「エンジニアリング組織論への招待」広木大地

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
プロジェクトにおいて不確実性をなくしていくための考え方を書いている。
日々アジャイルをベースとしてプロジェクトに関わる中で、さらにより良いマネジメントの方法はないものかとヒントを探して本書にたどり着いた。
読みにくい本ではあるが、いくつものヒントが散りばめられていた。よくある問題の一つとして作業にかかる時間の見積もりの精度があがっていかないという問題があるが、それについて本書では、2点見積もり、3点見積もりといった多点見積もりを紹介している。将来的に多点見積もりの理解も深めたいと思った。
また、印象深かったのがアジャイルとウォーターフォールの比較の話である。よく議論になる話ではあるが、アジャイルはチームマネジメントもその流れのなかに含んでいるため、アジャイルとウォーターフォールはそもそも範囲が異なるので比較すること自体がおかしいとしている。
後半に出てきた7段階の権限移譲は組織において誤解が発生しやすい部分であるので頭のなかにしっかり刻んでおきたいと思った。

命令する
説得する
相談する
合意する
助言する
尋ねる
委任する

である。
正直、期待したほどのインパクトのある内容ではなかったが、それでも新たな学びはあったと感じる。
【楽天ブックス】「エンジニアリング組織論への招待」

「ブロックチェーンの衝撃」ビットバンク株式会社&『ブロックチェーンの衝撃』編集委員会

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ブロックチェーンについて語る。
ブロックチェーン関連の本を読むのは本書で5冊目になるが、これまでのなかで本書第1章がもっとも面白かった。ブロックチェーンや仮想通貨が世の中にもたらす変化についての考察は特に珍しくはないが、現在のビットコイン関連の状況を、グラフや表を交えて非常にわかりやすく説明している。
本書を読むまでフィジカルビットコインの存在を知らなかったし、ビットコインのATMが存在することも知らなかった。また、ビットコインのマイナーでは大部分を中国の企業が占めていることに加え、取引通貨でも人民元が94.5%を占めているというビットコインの世界的な偏りも本書によって初めて知ることができた。
残念ながら中盤以降は、法律や技術的な内容に偏っており難しかった。ブロックチェーンの概要を知るためというより、まさにこれからブロックチェーン関連の仕事を始めよとしている人向けの内容である。
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「フィンテック」柏木亮二

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

昨今よく耳にする「フィンテック」という言葉に対して、金融とIT技術を結びつけた革新的なサービス、という漠然としたイメージを持っていながらも、そこにどのような可能性があるのかをもっと具体的に知りたいと思い本書を手に取った。
序盤ではアメリカでフィンテックが普及した経緯について説明している。その理由の一つとしてリーマンショックが挙げられている。リーマンショックによって、それまでの金融機関に対する不信感が増大したことと、職を失った優れた金融関係者たちがフィンテックという分野で知見を生かすことを選択した結果なのだという。一方で日本においてフィンテックがどのように進化していくかも持論を述べている。日本では貯蓄の多くはITリテラシーの低い年配者に偏っており、ITに抵抗の低い若者の貯蓄額が少ないいので、海外のようにスムーズにフィンテックの文化が浸透する可能性は少ないとしている。
本書ではさまざまなフィンテックを分類して紹介しているが、気になったのはソーシャルレンディングである。すでに世界ではレンディングクラブというソーシャルレンディングが拡大しているにもかかわらず、日本で普及しない理由として法律の問題があるのだそうだ。今ある世界を保護することは確かに重要だが、少しずつ人も法律も変化に適用していかなければならない。そういう意味で今後、ソーシャルレンディング関連の動きに注目したいと思った。
中盤では「イノベーションのジレンマ」について触れている。なぜ優秀な巨大企業が、破壊的なイノベーションに
対応できないのか。そして「イノベーションの解」にあるように、どのように対応するべきなのか。どちらの本も読んだはずなのだが、本書の説明が一番簡潔でわかりやすかった。
全体的にフィンテックの内容が盛りだくさんの一冊。理解できるかは別にして内容としては十分だと感じた。
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「ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現」野口悠紀雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世間で騒がれているブロックチェーンについて、その仕組みと期待される実用例を説明している。
これまでブロックチェーンというと、ビットコインなどの仮想通貨とあわせて語られることが多かった。しかしその応用範囲は通貨だけでなく多岐にわたり、ブロックチェーンが広まるにつれて起こるであろう世の中の変化を把握したくて本書を手に取った。
序盤はブロックチェーンの仕組みについて説明しており、多くのブロックチェーン関連の書籍と重なる点が多かったが、中盤以降は、期待される実用例や、そこに至るまでの障害について触れている。
本書を読んで気づいたのは、金融業界へもたらす影響は、金融業界が長年古い体質であるからこそ、想像以上に大きいであろうということ。また、障害は技術的な部分よりも、法律、運用、人の先入観による部分が大きいだろうということである。それでも、本書で示されている、選挙制度へのブロックチェーンの利用や、シェアリングエコノミーへの利用は、さらなる便利で公平な社会へ希望が持てるものである。
全体的にブロックチェーンの仕組み、現状、問題点をわかりやすく解説していて非常によみやすく興味を持って読むことができた。今後もブロックチェーンの動向に注意を向けていたい。
【楽天ブックス】「ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現」

「Fifty Quick Ideas To Improve Your User Stories」Gojko Adzic, David Evans

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アジャイルにおける開発の速度は、ユーザーストーリーをどのように作り出すかによって大きく変わってくる。本書はそんなユーザーストーリーを効果的に作り出す50の方法を解説している。
それぞれの手法に対して「採用することによる主なメリット」と「どのように採用するか」を箇条書きにわかりやすくまとめていて非常に読みやすい。それぞれの手法は、組織の大きさや形態によって、適応できそうなものや難しそうなものもあるが、開発を効果的かつ効率的に発展させるための重要な考え方で溢れており、プロダクトオーナーやスクラムマスターだけでなく、開発にかかわる全ての人に役立つだろう。
個人的に印象的だったのがユーザーの行動を変えるフェーズとして頭文字をとったCREATEである。

Cue
Reaction
Evaluation
Ability
Timing

僕らがユーザーの行動を変えようとした時、上記のどの行動に変化をもたらそうとしてのかを明確にすると、より具体的な施策へとつながるだろう。
また、Storyの優先順位を決める上で指標となる考え方で、書籍「Stand Back And Deliver」のなかでNiel Nickolaisenが語っている考え方である。その考え方で重要なのは目の前のStoryに対して次の2つの問いかけをすることである。

それはミッションにとって不可欠か
(ビジネスはそれなしに進められるか?)
それはマーケットで差別化するものか
(ユーザーに大きな利益をもたらすか?)

そのあとの決断の仕方等は詳しくはぜひ本書を読んでいただきたい。
なかなか一度読んだだけで、実際の開発に適用することは難しいだろう。繰り返し読んで実践することで組織に浸透していく内容だと感じた。

「Extreme Programming Pocket Guide: Team-Based Software Development」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
効率の用意プログラミング業務の進め方を「Extreme Programming」として紹介する。
XPは次の4つのことを重視している

コミュニケーション
フィードバック
シンプルであること
勇敢さ

である。最初の3つに多くの人は異論ないだろう。しかし最後の「勇敢さ」は普段意識指定なのではないだろうか。Exreme Programmingが重視する「勇敢さ」とは「ミスを認める勇気」である。ミスを認めるのが遅ければ遅いほど、そこからフックするのに時間がかかるのである。
後半で書いてあった

機能するもっとも単純な実装をする

は、エンジニアではなくPOやCOに知ってほしいと思った。デザインやコードをシンプルに実装することでどれほど将来的な柔軟性があがるかを組織においてどれほどの人が理解しているかどうかが大きな鍵だと感じた。

将来的に必要かもしれない機能に時間をかけることは、今必要な機能にかける時間を削るリスクを伴う。

シンプルであるために、デザイナーやエンジニアはもっとPOや顧客に対して声を上げることが、組織を効率的に動かすための近道なのだと感じた。エンジニア向けの本ではあるが、組織を動かす立場の人には誰にでも役立つ内容と言えるだろう。

「Webコピーライティングの新常識 ザ・マイクロコピー」山本琢磨

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マイクロコピーの重要性を、過去の著者の経験と実例をもとに語る。

マイクロコピーとは、トップページにあるような大きな文言ではなく、Webサイトやアプリケーションの各所に散らばるコピーのことである。本書はマイクロコピーの重要性を謳う理由は次のように語っている。

トップページの修正ではひどい時には2週間以上かかり、いったんサイトの稼働を止めなければならないほどだったのに、奥のページにいけばいくほど修正箇所は小さくなる。修正にかかる時間も短くなり・・・なのに売り上げは大きく上がる。
興味深いのは、たくさんの例を本書で示しているにもかかわらず、結局のところどんなサイトでも通用するような正解のコピーの書き方はないということである。あるサイトで成功したコピーが他のサイトでは逆効果になることもあり、そのサイトのユーザー層によって傾向は変わるのだという。結局、何度もABテスト等を繰り返して探っていくしかないのだという。
実際にコピーを見直す時にもう一度読み直したいと思った。
【楽天ブックス】「Webコピーライティングの新常識 ザ・マイクロコピー」

「悲劇的なデザイン」ジョナサン・シャリアート、シンシア・サヴァール・ソシエ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインがおかしいせいで、人の死につながったり、大きな事故を起こしたケースを紹介しながらデザインの重要性を説く。
序盤は、医療機器の操作方法がおかしくて大量の放射線を浴びて死に至った患者の話や、操縦席の計器の表示がわかりにくくて墜落した飛行機の話などデザインが生み出した悲劇を紹介している。
「医療機器や飛行機のデザインは僕らが扱っているデザインとは違う」などと他人事と思ってはいけない。中盤以降ではFacebookやLinkedInなどのUI /UXによって一生忘れないようなひどい体験をした人のエピソードを紹介している。
本書を読めば、デザイナーは自分の仕事の大切さと責任を再確認することだろう。そして、デザイナーでない人でも、クリエイティブな世界で生きる人間は自分の作り出すものがどのような結果をユーザーにもたらす可能性があるのか、その責任の大きさを改めて認識することだろう。
インターネットが普及したせいで、実際に傷ついている人を目にする機会は少なくなったが、それでも確実に、自分たちの作ったものはユーザーに使いにくく感じさせたり、疎外感を与えたりしているのである。迷った時は僕らは、実際にそのような対応を店のスタッフにされたら自分がどう感じるのか考えるべきだ。そう考えることによってエラーメッセージひとつとってもたくさん改善すべき箇所が見えてくるにちがいない。
デザイナーだけでなく、多くの人に読んで欲しいと思った。終盤で著者も語っているが「人はみなデザイナー」であり、声をあげ、行動することで世の中は使いやすいもので溢れ、過ごしやすくなっていくのである。

関連書籍
「Thinking Objects:Contemporary Approaches to Product Design」ティム・パーソンズ
「Articulating Design Decisions」キャロル・リギ
「User-Centered Design Stories」トムグリーバー

【楽天ブックス】「悲劇的なデザイン」

「ブロックチェーン入門」森川夢佑斗

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
最近よくきく「ブロックチェーン」とはなんなのか、そこを理解したくて本書を手に取った。
正直本書を読むまでの僕の知識は乏しいもので話題の仮想通貨ビットコインとブロックチェーンの関連性も知らなかった。どうやらビットコインはブロックチェーンの技術を利用して発展した技術の一つで、ブロックチェーン自体は今後さまざまな分野に応用できる技術で、それによって今後世の中のいろんな取引の形態が変わる可能性があるのだという。
本書は、タイトルでは「ブロックチェーン」を謳っているが、半分ほどをビットコインに代表される仮想通貨の説明にも割いている。投資対象としてビットコインがどの程度信頼がおけるものなのかを理解したい僕にとってはおおいに役に立った。
本書を読んで理解したことは、まだまだ仮想通貨の技術は始まったばかりに過ぎず、ビットコインがこのまま不動の仮想通貨の地位を確立するのか、それともビットコインの弱点を改良されて次々に考え出されていく第2、第3の仮想通貨が世の中のスタンダードとなるのかはもう少し様子を見る必要があるということである。
正直本書だけではブロックチェーンやビットコインなどの仮想通貨についてしっかり理解することはできないが、現在の世の中の流れを漠然と理解するには非常に役に立つ本である。
【楽天ブックス】「ブロックチェーン入門」

「スティーブ・ジョブズ」ウォルター・アイザックソン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アップルを創り、マッキントッシュ、iPod、iPhoneを生み出して世界を大きく変えたスティーブ・ジョブズを描く。

もはや本書を読まなくても、誰もが聞いたことあるほどの有名な世界を変えたエピソードである。アップルが取り入れたコンピューターのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)に始まり、その後ジョブズがアップルを離れた後のアップルの低迷。そしてアップルに戻ってからのiPodによる音楽革命やiPhoneの登場などである。

なぜこれほど多くの画期的な製品をアップルは生み出せたのか。本書はその答えを知るための大きな手がかりとなるだろう。やはりアップルのトップであるステーブ・ジョブズが自分たちの作り出すものに対して並々ならぬこだわりを持ったためだろう。誰もがシンプルなものがいいとわかっていながらも世の中には複雑な製品が溢れているのである。アップルのこだわりである

洗練を突きつめると簡潔になる

というのがどれほど難しいことか、組織でものづくりに関わったことがある人ならわかるだろう。それに加えて、ジョブズが重視したのはいつだって「利益を出す」ことではなく「世界を変えるような新しいものを生み出す」ことだったのも大きいだろう。

世の中に「利益を出す」こと以外の目的を優先して動いている会社がどれほどあるんだろうか。もちろん、会社の創設時にはそのような熱い思いを持っている会社はあることだろう。それを持続することがどれほど難しいことか、多くの社員を抱え、多くの生活が会社の存続に委ねられてきたときに、「利益を出す」ことを優先してしまうことが、多くの企業にとってどれほど避けがたいものなのか、よくわかるのではないかろうか。

そんな多くの素晴らしい製品を生み出したジョブズだが、人間的にはかなり偏った性格だったようだ。もちろんそれも話には聞いていたが、本書を読むと改めてその偏りがわかる。家族や身近な人に対する接し方はとても普通の人が耐えられるものではなく、それによってジョブズも多くの困難にぶつかったようにも感じる。

本書でそのようなジョブズの性格を深く知ると、一般的に「普通」の人間性を持った人間が革新的な製品を生み出すことはできないのだろうか、とさえ思ってしまう。
さて、ジョブズ

なきアップルは今後どうなっていくのか、その動向に今後も注目したいと思った。
【楽天ブックス】「スティーブ・ジョブズ(1)」「スティーブ・ジョブズ(2)」

「入門クラウドファンディング スタートアップ、新規プロジェクト実現のための資金調達方法」山本純子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
KickstarterやCampfireなど、クラウドファンディングという言葉が世に広まってすでに5年ほど経つが、僕自身クラウドファンディングによって資金を調達したことも、投資したこともない。何か大きなことをやろうと思って資金が足りないとなったときに、クラウドファンディングというものをどのように利用できるのか知りたくて今回本書にたどり着いた。
序盤は、クラウドファンディングというものがオンラインを通じてできるようになり、その資金調達の額が次第に大きくなっていく様子を、いくつかの事例を交えて説明している。すでにクラウドファンディングという手段が特殊なものではないということがわかるだろう。
面白かったのは中盤で描かれている、参加者の心理である。「なぜクラウドファンディングで資金調達に協力するのか?」。きっと世の中にはその心理がまったく理解できない人もいるのではないだろうか。もちろんクラウドファンディングには資金調達が成功した暁には「リワード」として、完成した製品や記念品などを資金提供者に送るというのは一般的なので、そのリワードを求めて資金を提供してくれる人も多いが、もう一つの要素を忘れてしまうと、そのクラウドファンディングは失敗に終わることが多いという。それは「仲間になりたい」という心理である。したがって、クラウドファンディングによって資金を調達する側は、常にプロジェクトの進行具合を報告し、参加者とのコミュニケーションを重視する必要がるのだ。
だからこそ、本書の最後を締めくくっているこの言葉が響いた。

「資金提供者に対し永久的な負債を抱える覚悟があるか」。このことは、クラウドファンディングにおいて決して忘れてはいけない問いかけなのです。

ただでお金が手にはいる、というのは非常に便利に聞こえるが、そのために費やさなければいけない誠意、態度などは、中途半端な覚悟でできることではないのだろう。
【楽天ブックス】「入門クラウドファンディング スタートアップ、新規プロジェクト実現のための資金調達方法」」

「ピクサー流創造するちから 小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法」エド・キャットムル

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

「トイストーリー」等のアニメで有名なピクサーが成功するまでの様子をピクサーの創設者の一人である著者が語る。
ピクサーの歴史とはCGの歴史でもある。本書の冒頭で語られる1970年代のCGは、今見ると信じられないような品質のもので、この数十年間のCGの発展に改めて驚かされるだろう。そして、CGという新しい技術が広まる中で、古い手法に固執しようとするアニメーターたちがいる一方で、著者のように新しい技術を広めようとする人たちがいるのである。
ピクサーと言って僕らがすぐに思いつくのは、アップルの創設者でもあるスティーブジョブスではないだろうか。そして、スティーブ・ジョブスの果たした役割の大きさはすでにみんなも知っていることと思う。しかしピクサーにおいては、僕がアップルの印象として持っていたジョブスの自分の信じたものだけを、誰の意見にも耳を傾けずに追い求める、というような関わり方とは異なる関わり方をしたようだ。ジョブスは、自分のアニメーションに対する知識が足りてないことを早い段階で悟り、制作者たちの意見を尊重するのである。本書での描かれ方で、著者自身がどれほどスティーブジョブスを信頼しているのかがわかる。
本書はピクサーの成功を描いた作品でもあるが、その一方で、ディズニーという一時代を築いたアニメーション制作の会社が落ちてゆく様子も見えて来る気がする。また、ピクサー自体も順風満帆に成功の道を歩んできたわけではなく、数々の失敗を経て常にヒットを生み出す企業へと成長してきたのである。創造力を組織として維持することがどれがけ難しいかがわかるだろう。
本書の最後に書かれている「「創造する文化」の管理について思うところ」はそんなピクサーの考え方が詰まった4ページである。永久保存版にして何度でも読み返したくなる。なかでも印象的な言葉を挙げておく。

リスクを回避することはマネジャーの仕事ではない。リスクを冒しても大丈夫なようにすることがマネジャーの仕事である。
規則をつくりすぎないこと。規則はマネジャーの仕事を楽にするかもしれないが、問題を起こさない95%の社員にとっては屈辱的だ。
「卓越性」「品質」「優秀」は、自らが言う言葉ではなく、他者から言われるべき言葉である。
信頼とは、相手が失敗しないことを信じるのではなく、相手が失敗しても信じることである。

本書を読み終えた後、またピクサー映画が見たくなる。見ていないピクサー作品は片っ端から見ようと思ったし、すでに見た作品でさえも、そのできるまでのピクサー社員たちの奮闘の様子を知ると再度見たくなった。
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「UX Strategy: How to Devise Innovative Digital Products that People Want」Jaime Levy

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
革新的なデジタルプロダクトの先駆者として25年以上にわたって活躍している著者が本当に求められているユーザー体験を構築するための方法を語る。
非常に実践的で具体的な方法が書かれている点が予想とことなる部分だった。もう少し概念的な部分を知りたい人にとっては、具体的にすぎて自分たちのケースへの適用が難しいと感じるかもしれない。
僕自身最近何度かユーザーインタビューをする機会があったので、ユーザーインタビューの方法を細かく解説している部分を面白く読むことができた。カフェでやるときには店員に見えない席で行う、とか、インタビューを受ける人が気が散らないように壁に向かうようにする、とか、チップを弾む、など、笑い事ではないけどなんだか妙に現実的な方法が溢れている。
もっとも印象的だったのが、昨今Design Sprintという手法のなかで推奨されているユーザージャーニーマップを否定している点である。

ジャーニーマップは作るのに時間がかかりすぎる上に、あまり頼りにならない、なぜなら製品が市場に出た後の現実に即していないことが多いからだ・・・。
もし、あなたがその戦略過程において、より経験に基づいた進め方をしたいなら、この方法をもっと発展させ、制作物を検証可能な開発の流れを作り、そのアイデア出しや発展のサイクルのなかで常に改善していく必要がある。

スタートアップにおいて、どのように新しい考えを生み出し、どのように無駄なコストをかけるリスクを最小限に抑えて製品を大きくしていくかは、重要な問題である。だからこそ本書で推奨されているFunnel Matrixという手法もしっかり理解したいと思った。
最後の章では、UX戦略の舞台で活躍する人々に著者自身が10の質問をぶつけた内容が含まれている。それによって著者の考えだけでなく、多くのUXの最先端で働く人たちの考え方が見えてくるだろう。

「六百万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス」上阪徹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
今や料理をするとなったら欠かせないクックパッド。そのビジネスの根底にある理念を語る。
出版はすでに7年以上前なので新しい本とは言えないが、クックパッドの理念が伝わってくる内容である。Webサービスに関わっている人間であればいろいろ学べる部分があるだろう。まず、そのユーザーインターフェースについてはつぎのように語っている。

説明が必要なサービスは、レベルが低い

UIデザイナー等は常に意識していることであるが、なかなか企業という組織のなかで実現できないというのが実情である。ところがクックパッドは社員全員にその意識が徹底されているというのだから驚きである。また、検索結果でユーザーが求めている物を表示するためのシビアな取り組みも面白い。ただ単に検索キーワードに含まれているレシピを出すだけで満足していてはユーザーはすぐに離れて行ってしまうのだろう。
さらに印象的だったのは、いいレシピを選別する基準として「印刷された回数」という指標を用いている点である。「いいね」や「閲覧数」が簡単に測定できるとどうしても、その数でいいレシピを判断してしまうが、印刷というアナログな手法の回数こそがいいレシピである指標だと言う視点は見習いたい。また、ユーザーの利益になる広告しか掲載しないという強い意思にも感心してしまう。
理想を語ることは誰でもできるがなかなか実現できる企業は少ない中で、それを貫き続けた結果今のクックパッドがあるのだと感じた。自分でサービスと1から作りたいと思わせてくれる
【楽天ブックス】「六百万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス」

「Logo Design Love: A guide to creating iconic brand identities」David Airey

オススメ度 ★★★★☆
ロゴデザインの本というと多くのロゴを集めたものが多い。それはそれで見ていて楽しいが実際に仕事としてロゴデザインをする人にとっては物足りないだろう。なぜなら素晴らしいロゴは、見た目だけでなく、クライアントの求めるものを満たすからこそ素晴らしいのだから。

本書はロゴを紹介しながらも、クライアントのロゴデザインをする上での仕事の進め方や注意点を多くの事例を交えながら説明する。どのようにして相手の担当者をプロジェクトに巻き込むか。プロジェクトとして良く起こりうる事は失敗はどのようなことから始まり、それを避けるにはどうするべきなのか、など。

単に注文を受けるだけになってしまうことも陥りがちなワナである。最初の頃は私にもそんなことがよく起こった。クライアントが私にフォントや色を指定してくるのである。そして「大丈夫です。明日までに修正します。」と私は答えるのだ。つまり私の知識や経験を利用しないで、クライアントが私の仕事をしているのである。

もちろん、ロゴデザインにおいて基本的に抑えておかなければ行けない点も一通り網羅している。

ロゴは企業がやっていることを示す必要はない
歯医者のロゴで歯を見せる必要はないし、配管業者のロゴでトイレを見せる必要はない、インテリアショップのロゴで家具を見せる必要はないのだ。

また、技術的な話だけでなく、見積もりについても描いてある。印象的だったのは、ピカソが描いたスケッチの話を用いて、経験による金額の上乗せを説明している点である。

「この絵にどうしてそんなにお金がかかるの?ほんの数秒しかかからなかったじゃない」
「マダム。それを学ぶのにこれまでの人生がかかりました」

成功事例だけでなくTropicanaなどの失敗事例も掲載している点が面白い。本書を通じて多くの素晴らしいロゴに出会う事ができたし、またロゴデザインがしたくなった。

参考サイト
davidairey.com
logodesignlove.com
identitydesigned.com

 

関連書籍
「It’s Not How Good You are, It’s How Good You Want to Be」Paul Arden
「Design Is a Job」Mike Monteiro
「Identify」Chermayeff & Geismar & Haviv
「The Win Without Pitching Manifest」Blair Enns
「Steal Like an Artist」Austin Kleon
「Thinking with Type」Ellen Lupton
「Designing Brand Identity」Alina Wheeler
「Lateral Thinking」Edward de Bono
「The Art of Client Service」Robert Solomon
「Bob Gill So Far」Bob Gill
「A Smile in the Mind」Beryl McAlhone
「The Fortune Cookie Principle」Bernadette Jiwa
「Seventy-nine Short Essays on Design」Michael Bierut
「The Geometry of Type」Stephan Coles
「Aesop’s Fables」Aesop
「The Design Method」Eric Karjaluoto
「Work for Money, Design for Love」David Airey

「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」松尾豊

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
人工知能研究者で東京大学の准教授である著者が現在3回目のブームに差し掛かっているという人工知能について語る。
著者が書いているように、これまで人工知能はブームと誰の話題にも上らないような冬の時代を繰り返してきたという。確かに「人工知能」という言葉はかなり以前から耳にするが、現実に人工知能が生活のなかに浸透しているとは言い難い。本書ではまず、その理由の1つとして「人工知能」という言葉による世間の認識と専門家の考えのずれを指摘する。そして、第一次人工知能ブーム、第二次ブーム、第三次ブームをそれぞれの特長を交えて説明するのである。
著者が意識的に簡単な言葉を使おうとしているのは伝わってくるが、それでもなかなか説明を読んだだけで理解することは難しい。第1次ブームが「推論」と「探索」の時代、第2次ブームが「知識」の時代、第3次ブームが「機会学習」と、なんとなく過去の人工知能ブームの違いが感じられる程度である。
後半では人工知能の未来として、ターミネーターなどの映画で御馴染みの「特異点」についても触れている。この辺りの内容は、多くの人が興味ある内容かもしれない。
全体的にあまり上手く書かれているとは言い難い。初心者向けと言えるほどわかりやすく書かれているわけでもなく、かといってしっかり理解したい人向けに詳細に書かれている訳でもない。書きたいことを書いてそれぞれを無理に繋ぎ合わせたという印象である。

モンテカルロ法
シミュレーションや数値計算を乱数を用いて行う手法の総称。(Wikipedia「モンテカルロ法」
ディープブルー
IBMが開発したチェス専用のスーパーコンピュータ。(Wikipedia「ディープ・ブルー (コンピュータ)」
フレーム問題
人工知能における重要な難問の一つで、有限の情報処理能力しかないロボットには、現実に起こりうる問題全てに対処することができないこと。(Wikipedia「フレーム問題」
シンボルグラウンディング問題
記号システム内のシンボルがどのようにして実世界の意味と結びつけられるかという問題。(Wikipedia「シンボルグラウンディング問題」
ミーム
人類の文化を進化させる遺伝子以外の遺伝情報。(Wikipedia「ミーム」
DARPA
アメリカ国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects)。軍隊使用のための新技術開発および研究を行うアメリカ国防総省の機関。(Wikipedia「国防高等研究計画局」
関連本
「われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る」米長邦雄

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「Don’t Make Me Think, Revisited: A Common Sense Approacd to Web Usability」Steve Krug

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本書のオリジナルはもう15年以上前に出版されユーザビリティの考え方の基本を広く網羅している。それだけでも今でも十分に通用するないようであるが、さがにスマートフォンに関する内容が追加されて出版されたのが本書である。

前半はユーザーがどのようにWebを見て、世の中のWebはどのように変わるべきなのかについて語っている。例えば「Webは本のように読むのではなく、斜め読み(scan)するのだ。」という話は、ユーザビリティに関心のある人ならすでに何度も聞いた事のある話だろうが、改めて今自分が作っているものが、本書で言われている基準を満たしているかどうかと向き合う機会になるだろう。

中盤以降はユーザビリティテストの重要性と、その進め方である。多くの人がユーザビリティテストの重要性は知りながらもそれを実現するために必要な労力に躊躇してしまうのではないだろうか。本書ではいろんな簡単に始められるユーザビリティテストを紹介して、どんなユーザビリティテストからでもサイトやアプリの改善点は見つかるはず、と強調している。ユーザビリティテストを始めるにあたって起こりうる障害や問題を挙げて、その解決方法まで提示してくれるのである。ひたすら著者が繰り返しているのは、「まずは始めることこそ重要」ということである。

またアクセシビリティについても触れている点が印象的だった。なぜか最近「アクセシビリティ」という言葉を聞かないが、その重要性が失われたわけではない。どうしても僕らはユーザーが自分と同じような能力を持っているものと考えがちだが、これを機にもう一度「アクセシビリティ」を考えてみるのがいいだろう。

また、途中で著者のオススメの本を紹介してくれる点も有り難い。知識がさらに広がって行く感じが得られるのも嬉しい。

  • 「It’s Our Research」Tomer Sharon
  • 「The User Experience Team of One」Leah Buley
  • Influence: The Psychology of Persuasion」Robert Cialdini
  • 「How to Get People to Do stuff」Susan M. Weinschenk

「「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」酒井崇男

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
なぜアップルやグーグルやトヨタは成功し、日本の電気・半導体・通信・IT企業は完敗してしまったのか。それは「タレント」の重要性を理解していたか否かなのだ。本書はそんな視点で企業が発展して行くためにどのようにしてタレントと向き合うかを語っている。
今や、材料や労働力はどこでも手に入れる事ができるので、物を作るのは人件費や物価の低いところを選ぶ事ができる。そうなると企業として重要なのは何なのだろう。本書はそれを「設計情報」だと主張する。優れた設計情報」さえできあがれば、あとはそれをひたすら各地で現実に存在する物やサービスに転写するだけなのである。そしてその「設計情報」を作る人こそが「タレント」と呼ばれる人なのである。
「タレント」というとなんとなく「すごい人」という印象しかないが、プロフェッショナルやスペシャリストと比較するとタレントというものが何なのか分かりやすいだろう。

単なるスペシャリストは、知識を活用する「目的」よりも「知識そのもの」にアイデンティティを持っている人が多い。プロフェッショナルも同様である。一方、優れたタレントは、知識にせよ職業にせよ、「目的」を達成するための「手段」だと考えているところに際立った特徴がある。

世の中がただ一言「天才」とか「才能のある人」と読んでいる人の正体が分かった気がする。
また本書は後半でタレントを育む事の成功例としてトヨタの主査制度を挙げている。興味深いのは、トヨタの主査制度は日本よりもアメリカで高く評価されている点だろう。
著者は言う。アメリカは日本ほど新たな文化を創造するのは得意ではないが、いいものを徹底的に分析して取り入れる能力は非常に高く、日本で生まれた主査制度もそうやってアップルなどの企業で成果を上げたのである、と。
アメリカという国の見方が少し変わった。
【楽天ブックス】「「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」

「ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく」堀江貴文

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ライブドアの経営者として有名になった後、2年6ヶ月の実刑判決を受けてすべてを失った著者「ホリエモン」がその過去や働く事に対する考え方を語る。
目的を見つけるとひたすらそのために努力をするその姿勢は(本人は「努力」とすら思っていないでひたすら好きな事をやっているつもりだと思うが)、同じ種類の人間である僕にとっては特に新しいものではない。だからといって、普段努力をしない人が読めば良い影響を受けるかというとそんなこともない、そういう人はその感覚が理解できないだろう。
多くの自己啓発本と同様に本書は、挑戦することによって得られるスキルや、充実感などについて語られているので、内容についても新鮮なものはないだろう。
唯一、印象的だったのは、田原総一郎が著者に語ったという言葉

あなたはこの国を牛耳る年寄りたちから嫌われ、怖れられ、ついには逮捕され、実刑判決まで食らってしまった。なぜか?それは堀江さん、あなたがネクタイを締めなかったからだ。ちゃんとネクタイを締めて、年寄りにゴマをすっていれば、球団買収だって成功しただろうに…

大きな目標を達成しようとする目前で、小さな礼儀不足や身だしなみのせいで失敗することがある。信念も大切だが、多少の譲歩もやはり必要なのだ。
【楽天ブックス】「ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく」

「インターフェースデザインの心理学 ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針」スーザン・ワインチェンク

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
後半はアプリにあまり関係ないような心理的な話も多かったが、それをどう応用するかはデザイナー次第なのだろう。
クリック数はあまり重要ではないということは本書で初めて知った。これからのUIデザインにおいては、「ユーザーを悩ませないこと」こそ優先し、むしろ選択肢を減らして決断しやすくして、選択の回数を増やす(つまりクリック数を増やす)という方向へ進むのが正しいと思った。
「データより物語」とか「目標に近づくほどやる気が出る」とか、いろんな書籍で触れられているような内容や、以前に聞いたことがあるような内容ばかりではあったし、必ずしもインターフェースデザインに関係がなく、むしろ心理学に近いような内容も多く含まれていたが、新鮮でなくても同じ考えに繰り返し注意を向けるという意味では、本書は悪くないと感じた。
【楽天ブックス】「インターフェースデザインの心理学 ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針」