2009年2月アーカイブ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本を守るために秘密裏に訓練された若者達。極限まで鍛え上げられたその戦闘能力は、その仲間が、国の愚行の犠牲になったことを期にその母国へ向く。

「終戦のローレライ」以来、久しぶりに文庫化された福井晴敏の作品である。今回は国家間の駆け引きの末に辛い生き方を選んだ者たちの物語である。

国の愚行により友人を失い、それでも国を守ることを選んだ丹原朋希(たんばらともき)、そして友人でもありながらも、自分達の人生を狂わせた日本に刃を向けることを選んだ入江一功(いりえかずなり)をリーダーとする若者達。物語の構造はただ単にその両者の対立だけに終わらず、自衛隊、刑事警察、公安警察、など多くの権力を巻き込んで展開する。

刑事警察、公安警察、自衛隊。人の生死どころか国家の生き死にに関わる組織だからこそ、しっかりした命令系統を維持するため厳格な上下関係が遵守される。そんな中で葛藤する現場の人間達の気持ちは福井晴敏作品に共通する心を動かす部分でもある。

そんな中、組織を維持するため、国家を守るためとはいえ、予想される非人道的な行為に加担することをできれば回避したいという思いから部下の前で土下座したキャリアに、部下が投げかける言葉が強烈である。

我慢してんだよ。みんな我慢してしがみついてんだよ!その結果がこれじゃ、割に合わないでしょう?いつもみたいにしゃきっとして、まわりの人間見下してさ、我こそは日本の官庁様だって顔してろよ!

どの人物も、お金や地位だけでなく、家族の安全、地位や名誉など、一度に得ることのできないさまざまな欲求の中で葛藤し生きている。テロリストとして国に刃を向けた若者達でさえも、そこにはシンプルな信念が見えてくる。誰一人適当に生きているものなどいない。それぞれが必死に自分の信念に従って生きているからこそ時に大きな火花となって僕らの前に姿を見せるのだろう。

そして、物語中の対立は、基本的には日本対テロリストでありながら、局面では一緒に長い時間をすごした仲の良い友達同士の命賭けの戦闘へと姿を変える。

「なぜ、殺した…?おれの目は節穴じゃないぞ。狙ってやったな。なんでだ」

「…友達だから」

終盤、それまでサイボーグのように見えていたテロリストたちの一人一人の人間らしさが見え隠れするシーンはなんとも悲しく、そして、多くの人から恨まれようともここまで自分が満足できるなら、こんな短くても熱く燃える人生もかっこいいかも…、そう思わせる説得力さえ感じた。

テロリストの一人である射撃の名手、留美(るみ)が飛び交う自衛隊ヘリと交戦するシーンなどは本作品で特に印象的な場面である。

一機と言わずコブラが横たわり、そのうちのひとつはいまだ黒煙を噴き上げていた。まるでヘリの墓場だ。これはもはや人間の所業ではない。鬼神の為さしめる業だ。なぜこんなことになった。なぜ彼女が鬼にならなければならない。

期待に裏切らない作品だった。発端となった北朝鮮と日本の間の出来事から、最終的な対立構造を生み出すまでの出来事の推移まで、しっかりと描かれており、著者の力の入れ具合が伺える。文庫本で3冊、かつ文字のいっぱい詰まったページに圧倒されることもあるかもしれないが、読んで決して後悔することのない作品である。

撃たれるのが怖いからって、先手先手で撃ちまくってたら、そのうち自分以外誰もいなくなっちゃうわよ

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
借金を背負った天馬大吉は終末医療で注目を集めている病院への潜入を依頼される。そこでは次々と患者が死を遂げる。

「チームバチスタの栄光」から1年半後を描く。物語事態の面白さより、拡大する海堂尊(かいどうたける)の世界が興味深い。今回の舞台はチームバチスタの栄光の舞台となった東城大学病院と同じ自治体に属する碧翠院(へきすいいん)桜宮病院である。

物語は東城大学病院と桜宮病院の因縁に、終末医療を軽視する日本の医療問題にも触れながら展開する。

僕の脳裏に、チューブで雁字搦めにされた祖母の姿が浮かぶ。あれこそ医療の現実。だが、あの光景は果たして、人の生の最後の姿として、ふさわしいのだろうか。

海堂尊(かいどうたける)作品にはもはや馴染みのキャラクターであるロジカルモンスター白鳥や「ジェネラル・ルージュの凱旋」で強烈なインパクトを残した看護師、姫宮(ひめみや)も登場するため、シリーズを読み続けている読者にはそれだけで楽しめる作品と言えるだろう。とはいえ、他の海堂作品と比較すると、やや物足りなさを感じてしまった。もっと現代の日本の医療問題をリアルに反映するか、(もちろん終末医療の問題点については触れているのだが)、そうでなければ物語の面白さをもっと深めるか、他の作品ほど登場人物に魅力を感じなかったことも物足りなさの一つの原因だろう。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元刑事の川久保篤(かわくぼあつし)は十勝平野の農村に駐在警官として単身赴任することとなった。

最近「警官の血」のドラマ化などでよく耳にする佐々木譲という著者。本作品は僕にとって初めて触れる彼の作品となった。

単に犯罪を未然に防ぎ、犯罪者を司法の手にゆだねるまでが駐在員としての仕事ではなく、時には犯罪を黙認しても、町の平穏を守ることが必要となる。

「被害者を出さないことじゃない。犯罪者を出さないことだ。それが駐在警官の最大の任務だ。

田舎町という閉鎖的かつ排他的な地域で、どこまでを見過ごすべき犯罪とするか、時に地元の警察と、地域の権力者の声に板ばさみに合いながらも正義を守ろうと奔走する姿が描かれる。世の中に多く出回っている警察物語とは一線を画す作品である。

正直、もっと一気に物語に引き込むような、例えば横山秀夫作品のような力強さを期待したのだが、やや期待がはずれた。どちらかというと玄人好みの刑事物語と言えるのではないだろうか。とはいえ他の作品にも近いうちに触れてみたいとは思った。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大学病院の小児科病棟での出来事を描く。美しい歌声を持つ看護師の浜田小夜(はまださよ)の担当は目を摘出しなければならない子供たち。

次の作であるがすでに読了した「ジェネラルルージュの凱旋」とほぼ同じ時間を描く。「ジェネラルルージュの凱旋」が1階の救急救命センターを舞台としているのに対して本作品は2階の小児科を舞台としている。海堂尊のウェブサイトや、「ジェネラルルージュの凱旋」の末尾に付属している病院のマップなどを見るとさらに楽しめるだろう。

小児科病棟を舞台としているゆえに、そこの患者達は若いというだけでさまざまな症状に悩む。そこで自分の病気やそれに対する姿勢のありかたに悩む少年達の言動は本作品でもっとも印象に残る部分である。特に、牧村瑞人(まきむらみずと)は中学三年生という微妙な年齢。自分のことは自分で決められると本人は思いながらも、親の承諾なしに手術を決定することはできない。そして多くのその年代の少年達同様、周囲に弱音をはかないためにその内側が見えにくい。

そのような患者に囲まれて、少しでも患者達の幸せを願って従事する看護師、浜田小夜(はまださよ)の姿からは医療現場の多くの深刻な問題が見て取れる。

小児科診療にはマンパワーが必要だ。子供は小さな獣で、注射一つにも力ずくで押さえつけることが必要な時もある。一般患者なら本人聴取で済むが、小児科は両親の話も聞き、その上本人の聴取に途方もない根気が要る。愛情が深い分だけ、両親に客観的事実を納得させるのに、手間がかかる。子供と医療を軽視する社会に未来なんてない…

小児科病棟の患者の人手である杉山由紀(すぎやまゆき)は白血病を患っていて、自分の未来が短いことを知っている。そんな由紀(ゆき)と生きるためには両目を摘出しなければならない瑞人(みずと)の会話がなんとも強く心に響いた。

「たぶん、もう駄目」
「そんなこと言わないで。がんばって。きっと大丈夫だよ」
「そんなありきたりの言葉を瑞人(みずと)くんからもらえるなんて、思ってもいなかった。何とかなるのにしようとしないひとに慰めてもらえるなんておかしな話ね」

物語はそんな小児科病棟と、その関係者の間で起こった殺人事件に焦点をあてて展開する。本作品では、多くの関係者達が、ルールを守ることを重視するばかりでなく、人間関係やその事象がその後長きに渡って及ぼすであろう影響まで、広い視野で考えて対応する姿に、好感が持てた。

そんな病院関係者たちの行動をあらわすかのような次の言葉を大切にしたい。

ルールは破られるためにあり、それが赦されるのは、未来によりよい状態を返せるという確信を、個人の責任で引き受ける時だ。

今まで読んだ海堂尊作品とはやや趣が異なり、少し現実離れした物語。そのため最初は少し嫌悪感を抱いたが、最終的には「こんな物語もありかな」と、納得することができた。


加稜頻伽(かりょうびんが)
極楽に住む架空の鳥の名前

網膜芽腫(もうまくがしゅ)
眼球内に発生する悪性腫瘍である。大部分は2〜3歳ころまでに見られる小児がんであり、胎生期網膜に見られる未分化な網膜芽細胞から発生する。(Wikipedia「網膜芽細胞腫」

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
連続誘拐事件の主犯とされるジウなる男を追う警察。その中の2人の女性警察職員、門倉美咲(かどくらみさき)と伊崎基子(いさきもとこ)を中心にすえた物語。

タイトルから予想できるとおり本作は「ジウI」の続編である。門倉美咲(かどくらみさき)は前作「ジウI」の最後でSATを撃ち殺した元自衛隊員の取調べからジウへの足がかりにしようとする一方、SATでの活躍により昇進した伊崎基子(いさきもとこ)は昇進して異動となったが、そこで独自にジウを追うことになる。

基本的にはジウを追う警察の中で、二人の女性に焦点を当ててはいるが、その中でたびたび挟みこまれる、どこかの田舎町で育つ男のエピソードがなんとも興味深い。このエピソードは、いつの時代を描いているのか、どこなのか、この男は誰なのか、一体どこで本編とリンクするのか、そんな期待を読者に抱かせる。そして、その男の凄惨な生き方によって、僕らが世の中の大部分に適用されると思っている「常識」とか「世の中」という言葉が、実は一握りの小さな世界でしか通用しないのではないかという疑問を想起させられる。

ボコっという音がして、隣を見ると、私より小さかった女の子の頭に、鉈の柄が生えていた。でもまだ生きていた。私と目が合った。頭に刺さってるよ。私はそう、教えてやるべきだったのだろうか。

僕らが持っている社会通念や愛と思われるものが本当に人々の中から自然と発生したものなのか、それとも誰かが一部の特定の人間の利益のためだけに、人々の中に流布したものなのか、という問いかけは、ジウの共犯者たちが門倉(かどくら)たち刑事に強い違和感を与えた問いかけでもあり、僕らが本作品を読み進めるうちに考えさせられる一貫したテーマでもある。

”殺人を容認する社会”という、その言葉自体が破綻している。まるで、”黒い白””白い黒”というのと同じこと…

そんなテーマの中で、門倉(かどくら)が上司である東(ひがし)に思いをよせてぎくしゃくするシーンがなんとも微笑ましい。本シリーズ中で維持されるこの緊張と緩和のバランスが心地よく、著者誉田哲也(ほんだてつや)の作品の魅力といえるだろう。また、もう一人のヒロインで、闘いや危険な状態を好む伊崎基子(いさきもとこ)の活躍も見ごたえたっぷりである。

徐々にジウがどんな人間かみえては来るが、それでもとても本作品だけでは満足しきれない。そして最後は予想を上回る展開に。すぐにでも「ジウIII」を買って読みたい衝動に駆られるが、残念ながら「ジウIII」の文庫化は1ヶ月ほど先だろう。三部作は往々にして、最初か真ん中がもっとも面白いものだが、「ジウIII」を読む以前の現段階ですでに、本作品が一番面白いのではないかと思わせるほどの内容の濃さである。

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