「君のクイズ」小川哲

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
早押しクイズ大会の決勝戦で不可解な解答によって破れたは、クイズ関係者から上がるヤラセ疑惑を解明しようとする。

本書はクイズに人生を賭ける三島玲央(みしまれお)が、タレントである本庄絆(ほんじょうきずな)に早押しクイズ大会の決勝戦で敗れることから始まる。最後の問題は、問題文が読まれる前に本庄絆(ほんじょうきずな)がボタンを押して正解をしたことから、クイズ関係者のなかではタレントを勝たせたいという番組によるヤラセ疑惑が浮上したのである。

そんななか三島玲央(みしまれお)は冷静にその番組を見返してヤラセ以外の説明ができないか分析していく。その過程でクイズの実情が見えてくる。クイズでは、知識の量を競っているわけではなくクイズの強さを競っており、クイズに強い人はそのための技術や駆け引きを常に駆使しているのである。

正直感情移入できるような登場人物は一人もいない。ただクイズを扱った稀有な作品であり、新たな世界に目を向けてくれる点では一読の価値ありである。

【楽天ブックス】「君のクイズ」
【amazon】「君のクイズ」

「インフレーション宇宙論」佐藤勝彦

★★★☆☆ 3/5
宇宙の始まりに関するインフレーション理論について説明する。

宇宙の物語について少しでも理解したくて、宇宙論や量子論に関する本を読んでおり、本書にもその過程で出会った。

本書ではビッグバン理論までの流れとビッグバン理論の矛盾を説明し、その後インフレーション理論を説明していく。
相変わらず想像上の話が多く理解しずらいが、インフレーション理論とはそれまでのビッグバン理論を否定するものではなく、ビッグバン理論では説明できないビッグバン理論以前の宇宙を説明する理論、つまり捕捉する理論であることがわかった。

相変わらず読めば読むほどわからない考えや理論が溢れてくることに圧倒される。暗黒物質、暗黒エネルギー、真空のエネルギー、グレートウォール、力の統一論など、引き続き知識を深めていきたいと思った。

【楽天ブックス】「インフレーション宇宙論」
【amazon】「インフレーション宇宙論」

「THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法」ダニエル・コイル

★★★★☆ 4/5
優れたパフォーマンスを発揮するチームを作る方法をさまざまな実例とともに説明する。

昨今は心理的安全性などが多くの組織で語られるように、単純に優れた人間を集めただけでは組織は最高のパフォーマンスを発揮できないことはわかっているだろう。しかし、実際にそのような組織を作るのは簡単ではない。著者ダニエル・コイルは才能を育てることをテーマにした「The Talent Code」が印象的だったので、本書も組織作りに関しての新たな視点をもたらしてくれることを期待して手に取った。

本書は3つの章から成る。

  • 安全な環境をつくる
  • 弱さを共有する
  • 共通の目標を見る

一部の人間には「弱さを共有する」というのは新鮮かもしれないが、自分にとってはむしろこの言葉がこれまであまり語られてこなかったのが不思議なくらいである。本書ではチームのパフォーマンスは次の5つの要素の影響を受けるとしている。

  • 1.チームの全員が話、話す量もほぼ同じで、それぞれの1回の発言は短い
  • 2.メンバー間のアイコンタクトが盛んで、会話や伝え方にエネルギーが感じられる
  • 3.リーダーだけに話すのではなく、メンバー同士で直接コミュニケーションを取る
  • 4.メンバー間で個人的な雑談がある
  • 5.メンバーが定期的にチームを離れ、外の環境に触れ、戻ってきた時に新しい情報を他のメンバーと共有する

全体的に違和感ないが、それぞれ1回の発言の短さの重要性に触れている点が印象的である。つまり、中心人物が長々と演説をしているようではチームは育たないということだ。

最後の共通の目標を見るの章では、ジョンソン&ジョンソン、ピクサー、チャータースクールKIPPなどのさまざまなエピソードと共に、組織内で優先することを言葉として繰り返すことの重要性を伝えている。どんな組織でも使えそうな印象的な言葉がたくさんあったので、ここに挙げておきたい。

  • 問題を愛する
  • 門番ではなく使者になれ
  • 自分より賢い人を雇う
  • すべての人のアイデアを聞く

期待した通りいろいろな気づきを与えてくれる作品。会社だけでなく家庭でも今日から実践できることばかりである。一方で、リモートワークが普及する中で、これをオンラインで実現するにはどんな方法があるか、まだまだ試行錯誤が必要だと感じた。

【楽天ブックス】「THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法」
【amazon】「THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法」

「THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す」アダム・グラント

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
考え直すこと、つまり既存の考えを見つめ直すことの重要性とその方法を語る。

著者アダム・グラントは「GIVE & TAKE」が有名な著者である。いつも刺激的な視点をもたらしてくれるので本書も同様に新たな考えを風をもたらしてくれることを期待して手に取った。

本書では、知的柔軟性の重要性をテーマに、新たな考えを受け入れること、周りの人に再考を促す方法、学び続ける組織を創る方法について順を追って説明している。

知的柔軟性を妨げているのは自分の予期するものを見る確証バイアスと、自分の見たいものを見る望ましさバイアスであり悪い流れと良い流れを過信サイクル再考サイクルとして次のように説明している

過信サイクル
自尊心→確信→確証バイアス&望ましさバイアス→是認
再考サイクル
謙虚さ→懐疑→好奇心→発見

また、学び始め直後に訪れる根拠のない自信をマウント・スチューピッドと表現しているのも面白い。全体的に改めて自分が過信サイクルに陥っていないで学び続けているかを考え直すきっかけとなった。

中盤の周りの人に再考を促す方法の話は、自分にとっては耳が痛い話ばかりである。

「完璧な論理」と「正確なデータ」だけでは人の心は動かない

解決策を言うべきではない、相手に寄り添わなければならない、など言われることは多々あるが実際にどうすればいいかがわからない人は多いのではないだろうか。悪い動機づけとして16項目挙げておりどれも興味深く、自分がやってしまった出来事にかぎらず、他者から受け取った行為も含めると身に覚えのあるものばかりである。

  • 当人のせいにしようとする
  • 説教する
  • 当人の意見を退ける
  • 恥入りさせる
  • 何をすべきか指示する
  • 支援しない
  • 当人の気持ちを気にかけない
  • 受動的攻撃
  • 愛情を示さない
  • 品位を傷つける
  • 当人の主張に耳を貸さない
  • 尊敬を示さない
  • 脅しの作戦をとる
  • 怒鳴る
  • 操作する
  • 小バカにする

本書の中には人に再考させるための多くの助言があるが、簡単な実践例としては、自分の考えを一才語らずに、相手の考えを語らせるということだろう。早速妻や子供相手に実践してみたいと思った。

そして、最後の学び続ける組織を創る方法では、心理的安全性について触れている。心理的安全性について「恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」など、昨今そこらじゅうで語られているので、良い復習の機会となった。

【楽天ブックス】「THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す」
【amazon】「THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す」

「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」」吉田満梨/中村龍太

★★★★☆ 4/5
優れた起業家が実践するとされる手法であるエフェクチュエーションについて語る。

変化の早い現代において、不確実性への対処が必須となっており、世の中の多くの人や組織やそんな不確実性への対処に頭を悩ませている。その手法として一般的なのが、目的の定義と市場の分析から入る手法である。本書ではそのような手法をコーゼーションと呼んでおり、もう一つの選択肢としてエフェクチュエーションを提案するとともに説明していく。

エフェクチュエーションとは簡単に説明すると、自分の持っている資源を活用して小さく始めていく、ということである。本書では5つの原則として、つぎの項目を挙げ、続く章でそれぞれの詳細について説明している。

  • 手中の鳥の原則 「目的主導」ではなく、既存の「手段主導」で何か新しいものを作る
  • 許容可能な損失 機体利益の最大化ではなk、損失(マイナス面)が許容可能化に基づいてコミットする
  • レモネードの原則 予期せぬ事態を避けるのではなく、むしろ偶然をテコとして活用する
  • クレイジーキルトの原則 コミットする意思を持つ全ての関与者と交渉し、パートナーシップを築く
  • 飛行機のパイロットの原則 コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる

小さく始めるという点においてはリーンスタートアップなどにも共通しているが、目的や理想に縛られることなく、動きやすい範囲で動いていくというのは、かなり取り組みやすい現実的なアプローチに感じた。注意すべきはコーゼーションのアプローチを否定しているわけではなく、重要なのは使い分けや二つのバランスであるということである。

コーゼーション方向に寄りすぎている考え方の人にとっては大きな気づきとなるだろう。

【楽天ブックス】「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」」
【amazon】「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」」

「コーチング思考」五十嵐久

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
経営者専門のコーチである著者がコーチングの重要性と考えを語る。

年齢を重ねると若い頃のようにさまざまなことを指摘してもらう機会が減ってくるし、どうしても決まった考え方に流れがちである。そういう意味ではコーチングが重要であることは明確なのだが、コーチをつけた経験もないので、実際それがどんなものなのだかがわからない。同時に、むしろ自分自身が妻や子供、同僚への良いコーチになりえるなためのヒントが得られるのではないかと感じてこちらに辿り着いた。

コーチングにおいて重要な考え方のいくつかを箇条書きにしてくれている点がありがたい。例えば次のような項目である。

コーチャビリティを伸ばす「SPACE」
・自分を知っている(Sele-Awareness)
・情熱がある(Passion)
・当事者意識がある(Accountability)
・好奇心旺盛である(Curiosity)
・実行力がある(Execusion-Ability)

本書ではコーチャブルな人間としてこの項目を書いているが、成長を続けられる人の特徴とも言える。常に自分がSPACEであるか意識したいと思った。

なかでももっとも印象的だったのが、成功の循環モデルというものである。

成功の循環モデル
・関係性の質
・思考の質
・行動の質
・結果の質

世の中には良いサイクルと、悪いサイクルがあり良いサイクルは関係性の質の改善から取り組むのに対して、悪いサイクルは結果の質を改善しようと取り組むとしている。これこそまさに、世の中のうまくいっていない企業や人間関係を端的に表していると感じた。

全体的に日本の本屋にあふれている余白だらけでどこかで聞いたような話の寄せ集めのような内容の薄い本に見えたが、読んでみると初めて聞く話など印象的な内容もあった。

【楽天ブックス】「コーチング思考」
【amazon】「コーチング思考」

「コロナ漂流録 2022の銃弾の行方」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
コロナの感染者数が増える中、前首相が手製の銃で狙撃される。コロナ禍の東城医大を中心に政治や社会の様子を描く。

コロナ三部作の三作品目である。前二作品と同様に、実際の出来事にかなり忠実に描かれているので、前首相の狙撃などは描かれているものの、読者の想像を超えるような物語の大きな動きは少ない。一方で中抜きのために税金を大量に投入してつくったコロナアプリや、ワクチンの補助金を受け取りつつワクチン開発を断念した企業の問題など、今まで御用メディアが報じない政治の深刻な問題に目を向けてくれる。

随意契約で四億円、問題が発覚した後の再委託が三億五千円、総額七億五千万円の税金を投入して開発されたアプリは、不具合が次々に噴出して機能不全になっていた。
しかも支払いは中抜きに次ぐ中抜きで、実際に開発した下請け会社に渡ったのはたったの四百万円だったというのだから、呆れて物が言えない。

上場以来二十年、株式市場から資金調達を続けながらも一度も黒字化していない製薬会社で、ワクチン開発実績ゼロのベンチャーに百億円以上も補助金をだすなんて決めやがったのは、一体どこのどいつだよ

結果として国への大きな失望感を感じるとともに、一人の国民として行動をしなければならないという危機意識を再認識させられた。そしてまた、世の中の動向を知るにはテレビだけでは不十分どころかむしろ危険で、多方面の視点から描かれた感想や物語に触れるのが一番だと感じた。

【楽天ブックス】「コロナ漂流録 2022の銃弾の行方」
【amazon】「コロナ漂流録 2022の銃弾の行方」

「Ank:a mirroring ape」佐藤究

★★★★☆ 4/5
京都で暴動が発生したは霊長類研究に起因するものだった。霊長類研究者の鈴木望(すずきのぞむ)が暴動を止めるために奔走する様子を描く。

物語は京都で発生した暴動と、そこに至るまでの京都の霊長類研究所の周辺で起こった出来事や関係者の間でのやりとりなどを交互に行き来しながら展開していく。

鍵となるのが類人猿だけが身につけた自己鏡像認識という能力である。鈴木望(すずきのぞむ)は自己鏡像認識が人類の言葉の発展の鍵と捉え、霊長類研究に情熱を注ぐのである。そんななか研究のためにアフリカから傷ついたチンパンジーを輸送したことから不測の事態へとつながっていく。

やがて不幸な出来事の連鎖により人間同士の暴動へとつながっていく。集団感染を世間が警戒する一方、現場近くにいた鈴木望(すずきのぞむ)は集団感染ではないとしながらも証拠なしに動かない国家のために自ら原因を特定しようとするのである。

正直物語のスピード感はそれほどではないが、どこまでが本書に限ったフィクションなのかがわからなくなるほど霊長類や人類の進化に関する科学的な視点を多くもたらしてくれる。そもそもApeとMonkeyの違いを知らなかった。Monkeyは猿だが、Apeの日本語訳は類人猿なのであり、映画「猿の惑星」は翻訳の都合から猿になっただけで、英語タイトルはThe Planet of Apesで、猿ではなく類人猿とするのが正しいのだという。

久しぶりの理系小説である。「パラサイト・イヴ」のような物語と同時に科学の世界に引き込まれるような楽しさを味わせてもらった。理系読者は存分に楽しめるのではないだろうか。

【楽天ブックス】「Ank:a mirroring ape」
【amazon】「Ank:a mirroring ape」

「球界消滅」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本のプロ野球が4球団に縮小され、アメリカのメジャーリーグとの統一リーグとなることとなった。プロ野球の関係者たちはプロ野球の未来と自分の立場を憂いながらも大きな変化に適応しようとする。

選手、ファン、監督などさまざまなプロ野球関係者の視点から、日本のプロ野球とメジャーリーグ(以下MLB)の統合の動きを追っていく。もっとも興味深いのは大野俊太郎(おおのしゅんたろう)という20代の青年だろう。彼はファンタジーベースボールという実際のプロ野球のデータをもとに競うゲームで優勝者となったことから日本の球団の副GMという仕事にたどり着いたのである。「マネーボール」のような緻密な分析を日本のプロ野球に取り込んだことでチームの成績を上げたにも関わらず、プロ野球とMLB統合という大きな波に飲まれていくのである。

日本のプロ野球とMLBとの統合という考えは、サッカー界が国をまたいだ大会によって大きな成功を収めていることを考えると、現在の閉鎖的なプロ野球でありかつ人口減少が止まらない日本における解決策としては興味深い。しかし、細かいルールの違い、チームが抱える選手数の違い、移動距離の問題、など、実際に実現しようとなると克服しなければならないさまざまな障害があるのである。本書はそれぞれの登場人物の物語とともにさまざまな問題を取り上げていく。

物語として面白いかどうかは別として、プロ野球にかぎらずスポーツビジネスに興味がある人は楽しめるだろう。個人的に興味を持ったのが、アメリカで最も人気のあるスポーツアメリカンフットボールのビジネスモデルである。年間1チーム20試合に満たない試合数でこれほど成功するスポーツの秘訣は一体なんなのか、今年のシーズンは興味を持って見てみたいと思った。

面白く描いたスポーツのビジネス書として捉えるとちょうどいいかもしれない。

【楽天ブックス】「球界消滅」
【amazon】「球界消滅」