
★★★★☆ 4/5
京都で暴動が発生したは霊長類研究に起因するものだった。霊長類研究者の鈴木望(すずきのぞむ)が暴動を止めるために奔走する様子を描く。
物語は京都で発生した暴動と、そこに至るまでの京都の霊長類研究所の周辺で起こった出来事や関係者の間でのやりとりなどを交互に行き来しながら展開していく。
鍵となるのが類人猿だけが身につけた自己鏡像認識という能力である。鈴木望(すずきのぞむ)は自己鏡像認識が人類の言葉の発展の鍵と捉え、霊長類研究に情熱を注ぐのである。そんななか研究のためにアフリカから傷ついたチンパンジーを輸送したことから不測の事態へとつながっていく。
やがて不幸な出来事の連鎖により人間同士の暴動へとつながっていく。集団感染を世間が警戒する一方、現場近くにいた鈴木望(すずきのぞむ)は集団感染ではないとしながらも証拠なしに動かない国家のために自ら原因を特定しようとするのである。
正直物語のスピード感はそれほどではないが、どこまでが本書に限ったフィクションなのかがわからなくなるほど霊長類や人類の進化に関する科学的な視点を多くもたらしてくれる。そもそもApeとMonkeyの違いを知らなかった。Monkeyは猿だが、Apeの日本語訳は類人猿なのであり、映画「猿の惑星」は翻訳の都合から猿になっただけで、英語タイトルはThe Planet of Apesで、猿ではなく類人猿とするのが正しいのだという。
久しぶりの理系小説である。「パラサイト・イヴ」のような物語と同時に科学の世界に引き込まれるような楽しさを味わせてもらった。理系読者は存分に楽しめるのではないだろうか。
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