「まるまるの毬」西條奈加

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
吉川英治文学新人賞受賞作品。江戸で和菓子屋の南星屋(なんぼしや)を営む家族、治兵衛(じへい)、娘のお永(えい)、孫娘のお君(きみ)を描く。

物語は和菓子屋である南星屋(なんぼしや)を中心に進む。物語が進むに従って治兵衛(じへい)の和菓子作りだけでなく、お永(えい)の元夫との関係や、武家出身伝ある治兵衛(じへい)の過去など、家族の物語や、老舗和菓子屋との確執などにも広がっていく。

江戸時代という200年以上昔を描いているにも関わらず、人々の毎日の様子が生き生きと伝わってくる。このゆな人間のさまざまな感情を描いた時代小説に出会うと、いつの世も人間というのは変わらないのだと感じた。

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「コロナと潜水服」奥田英朗

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
5編の少し不思議な物語。

どの物語も引っ越したり、リストラされたり、閑職に追い込まれたり、コロナ禍で世の中が大きく変わったり、と人生の転機を描いている。また、それぞれの物語で少し不思議なことが起きるので、昔懐かしい「世にも奇妙な物語」のほっこり版といった印象である。

5編のうち3編が50歳前後の男性を描いているということで、僕自身と年齢が近く、必ずしも共感ではないが暖かい気持ち読むことができた。一方で特に強くお勧めするほど何か学びや新鮮な描写があるわけではない。気楽な読書を楽しみたい人にはいいかもしれない。

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「コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた」細田高広

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コンセプトとは何か、コンセプトの必要性、そしてコンセプトの作り方を語る。

昨今、コンセプトの重要性が語られることが多くなってきた。大きなビジネスから小さなプロジェクトまで、明確なコンセプトを持っていることは、ブレなく進めるための必須条件と言ってもいいだろう。僕自身デザイナーとして、デザインコンセプトをクライアントと一緒につくることが多いので、さらにその精度を上げたいと考え、本書にたどり着いた。

重要なことはすべて前半に詰まっており、なかでも機能するコンセプトの条件、コンセプトと似て非なるもの、はいつでも取り出せるようにしたいと思った。

機能するコンセプトの条件
・「顧客目線」で書けているか
・「ならでは」の発想あるか
・「スケール」は見込めるか
・「シンプル」な言葉になっているか
コンセプトと似て非なるもの
・コンセプトはキャッチコピーではない
・コンセプトはアイデアではない
・コンセプトはテーマではない

面白いのは、コンセプトを作る過程でインサイト型ストーリー、ビジョン型ストーリーという二つのストーリーづくりを取り入れている点である。インサイト型ストーリーは次の4つのCでコンセプトを語る物語を作ることである。

  • Customer インサイト
  • Competitor 競合
  • Company 自社だけのベネフィット
  • Concept 新しい意味

具体的には次のようになるという。

  • 1 昔々あるところに、xxで困っている生活者がいました。
  • 2 しかし、世界中の誰も助けることができません。
  • 3 そこで、◯◯は自らの特殊な力を使って手を差し伸べました。
  • 4 つまり、□□という解決策によってユーザーは救われたのです。

コンセプトは非現実的になりかねないので、競合、消費者を交えた文章にするこの手法は取り入れたいと思った。ビジョン型ストーリーの冒頭では混乱しがちなミッションとビジョンを定義している。

  • MISSIONとは 組織が担い続ける社会的使命
  • VISIONとは 組織が目指すべき理想の未来

もう一つのわかりやすい説明として、それぞれ、創業、現在、未来と時間軸を用いて次のようにも説明している。

  • MISSION なんのために生まれたか?(創業)
  • CONCEPT いま、なにをつくるのか?(現在)
  • VISION なにを目指すのか(未来)

以降は良いコンセプトの作り方をさまざまな手法とともに説明している。どれも読んだだけだとわかった気になってしまうので、早速自分が関わる組織や活動に対して実践してみたい。

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「臨場」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
殺人事件が疑われる場所へ臨場する検視官のなかでも、多くの警察関係者から一目置かれ「終身検視官」と呼ばれる倉石義男(くらいしよしお)が、その洞察力で事件の真相を見抜いていく。

本書は8編の短編から構成されているが、共通しているのは死亡事件が発生し、検視官の倉石(くらいし)が真相の解明に重要な役割を担うことだろう。

8編の短編集というと一冊の本としては物語の数がやや多い。物語の数が多ければそれぞれの内容が薄くなりそうな気もするが、横山秀夫の手にかかるとページ数など関係ないことがわかる。少ないページ数に登場する、被害者、捜査官、新聞記者、いずれもそれぞれの人生がしっかり描かれることに驚かされる。

元々「クライマーズ・ハイ」や「ルパンの消息」「ノースライト」「64」など著者の作品には好きな作品が多いが、改めて、有名ではない作品も含めて横山秀夫作品は全部読まないとならないと感じた。

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「しろがねの葉」千早茜

しろがねの葉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第168回(2023年)直木賞受賞作品。両親とはぐれたウメは銀の採掘で栄えていた石見で喜兵衛(きへい)のもとで生きることとなる。

石見で少しずつ大人になっていくウメの様子を描く。子供の頃は周囲の子供たちと同じように、大人たちをみてやがて銀山で働く人間になろうとする。しかし、成長するに従って、自分が女であり、石見では男と女の生き方は大きく異なることに気づいていく。男は多くの銀を掘り当てることて周囲からの尊敬を集めるが、その過酷な労働環境から長くは生きられない。一方、女は労働力となる男をたくさん産むことを求められ、夫が早死にすれば、またべつの夫と再婚して子供をもうけることを求められるのである。

そんな環境でウメは、幼い頃は喜兵衛(きへい)のもとで銀の採掘に関する多くのことを学びながらも、やがて、幼馴染の隼人(はやと)の妻となって多くの女性と同じように生きることとなる。

石見銀山については地理も歴史もほとんど知識がなかったので新鮮ではある。一方で、一人一人の登場人物、特にウメ、喜兵衛(きへい)、隼人(はやと)などの生き方や考え方をもっと深掘りできたら、もっと良い作品になったのではないだろうか。

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「Nightcrawling」Leila Mottley

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
父が亡くなり、母もいなくなった家庭で、兄のMarcusと生活をする17歳のKiaraの様子を描く。

Kiaraは兄のMarcusとともに生活していたが、家賃の値上げをきっかけに、アルバイトを探し始める。兄のMarcusは音楽家になる夢を捨てられずに仕事が続かないことから、やがてKiaraは自分の体を売ることとなる。そして少しずつ、大きな売春へと関わることとなっていく。

これまであまり黒人女性を描いた物語に触れたことがなかったので新鮮だった。Kiaraが自分や友人のために少しずつ体を売る生活をせざるを得なくなる点が印象的で、映画などで見る白人の豊かな生活はアメリカ社会の一部でしかないのだと感じた。あまり描かれることのないアメリカの貧困層の生活を知ることができるだろう。

英語新表現
neighborhood staple 近所になくてはならない存在
zip-tie 結束バンドで結ぶ
take a beat 一拍置く、少し間を置く
tug-of-war 綱引き