「約束の地」樋口明雄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大藪春彦賞受賞作品。
環境省の七倉航(ななくらわたる)は娘とともに八ヶ岳に赴任してきた。そこでは様々な人々が自然と関わって生きていた。
都会の文化のなかで育った七倉(ななくら)が次第に自然と向き合い、いくつもの苦難を経て、次第に引き込まれていく様子が描かれている。そんななかで今の日本が抱える自然保護の問題が見えてくる。後継者のいない猟師。密猟や乱獲による野生動物の減少。飢えて人里に降りてくる野生動物と人間のトラブルなど、いずれも都会に住んでいては意識しないことばかりではあるが、人々がもっと目を向けるべきことなのだろう。

人はむかし、山の動物と棲み分けをしていた。多少の干渉はあったにしろ、基本的には互いの生活圏を侵害しないという不文率を守り、それぞれが暮らしていた。そんなルールを一方的な都合で破棄し、山や動物をさながら所有物のように好き勝手に蹂躙し始めたのは人間なのである。自然がそんな人間を赦すはずがない。

本書ではそんな長年の人間の行いに対する自然の怒りの象徴のように、い「稲妻」と呼ばれるツキノワグマと「三本足」と呼ばれるイノシシが登場する。彼らの生き様、人間に対する振る舞いには感銘を受ける部分がある。自然に対する人間のありかたに目を向けさせてくれる作品。
【楽天ブックス】「約束の地(上)」「約束の地(下)」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。