「The Starless Sea」Erin Morgenstern

The Starless Sea

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
大学の図書館で不思議な本と出会ったZacharyは、その本のなかに自分自身が描かれていることを知り、その本の秘密に迫っていくこととなる。

前半は大学生のZacharyが図書館でSweet Sorrowsという、蔵書記録のない本と出会う。Zacharyは子供の頃家の近所にドアの絵が描かれていたにも関わらず、そのドアを開けないとい選択をしたことが強く記憶に残っており、その出来事がSweet Sorrowsに描かれており、またその主人公の親もZacharyの親と同様に占い師であることからSweet Sorrowsが描かれた理由を探し始めるのである。

やがてZacharyはわずかな手がかりからStarless Seaの世界へと入り込んでいくこととなる。

前半の壁に描かれたドアの描写などは久しぶりに出会った面白いファンタジーの入り口のようで期待感高まったが、中盤以降は登場人物たちが物語のなかを彷徨っている様子をひたすら描いているだけなのでかなり焦れて退屈だった。自分の好みには合わなかったが、このような物語が好きな人もきっといるだろう。日々忙しい人よりも、ゆっくりとした時間のなかで過ごしている人向きの物語である。

英語新表現
she took it upon oneself to 自ら進んで~することを課す
bail on A Aとの約束をすっぽかす
waxing moon 上弦の月
waning moon 下弦の月
lunar new year 旧正月
collect oneself 気を落ち着ける
spot on 正しい、どんぴしゃりである

「Aではない君と」薬丸岳

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第37回(2016年)吉川英治文学新人賞受賞作品。建設会社で働く吉永圭一(よしながけいいち)は14歳の息子の翼(つばさ)が、同級生の殺害の容疑で逮捕されたことを知る。

物語は離婚して、息子が大きくなるとともに少しずつ疎遠になっていった息子が、同級生の殺害の容疑で逮捕されたことで、息子との絆を取り戻そうとする父親吉永圭一(よしながけいいち)の様子を中心に描く。

息子は本当に同級生を殺害したのか、そこにはどんな理由があったのか、離婚して以来、家族と疎遠になっていたからこそ息子を心の底から信じきれない吉永(よしなが)の言動が痛々しい。

また、中盤以降翼(つばさ)は少しずつ真実を口にしはじめる。加害者だけでなく、殺害された少年の父親すら真実を封印したくなる出来事が明らかになっていく。

心を殺すのは許されるのにどうしてからだを殺しちゃいけないの?

少年犯罪を扱った作品はこれまでにも何度か出会ったが、本書はより親として立場に焦点をあてている。一人の親として改めて、子供たちの窮地にどのように行動すべきか、正解のない問いを突きつけられた。

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「メタバース未来戦略」久保田瞬/石丸尚也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
メタバースについての現状と起こりうる未来を説明している。

メタバース議論のなかでつねに発生するのが15年以上前に同様の考えで広まったSecondLifeである。僕自身SecondLifeを時間をかけて楽しんだ人間なので、メタバースが実現しようとしている世界だけでなく、その限界も一般の人よりもわかっているつもりではいるが、よりその認識の精度を上げたくて本書を読むに至った。

SecondLifeとの違いとして、技術や通信速度の向上による違いはよく言われることだが、メタバースにおいては、モデリングの技術の発達も大きな成功を予感させる要因だという。つまり現実の世界をスキャンしてメタバース上に複製することが比較的簡単にできるのだという。SecondLifeで人々がやっていたように、世界の有名な場所を一生懸命作り上げる必要はないのである。

本書自体すでに出版から3年経っており、いつのまにかメタバースという言葉が話題に上がることも少なくなってきた。読みながら、本書で触れられているHorizonWorldなどのメタバースアクセスを試みるが限られた地域でしかアクセスできないとのことである。本書の出版からあまりメタバース世界に大きな進歩はないようだ。

進歩が滞っている理由はわからないが、一時期の熱が冷めて、世間のメタバースへの見方は冷静になっていくだろう。改めてクリエイターとしてまた一人のユーザーとしてどのような使い道があるのか考えるきっかけとなった。

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「ELEVATE 自分を高める4つの力の磨き方」ロバート・クレイザー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自分を高める4つの力について順を追って説明している。

自分を高める4つの力を精神のキャパシティ、知性のキャパシティ、身体のキャパシティ、感情のキャパシティとしてそれぞれを章ごとに説明している。身体のキャパシティ以外の3つが若干区別しずらいが、日本語では目的、知識、健康、心構え、という言葉で語られることが多い。

印象的だったのは感情のキャパシティの章で触れられていた、人の心に変化を起こすとする次の公式である。

心のつながり+挑戦=変化

改めて、人や世の中を良い方向に変化させるためには、適度なつながりを構築する必要があることを感じた。

それぞれの章の冒頭に格言が書かれているのが興味深い。印象深かったものを挙げると次の2つである。

心の姿勢が正しい人が目標を達成するのを阻止することができる者は存在しないし、
心の姿勢が間違っている人を助けられる者もこの世には存在しない
自分が若いときにいてほしかった人になれ

ページ数も少ないうえに余白も多く、内容も引用や本やWebサイトの紹介が多く、値段に見合うほど中身の濃い本とは言えない。1時間程度で読み終わってしまうような内容なので、学べる点をなにがなんでも見つけようとか、紹介されている本やサイトをすべて見てみよう、など強く意識しない限り意味のある読書にはならないだろう。

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「Artemis」Andy Weir

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人類が月面の都市で生活をするなか、配達をして生計を立てる女性Jazzを描く。

序盤は月面での生活を詳細に描いていく。重力が少ないゆえに起きる出来事や、都市の機能が未発達ゆえに起きる治安上の問題など、しっかり科学的に説明していく点が著者Andy Weirらしい。

やがて、月面生活の中で少しでも理想の生活を手に入れたいとお金を稼ぐことに勤しむJazzに、危険な仕事を持ちかけられたことから物語は大きく動いていく。そしてやがれそれは月面都市全体の未来を守る使命へと発展していく。

"Artemis" by Andy Weir

Jazzの父親が製錬工の職人であり、Jazz自身も十代の頃には一緒に仕事をしたことがあるだけに、そんな親子の仲違いや絆も描かれる点も面白い。

普通にいろいろ興味深く物語としても楽しめるが、やはり前作「Project Hail Mary」が想像を超えた面白さだったせいで、期待値が上がってしまっているのを感じる。残念ながらそれを超えるほどのものではない。

英語新表現
tourist trap 観光客向けの罠
foot trafic 歩行者交通量
make a stand 断固として抵抗す
hit on people 人々を口説く
in red tape お役所仕事、形式的で非効率な仕事
five by five 音声の大きさと明確さが最高レベル
conk out 意識を失う
take a sniff かぎまわる
cardiac arrest 心停止

「行動経済学が最強の学問である」相良奈美香

オススメ度 ★★★★☆ 3/5
アメリカで行動経済学を専門とする著者が体系的に行動経済学を説明する。

最近の日本の書籍の傾向なのか、内容をわかりやすくするだけではなく、間引いているように見える。本書もその一つで、本書の中でも触れられていて同じく行動経済学を扱った「ファスト&スロー」や「予想通りに不合理」などと比較すると内容が薄いように感じる。

本書で新鮮だったのは、行動経済学という新しい分野を体系化しようと試みている点である。本書では認知のクセ、状況、感情という3つのカテゴリに分けて説明しようとしている。

認知のクセ
・計画の誤謬
・真理の錯誤効果
・快楽適応
・自制バイアス
・システム1vsシステム2
・ホットハンド効果
・身体的認知
・確証バイアス
・概念メタファー
・メンタル・アカウンティング
・解釈レベル理論
・非流暢性
状況
・フレーミング効果
・おとり効果
・ナッジ理論
・アンカリング効果
・プライミング効果
・系列位置効果
・感情移入ギャップ
・単純存在効果
・パワー・オブ・ビコーズ
・情報オーバーロード
感情
・アフェクト
・ポジティブ・アフェクト
・ネガティブ・アフェクト
・心理的コントロール
・拡張-形成理論
・不確実性理論
・心理的所有感
・境界効果
・目標勾配効果
・キャッシュレス・エフェクト

行動経済学関連の書籍を数冊程度読んだことがある読者にとっては、いずれも聞いたことばかりある事柄だろう。しかし、それぞれの事象を命名している点がありがたい。組織のなかに浸透させるためには、いちいち事象を説明するのではなく、簡潔な言葉を共通言語として繰り返し使うに越したことはない。自然と言葉が出てくるようにしたいと思った。

全体的には上に書いたように、体系化と言語化に努めている点のみに新しさを感じた。

昨今「・・が9割」や「・・が最強の・・である」など似たようなタイトルが目立っている。売れるための手法なのかもしれないが、売ることだけを目的とした大層なタイトルは、内容が伴わなければ失望感の方が大きく、結果的に出版社や著者の信用を傷つけることにしかならない。長期的には出版側にとっても読者側にとってもマイナスであることに気づいてほしい。

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「Las herederas de la Singer」Ana Lena Rivera

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1930年代から2010年代まで、フランコ政権からコロナ禍までのスペインの女性の生き方をAurora, Áqueda, Ana, Albaという四世代の女性を中心に描く。

四世代の女性の視点を何度も行き来しながら物語は進む。1940年代は石炭産業が盛んで、表向きは男性しか炭鉱に入ることを許されないというなか、Auroraは購入したミシンで、徐々に服飾の道で生計を立てていく。

Las herederas de la Singer

娘のÁquedaはAuroraの立ち上げた服飾の業務をさらに発展させていく。1990年代のその娘のAnaは、大企業の息子と結婚したことから、裕福な生活を送ることができたが、姑との関係や拒食症など、貧困とは別の悩みに苦しむこととなる。

21世紀を生きるさらにその娘のAlbaは同性愛者であることで生きにくさを感じながらも、女性や社会のためにできることを模索し続ける。

少しずつ改善してはいるものの、いずれの世代も男性中心の世の中で生きづらさを感じる女性の人生が描かれている。そんななか、Auroraの時代は必死で自分が生き抜くことを考えていたにもかかわらず、Albaの時代は他者への貢献に人生の目的を置いている点が興味深い。

スペイン人にとっては常識となっている大きな出来事が物語中に取り入れられているようだ。日本人にとっての、東日本大震災や地下鉄サリン事件などのようなもので、スペイン人にとってはきっと過去を当時を思い出しながら懐かしさと共に物語を楽しめるのだろう。映画フォレスト・ガンプがアメリカのさまざまな歴史的出来事を取り入れているにもかかわらず日本人には少し分かりにくいように、ひとつひとつの出来事に共感するのは難しいだろう。それでもスペインの歴史に触れたいと思って本書に触れる人にはちょうどいいかもしれない。

正直、物語の展開が4人の女性の視点を行き来するだけでなく、時間としても2000年代に移ったり1930年代に戻ったりするので、物語についていくのが正直つらかった。現代と過去の2つ程度の時間軸までにして、基本的にはそれぞれの時間軸の中で過去から未来へ進んでくれたらずっと読みやすかっただろう。

スペイン語新表現
para sus adentros 心の中で
como reza el dicho よく言われるように、諺にもあるように
antecedente penal 犯罪歴
tener cabida en に居場所を作る、におさまる
por fuera 外見上は