過去の甘い想いに思いを馳せるのである。

並行して、門田次郎(もんでんじろう)の調査によって少しずつ誘拐事件の空白の3年間が明らかになっていく。誘拐事件と空白の3年間に対して沈黙を続ける内藤亮(ないとうりょう)との間に、一人の写実絵画家の存在が浮かび上がっていく。古い体質の美術界で大成することのできなかった才能の持ち主である彼が、一体どんな経緯を経て誘拐事件に関わることとなったのか。

その過程で写実絵画の深さや、美術界での立ち位置や、閉鎖的な美術界などが描かれる。そして次第に写実がに情熱を注ぎながらも慎ましく生きる優しい男女の姿が浮かび上がっていく。

ひさしぶりに面白い作品に出会った。登場人物がただの名前だけの存在でなく分厚い人生とともに描写されていてどの人生にも共感できる。また写実絵画という新しい世界まで見せてくれるうえに、里穂(りほ)の物語からは一途に一人の男性を想う甘い恋が描かれており、さまざまな要素を見事なバランスで一つの物語に仕上げた作品。極上の読書時間を体験させてもらった。

【楽天ブックス】「存在のすべてを」
【amazon】「存在のすべてを」