「借金取りの王子」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
企業のリストラを代行する会社で面接官として働く真介(しんすけ)の目を通じて、多くの人の人生を描く。
待ちに待った文庫化である。本作品は「君たちに明日はない」の続編である。前作も、主人公である真介(しんすけ)が、面接でリストラ対象者を絞ったり、早期退職を勧めて人員削減の手伝いをする中で、多くの人の人生が見える点が非常に面白かったのである。
続編である本作品もまったく期待を裏切らない出来である。妙に心にしみる言葉がたくさんあった。

今までにいろんな会社の社員に接してきたが、出来る人間ほど、会社を自ら辞めてこうとする。そして出来ない人間ほどクビを嫌がり、組織にしがみ付こうとする。

そして、本作品を読み進めていて思ったのは退職を決意する人間のその理由の多様性である。
「人間関係が上手くいかない」、「給料が安い」、「楽しい仕事がしたい」…。よく聞く退職の理由はこの程度であるが、実際には人間の気持ちは決してそんな単純なものではない。
「お金がすべてじゃない」って言葉を「現実を知らない理想主義者」と、馬鹿にする人もいるのかもしれないけど、人とは違う価値観を胸に抱きながら、その基準を基に自分自身にしか判らない人生の幸せを見つけようとしている人もたくさんいるのじゃないだろうか。
本作品は大きく5つの章に分かれているが、中でも表題の「借金取りの王子」の章はよかった。「こんな風に誰かを想ってみたい」って久しぶりに思った。

たぶん、自由ってこういうことだ。
自分の将来をあれこれ考えられることだ。

本当に、人生を考えさせてくれる。今も一生懸命生きているつもりだけど、「もっともっと一生懸命生きよう」って思わせてくれる作品である。
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