「グアルディオラのサッカー哲学 FCバルセロナを世界一に導いた監督術」フアン・カルロス・クベイロ/レオノール・カジャルド

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
サッカーファンでなくても現在のFCバルセロナが、世界でトップ3に入る強豪チームである事は知っているだろう。すでにその前任のライカールト監督時代に現在のようなスペクタクルなサッカーを展開するようにはなっていたが、それでも当時いくつかの問題を抱えていた。そんな中、下部チームを率いていたグァルディオラが一気にトップチームの監督へと引き上げられ、ロナウジーニョやデコなどの有名選手を戦力外にするのである。メディアから批判されたが勝利という結果が出るにつれて、批判は賞賛へと変わっていく。
世界のトップチームはいつも個性のある選手達で構成されている。そのためそのチームを率いて目標を成し遂げる監督の考え方や言動はいつも非常に参考になる。イビチャ・オシム、アーセン・ベンゲル、モウリーニョなどはその代表格であるが、本書からもグァルディオラの持つリーダーシップに重要な心構えが見えてくる。それは明確に意図を伝える能力と、常に物事を学ぼうとする真摯な姿勢である。
グァルディオラが監督として選出される際、すでにチェルシーやFCポルトで優れた結果を残していたモウリーニョも候補にあがったが、バルセロナの文化を熟知しているという点でグァルディオラが選出されたという。モウリーニョはその高慢な物言いから、メディアや他チームと敵対しがちであるのに対して、グァルディオラは何事にも敬意を払うという点が印象的である。
多くの人と関わって何かを成し遂げようとする際に参考になるだろう。
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「悪者見参」木村元彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
残念なのは本書のタイトルや表紙はその内容を的確に伝えてないということ。むしろストイコビッチがJリーグでイエローカードをもらいながらも、すばらしい実績を残していく様子を描いていそうな、タイトルと表紙だが、実際にはユーゴ紛争を描いていてサッカー選手もそのうちの一つの要素に過ぎない。
しかし、紛争の悲劇を伝えるために、本書は何人かのサッカー選手の体験を紹介する。印象的なのは悪魔の左足と恐れられた正確無比なフリーキックで有名なミハイロビッチがようやく自らの家に帰ったときの体験である。

散々荒らされた室内に足を踏み入れ、眼を凝らすと真っ先に飛び込んできたのは、壁に飾られた旧ユーゴ代表の集合写真だった。そこには彼の顔だけがなかった。銃弾で打ち抜かれていたのだ。
「あの時の悲しさ、淋しさは一生忘れない。僕は帰らなければよかったとさえ思った。帰らなければ思い出が何もなかったように、僕の中でそのまま残っていただろう。

とはいえ、本書の焦点はむしろアメリカ、イギリスなどNATOが中心となって、その空爆の正当性を訴えるためにつくりあげる、セルビアの悪者のイメージである。10万人のアルバニア系住民を監禁したと報道されたスタジアムは実際には8000人も入れそうもない大きさだったという。報道によって世の中に「悪者はセルビア」のイメージが徐々に世の中に刷り込まれていくのに、それに対して何も出来ない著者の歯がゆさが伝わってくる。

絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ。
味方なんかじゃない。あんたたちが思っているような国じゃない。
アメリカの戦争に協力する法案を国会で通し、ユーゴ空爆に理解を示した国なんだ、我が日本は!

本書を読んで感じるのは、「僕らが見ている真実とは何なのだろう?」ということ。僕自身それほどあの当時コソボ紛争に関心があったわけではないが、サッカースタジアムで、クロアチアの選手であるズボニミール・ボバンが警官に飛び蹴りして、国内で英雄視されていたのを知っているし、それを疑いもなく信じていたのだ。
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「勝者のエスプリ」 アーセン・ベンゲル

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
現在では「人の才能を見抜く天才」と呼ばれ、日本の名古屋グランパスの指揮をとったのち、イングランドプレミアリーグの名門アーセナルで偉業を成し遂げたベンゲルであるが、そんな彼がアーセナルへの発ったのちに日本のサッカーについて語った内容をまとめている。
序盤からその物事を分析する観察力の鋭さに驚かされる。才能のある人間が陥りやすい罠と、監督がするべき役割が非常に説得力のある形で描かれている。大人になって、若手を指導する立場へと変わっていく人々にとって参考になるのではないだろうか。
そして後半では、グランパスでの出来事や、日本のサッカーの将来についても語っている。残念ながら、本書が出版されたのがすでに15年以上前という事で、その空白による違和感は拭えないが、ベンゲルが本書で述べている日本サッカーへの提言はいくつかはすでにJリーグの中に反映されているように見える。
むしろ、アーセナルで何人もの若手選手を世界的選手に育て上げた現在の彼の考えに触れてみたいと思った。
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「オシムの言葉」木村元彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
元日本代表監督でその前は降格寸前のジェフ千葉を再建させた手腕を持つオシム。しかし、彼もまたユーゴスラビア出身故に戦争に振り回された人間の一人。そんなオシムの人生を描く。
前半は日本に来る前のそのサッカー人生について書いているが、その人生からは何より日本とユーゴスラビアの環境の違いが見えてくる。サッカー以外にできることがなかったからサッカーを始めた、というそのコメントには、サッカーに対する日本人と貧しい国の人々の考え方の違いを表しているように思う。
やはり90年のイタリアワールドカップの内容が非常に印象深い。準々決勝のアルゼンチン対ユーゴスラビア。あの当時、僕自身はようやく世界のサッカーに興味を持ち出して、正直アルゼンチンのマラドーナを含む一握りの選手しか知らなかったので、ユーゴスラビアなどというチームがこのようなドラマを抱えていたとは知るはずもない。実際には彼らは崩壊しつつある国のユニフォームをまとって戦っていて、その試合はPK戦にもつれこんだのだ。

監督、どうか、自分に蹴らせないで欲しい。
オシムの下で9人中7人がそう告げて来たのだ。彼らはもうひとつの敵と戦わなくてはいけなかった。
祖国崩壊が始まる直前のW杯でのPK戦。これほど、衆目を集める瞬間があうだろうか。

当時の状況を知ると、PKを蹴る事が文字通り命がけ、どころか家族までも危険に晒す事になったかもしれないのである。
後半は日本に来てからの様子が描かれている。最初は不可解だったオシムの振る舞いが、少しずつジェフの選手の理解を得て、チームや個々の強さへと変わっていく様子がうかがえる。リーダーという役割を持つ人間のあるべき姿が見えてくる。むしろリーダーシップを学びたい人はオシムの言葉をしっかり受け止めるべきだろう。また、海外から来て日本の文化にとけ込もうとする人のみ見える日本の文化の問題点も見えてくる。

私には、日本人の選手やコーチたちがよく使う言葉で嫌いなものが二つあります。「しょうがない」と「切り換え、切り換え」です。それで全部を誤摩化すことができてしまう。これは諦めるべきではない何かを諦めてしまう、非常に嫌な語感だと思います。

ユーゴスラビア代表でそのたぐいまれなる才能にもかかわらずオシムによってベンチに退けられながらも、サビチェビッチは数年後チャンピオンズリーグを制して、観客として感染していたオシムとその息子のもとに駆け寄って感謝を伝えたという。
試合に出させてもらえなかった選手が、その監督にこれほど感謝の念を抱くという状況が信じられない。そんな指導者に出会える幸運に恵まれた人間が本当に羨ましく思えてくる。
サッカー関連の本を漁っていて偶然にも今回、ストイコビッチを描いた「誇り」と2冊連続で、ユーゴスラビア出身のサッカー選手を描いた、同じ著者の作品を読む事になってしまったが、ユーゴ紛争についてもっと知らなければならない、とも思った。
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「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」木村元彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フィールドの妖精ピクシー。Jリーグ史上最高の外国人選手と言われ、見る者を魅了したてドラガン・ストイコビッチ。そのサッカー人生は政治に翻弄されたといっていいだろう。そんな彼の人生の軌跡を描く。
僕はサッカーをずっとやっていたし、同時にサッカーファンでもあるからJリーグやワールドカップにはそれなりに関心を持っている。だから、一般の日本人がどれだけストイコビッチのことを知っているのかわからない。
簡単に説明するなら、ストイコビッチは90年のイタリア大会でユーゴスラビア代表の中心となってプレーするが、その後は国内紛争に起因する制裁措置によってユーゴスラビア代表は国際大会に出られなくなるのである。個人的にもっとも印象的なのは、1999年名古屋グランパス時代、ゴールを決めた後に、ユニフォームを脱いでそのうちがわに来ていたシャツに書いた文字を示したときである。「NATO STOP STRIKES」。
サッカーという分野に技術を極めたその心構えは多くのアスリートと同様に非常に刺激になるだろう。そのうえでそんな国が分裂するなかで生きるというその強い意志を感じたいと思ったのだ。
内容はピクシーのたどったサッカー人生の軌跡を丁寧に面白く描いている。僕は90年のワールドカップとその後1997年頃のJリーグのストイコビッチしか知らないが、その間を本書はしっかりと埋めてくれる。しかし残念ながら、その間を埋めるのはほとんど悲劇ばかりである。

国連の経済制裁にはいったい何の効果があったのか。ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争に微塵でも貢献したのか。断じてそうではない。戦争を巻き起こした張本人たちの地位はむしろ盤石になり、シワ寄せは政治的弱者に及んだ。ストイコビッチとそのイレブンをフィールドから追放し、セルビア共和国の庶民をどん底の生活に叩き落とした忌まわしい措置。

思ったのは、ストイコビッチを襲った悲劇はとてもやるせないものだが、それがなければストイコビッチが日本でプレーすることもなかったということ。そしてストイコビッチが国民から愛されているという事だ。
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「泣いた日」阿部勇樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本代表阿部勇樹について、幼少時代のことクラブでのこと、日本代表でのことなどを、阿部勇樹本人や、家族、そしてオシム監督が語る。
タイトルにあるように、本作品は阿部勇樹の涙もろさをテーマとして構成されており、実際に本書を読んだ印象は、サッカー選手としては本当に阿部勇樹は繊細であるということ。それでもそんな彼が日本代表まで上り詰めることができる日本のサッカー界はなかなか悪くないのだろう。
阿部勇樹本人が語る章では、ジェフ時代に出会ったオシム監督とのことについて非常に多くページが割かれていて、阿部がオシム監督から受けた影響の大きさが見て取れる。
後半には父や妻の視点で阿部勇樹が語られ、どれも等身大の阿部勇樹を見せてくれる。
一方で、日本代表にクラブチームなどにおける試合などにはほとんど触れていないため、むしろサッカーファン向けの内容とは言えないのかも知れない。
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「観察眼」遠藤保仁/今野泰幸

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本代表の遠藤保仁(えんどうやすひと)と今野泰幸(こんのやすゆき)が、過去のサッカー人生や、現在の日本代表、Jリーグなどを語る。
今野(こんの)の語る内容からは、とりたててとりえのなかった選手が日本代表になるまでの苦労や心構えが感じられる。人見知りゆえに、初めて代表に呼ばれたときは風をひいてしまった苦労など、組織の中で自らの長所を知り、それを活かしつつ監督の求める要求にこたえる。というむしろサッカーに限らず組織のなかでの心構えとして通用しそうな内容である。
また、後半の遠藤(えんどう)の内容からは、さすがに現日本代表のキープレイヤー的な視点を感じさせてくれる。

例えば、俺が考えているのは「ボールを見る時間を少なくすること」。サッカーというスポーツは、基本的にボールが選手の足下にある。下を向けば当然、上を見られない。下を向く時間を0.1秒でも短くすれば、その分だけ周囲の状況が見られる。

2人の語る内容からは、ザッケローニの求める理想の選手像とオシムの求める選手像の違いが見えてくる。また、間の章ではアジアカップ準々決勝のカタール戦について、試合経過ごとの2人の心のうちを語っている点が面白い。その試合を観戦していない人がどれほど楽しめる内容か、はなんとも言えないが、2人とも派手な選手ではないだけに、その心のうちは新鮮である。
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「ゴールは偶然の産物ではない FCバルセロナ流世界最強マネジメント」フェラン・ソリアーノ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マンチェスターユナイテッドやレアルマドリードにチームの強さの上でも収益の面でも大きく遅れをとったスペインの名門FCバルセロナ。2003年に最高責任者に就任した著者が、FCバルセロナが世界最強のチームになるまでの過程を論理的に説明していく。
本書はサッカーのチームをその題材として描いているが、内容はいろんなことに応用できるだろう。印象的だったのは第4章の「リーダーシップ」である。この章ではチームを4つのタイプに分類し、それぞれのタイプに応じて指導者が取るべきリーダーシップのタイプについて語っている。
たとえば、チームのタイプが「能力はあるが意欲に欠けるチーム」であれば指導者は「メンバーの意見を聞き決断を下す」役割を担うべきで、チームのタイプが「能力があり意欲にあふれたチーム」であるならば、「メンバーに任務を委任し、摩擦が起きそうなときだけ解決に向けて調整をする」役割となる。というようにである。
一体世の中のどれほどの「リーダー」が、自分のチームのタイプに応じて自らの振る舞いを変えているだろうか。「リーダーは変わる必要がある」ということを漠然と理解している人もいるだろうが、ここまではっきりと示してくれるのは非常に新鮮である。そして、本書ではリーダーのタイプと合わせて、実際にバルセロナで指揮をとった、ライカールトやグアルディオラの言動にも触れているのである。僕自身、過去転職を繰り返して多くの自己顕示欲旺盛な「リーダー」を見てきたが、本書はそんな彼らに突きつけて見せたい内容に溢れている。
さて、「リーダーシップ」の内容にだけ触れたが、それ以外にも興味深い内容ばかりだ。「チーム作り」や「戦略」「報酬のあり方」など、もちろんいずれもサッカーを基に話が進められているが、どれも現実に応用可能だろう。
全体的には、バルセロナの成績だけでなく、所属した選手や周囲のビッグクラブ、たとえば銀河系軍団のレアル・マドリードなどに触れているため、サッカーを知らない人間がどれほど内容を楽しめるかはやや疑問だが、個人的にはお薦めの一冊である。
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「本田にパスの36%を集中せよ ザックJAPANvs.岡田ジャパンのデ-タ解析」森本美行

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ワールドカップやアジアカップなど、日本代表の主要な試合を詳細なデータで解説する。
つい先日「マネーボール」という本を読んだ。その本はメジャーリーグで選手への年俸総額は下から数えたほうが早いにもかかわらず毎年地区優勝を争うアスレチックスがどのようにデータを分析しどのような尺度で選手を評価しているかを興味深く解説したものである。それを読み終えたとき「同じことがサッカーでもできないものか?」という感想を抱いたのだが、その「マネーボール」のサッカー版がまさに本書であり、本書でも「マネーボール」について言及されておりそれなりに影響を受けたことが窺える。
サッカーは野球よりデータの取り方が複雑になるようだが、本書ではいくつかの尺度を用いて解説している。詳細なデータを見ると、僕らが試合を見た印象のいくつかはデータと矛盾していることがわかる。

スペイン代表はほぼ全ての試合をボールポゼッション率で圧倒してきた。当然スペインの攻撃はパスを華麗に繋いでシュートまでいくと思うだろう。データで言えば相手ボールを奪ってからシュートまでの時間は多くかかっていると思われるだろう。しかし、相手ボールを奪ってから16秒以内にシュートを打ったのが6番目に多いチームだった。
Jリーグ2010年のトラッキングデータで瞬間的に最も速く走った選手のランキング表を作ってみた。Jリーグの中で誰が最も早い選手なのだろうか?
答えはおそらくサッカーに詳しい人であれば名前を挙げる事が殆どないと思われる鹿島アントラーズの小笠原満男選手だ。

試合の中で試合をコントロールするゲームキャプテンも、ピッチの外から冷静に分析して指示を出す監督もこの印象に左右される。だからこそ客観的なデータが重要になってくるのだろう。
日本代表の主要な試合のデータをいろんな角度で見ることで、たとえば岡田ジャパンとザックジャパンの考え方の違いなど、またひとつサッカーを楽しむ視点が増えた気がする。ただ、どうしても上でも述べた「マネー・ボール」と比較してしまうのだが、そのデータ解析を面白くわかりやすく説明しているとはいい難く、データ、解説、データ、解説という単調な繰り返しで終わってしまっている点が残念である。サッカーを知っていて、日本代表の試合をある程度見ている人にしか楽しめない内容になっているような印象を受けた。
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「心を整える 。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣」長谷部誠

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本代表長谷部誠(はせべまこと)。華麗なパスを送るわけでも強烈なシュートを放つわけでもないのに日本代表の主将まで登りつめた男。その視点からサッカーに対する考え方や日々の生活を語る。
なんとも 日本人らしいサッカー選手。読み始めて、いやむしろ読み始める前から長谷部に対して僕の持っている印象はそんなだった。そもそも「日本人らしい選手」とはどんな選手だろう。たとえばマラドーナのように海外ではサッカーさえうまければ認めてもらえる国もあるが、日本はそうではない。中田英寿、宮本恒靖などがいい例だろう。
サッカーだけが上手くても決して驕り高ぶることなく、サッカーどころかスポーツに限らずすべてに目を向けて、勤勉すぎるまでに向上させる。僕の思う「日本人らしいサッカー選手」とはまさにそんなイメージである。そして多くの「日本人らしいサッカー選手」のなかでも、長谷部に対しては、テレビ出演のときの応対やその風貌からか、特に謙虚なイメージを持っていた。
本書を読み始めてもそんな彼に対するイメージは崩れることなく、むしろより強固に固まっていった。本書のなかで彼がなんども強調しているのは、一人の時間の大切さ、読書の大切さ、常にフラットでいることの大切さである。半分も読まないうちに、ものすごく僕自身の考え方をと共通する部分があると感じた。遅刻に対する考え方などまさに寸分たがわず同じ。

遅刻というのは、まわりにとっても、自分にとっても何もプラスを生み出さない。まず、遅刻というのは相手の時間を奪うことにつながる。

僕より7歳も年下の人間と考えが共通することを喜んでいいのかよくわからないが、日本代表にまでなるほどの男と共通する部分が多い、と前向きに受け取ろうと思う。全体的に特に新しい考え方はほとんどなかったが、多くのことを再確認させてもらった気がする。ちなみに「これも自分と同じだ」と思った考え方のなかで特に驚いたのがこんな考え方である。実は本書を読むまで自分でも意識してなかったのだが。

僕は何が起こっても心が乱れないように、普段から常に「最悪の状況」を想定しておく習慣があるということだ。

長谷部の言葉を僕自身の感覚で補足すると、常に「最悪の状況」と「最高の状況」を想像しておく、ということになるだろう。そうすることによってすべてが予想の範囲におさまり、決して動じることなく常に冷静に最高の決断ができる。実は結構なこれによって、リアクションが薄かったり冷淡に見られたりすることもあるのだが、とにかく僕にとっては非常に理解できる感覚である。
終盤ではワールドカップや、優勝したアジアカップについても語っている。

一度は心が折れそうになった。けれど、まわりのチームメイトを見て、そしてベンチで手を叩いて励まそうとしてくれている仲間を見たら、こいつらとだったら試合をひっくり返せるんじゃないかと思った。

若干サッカーや試合に関するエピソードが少なく、普段の生活や日々の心がけ、といった内容に重点が置かれているため、多くの人が楽しめるだろう。全体を通して、僕にとっては共感できることばかりで、一つ一つの言葉がやけにしっくりくる。しかし、逆に、女性や無秩序に生きることに重みをおく人間が読んだらどんな感想を抱くのだろう。
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「中澤佑二 不屈」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ドイツワールドカップ、南アフリカワールドカップなど、日本代表だけでなく、横浜マリノスでの出来事など、そのサッカー人生を通じて、日本打表DF中澤佑二の知られざる一面を描く。
僕が彼について知っているのは、テスト生からヴェルディのレギュラーをつかんだということと、ドイツワールドカップ後に代表引退を決意したにもかかわらずバスケット界のパイオニアである田伏勇太と出会って代表復帰をきめたことぐらいだろう。本書はその認識を補いながらも、そのストイックで孤独な生き様を存分に見せてくれる。
本書は3つの章に別れていて、2,3章はそれぞれドイツ、南アフリカワールドカップを中心に描かれている。個人的には1章の「プロへの挑戦」が印象的である。特に高校時代のひとり「プロになる」というモチベーションのもとでサッカーに接するうちに、周囲から孤立していき、それでも目的のために信念を曲げない姿にはなんか共感できるものがある。
文中で中澤が影響を受けたとして引用されている言葉にはどれも重みを感じる。

多くの人が、僕にも「お前には無理だよ」と言った。彼らは、君に成功してほしくないんだ。なぜなら、彼らは成功できなかったから。途中で諦めてしまったから。だから、君にもその夢を諦めて欲しいんだよ。不幸な人は不幸な人を友達にしたいんだよ。
人生に成功は約束されていない。でも成長は約束されている。

本書でもドイツワールドカップを大きな衝撃と語っている。中田英寿の「鼓動」でもそうだし、数多くの日本のワールドカップを描いた書籍でも同様に選手同士の内部崩壊が招いた悲劇と語られているドイツワールドカップは、本書でも中澤だけでなく、宮本恒靖の目線からも語られており、興味深いものとなっている。
そして最後は記憶に新しい南アフリカワールドカップ。その内容からは決してそれが外から観ているほど輝かしいものではなかったことが伝わってくるだろう。チーム崩壊寸前の状態にありながら、4年前のドイツワールドカップの経験者たちがその失敗を糧に、崖っぷちの状態からチームを結束させた結果だとわかる。

言いたいことを言うのと、チームのためを思って言うのではまったく意味合いが異なる。個性は一定の規律のある組織の中にあって初めて力を発揮するものであって、ルールを無視すれば、単なる我が儘と取られても仕方がない。

それでも最終的にカメルーン戦のゴールで波に乗って、デンマーク戦ですばらしい試合をしたあのチームのなかにいて、あのチームとしての一体感を味わえた中澤がうらやましくてたまらない。

チームの一体感というものを初めて、強烈に感じた。一人のゴールをチームのみんなが祝福している。心の底から突き上げていくような喜びをだれもが共有している。四年前のドイツでは決して訪れなかった瞬間だった。このチームはいける。この勢いでいける。そう確信した。
仲間たちとの共鳴。すべてはこのためにやってきたのだと、心の底から思った。

中澤のサッカー選手としての成功を語るときに、「彼は努力だけで上り詰めた」という人が多いのかもしれないが、本書を読めばそうは思えない。人生の要所要所で彼は運命的な出会いによって救われている。見習うべきはそんな偶然が近づいてきたときに、それを掴み取る努力をいつの日も怠らなかったことだろう。
「日本代表」とか「ワールドカップ」とかそんな壮大なジャパニーズドリームだけでなく、何かを達成する上ではそれがどんな目標であれそんな意識は大事なんだと思えた。
余談だが、本書で中澤は自身のベストげーむとして、ドイツワールドカップ前のドイツ戦をあげている。中田英寿も「鼓動」のなかで、ドイツ戦での柳沢とのプレーが最高のプレーと語っている点が印象に残った。どうやらあの試合はサッカーファンにとっては見逃してはいけない試合だったらしい。
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「やめないよ」三浦知良

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本サッカーの大きな進歩の中で中心的位置にいた一人と言える三浦知良。その視点から今の日本のサッカーやスポーツ界を語る
正直、僕自身も彼に対して「もう、いいんじゃないの?」と思っている一人である。オフトジャパンのころはその勝負強さに何度も期待にこたえてもらったりしたけど、日本代表からはずされてからはプレーを見る機会も少なく、ときどき目にしては、「まだやってるのか」とか「サッカーだけが人生じゃないだろうに」とか思っているのである。
世の中に同じように思っている人は決して少なくないだろう。本書のタイトル「やめないよ」がそのままこうした疑問を抱いている人に対する答えのように響くから興味をもったのかもしれない。そして、実際読んでみてそんな彼に対する考え方も少しは変わることだろう。
読んでみると、結果を重視するフォワードで日本代表にいたにもかかわらず、その生き方からは、彼が「結果」ではなく「過程」を楽しむことができる人間だということがひしひしと伝わってくる。
本書のなかでの彼の思いは、2006年から2010年にまでわたっているため、ドイツワールドカップやその後の中田の引退から、南アフリカワールドカップにまで及ぶ。そして、その内容の多くはもちろん、ブラジルと日本のサッカーの違いや、横浜FCの残留争いなどのサッカー中心だが、、必ずしもそこにとどまらず、斉藤祐樹の甲子園での熱闘や、イチローの大リーグ記録にも触れている。
やはり、信念を持って生きている人の言葉には、何か伝わってくるものがある。

ふつう、会社員であれば、40歳を過ぎるとそれなりの地位に就いているのかもしれない。けれども、僕は一選手だから、あるときは監督からの指示に従い、あるときは18歳の選手と同じジャージを着て、同じメシを食堂で食べる。そんな環境にサッカー選手として浸っていられることが本当に幸せで、楽しい。自分はサッカー選手なんだ、と思える瞬間が、楽しくてしかたがない。

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「サッカー日本代表システム進化論」西部謙司

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本代表の進化の過程をその戦術に焦点をあて、当時の中心選手やコーチなどの意見を交えながら描く。
期間でいうと1984年から南アフリカワールドカップ直前の2010年という30年弱である。僕にとっての日本代表はオフトジャパンから始まっているので、それ以前の日本代表は想像するしかないが、それでも本書で描かれている内容から、当時の日本代表のレベルや選手層の薄さが見て取れる。
内容がオフトジャパン以降に及ぶと、どの試合も選手も記憶にあるものばかりで、懐かしさとともに涙腺が緩んでしまう。ブラウン管を通して観た試合の様子やその結果だけでは伝わってこないような内容にも触れているので、すでに忘れ去られようとしている重要な一戦を(いまさらだが)さらに理解するのに役立つだろう。
そしていままで、ただ「日本代表」と単一の存在として観ていたもの(もちろんサッカーファンの多くはその戦術の違いはおおよそ理解しているだろうが)が、それぞれの監督の持つ個性や意図を本書を通じて理解することでより個性を持っていた。見えてくるとともに、サッカーを見る目も養われることだろう。

オフトは”言葉”を持っていた。コンパクト、スモールフィールド、トライアングル、アイコンタクト・・・・・いわれてみれば当たり前のことばかりで、選手たちも知らなかったわけではない。でも知ってはいても明確な言葉はなかった。
ファルカンのサッカーは、いま思えば、とてもいいサッカーだった。ただ、当時の選手のレベルには全く合っていなかった(柱谷)
ゾーンプレスはパスをつないでくる相手、プレッシングをかけてくる相手に対しては効果があった。だが、ひたすらロングボールを蹴ってくるような相手、カウンター狙いに徹した相手に対して、威力を発揮しきれなかった。
フラットスリーはやられそうで、意外とやられない。ただ、一瞬でも気を抜いたらダメ
どこかで、誰かがまとめなければならない。迷ったときに誰を見るのか、何を拠り所にするのか、そこがジーコ監督のチームでは徹底されていなかったのではないだろうか。
ピッチ上では、さまざまな問題が起こる。予め解答を用意するのではなく、解決能力をのものを上げていくのがオシム監督のやり方だった。

「ゾーンプレス」や「フラットスリー」という言葉を聞いただけでサッカーファンには過去の日本代表の試合が頭のなかに蘇るのかもしれない。日本代表の戦術の軌跡を通じて、ここ20年の間にどれほど日本のサッカーが人も戦術も進化したのかわかるだろう。そして、日本に限らずサッカーが戦術はいまなお進化しつづけているのだ。
サッカーファンには間違いなくオススメの一冊。この一冊で間違いなくさらに一枚も二枚も上手なサッカーにうるさい人になれるだろう。
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「モウリーニョの流儀 勝利をもたらす知将の哲学と戦略」片野道郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
今やサッカー界でもっとも有名な人間の一人と言っていいだろう。ポルトガルのポルトとイングランドのチェルシーで国内タイトルを獲得しただけでなく、チャンピオンズリーグでもポルトでは優勝、チェルシーでも常に優勝を狙えるチームを作り上げた監督。ジョゼ・モウリーニョ。
本書は、すでに監督としての手腕を認められ国内タイトルだけでなくヨーロッパナンバー1を勝ち取ることを目標として、イタリアのインテルの監督に就任したモウリーニョが、1年目のシーズンでスクデット(イタリア国内タイトルをタイトルの通称)を獲得するまでを描いている。
モウリーニョはもちろんサッカーの監督だが、本書の内容はフォーメーションなどの戦術よりもむしろ、どちらかといえば保守的で外から入ってくる文化を嫌うイタリアサッカー界のなかでの、モウリーニョの適応の過程を示してくれる。僕自身の持っている印象では、彼の考え方は、常に筋が通っていて、すべてが物事の目的とその手段を冷静に分析した結果の決断というような印象があるが、就任当初の記述からは、新しい環境と文化ゆえに肩に力が入っている様子が伝わってくる。
そんな中でも印象的なのは、シーズン途中で、スクデットを獲得するためにこだわっていた3トップから2トップにフォーメーションを変えたところだろうか。どんな環境でも信念を貫き通す強い心とともに、環境に適応してスタイルを変える重要性。その2つのバランスの重要性が見て取れる。
個人的には本書のなかでモウリーニョの考え方にはかなり共感できる部分があり、また、もともと持っている考えを改めて考えるきっかけにもなったように思う。なにもサッカーファンには限らず、仕事やスポーツなどのリーダー的立場にいる人や、常に発展、進歩を求めて生きている人にとっては、なにか刺激を受ける要素が見出せるのではないだろうか。
本書は1年目のスクデットを獲得した時点で終了しているが、サッカーファンならご存知のとおり、モウリーニョはその翌年にはインテルでチャンピオンズリーグを制覇し、見事任務を果たしたこととなる。同じ著者がその過程までも書いてくれるならぜひまた読みたいところだ。
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「日本サッカー現場検証 あの0トップを読み解く」杉山茂樹

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ワールドカップの日本の闘いぶりを著者の視点から解説している。
実は本書を買って読み進めるまで気づかなかったのだが、この著者は、僕に「サッカーの布陣を考えるとこうもサッカーが面白くなるのか」と思わせた本「4-2-3-1」の著者はと同じである。本書でもワールドカップの日本の布陣とその結果をその独特の視点で語っていて、サッカーファンにははずせない作品となっている。
著者はカメルーン戦で突如日本が採用した本田の1トップは(著者はそれは「0トップ」と呼んでいるが)、まさに著者がずっと推奨してきたものだと語り、その利点と、過去にその布陣が見られたチームや試合をあわせて解説している。
そしてワールドカップでの日本の4試合をその布陣と関連して原因と結果をわかりやすく解説している。例えば、なぜあの瞬間カメルーンのディフェンスは本田を見失ったのか、そして、本田のトラップがやや浮いてしまったからこそキーパーはコースを読みにくかったはず、など、長年サッカーをやっている僕でさえも見てないような細かい部分を解説しており、もう一度そのシーンをインターネットを探さずにはいられないだろう。
そして、著者は、日本の監督軽視の考え方にも警鐘を鳴らしている。
布陣の試合への影響を見る目は、テレビでサッカーをみていても養えない、会場をいってスタンドから常に全体をみてこそ養われるという。そして、だからこそ、日本のサッカーに身をおいて、スペインやイングランドの最先端のサッカーをスタジアムで観戦することが物理的に不可能な日本人監督が最先端の戦術を理解できるはずがない、と語っている。

僕がこれまでの日本代表のどこに問題を感じていたかと言えば、選手ではない。監督になる。「監督負け」を繰り返してきた思いの方が断然勝る。

また、日本が最先端の布陣に馴染めない一つの理由として、Jリーグの各チームが新しい布陣を取り入れていないためにそういう人材が育たないということのほかに、古くから伝わる日本のサイドバックの職人気質にあるという。
そこで日本の選手ができないサイドバックの動きとしてあげられているオランダのファンブロンクホルストの動きでなのだが、図だけではなかなかイメージしずらく、ぜひCD付属本ならぬDVD付属本にしてもらえないかとさえ思ってしまう。
嬉しいのが、そんな辛口かつ客観的視点に立って日本のサッカーを観ている著者も、デンマーク戦を「日本サッカー史上最高のエンターテイメント」と絶賛している点だろう。とはいえデンマーク戦以外はほとんどダメだしばかりである。

PK戦はともかく、パラグアイ対日本は、エンターテイメントとしてはまったく成立してなかった。噛み合いの悪いサッカーを意図的にした日本の責任は重い。ワールドカップは日本人だけのものではない。ワールドカップは世界最大のエンターテイメントだ。

また、終盤では優勝したスペインのサッカーについても語っている。スペインですら理想の形ができているとは言えずに、EUROで優勝したときのスペインのほうが優れていたと語る。
この著者の作品を読むといつも、テレビで観戦で比較的満足している自分が恥ずかしくなってくる。なんにせよ、ワールドカップの日本の試合を見たサッカーファンには間違いなく楽しめるに違いない。
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「世界は日本サッカーをどう報じたか」木崎伸也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ワールドカップが終わってすでに一ヶ月。期待以上の結果に日本は熱狂したが世界はそれをどのように見たのだろう。日本の4試合は、それが自分の国であるということそ除いて考えると、普段世界のサッカーを見慣れたファンにとっては退屈の試合だったに違いない。そして、それは世界各国が日本の試合に対して抱いた感想とそう大きくは違わない。
本書は、世界各国、特にサッカー大国と呼ばれる国々の紙面や解説者のコメントを通じて日本のサッカーの長所や短所を客観的に見せてくれる。
今の問題点や今後日本サッカーのレベルの向上のために取り組むべきことを知ることができるとともに、各国の評価の違いから、それぞれのサッカー大国が何を重んじてサッカーを見ているか、という文化的な違いまでも楽しめるだろう。

「オランダのGKに、ほとんどボールが飛んでません」
「日本は何もしたくないチームのようです。」

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