「狐狼の血」柚木裕子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
広島県警に勤める25歳の日岡秀一(ひおかしゅういち)は、敏腕のマル暴刑事として有名な44歳の大上(おおがみ)とペアを組むこととなる。しかし、時を同じくして広島県内では暴力団同士の抗争が始まろうとしていた。
マル暴刑事として有名な大上の下につくこととなった日岡だが、大上と共に行動するうちに、暴力団からお金を受け取ったり、また、そのお金を捜査費用に充てたりと、大上の違法な捜査を多く目にするようになる。時にはその違法である事に抵抗を感じながらも、そうせざるを得ない状況を知り、大上と長く行動するうちに、暴力団との共存を重視する大上の考えに理解を示すようになっていく。
そんななか暴力団同士の関係に少しずつ不穏な空気が立ちこめる。大上が指示する尾谷組と加古村組の間のもめ事が重なるのである。2つの組はそれほど大きくないにも関わらず、大きな組とのつながりがあるために扱いを間違うと大きな暴力団抗争に発展する可能性がある。大上は尾谷組とともに、加古村組をつぶそうと奔走するのである。
本書がどこまで現実の捜査を忠実に描いているのかはわからないが、暴力団同士の抗争が始まる事を防ぐために、それぞれの暴力団に対してその面子を重んじながら駆け引きをする大上(おおがみ)の様子は、今までどんな映画や物語も見せてくれなかったもので、非常に現実味を感じさせる。新聞などで報道される暴力団の行動の裏には、きっとこのようなやりとりがあるのだろう、と思わせてくれた。
残念ながら終わり方は後味のいいものではなかったが、むしろその後味の悪さが、物語を非常にリアルに魅せているような気がした。物語は昭和63年の広島を舞台としており、現代の東京ではなくその舞台設定を著者が選んだ理由は最後までわからなかった。ひょっとしたら実際に起きた出来事をモデルにしているのかもしれない。
著者柚木裕子は、「検事の本懐」に代表される検事佐方貞人(さかたさだと)を扱ったシリーズに非常に良く、その流れで他の作品も読みあさっていた。本作品はそんななかでも深みを感じさせる物語に仕上がっている。
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