「八本目の槍」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
16世紀後半、徳川家康が勢力を増すなか、賤ヶ岳の七本槍とよばれた豊臣家に仕える七人の武将が過去の思い出や現在の思いを語る。

賤ヶ岳の七本槍とよばれた武将たちは、羽柴秀吉が少しずつ大名として地位を向上させる過程で家臣を増やす必要があり、そこに集ってきた似た境遇の若者たちである。賤ヶ岳の戦いで7人は一気に名を広めたが、それ以降は順当に地位を上げていくものもいれば、逆に期待された活躍をできなかったものもいる。そんな少しずつ異なる道をいく7人が、豊臣家と7人の仲間であった佐吉(さきち)つまりのちの石田三成について語る、という形で物語が進む。

「八本目の槍」今村翔吾

7人はいずれも、立派な人間になることを目指して豊臣家に仕えることを選んだが、学問に秀でているものもいれば武芸に自信を持つものもいる。いずれの人生にも、佐吉(さきち)の存在が多少なりとも影響を与えており、それぞれの語る言葉からは佐吉(さきち)が、どれほど仲間を想い、どれほど先の未来を見据えていたかが伝わってくる。

最終的に佐吉(さきち)視点で物語が語られることはないが、物語全体から佐吉(さきち)、つまり石田三成に対する憧憬の念が伝わってくる。

僕ら現代の人間が遠い過去の物語に触れる時、どうしても当時の人々を若干下に見がちである。それは現代では当然のこととして知っている技術や自然現象を、当時の人々は知らなかった、など知識や情報不足によるところが大きい。しかし、本書を読むと、いつの時代にも人は、家族や未来を憂い、自分の技術や地位を周囲の人と比べ悩んだりしながら生きているのだと感じた。

今年読んだ中で最高の作品であるし、これまで読んだ江戸時代以前を舞台にした物語の中でももっとも深みを感じた作品。

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「オルタネート」加藤シゲアキ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第41回(2021年)吉川英治文学新人賞受賞作品。高校生向けSNSのオルタネートが生徒の中で広まる中、料理に情熱を注ぐ容(いるる)、高校を辞めたばかりの尚志(なおし)、オルタネートで運命の人を見つけようとする凪津(なづ)の3人を描く。

物語は都内にある円明学園という高校を中心にすすむ。料理に情熱を注ぐ容(いるる)は昨年出場した高校生向けの料理番組に今年も出場して好成績を上げるために調理部の部長として活動する。凪津(なづ)は高校生の間で普及しているSNSオルタネートを利用して運命の人を探そうとする。そして、関西で高校を辞めたばかりの尚志(なおし)は昔のバンド仲間を訪ねて円明学園を訪ねるのである。

それぞれが悩みを抱えながらも成長していく様子を描く学園青春小説である。新鮮なのはそれぞれの出会いや人間関係がオルタネートというSNSに大きく影響を受けているという点である。

僕自身はSNSの普及より前に学生時代を終えてしまったので、このようにSNSに大きく左右される学生時代の描写は新鮮である。現代の学生生活と自分の学生時代との違いを改めて考えてみるきっかけとなった。ただ、残念ながらそれ以上心に残るものはなかった。

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「Bringing Down the House: The Inside Story of Six M.I.T. Students Who Took Vegas for Millions」Ben Mezrich

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
MITで将来に悩む学生だったKevinはMITで長きにわたって存在してきたブラックジャックチームに加入することとなり、さまざまなカジノでお金を稼ぐ生活に入り浸っていく。

物語は進路に悩むMITの学生の20歳のKevinが、カードカウンティングチームに勧誘され、カジノで大金を稼ぐ様子が描かれている。

「Bringing Down the House: The Inside Story of Six M.I.T. Students Who Took Vegas for Millions

序盤は、そんなKevinがカードカウンティングの技術を学んで、カジノで仲間と協力して大金を稼ぐ様子が描かれている。

中盤以降は、少しずつカジノ側も対応してきて、次第にMITチームはカジノから出入り禁止や、脅迫を受けることとなる。そんななか、カジノで稼ぐことと自分の辿り着きたい人生とのギャップに苦しむKevinと、カードカウンティングで生きることにこだわる他のメンバーとの意識の差が大きくなっていく。

Was this where he belonged? Was this who he had become?
これが自分がいるべき場所か? これが自分がなりたかった人間か?

カードカウンティングというのは聞いたことがあったが、出たカードを記憶しておくことで、残りのカードを推測することかと思っていたが、実際にはもっと単純なものであることがわかった。

本作品では後半には「マネー・ボール」のBilly Beaneについても触れられているが、数字を重視して、一般的な人が陥りがちな先入観から解放され、ブラックジャックやプロ野球など特定の分野で成功することは、理系の人間には最高に楽しく爽快な瞬間だろうなと感じた。まだ数値的な分析が未開拓な分野を探してみたくなった。

英語新表現
trespass act 不法侵入行為
crash out 眠りにつく
hit the pool プールで泳ぐ、プールに入る
face cards トランプの絵札
break a sweat 汗をかく
raise a sweat 汗をかく
arbitrary point 任意の時点
failure point 限界点、機能停止点
grounded family 地に足の着いた家族、現実的な家族

「銃・病原菌・鉄」ジャレド・ダイアモンド

★★★★☆ 4/5
なぜ世界は1492年代の新大陸の発見以降、ヨーロッパ人が植民地を広げ支配することとなったのか。そこには必然性があったのか、過去の発明、職業、病気、言語などからその原因を考察していく。

最終的には、初期の狩猟採集民族から、動物の家畜化と食糧生産への移行が人口増加と鉄などの物質や武器の発明を可能にし、ユーラシア大陸の緯度と横長の形状がそれを達成するために大きなアドバンテージとなったという結論である。

結論までの考察の過程でさまざまな新しい視点を与えてくれた。今では日常的に存在する食糧生産と動物の家畜化がどれほど難しいものかを考えたこともなかったし、植物の種としての進化や、同様に種としての病原菌の発展の理由についても深く考えたことがなかったのでいずれも新鮮だった。

上下巻に分かれているが、結論としては上巻の時点で既に出ており、下巻ではオーストラリア大陸や、ニューギニアなどの地域別の考察となっているので、もう少しコンパクトにまとめた方が読みやすい本になったのではないかと感じた。

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「ちょっとピアノ 本気でピアノ 〜ブログでおなじみ、川上昌裕のレベルアップピアノ術〜」川上昌裕

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ピアノとの付き合い方をさまざまな視点から語る。

僕の場合は必ずしもピアノではなく電子ピアノやキーボードなのだが、ただただ音符を追って好きな曲を弾いているだけだと、いつまで経っても深みを感じられないと思い、新たな視点を得たく本書に辿り着いた。

本書は著者がブログに書いている内容をカテゴリごとにまとめて書籍化したものである。そのため体系的に順番に書かれているわけではなく、その場で思いついたことを羅列している感じではあるが、僕のように特定の目的もなくピアノの上達に関しての刺激や気づきを探している人間にとってはぴったりである。

「ちょっとピアノ 本気でピアノ 〜ブログでおなじみ、川上昌裕のレベルアップピアノ術〜」川上昌裕

結果的にいくつかの気づきが得られた、難しい曲をスムーズに弾くためには、指の筋肉をつけたり、指の感覚を研ぎ澄ます必要があり、そのためにハノンなどの練習にも力を入れるべきと感じた。また美しい音色を出すためには的確なペダリングをマスターすることも必要で、どんな練習があるのか知りたいと思った。

印象的だったのが著者がピアノ演奏のアルバイトの面接での出来事である。それなりにピアノの技術に自信を持っていた著者が、即興演奏ができないこと、同じ志願者のピアニストの即興演奏に驚いたことなどの体験を語っている。その出来事からはジャズピアノとクラシックピアノの考え方の違いの大きさが伝わってくる。今のところなんとなくピアノを練習しているが、上達するとどんなピアノを引きたいかを考えなければいけない時期が来るのだろう。

期待通りの刺激を与えてくれた。ピアノの練習や上達や進路で悩んでいる人にはちょうどいいのではないだろうか。

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「この夏の星を見る」辻村深月

★★★★☆ 4/5
コロナ禍で思い通りにいかない学生生活を送る日本各地の中高生たちが、星を見ることで繋がっていく。

茨城、東京、長崎県の五島列島の中高生たちの様子を描く。それぞれがコロナ禍の影響によって、部活動の大会などが自粛を余儀なくされる。期待していた学生生活とは程遠い現実に戸惑いながらも、星を見る活動へと導かれていく。やがてそんな動きは、同じ思いを抱く学生同士を結びつけることとなるのだ。

「この夏の星を見る」辻村深月

著者の久しぶりの学園ものである。また、著者辻村深月の作品によく見られる人間関係の暗い部分はあまり描かれず、珍しいほど爽やかな青春物語という印象である。新鮮なのはコロナ禍の学生たちの様子を描いている点である。東北大震災も震災から数年経って各物語に震災を扱った物語が増えたが、コロナ禍もまざまな物語の題材として描かれる時期なのだろう。

序盤はコロナ禍で思い通りにいかない学生生活が、終盤には、コロナ禍だからこそ開けた世界、としてプラスに描いている点が素敵である。社会人としてコロナ禍を経験していると、比較的問題なくリモートワークに移行したので、対面が基本の学生生活にコロナ禍が影響を与えたのかなかなか想像し難いが、そこに一つの視点を与えてくれる。また、舞台となる登場する高校の一つが五島列島の高校である点も面白い。沖縄ほど注目されない離島ではあるが、いつか行ってみたいと感じた。

物語の学生たちの情熱に感化されて、望遠鏡で星を見たくなった。人工衛星を作って打ち上げたくなった。いろんな刺激をもたらしてくれた。

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「WHYから始めよ!」サイモン・シネック

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
WHYを中心としてWHAT、HOWと外に向かう図をゴールデンサークルと呼び、WHYの重要性を語る。

TEDトークで、WHYの重要性を語る、有名な著者サイモン・シネックのプレゼンテーションを見たことがあったので、そのコンセプト自体は理解しているつもりでいたが、初めて動画を見てから数年経ち、改めてその世界に触れたいと思って書籍を手に取った。

WHYの重要性をさまざまな角度から例を交えて解説している。興味深かったのはのイノベーションの普及を示した図として有名な鐘形曲線で説明している章である。図の右側にいるレイト・レイトマジョリティ(後期多数派)やラガード(出遅れ)は値段、つまりWHATしか気にしないために、この層をターゲットにすると企業として低価格競争に巻き込まれてしまうのだ。つまり図の左側の層の、イノベーター(導入者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリー・マジョリティ(初期多数派)や忠誠心を抱いてもらうことこそ成功への近道で、そのためにWHATではなくWHYを広めるべきだと語る。

いくつかの企業の例を交えて説明している。サウスウェスト航空、マイクロソフト、ウォルマート、アップル、どれも興味深い話ばかりである。面白いのはWHYは重要だがWHYだけでも組織は動かないとしている点である。例えばアップルは常に企業の成功物語で名前の上がる企業であるが、著者はWHY型のスティーブ・ジョブズと、WHAT型のスティーブ・ウォズニアックの組み合わさったことが成功の大きな要因だとしている。アップルの成功の話を「Quiet」では、外向型人間と内向型人間が組み合わさったことを成功の要因として語っていたので、いろんな見方があるのだと感じた。

全体的に、本書の内容には自分の経験からも思い当たるふしが多々ある。常々多くの企業がWHYを明確にしないことでブランディングに失敗していると感じるし、株主の圧力ゆえにか、売上至上主義のなかでABテストなどでデータを重視しすぎた結果、WHYを見失ったWHAT型になっていると感じる。

例えば、Photoshopなどのクリエイティブツールを生み出したAdobeは、すでに当初の創造力を広める哲学を見失い、現在は詐欺まがいの手法で短期的な売り上げを上げることしか考えていない。iPhone以降10年以上革新的な製品を生み出していないアップルもAdobeほど惨憺とした例ではないが、WHYを失いかけている企業と言えるだろう。

昨今安定した売り上げを目指してサブスクリプション型のサービスを提供する企業が多く見られるが、WHYに共感できない企業のサブスクリプションサービスを利用しても、最終的にお金をむしり取られるだけである。著者が言うように、企業が本当に相手にすべき相手は低価格につられて簡単に動く人間ではなく、WHYを重視している人なのである。

当たり前ではあるが、動画で見ただけではわからない深みとともに著者の言いたいことが理解できた気がする。多くの企業のマーケター、ブランドデザイナーの必読の本とであろう。

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