「スクープ」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
テレビ報道局に勤める布施京一(ふせきょういち)は独自の取材で数々のスクープをものにする。
布施(ふせ)が真実を知るために、現場に潜入していく様子が繰り返し描かれる。時にはマリファナやコカインを楽しむ芸能人達と遊んだり、中国人との博打に勤しんだり。スクープが目的なのか、スリルを楽しみながら生きているうちにスクープが副産物として生まれるだけなのか…。
本作品から改めて伝わってくることだが、ただの殺人事件や芸能人の覚せい剤所持のような日常的事件ではスクープになりえない。多くの問題が未解決のまま、裏の世界で徐々にその触手を伸ばしていることに気付くだろう。大物政治家の癒着などはいまさら驚くようなことでもないが、マフィアと組んで援助交際をしながらコカインを売りさばく女子高生などはその1例である。
本作品の魅力は、布施(ふせ)と、刑事の黒田(くろだ)のやりとりにあるかもしれない。頻繁に情報交換をする2人は、一見互いに毛嫌いしていながらもお互いの心のそこにある「正義」を認めている。

「俺たちだって、若い頃は将来についての不安はあった。」
「そんなのとは質的に違いますね。将来の夢が持てないんですよ。どうしたって、世の中よくなりそうにない。大人は世の中に絶望している。その絶望を子供たちは敏感に感じ取るのかもしれませんね。」
「誰がこんな国にしちまったんだろうな。」
「俺たちでしょう。」

人間の中に、お金や性に対する欲望があるかぎり単純に取り締まることのできない多くのこと。そんな類の多くの問題に改めて目を向けさせてくれる作品であった。

LSD
非常に強烈な作用を有する半合成の幻覚剤である。(Wikipedia「LSD(薬物)」

アメリカ禁酒法
1920年から1933年までアメリカで実施された。(Wikipedia「アメリカ合衆国憲法修正第18条」

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