「十二人の死にたい子どもたち」冲方丁

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自殺を志願する十代の子供たち12人が、使われなくなった病院の地下室に集まった。採決をとって、全員の意見が一致したら集団自殺を実行に移すのだという。
最初の採決で、参加者の1人が室内の環境の不自然さを解決するために、話し合いを求めたことから集団自殺の決行が30分先送りになる。そして、話し合いはさらなる謎を呼び、その謎がさらに話し合いへと繋がっていく。死ぬことを決意して集まった子供たちであったが、違和感を解決した上で綺麗に死にたい人や、一方で、死ぬことができれば室内の違和感など小さな問題と、割り切った人間などさまざまであるが、話し合いが少しずつ子供たちの心の中を明らかにしていくのである。
冲方丁は「天地明察」や「光圀殿」の印象が強いが、そのような念入りな下調べの上にできあがった物語を期待して本書を手に取ると大きく予想を裏切られるだろう。むしろ冲方丁らしくない作品で、石持浅海の推理小説のような物語の展開する空間が非常に狭く限られていて、大きな動きもほとんどなく、子供たちの会話をベースに進んで行く。
著者冲方丁にとっても本書は新しい挑戦なのかもしれない。
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「はなとゆめ」沖方丁

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
「枕草子」を書いた清少納言の物語。
28歳の清少納言は中宮定子のもとに使え始める。最初はその華やかさに気後れしていた清少納言だが少しずつその才能を表に出して行くことで、認められて行く。本書は清少納言が有名な歌を引用して会話をする様子が多く描かれている。
見方を変えればすこし知識をひけらかすようで不愉快な感じを与えるのが面白い。実際、清少納言の夫は歌を嫌っていたという。歌の知識があるものはその知識を用いて会話し、その楽しさを謳歌する一方で、歌の知識がないものはそれに嫉妬しそれを使うものに対してコンプレックスを抱くのである。これはどこか現代の人々に似ている部分を感じる。
やがて清少納言は藤原道長、定子の政治的な争いに巻き込まれて行くのであるが、そんななか中宮様からもらった紙を有効利用するために「枕」を綴り始めるのである。
当時の雰囲気を理解するには十分であるが、細かい人間関係やそれぞれの人の思惑まで理解できたとは言い難い。しっかり内容を理解するためには平安時代についての結構な知識が必要だろう本書の評価は読者の持っている平安時代の知識によって大きく異なるかもしれない。著者沖方丁(うぶかたとう)の歴史小説としては「光圀伝」「天地明察」が非常に有名でしかも読みやすいが、本作品に同じような読みやすさは期待しない方がいいだろう。
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「光圀伝」沖方丁

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世の中が徳川幕府によって安定に向かうなか、水戸徳川家の次男として生を受けた水戸光圀(みとみつくに)の生涯を描く。
日本の歴史に疎い僕にとって水戸光圀と言えば水戸黄門、本当にそれぐらいしか知識がなかった。本書が描くのはそんな一人の男の物語である。
すでに戦国時代は過去の話で世の中は一気に生活を向上する方向に動いている。人々が学べる環境を作り税の制度を整備していくなど、それは戦後の日本の復興と似ているような印象を受けた。
光圀は次男として生まれたのに理由も知らされずに水戸徳川家を引き継ぐとされた。序盤はなぜ自分が選ばれたのかわからないというなかで成長する光圀の苦悩が中心と成る。本来水戸家を背負うはずだった優しい兄に対する罪悪感や、それでも良き理解者として接してくれることに対する感謝の気持ち、それが初期の光圀の人間性を形作ったように見える。
若いうちは、よくある良家の跡継ぎと同様、父から何度も厳しい試練を与えられ、外ではそれなりの粗暴な行為を行いながらも学び成長していく。そんななか書物を重視し、常に学ぶ事を怠らないその姿勢には感銘を受ける。どこまでが事実に基づいているのかわからないが、宮本武蔵との出会いも本書の読みどころの1つである。「書で天下をとる」という光圀の野望は武蔵との出会いから生まれた物だろう。
そのようにして、光圀は、妻の死や将軍との不和など、徳川水戸家を背負って密度の濃い人生を送っていくのだ。
もっとも印象に残ったのは、決断をするときに「これは義か?」と自らに問い続ける生き方である。僕らに現代人にとっては「大義」の方が聞き慣れているのかもしれないが、「義」とは「人の踏み行う正しい道筋」のことで、光圀は常に世のため人のためになることを優先して決断をするのだ。
争乱の時代の後のあの時代に、水戸光圀が果たした役割の大きさが見えてくるだろう。そして、現代に生きる僕らも光圀と同じように、日々信念を持って決断しているか、つまり「義」を行えているかと、改めて考えさせられる。時代は違えど、現代にもそれぞれが果たせる「大義」はきっとあるはず。
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「天地明察」冲方丁

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第31回吉川英治文学新人賞受賞作品。第7回本屋大賞受賞作品。
江戸時代、碁打ちである渋川春海(しぶかははるみ)はその一方で数学や星にも興味を持って精進する。そんな多方面に精進するその姿勢ゆえにやがて、国を揺るがす大きな事業に関わることになる。
物語は指導碁をしていた折に、老中酒井に「北極星を見て参れ」と命を受けて、春海(はるみ)の人生は動き出す。その北極出地の最中に聞いたこんな言葉が、その後春海(はるみ)の人生に大きく関わることになる。

お主、本日が実は明後日である。と聞いて、どう思う?

実はこのくだりを読む瞬間に初めて、いままで暦の歴史というものを考えたことがなかったことに気づいた。現在使われている暦が、グレゴリウ暦と呼ばれることや、閏年の適用方法などは知っているが、ではそれが過去どのような経緯を経て世界共通の正しい暦として浸透したかは考えたことがなかったのである。それでも、今持っている知識。たとえば、一日の長さや、地球の楕円形の公転軌道から、それが非常に複雑な計算と、何年物太陽の観察なしには成し遂げられないものだということはわかる。
ある意味「掴み」としては十分である。僕のような理系人間はそのまま一気に物語に持っていかれてしまうことだろう。
物語は渋川春海(しぶかわはるみ)がその生涯に成し遂げた多くのことを非常に読みやすく面白く描いているが、そこで強調されるのは、春海(はるみ)の探究心や好奇心といった物事に対する姿勢だけでなく、春海(はるみ)の物事の達成をするのに欠かせなかった、多くの人々との出会いである。
水戸光国、関孝和、本因坊道策、保科正之、酒井忠清。いずれもどこかで聞いたことあるような名前ではあるが、正直、本作品を読むまでほとんど知らない存在だった。彼らの助けがあってこと、借りて春海(はるみ)が偉大なことを成し遂げたということで、それぞれの当時の立場や実績などにも非常に興味をかきたてられた。
「明察」という言葉は僕らにとって馴染みのある言葉ではない。本作品中でその言葉が使われるのは、数学者同士が問題を出し合い、自分の出した問題に対して、正答という意味で「明察」という言葉が使われている。
そして、本書のタイトルの「天地明察」とは。それは、天と地の動きを明確に察するという意味。現代においてでさえそれはもはや神の領域のような響きさえ感じるその偉業。当時それはどれほど困難なことだったのだろうか。また、世の中を変えるような偉業に一生かけて挑み続ける生涯のなんと充実していることだろう。情熱と充実感、人生の意味などについて考えさせる爽快な読み心地の一冊。

授時暦
中国暦の一つで、元の郭守敬・王恂・許衡らによって編纂された太陰太陽暦の暦法。名称は『書経』尭典の「暦象日月星辰、授時人事」に由来する。(Wikipedia「授時暦」
大統暦
中国暦の一つで、元の郭守敬・王恂・許衡らによって編纂された太陰太陽暦の暦法。(Wikipedia「大統歴」
渋川春海
江戸時代前期の天文暦学者、囲碁棋士、神道家。(Wikipedia「渋川春海」

【楽天ブックス】「天地明察」