「四日間の奇蹟」浅倉卓弥

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

第1回「このミステリーがすごい!」大賞金賞受賞作品。
指を失ったピアニスト如月敬輔と障害を持った少女、千織。二人に起こった奇蹟の物語である。正直このテの奇跡の話は良く有る。「このテ」というのがどんなテだかというのは、ネタバレになってしまうのでここで書くのは避けることにする。そんなよく使われる奇跡であるにも関わらず、この本は描写が非常にリアルで、こんな奇跡が起こってもおかしくないのではないかと思わせてくれる。つい「実際にどこかで起こったノンフィクションなのかな?」と思ってしまったぐらいである。
この本の魅力はそんなストーリーだけでなく、要所要所に読み直したくなる文章や言葉がある、読み終わった時にはページのスミがたくさん折れていた。
「心というのは肉体を離れても存在できるものなのか」
「人間だけが親子でもない別の個体のために命を投げだせる特別な存在なのではないか」
読んだあとにいろんな問いかけを自分に向けてみたくなる。
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「女たちのジハード」篠田節子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

第117回直木賞受賞作品。
保険会社に勤める3人の女性を描いている。条件の良い結婚をするために策略を練るリサ。得意の英語で仕事をしたいと考える沙織。そして康子。それぞれ自分は「どこに向かって生きて行けばいいのか」それを必死で追い求めている。
誰もが今の自分の人生にまど満足してはいない。かといって「何を目指して生きて行くか?」それすら見えていない人が大半なのではないか・・それでもきっと「夢はなんですか?」と聞かれたら「デザイナーを目指している」とか「弁護士」を目指している・・とか、そう言うのだ。彼等はその後にどんな生活が待っているのかわかっているのだろうか。それが本当に自分を満足させてくれるとでも思っているのだろうか。
僕は何を目指しているのか・・そしてその先に何が有るのか、そんなことも考えさせられてしまう。とりあえず、この本に出てくる主人公の女性達の生きざまは見事である。
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「最悪」奥田英朗

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
最近、奥田英朗の本がおもしろい。「邪魔」につづいてこの本を手にとった。
自分は100万の札束を近くで見たことはない。別に貧しい暮らしをしているわけではないが、それでも10万もの現金が財布の中に入っていると気になって仕方がない。そういえば銀行に勤める友人がいつかこんなことを言っていた。仕事中に200万足りなかったのでみんなで探したらゴミ箱の中に2つ札束が落ちていた・・と。銀行に勤める人にとっては100万の札束など100万の価値はない。本屋さんが扱う本と、八百屋が扱うキャベツと大して変わらないのだ。
そう、社会には何千万のお金を右から左へ動かす仕事がある一方で、10万のお金を工面するのに苦労している人もいる。そんなお金に対する間隔の違いが、人と人との間に誤解や嫉妬やトラブルを生むことになるのだ。
この「最悪」では、町工場を経営している川谷。チンピラとして生活している和也。銀行に勤めるみどり。まったく違う境遇で生活している3人はそれぞれ人間関係やお金に悩みつつ生き抜こうとする。そしてあるとき3人の人生は絡みあう。人生落ちていくってのはこういうことなのか・・川谷と和也の境遇は他人事のように傍観していられないリアルさがある。これこそ最悪である。
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「パレード」吉田修一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第15回山本周五郎賞受賞作品。
社会人一年目、僕は会社の寮に入った。3LDKのマンションの一室に同期の人間と一緒に住むのだ。隣の部屋も反対の隣の部屋も、同期や先輩の社員が住んでいた。3ヶ月でイヤになって一人暮らしを始めた。一人暮らしを始めてもう5年。「誰かと一緒に住むのもいいかも」と、この本を読んで思った。
この「パレード」では同じマンションの一室に住む5人の男女をそれぞれの視点から展開していく。同じ部屋で一緒に生活していくためにはそれぞれ「この部屋用の自分」を演じる必要がある。読み進めて行くうちに「共同生活ってそんなにも楽しいモノなのだろうか」という思いと、「そんなにも悲しいモノなのだろうか」という思いが浮かんでくる。そして最後は怖い。
近いウチにまた読み直したい。時間があれば今すぐにでも読み直したい。
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「クロスファイア」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
念じるだけでものを燃やす力を持って生まれた青木淳子(あおきじゅんこ)が、その力ゆえに正義感と使命感に苛まれる。そんな話である。
小さな頃は「超能力」という言葉に憧れたりもした。自分にしかない力があったらいろんな人を助けて、嫌いなやつをこらしめて、ヒーローになれるのに・・。大人になった今、人と違った力を持つと、どういうことになるか、周囲からどういう目で見られるか、どんな接し方をされるのかなんとなく想像できるようになった。
【Amazon.co.jp】「クロスファイア(上)」「クロスファイア(下)」

「シェエラザード」浅田次郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第二次世界対戦末期、国際赤十字の依頼により、アジアの日本軍占領区域で抑留されている16万5千人もの連合国軍の捕虜や市民のために救援物資を届けるという特殊な任務を与えられた大型客船、弥勒丸。協定によって絶対攻撃されないことが約束された船だったにもかかわらず、至近距離から4発の魚雷を受けて沈没した。
台湾沖に今も沈んだままの弥勒丸を引き上げるという依頼が主人公のもとへやってくることから物語は始まる。一体何故「絶対安全」を保証されていた船が沈没しなけらばならなかったのか、攻撃は故意だったのか誤爆だったのか。少しづつ解きあかされて行く謎の過程で、今まで知らなかった「弥勒丸」というもう一人の戦争の犠牲者を意識させられる。弥勒丸も戦争に巻き込まれ命を失った一人なのだ。
また、この物語のモデルになった阿波丸という大形客船の事件についてもこの本を読んで初めて知った。弥勒丸と同じ任務をもった船でありながらアメリカの潜水艦の誤爆によって沈没し2040人の犠牲者を出した。もう事件から60年近くが経過しているが、人々の記憶から消してはいけない事件なのだ。
ちなみに、横浜の山下公園に繋留されている氷川丸。あの船も実は阿波丸と同じ時代を生きた船である。今度横浜に訪れる機会にもういちど氷川丸を見に行こう。今度はその場所で僕の目から涙がこぼれそうな気がする。
【参考サイト】
阿波丸事件

「リヴィエラを撃て」高村薫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第46回日本推理作家協会賞受賞作品。
1992年の東京にジャック・モーガンが謎の死を遂げる。この物語はジャック・モーガンの壮絶な生きざまを描いている。世界のどこかにこんな生き方をしている人がいるのだろう。北アイルランド、中国、東京という、壮大なスケールで描かれる陰謀、策略、裏切りの物語。登場人物や組織名が多すぎてわかりにくいかもしれないがそれでもこの雰囲気は伝わってくるはずだ。いつかもう一度読み直したい作品である。

「涙」乃南アサ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
全体的に暗いイメージの多い乃南アサ。今回もいつもどおり暗い雰囲気のストーリーである。結婚を約束したのに失踪してしまった恋人を探し続ける女性を描いた話である。悲しいことにこの話で僕が受けとったのは、「愛さえ有ればどんな障害も乗り越えられる」そんな良く聞く格言は間違っている。ということだ。
ストーリーの流れは比較的単純だが、心の描写にだろうか。恋人を探し続ける女性の健気さにだろうか。深く印象に残る部分があった。
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「模倣犯」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2002年このミステリーがすごい!国内編第1位

映画化されたこともあり、宮部みゆきの名前を一気に世間に広めた作品でもある。少し大衆ウケを意識した感もあるが、それでも「これぞ宮部」という切れ味は健在。
誘拐された孫娘である古川鞠子を探す有馬義男が床に付いた足跡を見てふと思うシーン・・・鳥肌が立つ。

「亡国のイージス」福井晴敏

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第53回日本推理作家協会賞受賞作品。第2回大藪春彦賞受賞作品。
仙石恒史、宮津弘降、如月行、信念を持った3人の男達がイージス艦を舞台に絡み合う。宮津の息子が書いた作文が印象的だ。

ギリシャ神話に登場する。どんな攻撃も跳ね返す楯。それがイージスの語源だ。しかし現状ではイージス艦を始めとする自衛隊装備は防御する国家を失ってしまっている。亡国の楯だ。

今のままアメリカに守られているような国ではなく日本も戦える国であるべきだ、という主張が随所に散りばめられ、改めて考えさせられる。それと同時に、自衛隊の矛盾などについてもストーリーの中にうまく絡んでくる。なにより3人の男の生き方に感銘を受ける。

「千里眼」松岡圭祐

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
自衛隊から心理カウンセラーに転職した岬美由紀の物語の最初の一冊。とりあえずこの本を読むと心理学と自衛隊について興味が湧いて来る。また、この物語のクライマックスの舞台になっている東京湾観音も実在しているもので、いつか見に行きたいと思った。
【Amazon.co.jp】「千里眼」