「悪者見参」木村元彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
残念なのは本書のタイトルや表紙はその内容を的確に伝えてないということ。むしろストイコビッチがJリーグでイエローカードをもらいながらも、すばらしい実績を残していく様子を描いていそうな、タイトルと表紙だが、実際にはユーゴ紛争を描いていてサッカー選手もそのうちの一つの要素に過ぎない。
しかし、紛争の悲劇を伝えるために、本書は何人かのサッカー選手の体験を紹介する。印象的なのは悪魔の左足と恐れられた正確無比なフリーキックで有名なミハイロビッチがようやく自らの家に帰ったときの体験である。

散々荒らされた室内に足を踏み入れ、眼を凝らすと真っ先に飛び込んできたのは、壁に飾られた旧ユーゴ代表の集合写真だった。そこには彼の顔だけがなかった。銃弾で打ち抜かれていたのだ。
「あの時の悲しさ、淋しさは一生忘れない。僕は帰らなければよかったとさえ思った。帰らなければ思い出が何もなかったように、僕の中でそのまま残っていただろう。

とはいえ、本書の焦点はむしろアメリカ、イギリスなどNATOが中心となって、その空爆の正当性を訴えるためにつくりあげる、セルビアの悪者のイメージである。10万人のアルバニア系住民を監禁したと報道されたスタジアムは実際には8000人も入れそうもない大きさだったという。報道によって世の中に「悪者はセルビア」のイメージが徐々に世の中に刷り込まれていくのに、それに対して何も出来ない著者の歯がゆさが伝わってくる。

絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ。
味方なんかじゃない。あんたたちが思っているような国じゃない。
アメリカの戦争に協力する法案を国会で通し、ユーゴ空爆に理解を示した国なんだ、我が日本は!

本書を読んで感じるのは、「僕らが見ている真実とは何なのだろう?」ということ。僕自身それほどあの当時コソボ紛争に関心があったわけではないが、サッカースタジアムで、クロアチアの選手であるズボニミール・ボバンが警官に飛び蹴りして、国内で英雄視されていたのを知っているし、それを疑いもなく信じていたのだ。
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