「千里眼 ブラッドタイプ 完全版」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
世の中は血液型診断ブーム。さらにドラマの影響で白血病は不治の病という考えが広まる。そんな中で、岬美由紀(みさきみゆき)の同僚の嵯峨敏也(さがとしや)は白血病を再発する。
本作品はそのタイトルからもわかるように「血液型」を大きく扱っている。血液型ブームは、日本を含む世界的に見ればわずかな国にのみ根付いている文化である。日本でその文化が根付いているのは、各血液型があるていど存在するという説や国民性という説など諸説あるが、日本では多くの人が、「血液型診断は信憑性がないもの」と知りながらも人と出会ったときに血液型をたずねるのを自然なコミュニケーションとして受け入れているのだ。
本作品は、日本の血液型診断に対する意識をさらに誇張したような世界で展開される。たとえば、学校では特定の血液型に対するイジメが起こり、病院では患者が、特定の血液型の輸血を拒むことで、命の危険にまでさらされているのだ。そんな誤解を、世の中に根付いて危険の思想と位置づけ、それを解決するために、美由紀、嵯峨、一之瀬絵里かが奔走する。
そして、血液型だけでなく白血病に対しても世の中の人々は偏見を抱く。その大きな原因としてテレビドラマが挙げられている。視聴者の涙を誘うために、悲劇の主人公を描いた悲しいドラマをつくり、それがヒットすれば他の局も似たような悲劇のドラマを作る。時に過剰なまでに病気のつらい部分を強調することで、主人公の置かれた悲しい状況を視聴者に伝えて涙を誘うのだが、その繰り返しによって、視聴者は少しずつ病気に対して間違った先入観を刷り込まれていく。この辺の描き方は、明らかに一昔前の「世界の中心で…」を連想させる。
世の中に溢れかえる情報に対して常に疑ってかかる、中立でいることの大切さを改めて意識させてもらった。相変わらず突飛な展開にはやや辟易する人もいるかもしれないが、個人的にはいつもどおり楽しむことができた。
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